トリックは推理されたけど、ターゲットを全員殺すまで止まりませんよ?   作:Distance

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後編

「たくよー。なんでコナンだけまたどっか行っちまうんだよ」

 

「そうです! コナンくんは少年探偵団の仲間という自覚が足りません!」

 

 子供達は部屋で集まっているように言われているにも関わらず、コナンだけがこの場に居ない事に愚痴を漏らす元太と光彦。

 子供達は一部屋に集められ、蘭が面倒を見ている。

 この島に来ていた猫の飼い主の子も一緒だ。

 猫と遊びながら歩美と灰原が話す。

 

「やっぱり、コナンくんが心配だよ……探しに行った方がいいんじゃないかな?」

 

「放っておきなさい。どうせ事件が気になってどこかで推理に聞き耳立ててるんでしょう。心配するだけ損よ」

 

 ドライな返事をする灰原に歩美がそうかなぁ、と呟く。

 だが心配するだけ損、という言葉は歩美達にではなく蘭に言っているように感じた。

 しばらく子供達とお話しながら時間を潰していると、突然大きな悲鳴が二階の部屋まで聞こえてきた。

 

「なに?」

 

「なにかあったんでしょうか?」

 

 不安そうな顔をする子供達。

 そんな子供らに蘭はすぐに警察が解決してくれるから大丈夫などと身の無い言葉を言って落ち着かせようとする。

 しかし、依然として下の階が騒がしい。

 何度も大きな悲鳴が響く。

 事態が判らず蘭はどうしようか迷う。

 何が起こっているのか確認したいが、子供達だけをこの部屋に置いて行くのは躊躇われる。

 危ない人物がこの部屋に押し入る可能性があるし、子供達も下の階に下りてきてしまうかもしれない。

 コナン程ではないが、この子達も充分好奇心旺盛で正義感が強いから。

 更に大きな悲鳴がここまで届く。

 それに子供達が明確に怯え始める。

 数秒目を閉じてから蘭は迷いを振り払う。

 

「……哀ちゃん。みんなのこと、頼めるかな? コナンくんを探しに行ってくる」

 

 自分より十も歳下の女の子に頼むのは気が引けたが、灰原哀はこの中で一番しっかりしている。

 時折、蘭自身より歳上なのではないかと思うくらいに。

 一瞬驚いた顔をした後に仕方なさそうに小さく息を吐く。

 

「分かったわ。部屋の外には警察も待機してくれてるから大丈夫よ」

 

「ありがとう」

 

 飛び出すように部屋から出る。

 

「あ! ちょっと!」

 

 外で待機していた警察に呼び止められるが、無視して玄関ロビーに向かって走る。

 ロビーが見える位置に移動し、下を見ると、先ず見えたのは腕を押さえて佐藤刑事に寄り添われている高木刑事。

 それから視線を動かすと、頭が割られて倒れている男性と蘭の位置からでは見えにくいが、女性が倒れているのが見える。

 そして。

 

「春日井さん……?」

 

 玄関の扉近くに返り血を浴びた春日井明夫の姿が見えた。

 彼はこれまで蘭達に見せていた人の良い男性の笑みではなく、鬼のような形相で一歩前に出る。

 

「人の血の滲む努力に唾を吐くのは楽しいか、おい?」

 

 腹の下から凍えるような怨嗟と怒気に満ちた低い声。

 そこには自分達に親切にしてくれたお兄さんの面影はどこにもない。

 経緯は分からないが、この騒動の中心が春日井だという事は判る。

 

(止めなきゃ!)

 

 そう思った瞬間、蘭は手摺に跳び乗り、春日井に向かって跳び下りていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 殺した熊谷増幸の頭から乱暴に鉈を引き抜くと残りのターゲットを指差す。

 

「安藤桜子。三島大輝。そして坂本茂男。逃げられると思うなよ」

 

 思ってもみなかった春日井の凶行にコナンは舌打ちする。

 

(くそ! まさかここであんな行動を取るなんて……!)

 

 完全に相手の行動を見誤った。

 犯人と確定すれば抵抗はしないだろう。仮にしたとしても、これだけの警官に囲まれればすぐに取り押さえられる。

 そう思っていたのだが、あまりの思いきりの良さに誰もが反応に遅れてしまった。

 油断して被害者を増やしたなど最悪な失態だ。

 春日井は警察との距離を測りながら次の行動を決めかねていると、安藤桜子がヒステリックに叫ぶ。

 

「なにしてるの! は、早くあの殺人鬼を捕まえてよ!!」

 

 自分が殺されるかもしれないという恐怖に耐えきれなかった反動だろうが、この場でその行動は悪手である。

 そこで春日井が視線を毛利小五郎に向けた。

 

「毛利探偵。なんで俺がこのツアーを利用してこいつらを殺し回ってたか分かるか?」

 

 血まみれの鉈で肩を叩きながら小五郎に問いかける。

 一分経っても答えを返さない小五郎に春日井は話し始めた。

 

「先ず一つ。この島自体をこいつらを逃さない檻とする為。会社に乗り込んでターゲットの十人を殺そうとすれば、無関係な社員も殺しちまうだろうし、外で一人一人殺し回ったら、何人か俺の目の届かない土地に逃げる可能性が高いだろ。なにより、そんな時間をかけてたら間違いなく全員殺す前に俺が捕まるからな」

 

 この島でなら制限時間付きだが理想的な状況だったと語る春日井。

 何人かの警察が春日井に銃を向けており、それを警戒しつつ距離を測っている。

 

「二つめ。この島がまだ開発途中で、防犯カメラを含めて人の目がつきにくい箇所が島全体にあったこと」

 

 この島は映画の聖地巡礼の為に急増で整えられた島だ。

 観光地、として見れば穴があり過ぎる。

 

「三つめ。そもそも小夜に対してイジメをしていた面々がなんで都合良くこのツアーに参加してたのか」

 

 春日井の顔が不快さを表して険しいモノになる。

 会社の仲の良いメンツでの旅行と聞いていたが、他に理由があるのだろうか? 

 コナンは雨ヶ谷小夜に不当な扱いをした面々が結託しての仲だと思っていた。

 それは半分正解ではある。

 

「それは、小夜が自殺した記念に集まった旅行だったからだよ」

 

 元々雨ヶ谷小夜に対して良くない感情を抱いていた会社の者達。

 しかし当時から結託していた訳ではなく、嫌がらせやパワハラ自体の時期や内容は異なる。

 ただ雨ヶ谷小夜の自殺した事を知った者が冗談混じりに彼女を嫌っていたメンツを集めて企画した旅行だった。

 

「真面目に働いてた人間を自殺させるまで追い込んで、死んだ後までコケにしやがって。一番大事な人をここまで侮辱されて正気で居られる奴だけ俺を非難しろ」

 

 そう吐き捨てると春日井は安藤桜子を指差すと罪状を教えるように話し始めた。

 

「安藤桜子。小夜を含めた社内の人間の私物などを窃盗し、フリマアプリで売り捌いていたらしいな。それを咎めて上に報告しようとした小夜に取り巻きの……あぁ、この島に着いて殺した二匹な。そのゴミ共を使っての軽度の暴力と他の社員への恐喝をしていたらしいな。社長の姪ってだけでずいぶん好き勝手してたみたいだな」

 

 春日井に睨まれると安藤桜子が怯えて後ろに下がり、近くにいた高木刑事の背中に隠れる。

 言う事は終わったとばかりに走った。

 高木刑事が前に出て春日井を止めようと動く。

 

「止まりなさい!」

 

「邪魔だってんだよ!」

 

 高木刑事を鉈で峰打ちし、腕を折ると同時に鉈も捨てる。

 

「ぐあぁっ!?」

 

「高木君!?」

 

 佐藤刑事が骨を折った刑事の名前を呼んで駆け寄ろうとする。

 

「悪いなお兄さん。もう止まる気ないんだわ」

 

 近くに寄ってきた佐藤刑事に向かって高木刑事を蹴り押すと、彼に注意が向いている間に安藤桜子の首根っこを掴んで玄関近くの壁まで移動する。

 

「やめ……! はなして、よっ!!」

 

 安藤桜子は抵抗しているがまったく意味がなく、彼女を壁に叩きつけると足で押さえ、近くにあった消火器を手にする。

 アレで撲殺するつもりなのかと思ったが、それなら扱いやすい鉈を捨てる意味がない。

 

(まさか……!)

 

 コナンが春日井の意図を理解した時、ホースの噴射口を彼女の口に突っ込む。

 

「やめろ!」

 

 目暮警部も察したのか、犯人を止めようと叫ぶも、春日井は消火器の栓を引き抜いた。

 十秒ちょっとで数メートル先まで届く消火剤を体内に噴射されて安藤桜子の身体が一瞬膨らんだかと思ったら内側から破裂した。

 取り込まされた消火剤と一緒に飛び散る中身。

 

「う……オェエ……ッ!?」

 

 その地獄のような光景に見ていた観光客だけでなく、死体に慣れている筈の目暮班の警察の何人かも口元を押さえ、或いはその場で嘔吐する。

 消火器を捨てると今度は次の獲物として三島大輝を指差す。

 

「次はお前だな。三島大輝」

 

 先程と同じように彼が雨ヶ谷小夜にやった事を口にし始める。

 

「小夜が成功しそうだった例のプロジェクトを横から掻っ攫ってわざと失敗させたな。小夜にフラれたのがそんなに腹立たしかったのか? 人の血の滲む努力に唾を吐くのは楽しいか、おい?」

 

 そう言って腰を抜かしている三島大輝に近づこうする春日井。

 警官も銃を向けて威圧するが、現状武器も持ってない春日井を撃つのは難しく、精々犯人が狙っている目標の前に出るくらいしか出来ていない。

 そこで、二階のテラスから気迫の籠もった声が届く。

 

「はぁああぁああっ!」

 

(蘭っ!?)

 

 子供達を任せていた蘭が突然二階から下りて春日井めがけて落下を利用した飛び蹴りを放った。

 

「おわっ!?」

 

 とっさに現れた毛利蘭に春日井は驚きと同時に横に移動して飛び蹴りを避けるが、鮮やかに着地した蘭がそのまま拳の突きを繰り出す。

 首から上を守る春日井に蘭は即座に腹部に狙いを切り換えて何発も腹に拳を打ち込んだ。

 堪らず腰を曲げた春日井の側頭部に上段蹴りを叩き込む。

 決まった、と思ったが、春日井は蘭の蹴りをガードしており、そのまま足首を掴むと引き、反対の足を払ってその場を転ばせた。

 

「キャッ!?」

 

 尻もちをついた蘭を見て隠れていたコナンが動く。

 

「蘭っ! ヤロウッ!!」

 

 キック力増強シューズのメモリを弄り、ベルトからサッカーボールを射出して全力で蹴る。

 

「いっけぇえええっ!!」

 

 飛んできたボールを両手で受け止める春日井。

 あのボールは構造上十秒しか保たず、最後には叩き落されるとそのまま萎んだ。

 

「イッテェ……なんだ今の!?」

 

 擦れた手を振りながらコナンもキック力増強シューズで蹴ったボールを防いだ春日井に驚愕する。

 

(他に蹴る物は!)

 

 シューズの出力を中くらいまで動かして蹴る物を探す。

 その間に目暮警部が春日井を説得しようと試みる。

 

「止まれ! これ以上罪を重ねるな!!」

 

「あ? 重ねるに決まってんだろ。なんの為にここまで来たと思ってる。それにもう八人殺ってんだ。俺の死刑はほぼ確実。なら尚更もうやめるわけにはいかねぇだろ」

 

 春日井の言葉を聞いてコナンは内心でクソッと毒づく。

 もう死刑が免れないと思っているから凶行をやめるつもりがない。ある意味で最悪な犯人だった。

 すると警戒していた春日井は蘭をお姫様抱っこして突っ込み出した。

 

「ほれパス」

 

 適当な距離で蘭を警察に放り投げた。

 複数の警官が投げられた蘭を受け止める。

 蘭に気を取られた警官の横をすり抜けると、腰を抜かしている三島大輝の首を絞め始めた。

 

「悪いな。もっと丁重に殺すつもりだったが、時間もないしまだ本命が残ってんだ。前座らしく手早く逝ってくれ」

 

 そのまま窒息死させるつもりなのかと思ったが違う。

 彼の両指は三島大輝に食い込み、猛獣に喰われたのかと思うような形で首の肉を抉り取った。

 

「あと、一匹……」

 

 真っ赤に染まった手を抉り取った肉と共に払って捨てると最後のターゲットである坂本茂男に視線を向ける。

 しかしそれはこれまで以上に憎しみの籠もった眼だった。

 

「坂本茂男。小夜が自殺した元凶のお前は最後に殺すと決めてたんだよ。こんな風に優しく殺して貰えると思うなよ?」

 

 指を鳴らす春日井に坂本茂男は震えた声で彼を責める。

 

「ふざけんな! 頭おかしいんじゃないか! たかだかちょっとからかってやっただけで勝手に自殺したクソ女のせいで殺されてたまるかよ!!」

 

「犯人を刺激するな!」

 

 興奮して反論する坂本茂男を白鳥警部補が制止する。

 坂本茂男の言葉に春日井は軽蔑の眼差しでこの場の誰も知らない事実を話す。

 

「酒が弱かった小夜に無理やり酒を飲ませて泥酔させた挙げ句、ホテルに連れ込んで餓鬼拵えさせたくせに被害者ぶってんじゃねぇよ屑が」

 

 妊娠の件を知らなかった坂本茂男は驚きから瞬きする。

 周囲の目も非難が伴う物になっていた。

 

「嘘だ!? デタラメ言ってんじゃ……っ!?」

 

「餓鬼はアイツが自殺した時に病院で聞いた。てめぇらのやったことは全部遺書に書かれた上で調べてんだよ。こっちが知りたいことは全部知ってんだ。少しでも罪悪感があるなら、ここで俺に殺されろ」

 

 そこで目暮警部が春日井に問いかける。

 

「そこまで分かっているのなら、何故訴えを起こさなかった? 証拠が有れば裁判で彼らを裁くことも」

 

「してどうなるよ? 裁判がこいつらを死刑にしてくれんのか? 被害者遺族への多少の罰金と短い懲役を終えて人生再スタート? 全然足りねぇよな」

 

 春日井明夫からすれば、彼らがやった事に対しての罰がまったく足りないのだろう。

 婚約者として、こんなにも辛い事もない。

 しかし────。

 

「生きて罪を償えば人生やり直せるなんてクソ喰らえだ。小夜を追い込んだ奴らは全員死んで償え……!」

 

 だけど、それはやっぱり間違ってると思う。

 復讐しても死んだ人が生き返る訳じゃない。

 

(復讐をやり遂げて、死刑になって、そんな結末を小夜さんが望んでるなんて本気で信じてるのかよ!)

 

 止めなければいけない。

 この事件を推理した探偵として、これ以上の凶行は。

 

「そんなことをして亡くなった小夜さんが喜ぶと本当に思ってるの!!」

 

 コナンの叫びに春日井は何も返さない。

 答えられないというより、コナン(子供)に言っても仕方ないとでも言うように。

 その態度がコナンを余計に苛立たせた。

 すると春日井は懐から幾つかの筒を取り出して火を点けると周囲に投げる。

 

「発煙筒っ!」

 

 煙が瞬く間に視界を奪っていく。

 

(クソッ! キッドみたいな真似を……!)

 

 煙が晴れると、春日井と坂本茂男の姿は消えて居なくなっていた。

 それに気付いた目暮が即座に指示を飛ばす。

 

「探せ! 絶対に犯人を逃がすな! 坂本氏に危害を加える前に捕まえるんだ!」

 

「高木君と佐藤さんは他の何人かとここに残って他の観光客の警護を!」

 

 白鳥警部補もそう指示を出すと高木と佐藤も了承する。

 

「やろうっ!」

 

「コナンくん、待っ────」

 

 近くに置いてあったスケボーを拾い、蘭が止めようとするのも聞かずにホテルを出た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 既に夜で島は暗くなっており、誰よりも早く春日井明夫を見つけられたのは偶然だった。

 聞こえた誰かの悲鳴と火の灯りと煙が見え、夜の暗闇の中を時計のライトを頼りに電動式のスケボーで急行した。

 どんな道を通ったのか、春日井明夫は海近くの崖下で坂本茂男と思われる人物をドラム缶に押し込んで焼殺したところだった。

 最後の殺人を止められなかった事に強い悔しさを覚える。

 

「ハッハー! 人がゴミのようだー!」

 

 などと台本の棒読みなような事をしてふざけている春日井。

 コナンが辿り着いた時には煙草を吸っていた。

 後ろから近づくコナンの存在に気付くと、子供を叱るような声でこう言った。

 

「前にも言ったけどさ。あんまり危ないことしないの。私がもしも逃げる気だったらどうするつもりだったの?」

 

 その時はきっとコナンはここで殺されていただろう。

 ただ、保身の為に人を殺すような人間なら、このツアーではなく、本人が言っていたように会社に乗り込んで直接ターゲットを殺し回っていただろう。

 復讐が終わった今、不用意な抵抗はしないとコナンは思っている。

 春日井の態度がこれまで接してきた親切なお兄さんのそれで。

 だからこそ悲しみと苛立ちが強くなる。

 

「ここまでしなきゃいけなかったの? 恨んでる人達を殺して、楽しかった?」

 

「別に楽しくはなかったよ。多少はスッキリしたけどね」

 

 多少スッキリした。

 ここまでの事をしておいて、そんな自己満足で片付けようと言うのか。

 

「こんなことをしたって亡くなった小夜さんは生き返らないし、あなただって犯した罪からは逃れられない! 誰も幸せにならないよ!」

 

「……小夜を失った時点で俺が幸せになることなんてないよ。これは絶対」

 

 肩の力を抜けたように大きく息を吐く。

 まただ。さっきと同じようにあしらうような受け答え。

 それがコナンには気に食わない。

 

「……もう警察もここに来る。あなたは逃げられないよ」

 

 自分で吐いたこの台詞自体が、負け惜しみとしてコナンの中で響く。

 十人もの被害者を出してしまった。

 探偵として明らかな敗北だった。

 

「そうだね。だから、早く逝くとするか」

 

 春日井が内ポケットに忍ばせていたのだろう小瓶を取り出す。

 それを見たコナンが止めようと動く。

 しかし間に合わない。

 

「待てっ!?」

 

 小瓶の中の液体を一気に呷ると、彼は吐血して倒れた。

 

「くそ! なんでっ!?」

 

「生きて償えば人生やり直せる、なんて……クソ喰らえだって言ったろ……一年も……待たせちまったからさ……早く、会いに逝ってやらないと……」

 

 段々と春日井の声が小さくなり、その眼の焦点も合わなくなっていく。

 コナンは春日井を運び出そうとするが、小さな子供の身体ではろくに持ち上げる事すら叶わない。

 

「ふざけるな!! あれだけ人を殺しておいて、自分勝手に────」

 

 どれだけ彼らが雨ヶ谷小夜を傷付けたとしても、あの被害者にだって家族は居る。

 たとえ死刑になったとしても、春日井明夫にはそれまで遺族の悲痛な叫びを聴き続ける義務があるのだ。

 だから彼は、法の裁きに引きずり出さなければならない。

 こんな最期は絶対に認められない。

 

「────」

 

 背負おうとしているコナンでもようやく聞き取れるかどうかのか細い声で呟く。

 それを言い終わると、春日井の小さくなっていた呼吸が完全に停止する。

 

「コナーンッ!!」

 

 春日井の息が止まったと同時に麻酔が切れたのだろう小五郎が警官数名と共にやって来る。

 

「馬鹿野郎っ!! 勝手に飛び出して行きやがって!!」

 

 いつものようにゲンコツを落とそうとするが、春日井の死体に気付くと、その拳を止める。

 

「コイツは……」

 

「春日井さん、ボクの目の前で毒を……」

 

「そうか……」

 

 小五郎は握っていた拳を開いてガシガシとコナンの頭を撫でた。

 コナンは息を引き取った春日井の顔を見た。

 張り詰めた物が切れたような。

 重い荷物をようやく下ろせたような疲れ切った顔で。

 何処か安堵したように見えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「まだ信じらんねーよ。アイツが今回の事件の犯人だったなんてよぉ」

 

「うん歩美も。すごく良い人だったのに」

 

 帰りの船の甲板で海を眺めているコナンから少し離れた位置で事件の顛末を聞いた子供達は春日井明夫が犯人だった事を未だに信じ切れずにいた。

 

「ボク達に良くしてくれていたのも、やっぱりボク達を利用する為の演技だったんでしょうか?」

 

 俯きながらそう疑問を口にする光彦を灰原が否定する。

 

「きっと彼にとって両方本心だったのよ。猫を助けてくれた時も。復讐に走るのもね」

 

 人間は相手によって見せる顔を変える生き物だ。

 聞けば、春日井は子供達を事件から遠ざけようと動いていたらしい。

 もしも犯行に遭遇したらどうしていたのかは灰原にも判らないが、少なくとも危険からは遠ざけようとしていた。

 ただ、目の前の三人にはいまいちピンと来ない様子だが。

 そこでボーッと波を見ていたコナンに蘭が近づく。

 

「コナンくん。そろそろ中に戻ろう。風が強くなってきて危ないから」

 

「あ、うん……」

 

 落ち込んでいる様子で返事をして船内に戻ろうとするコナン。

 そんなコナンの手を蘭が握る。

 

「もしも……今回新一が居てくれたら、春日井さんを止めてくれたのかな……」

 

 蘭からすれば一番頼りになる幼馴染なら、今回の事件をもう少し良い結末に出来たのではないかと思っての発言だった。

 しかしコナンにとっては。

 

「────っ!」

 

「あ!? コナンくん!」

 

 握っていた手を振り払い、逃げるように船内へと走って行くコナン。

 その行動には三人も首を傾げる。

 

「どうしちまったんだ? コナンのやつ」

 

「やっぱり、今回の事件のショックが大きかったんでしょうか?」

 

「心配だね。どうにか元気づけられないかな?」

 

 話し合う三人。

 灰原は一人、船内に戻ったコナンの背中を見て大きく息を吐いた。

 

「子供ね」

 

 そう呟くと五人で船内へ歩いて戻ったのだった。

 

 

 

 

 

 

 




前に書いたように、次は小五郎とコナンのエピローグで締めます。
小五郎編は高木と今回の事件の裏話(春日井明夫の遺体とか事件後の警察とか)をしようと思います。

コナン編は今回の事件に対してコナンが心の整理をつける話を考えてます。(マジでコレどうしよう。誰か代筆してくれよってくらい自信がない)

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