トリックは推理されたけど、ターゲットを全員殺すまで止まりませんよ? 作:Distance
何度も言いますが、作者はこれをミステリーとして書いてるつもりは毛頭ございません!
毛利小五郎による推理が披露される数時間前。
コナンは絞殺された女性の部屋を調べていた。
「中に押し入られて首を絞められた……違うな。それならこんな首の縛り方にならない。と、なると……」
二階の窓を見る。
それを開けようとすると、少し建て付けが悪いらしく、上手く開けられない。
「妙だな。この建物自体はまだ新しい筈なのに……」
強引に窓を開ける。
窓の縁に手を置いて外を見ると、不自然な点に気付いた。
(壁の色が白じゃなかったら気付けなかったかもしれねぇけど、強く擦った跡がある。それに窓の縁にはザラザラと砂みたいな感触……おそらく犯人は絞殺後に窓からこの部屋に侵入した)
ある程度推理を組み立てると、部屋から出るコナン。
上の階を確認しようと移動していると、例のグループの一人がなにかを探している様子だった。
「熊谷増幸さんだよね? どうしたの? 探しもの?」
「君は、毛利探偵と一緒に居た……」
事情聴取を受けた時にコナンと会っていた。
「実は、旅行に来ている二人が見当たらなくてね。こんな状況だし、一緒に行動をした方が良いと思って探してるんだ。携帯も繋がらないし」
「そうなんだ」
二人行動とはいえこの状況で見つからないのはおかしい。
これ以上犠牲者を出さない為に自分も探しに行くべきか迷ったが、その前に熊谷に聞いておきたかった。
「ねぇ熊谷さん。もう一度訊きたいんだけど、雨ヶ谷小夜さんってどんな人だったの?」
事情聴取の最中も好意的ではなかったが、雨ヶ谷小夜を怖がりつつも控え目な態度だった。
元から気の弱い人物と予想してもう一度同じ質問をする。
「分かってるでしょう? そうやって都合の悪い事を秘密にしていても、事態は良くならないって」
だから早く真実に辿り着き、犯人を捕まえる必要があるのだ。
その為にも関係のある情報はどんどん知っておきたい。
熊谷はコナンを無視するように歩く。
しかし、自販機で足を止めると
「これでいいかい?」
「え? うん……」
コレをやるから放っておけという合図だろうか?
そう思っていると、熊谷もカフェオレを購入し、自販機の横に腰を下ろす。
「私は、彼女が怖かった」
まるで懺悔のように口を開く熊谷。
「雨ヶ谷さんのことは新入社員だった頃から知っている。元々はデザイン畑の人でね。そっちでは芽が出なかったから営業に部署替えした。優秀な
それから熊谷は雨ヶ谷小夜について語る。
どれだけ仕事のミスをして怒られてもそれを糧に出来る忍耐。
何度も企画書を没にされても必ず修正案を持ってきてリトライしてくる根気もあった。
「人付き合いは少々極端なところがあって、たとえば物覚えが悪くてもやる気のある後輩には何度でも教えて世話をやくけど、逆にやる気が無いと判断したらすぐに距離を取る。その態度が依怙贔屓だと不満に思う人達も結構居たんだ。そういう理由で彼女を慕う人も嫌う人も多かった」
だから怖かったと熊谷は繰り返す。
「あと二年……いや、一年も普通に働いていれば、私と立場が入れ替わっていたかもしれない。そう思うと顔を合わせるのが怖かった」
五十代の熊谷が三十前後の女に地位を取って替わられる。
それが耐えられなかったと溢す。
「だから私は、今は自分が上の立場なのを利用して、理不尽に仕事を押し付けたり、彼女の仕事の足を引っ張ったりもした。雨ヶ谷さんがクビになったと知った時は心の底から安堵したよ。彼女なら、新しい仕事もすぐに見つかるだろうと心の中で言い訳をして」
そう話し終えたところで熊谷のカフェオレは全て飲み干されていた。
「私達は大なり少なり雨ヶ谷さんに酷いことをしてしまった。だから彼女が生きていて、私達に復讐しようとしているなら、それは仕方がないのかもしれない」
缶を捨てて肩を落とした様子で去って行った。
それから殺人現場の真上の三階の部屋は、この島で最初に殺された二人の部屋だと判明。
中に入って軽く調べたが、目ぼしい情報はなかった。
その上の四階に着く。
その部屋はこの島に来て仲良くなった春日井明夫の部屋だった。
「すみませーん。春日井さん。ちょっといいですかー?」
ノックするが反応は無い。
もしかして、部屋に居ないのかとドアノブを回してみる。
すると、鍵はかかっておらず、すんなりと開いた。
「春日井さ〜ん。居ますかぁ……?」
やはり返事は無く、コナンは春日井の部屋に足を踏み入れる。
室内は、本当にここで寝泊まりしているのかと思うくらい殺風景だった。
私物は少し大きめなスポーツバッグが適当に置かれているのみ。
いや、もう一つ。
備え付けられている小さな台には、写真立てが置かれていた。
それを手に取ってみると、今より数年前と思われる春日井明夫と、眼鏡をかけた黒髪の女性が写っていた。
何処かの海辺で幸せそうに笑っている二人。
そしてその写真には────。
夜になり、毛利小五郎と夕方頃にやって来た警察によって集められた大人達。
彼らは一様に小五郎の推理に耳を傾けている。
第一の被害者はこのツアーで島に着く前に船内で殺され、海に捨てられたのだろう事。
「そしてこの島に着き、バーで時間ギリギリまで飲んでいた二人は煙草でも吸いに外へ出たところを殺害された。ここで問題なのは移動です。防犯カメラの数が少ないとはいえ、被害者二人が通った後に犯人が通るのが映ってしまう。かと言って、他の通路を使えば誰かに見られないとも限らない。ですが犯人は信じられない力技でこの難題をクリアした」
「信じられない力技?」
首を傾げる目暮に小五郎が言う。
「えぇ。犯人は最も防犯カメラの少ないトイレ付近から天井の僅かな凹凸を利用して防犯カメラに映らないように天井に張り付いて移動して見せたのです」
小五郎の推理にこの場に集まった全員が言葉を失う。
それは驚きというよりも、呆れの方が大きかったが。
小五郎の推理に目暮の隣に居た白鳥が発言する。
「毛利さん。こんな時にふざけている場合じゃありませんよ」
これまでの功績から彼の事は信頼していたが、これは酷い。
そんな事が出来るのならまるでフィクションの忍者である。
「私もギリギリまで信じられませんでした。ですが証拠にあの通路の天井の凹凸には犯人の手足の指の指紋に強い握力によるへこみ跡。そして殺害された被害者の返り血が付着しています。防犯カメラの一部が所々一瞬黒くなったのは、犯人が天井を移動している時に袖や裾が映像に入ってしまったから。そしてトイレまで戻ってから自分の部屋に戻る。そうすればしばらくは疑われる事はないですからね」
信じられないようなトリックを確信を持って言う事で説得力を生ませる。
そして次の事件に移る。
「次の被害者である八代都さん。電話で呼び出され、窓から顔を出すように仕向けられた彼女は、上の階から首が入る程の輪縄を投げつけ首に括りつけて引っ張ることで、絞殺された。彼女の部屋の窓の建て付けが悪くなっていたのは、その時に被害者が藻掻いて強く打ち付けたから。目立ちませんが、窓ガラスも僅かにヒビが入っていましたしね。そして八代さんの部屋まで下り、窓から侵入して死亡を確認した後、部屋を出て鍵を掛けると、ドアの下の隙間から鍵を蹴って中に入れた。こうすればちょっとした密室の完成です。後は朝になって死体が発見されるのを待てばいい」
そして、次の被害者二人は、ちょうど警察が到着した頃に呼び出され、殺害されたのだろうという事を。
時間的には偶然だろうがと付け加える。
「今回の犯行の動機。それらはおそらく、被害者達が務める会社の元社員であり、パワハラや社内でのイジメが原因で自殺した雨ヶ谷小夜さんの仇を討つ為。彼らがこのツアーに参加すると知り、殺人を計画した」
「誰なんだね毛利君! その犯人は!」
目暮が先へと促すと、毛利探偵が犯人を告げる。
「このツアーで六人もの人間を殺害した犯人。それはあなただ! 春日井明夫さん!」
名を呼ばれて彼の周囲にいた人達が怯えた表情で距離を取る。
「あなたが子供達に言っていた婚約破棄となった女性とは亡くなった雨ヶ谷小夜さんのこと。違いますか?」
名前を呼ばれた春日井明夫は微動だにせずに小五郎を見つめている。
「失礼ですが、春日井さんの部屋を調べさせてもらいました。あなたの部屋の窓の縁から八代さんを絞殺した時に出来たであろう縄で擦られた跡。そして、置かれていた写真には小夜という名前の女性が写っていました。もしそれでもあなたが犯人でないと言うなら、指紋採取を受けてください。天井に残っている指紋や指の形が一致しない自信があるならね」
ここまで言われて春日井は大きく息を吐いて近くにあった椅子に座り、両手で顔を覆う。
「名探偵なんてのが乗ってた時点で嫌な予感はしてたんだよなー。素人の連続殺人なんて、場数を踏んだプロには通じねぇか」
「犯行を認めるのかね?」
「こうまでピタリと言い当てられたらね。どんな言い訳しても、カウンターされそうですわ」
まるで小五郎を賞賛するように両手を挙げて降参のポーズを取る春日井。
「しょうがねぇ。本当にしょうがねぇよなぁ……」
おそらく彼は、十人殺すまでバレなければ良かったのだろう。
彼の犯行からは、殺人を全て終えた後ならどうなっても構わないような破れかぶれさを感じていた。
「春日井さん。あなたには移送用の船が来るまで我々警察が監視させていただきます」
手錠を取り出す目暮を見て、少し離れた位置から小五郎の声で推理を披露していたコナンが、蝶ネクタイ型変声機を離して大きく息を吐く。
春日井はこの島に来て子供達に良くしてくれた。
アレが嘘だとは思えない。
だから蘭達に、春日井が逮捕される姿を見せたくなくてこの場から子供達をここには立ち合わせなかった。
これだけの警察に囲まれている中、犯行に及ぶのは不可能。
彼にはもう捕まる未来しかない。
多少の後味の悪さを感じつつ肩の力を抜くコナン。
しかし、彼は春日井明夫を見誤っていた。
このツアーで出会った時から物腰の柔らかな気さくなお兄さん。
その印象を払拭し切れずに彼を見ていた。
実際に春日井が子供達に見せていた姿は決して偽りではない。
しかし、それは一側面でしかないのだ。
だからこそ、江戸川コナンは春日井明夫の怨恨と憎悪の深さを完全に見誤ってしまった。
「しようがねぇから、ここであと四匹殺っちまうか」
その声がコナンの耳に届いた時にはもう遅い。
春日井明夫は弾かれたように椅子から走り、背中から小さな鉈を取り出すと、近くに居た熊谷増幸の頭部に振り下ろした。
抵抗する時間さえなく、振り下ろされた鉈は頭から眉間の位置まで深く沈み込む。
吹き出た血が春日井の顔や服にかかると同時に悲鳴が上がった。
当然目の前で起きた殺人に対してだ。
春日井は死体を蹴って鉈を引き抜くと、残りターゲットを指差す。
「あと、三匹……そこから動くなよ?」
地獄のショーが始まろうとしていた。
後編を書いて、エピローグに毛利小五郎編と江戸川コナン編を書いて終わりにする予定です。
それまでお付き合い頂ければ。
たぶん、年内には終わるかな?