トリックは推理されたけど、ターゲットを全員殺すまで止まりませんよ? 作:Distance
前編
「うわ〜風が気持ちいい!」
「魚が見えっぞ! うなぎも釣れんのかな!」
「もう元太くんは。うなぎは海じゃ釣れませんよ」
船の後部甲板ではしゃいでいる三人の子供。
少し後ろの方に居るコナンと灰原に光彦が話しかける。
「でも、残念でしたね。博士来れなくて」
「あぁ。急に友人が亡くなったって話だからな」
光彦にコナンが答える。
今回の旅行は、本来阿笠博士が同伴予定だったのだが、友人が急遽亡くなり、その葬儀と今回の旅行が重なってしまったのだ。
「それにしても、あんまりお客さんいないね」
「このツアー企画も今回で最後らしいからよ」
歩美の疑問に今度は灰原が答える。
そもそもまだ開発途中の島にツアーが企画されているのは、少し前まで上映されていたとある映画が原因だ。
その映画がそれなりの興行収益を獲得し、今回訪れる島はそのロケ地なのだ。
その島でしか買えない限定グッズの販売なども行われている。
しかし流行とは時間が経てばいずれ冷める物だ。
聖地巡礼を目的としたファンで最初は賑わっていたらしいが、それも何回かやれば客足も遠退く。
最初から映画が話題の内に儲けようとした企画なので仕方ない。
阿笠博士がこのツアーのチケットを持っていたのは、映画の撮影に彼の発明品が使われた事と、客が少なくなった事での穴埋めのような物だった。
本来なら阿笠博士と探偵団の子供五人と映画を楽しんだ蘭で行く予定だったのを、阿笠博士が急遽来れなくなった為に保護者代理として小五郎が来る事となった。
(それにしても三泊四日は長ぇよ)
この船が着くのは夕方頃で帰るのが朝の便らしいが、聖地巡礼だけで三泊四日だ。
それがこのツアー企画が飽きられた原因の一つらしい。
コナンが呆れから小さく息を吐くと、海を見ていた元太が振り返る。
「それよりよー、せっかくだから船の中も見て回ろうぜ!」
船旅でテンションが上がっているらしい元太は、走って船内に入って行く。
「走っちゃダメだよ元太くん!」
「落ち着きがありませんね!」
それを追って行く歩美と光彦。
コナンと灰原も互いに顔を見合わせてから三人の後を追う。
二人も船内に入った時に元太が尻餅をついているのが見えた。
「いって〜!」
「あ、ごめんよ。怪我してない?」
三十届くかどうかくらいの男性が、部屋を出たところで元太とぶつかってしまったらしい。
光彦と歩美に謝るように促されて、元太が謝罪する。
男性は元太に怪我がないことにホッとしているようだ。
コナンは男性の部屋が一人用の個室な事に疑問を覚える。
「ねぇお兄さん、一人でこの船に乗ってきたの?」
「そうだけど、どうして」
「だって薬指に指輪をしてるから、結婚してるんだよね? なのに個室部屋から出てきたから不思議に思って。もしかしてお仕事?」
左の薬指に指輪を填めているから既婚者なのだろうが、なら一人部屋から出てくるのはおかしい。
仕事、という可能性もあるが、それにしては服装が私用の物に見える。
「実は、近々結婚する筈だったんだけど、駄目になっちゃってね。ここには傷心旅行で来てるんだ」
そう答える男性。
別れたにしてはそんな指輪を填めているのは不自然だ。もしかしたら何らかの理由で亡くなったのかもしれない。
ちょっと踏み込み過ぎたな、と思っていると、コナン達を探していた蘭がやってくる。
コナン達がなにか迷惑をかけなかったか訊くと、軽く世間話をしただけと返して別れた。
「わーすごーい!!」
島に着いた翌日、ツアー用に残された映画の撮影セットを見ながらはしゃいでいる子供達。
蘭も子供達を見ながら展示されている説明の看板を見ている。
ちなみに保護者枠の小五郎は子供の世話を蘭に押し付けて何処か一人ふらふらしてるだろう。
しばらくすると、歩美がなにかに気付いて声を上げた。
「ねぇみんな! 来てよ!」
「どうしたんですか?」
歩美が手招きしてみんなを呼ぶと、上を指差す。
そこには、木に登って降りられなくなってる子猫がいた。
「なんであんなところに猫が……」
「さぁ? この島に猫は居ないはずだから野良猫が船に紛れこんじゃったか。いえ。たぶん誰かが内緒で連れて来ちゃったのね」
「どうしてそんなことが分かんだ?」
「だって首輪があるじゃない」
体毛と似た色なので判りにくいが、確かによく見ると首輪が填められているのが見える。
ちなみにこのツアーは当然ペット同伴は認められてない。
「どうしよう。かわいそうだよ……」
「とりあえず、スタッフの人に連絡してみようか」
蘭が周囲を見渡してスタッフを探していると、船内で会った男性が話しかけてきた。
「どうしたの? なにか困りごとかな?」
「あ! お兄さん! 見てよアレ!」
歩美が木から降りられなくなった子猫を指差す。
「猫? なんだってこんなところに」
呆れ半分困惑半分と言った感じに子猫を見上げる男性。
するとコナンが男性に子猫を降ろすように頼んでみる。
「ねぇお兄さん。背が高いからあの猫、助けられない?」
凡そ180cm以上ありそうな人だ。ジャンプすれば猫まで届くかもしれない。
コナンの質問に男性は難しそうな顔をする。
「あの猫まで跳べるかもしれないけど、私は駄目だね。さっき煙草吸ってたから猫が臭いで嫌がって逃げて落ちちゃうかも。だから────」
そう言うと、男性が腰を落とす。
「肩車するから誰か乗って。ジャンプするより安全でしょ」
確かに、その方が子猫も安全だろう。
「じゃあボクが乗るよ。いいよね!」
「はいよ。どーぞ」
了承を得てコナンが男性に肩車される。
「ほら。こっちこっち」
肩車して貰っても、まだギリギリ届かず、コナンが子猫にこっちへ降りてくるように話しかける。
すると、数秒後に意を決した猫がコナンに飛び込んできた。
「と!」
「ナイスキャッチ」
子猫を助けると、男性がコナンを降ろす。
「やったなコナン!」
「お兄さんもありがとう!」
「どーいたしまして」
お礼を言われて手を振る男性。
「本当に助かりました。私、毛利蘭です」
と、頭を下げる蘭に男性が瞬きする。
しかしすぐに笑みを見せる。
「これはどうも。春日井明夫です」
「春日井さんもあの映画のファンでこのツアーに参加したんですか?」
「いやー。実は婚約が無くなっちゃいまして。その傷心旅行にとこのツアーに参加したんですけど、値段と海に囲まれた島ってフレーズに惹かれただけで、どういう目的のツアーなのかはチケットを取ってから知ったんですよ。その映画も観てないし」
恥ずかしそうに頬を掻いて話す春日井。
ちょっと残念そうな蘭。
「まぁ、海釣りくらいは出来るらしいので、明日はそれで時間を潰そうかなって」
そこで突然悲鳴が聴こえた。
「誰か来てくれ! 人が二人血塗れで倒れてるんだ!?」
その言葉にコナンは一番に走り出した。
倒れていた二人は既に殺されていた。
名前は村井巽と美樹本良樹という男性二人だった。
彼らは十人の団体客のグループでこのツアーに参加した人達らしい。
ホテル内のバーで軽く飲んでいた毛利小五郎もやって来て、ホテルの従業員に職業を明かし、現場の確保を務めている。
村井氏の方は後頭部に硬い鈍器の一撃を喰らって即死。
もう一人は抵抗されたのか、押し倒されて何度も頭を殴られた形跡が見つかった。
警察には連絡したが、場所が場所なだけに来れるのは早くても丸一日かかるとの事。
被害者の二人はバーがやっているギリギリまで酒を飲んだ後に煙草を吸いに外へ出たのが確認されている。
小五郎に現場を追い出されたコナンは死体があった場所からホテル内に戻るまでのルートを見て歩く。
ホテル内とその周辺には防犯カメラが設置されているが、急拵えな為、死角はわりと多いらしい。
(ってことは、犯人は二人を殺害した後に、死角を通ってホテルに戻ったってわけか)
だが、いくらなんでも全ての防犯カメラを潜り抜けるのは難しいと思うが。
そう思っていると裏口のドア周辺に、不自然な跡が見えた。
まるで、強い力で抓んだような不自然な跡。
それを確認しようと高めの脚立を使ってその跡をスマホで撮影しようとする。
「ちょっと君、なにしてんの! 危ないだろ!」
「えっ!? わぁっ!!」
コナンの行動に気付いた春日井が慌てて止めようとして、逆に驚いたコナンが脚立から落ちようとしていた。
(これヤベッ!?)
せめて受け身を取ろうとしたが、落ちようとしたコナンを春日井が受け止めた。
「せーふ……っぶね……」
「あ、ありがとうお兄さん……」
今日二度目、コナンを下ろす春日井。
「コナンくん!?」
蘭や少年探偵団。そして騒ぎを聞き付けた小五郎がやってくる。
「ウロチョロすんなって言ってんだろ!」
「イッテェ! ごめんなさ〜い……」
そう言ってコナンの頭を軽く小突く。
頭を押さえながらコナンが春日井にお礼と質問する。
「それにしてもお兄さんすごいね。あんな距離からボクを受け止めるのに間に合っちゃうなんて」
どう考えても普通に走って間に合う距離じゃなかった。
陸上経験とかあるのかもしれない。
「あぁ。運動にはちょい自信があるんだ。もうあんな危ないことしちゃ駄目だぞ」
「は〜い」
春日井の注意にコナンは返事するが、疑わしい目を向ける。
そこで視線を動かすと、被害者と同じグループのツアー客がなにやら言い争いをしていた。
旅行仲間が殺されたのだ。気が気でないのは当然だろう。
なにか知らないか、問い質してみようと動く。そこで視線を上げると、春日井明夫が薄く笑っているのが見えた。
その笑みにコナンはゾッとする感覚を覚える。
どうしたのか訊こうとすると、彼は小五郎の許可を得てホテル内に戻って行く。
この時はまだ、この殺人事件の被害者がまだ終わりではなく、どれだけの深い憎悪で行われているのか、想像もしていなかった。