トリックは推理されたけど、ターゲットを全員殺すまで止まりませんよ?   作:Distance

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中編(一)

「ありがとう! 逃げちゃって探してたの!」

 

「本当にありがとうございます」

 

 助けた猫の飼い主はすぐに見つかった。

 というより、探そうとしたところで向こうから見つけてくれた。

 どうやら他所に預ける筈だった飼い猫をかわいそうだと思った娘がこっそりと猫用のキャリーに入れて連れてきてしまったらしい。

 それを両親が知ったのは船に乗った後であり、ホテルに着いた後に誤ってキャリーから出してしまったとの事。

 逃げてしまった後に、歩美達が発見して捕まえた、という流れだ。

 飼い主は歩美達と同い年の女の子で、ペコペコと母親が頭を下げてお礼を言っている。

 そこで光彦が通りかかった人物に気付いて声を出す。

 

「あ、お兄さーん!」

 

 春日井明夫もこちらに気付いて近付いてくる。

 

「どうしたの?」

 

「さっき助けた猫の飼い主が見つかったんです」

 

「あぁ。それは良かった」

 

 蘭が説明すると春日井はホッとした表情をする。

 

「コイツが猫を助けるのを手伝ってくれたんだぜ」

 

 元太がそう話すと、飼い主の女の子が春日井に向かって頭を下げた。

 

「ありがとう、おじさん!」

 

「おじ……うん、ヨカッタネ」

 

 微妙にショックを受けつつ愛想笑いで乗り切る。

 もう逃さないように軽く注意して親子と別れた。

 

「俺もおじさんとか言われる年齢(とし)かぁ……」

 

 遠い目をする春日井に蘭が話しかける。

 

「えっと……春日井さんっておいくつなんですか?」

 

「働き盛りの二十九歳。子供から見たらおじさんだよね」

 

「いえいえ。そんなことはないですよ」

 

 つい最近、父に弟子入りした喫茶店の店員と同じ年齢かと思いながらフォローする。

 

「私は高校生で。この子達────」

 

「歩美達は小学校の一年生だよ!」

 

 と、元気よく教える。

 

「そっかぁ。それにしても高校か。私も行ってみたかったな、高校。今更だけど」

 

 まるで高校に行けなかったかのような口振りをする春日井。

 

「なんだよオメー、試験(テスト)に落ちたのか?」

 

「元太くんだっけ? 君はもうちょっと言葉遣いに気を付けようか。そのままだと将来苦労するよ。情報源(ソース)は私」

 

「ソース? そこでなんで食いモンの話が出てくんだよ?」

 

 呆れた態度で返す元太。

 春日井の言葉が気になって、蘭が質問する。

 

「どうして、高校に行かなかったんですか?」

 

 今の時代、場所を選ばなければ高校に入学する事自体は難しくない。

 となると、自分から通わなかったか、やむを得ない事情があったか。

 

「試験自体は受かってたんだけどね。入学金とか両親が入信してた宗教に勝手に寄付されちゃってさ。入学取り消しになったんだよ。それが原因で両親とも喧嘩別れしちゃった」

 

 極めて軽い感じで話す春日井。

 だが聞いた蘭の方はどう反応すればいいのか困惑する。

 そこで春日井の方から質問する。

 

「そう言えば、コナンくんは?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 コナンは小五郎と一緒にオーナーに事件があったと思われる時間帯の防犯カメラを見せて貰っていた。

 被害者達が通った通路の後で誰かが通った映像は確認出来ない。

 

「ここの防犯カメラ、天井はほとんど映らないの?」

 

「はい。天井から直接下を映す形なので」

 

 コナンの質問にホテルのオーナーがそう答えた。

 そこでコナンが映像の違和感に気付く。

 

「ねぇおじさん。今、一瞬だけこのカメラの映像がおかしくなかった?」

 

「あん? どれだ?」

 

「ほら。このカメラ。端っこの方が一瞬黒くなったよ」

 

 少し巻き戻すとカメラ映像の端が一瞬だけなにかに覆われたかのように黒くなっている。

 よく見ると、他のカメラも注意して見なければ分からない一瞬だけ同じようにカメラが端が黒くなっていた。

 それにまさかと思ってコナンがモニター室を出て、例の通路に移動する。

 通路の天井を見ると、従業員に話しかける。

 

「すいませ〜ん。ちょっといいですか?」

 

「どうしたんだい?」

 

「天井にあるあの凹みって最初からあったの?」

 

 コナンが指差すと、天井に直線に凸している部分によく見なければ気付かない小さな凹みや不自然な汚れの跡が幾つも見える。

 従業員が不思議そうに首を傾げた。

 

「あれ? あんなのあったかな?」

 

「そっか。ありがとね」

 

 コナンはそのまま凹みの跡をなぞって行くと、防犯カメラが少ないトイレへと行き着く。

 そこでコナンはある考えが過る。

 

(いやいやまさか)

 

 しかしその考えを否定した。

 確かにその方法なら防犯カメラに映らずに現場からここまで戻って来られるだろうが、いくらなんでもありえないだろう。

 

「ちょっと休むか……」

 

 一旦推理をリセットして近くの自販機から適当なジュースを買って飲む。

 思い返すのは、春日井明夫のあの笑み。

 接点などないであろう彼が何故あんな笑みを浮かべたのか。

 そこで探偵団と蘭がやって来る。

 

「コナンく〜ん!」

 

「もうダメじゃない! お父さんから離れちゃ」

 

「ごめんなさい。おトイレ行きたくなっちゃって」

 

 蘭に叱られて、コナンは素直に謝る。

 

「そろそろ飯だから探してたんだぜ!」

 

 時間を見ると、六時近くになっている。

 ホテル側が夕食を用意してる時間だ。

 

「にしても、殺人事件があったのに元気だなあいつら」

 

「あなたがすぐ事件に首を突っ込むからじゃない?」

 

 辛辣な灰原のツッコミにコナンは不機嫌そうに顔を背けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 次の日、昼近くになっても起きて来ない客をその仲間が不自然に思ってフロントからスペアキーを使い、探偵である毛利小五郎と一緒に部屋の中を確認する。

 すると、団体客の一人だった八代都が絞殺死体として発見された。

 小五郎についてきていたコナンは部屋に入って中を調べる。

 首には縄で絞めつけられた痕がハッキリと残っている。

 

(スマホ……)

 

 遺体が置かれていたベッドの近くではなく、窓の下に落ちているスマホが気になり、コナンはそれを拾うと、通話状態になっていた。

 

「雨ヶ谷小夜……」

 

 表示されている名前を呟く。

 そこで頭に強い痛みが走った。

 

「イッテ〜ッ!?」

 

「コォラ! 現場をウロチョロすんな! 物にも勝手に触んなっていつも言ってんだろ!!」

 

「ご、ごめんなさ〜い!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それから毛利小五郎による事情聴取が行われた。

 これ自体は一応任意だ。

 

「ども」

 

 春日井明夫が聴取に応じてホテル側が用意してくれた部屋に入る。

 彼はコナンがこの部屋に居る事を不思議に思っていたが。

 船内やこの島に着いてからの行動を質問する。

 彼はこの島に着いてから、最初は撮影のロケ現場を見てたが、殺人事件が起きてからは怖くて部屋に居たと証言。

 もちろん一人旅なので、証人は居ないとの事。

 当たり障りのない聴取が終わると、コナンが最後に質問する。

 

「ねぇ、雨ヶ谷小夜さんって知ってる?」

 

 その名前が出た時に、一瞬だけ、春日井の眼の色が変わった気がした。昨日見せた、あのゾッとする笑みと似通った。

 しかしそれもすぐに元通りになる。

 

「ううん。知らない」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それから被害者と同じグループの人間の事情聴取が始まる。

 ここからが本番だった。

 最初にその団体の名義になっていた坂本茂男という男性だ。

 名前を聞くと、そこそこ有名な会社だった。

 

「家具販売会社の部長さんですか。今回は社員旅行で?」

 

「いえ。同じ会社ですが、仲の良いグループでの個人的な旅行ですよ。飲み仲間的な」

 

「そうですか。では」

 

 そこから小五郎はこの旅行での行動を質問する。

 今日発見された八代都は誰かとの同室は嫌がられたので、仕方なく個室を取った事も。

 

「それがまさかこんなことに……」

 

 疲れたように顔を手で覆う坂本。

 最後に小五郎が質問する。

 

「被害者の八代さんのスマホに雨ヶ谷小夜、という方と通話している痕跡がありました。その方について、なにかご存知ありませんか」

 

 雨ヶ谷小夜という名前を聞いて坂本の顔がサーッと青褪める。

 その反応に、小五郎が立ち上がる。

 

「知ってるんですね!」

 

「あぁ、はい。一年と少し前に我が社を解雇された社員です」

 

「解雇、ですか……」

 

「はい。とあるプロジェクトを失敗されてその責任を取らせる形で。ですが……」

 

「ですが」

 

「彼女は解雇された後に亡くなってまして。自殺だったと聞いてます。会社を解雇されたのが余程ショックだったのかと。真面目な女性(ひと)でしたから」

 

 自殺、と聞いて小五郎が苦い表情をする。

 それから幾つか質問をして次の人に中へ入ってもらった。

 二十代半ばの安藤桜子という女性だ。

 坂本茂男と同じ質問をし、最後に雨ヶ谷小夜について質問する。

 

「雨ヶ谷さん? 如何にもお局様って感じの人でしたよ」

 

「お局様、ですか」

 

「えぇ。いちいち細かいことを口うるさく注意したりで。まぁ男っ気のないおばさんでしたし? 仕事しか生き甲斐が無さそうな人でしたからねぇ。クビになって相当ショックだったんじゃないですか?」

 

 亡くなった人間を小馬鹿にするような態度の安藤。

 それから彼女の主観による話を聞いて次に来てもらう。

 次は三島大輝という三十くらいの男性だ

 

「雨ヶ谷のことですか。優秀な人でしたよ。少し、真面目過ぎるところはありましたが」

 

「何らかのプロジェクトに失敗して解雇されたと聞きましたが」

 

「まぁ、アレは元々、失敗すること前提のプロジェクトだったんですよ」

 

「失敗前提?」

 

「えぇ、はい。アレ自体、元々落ち目だった提携会社から持ちかけられたプロジェクトでして。細かな説明は省きますけど、うちとしてはその会社とこれを機に縁を切りたかったことや、優秀な職人や社員を引き抜くのが目的で、その為にプロジェクトが失敗した方が都合が良かったんです。もちろん、一時的には損するでしょうが、数年で黒字になる算段でしたし。だけど、雨ヶ谷は馬鹿正直にプロジェクトが成功するように動いて、ギリギリだけど利益になるようにしたんです。それ自体は凄いんですけど」

 

 会社として当初の目論見が御破算仕掛けたのだ。

 

「だから、うちの方で色々と動いてわざと失敗させましたね。雨ヶ谷のそういう生真面目なところを煩わしく思ってる上役も結構居て、プロジェクトの失敗を理由に解雇させたって訳で」

 

 会社の方針に従わない社員として切られたという。

 

 

 

 それから他の三人にも話を聞いてみた。

 色々と聞いたが共通してるのは────。

 

「その雨ヶ谷小夜さんって人、あんまり好かれてなかったみたいだね」

 

 コナンの言葉に小五郎は腕を組んで椅子の背にもたれる。

 

「仕事ができる人だったのは間違いなさそうだがな」

 

 何処か煙たがっているような印象。

 解雇された上に自殺したのなら不自然な態度ではないのだが。

 

「それより、お前もいい加減、蘭達のところへ行ってろ!」

 

 小五郎はそう言ってコナンを追い出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 夕方頃になってようやく警察が到着した。

 

「ご苦労様です、警部殿!」

 

「あぁ。なんで君はいつも現場に居るかね」

 

 小五郎が敬礼すると、目暮警部が呆れた態度で返す。

 これももう彼らの中で何度もしたやり取りだ。

 小五郎は目暮にこれまでの状況や事情聴取で得た情報を包み隠さずに話す。

 そこで、更に二人の犠牲者が出た事が報告される。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その夜、ツアーに参加した大人達全員がロビーに集められる。

 コナンは眠らせた小五郎の襟に発声器を取り付け、少し離れた位置から蝶ネクタイ型変声機を使い小五郎の声で話す。

 既に全ての謎は解けている。

 後は犯人を捕まえるだけ。

 

「皆さん────」

 

 事件は、終わりに向かおうとしていた。

 

 

 

 

 

 

 

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