〜SUPPRESSOR〜   作:巳傘ナコ

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第1話 鎮圧者

 

『お前さんで最後だ…マニューラ、【きりさく】。』

 

 

 傷だらけのリングマががむしゃらに振るう剛腕を避け、的確に傷口を抉り広げる様に爪で切り裂いてくマニューラ。

 

 手負いの獣程恐ろしい。

 

 傷が増えるたびに減っていく体力とは裏腹に振るわれる腕の威力はどんどん上がっていくが、それもついに限界が来たのか、最後に大きく吠えて此方を睨みつけたまま倒れた。

 

 

『随分バトル慣れした子だったねえ…トレーナー登録が無しってことは、厳選の過程で捨てられた個体ってとこだろうね。』

 

 

 車椅子から杖を使って立ち上がった女性は拘束ネットを放ち、完全に身動き封じたリングマの特徴をレポートにまとめ始めた彼女の側に1台のジープが止まり、降りてきたのは黒スーツを着た女性。

 

 

「シズエさん、お疲れ様でした。」

 

レポートまとめる女性、シズエに【おいしいみず】とラベルの貼られたペットボトルを手渡す。

 

 

『現場指揮はお嬢ちゃんだったかい…どうりで野次馬や跳ねっ返りの砂利どもが少ないわけだ。』

 

「避難は無事終わったのですが、上層部が市内での鎮圧はあり得ないと……【我々】では此処を潜り抜けたポケモンの相手で手一杯でした…」

 

『アンタの部隊が無けりゃ市街での戦闘は避けられ無かった。

 寧ろ上から下、左から右とお硬いルールに縛られながら、この速さで現場判断優先までもぎ取った事を褒めたいくらいだよ。』

 

 

 数台のジープが到着、降りてきた隊員達の装備の傷や疲労具合、なにより指揮官の女性のスーツもボロボロで、それを見れば彼女達の努力は明白。

 ここまでしても、これから無用の罵倒、責任問題、始末書が待っている事を知ってるシズエは良くやったと褒めた。

 

 

「お心遣い感謝します……これが今回の原因ですか?」

 

『そうだろうねえ……原因はおそらくこのリングマで間違いない。

 ポケモンに統一性が無かったから突然現れたリングマから逃げようとした結果のスタンピードだろうねえ。

 降りてきた子の大半は状態異常にして捕まえてる。

 赤い方のキャプチャーボールは、センターで回復させれば問題ない子達、黒い方のキャプチャーボールの子達はセンターでも可能性は低い子達だ……お前達おいで』

 

 

 シズエが合図を出すとヤブクロンが数匹トコトコ小走りでやって来る。

 その手にはパンパンに膨らんだゴミ袋が握られ、中には大量のキャプチャーボールが入っており、それをジープに続くように続々と現れた救急車から降りてきたジョーイさん達に渡していく。

 その光景を見ながらスーツの女性が尋ねる。

 

 

「シズエさん、あの子達は?」

 

『随分前に保護した子達さね…

 アタシの正式な手持ちと違ってキャプチャーボールでの捕獲だから【仮】扱いで、トレーナー登録はされてないけどねえ。

 鎮圧はあの子達で事足りるけど、こういう事はアタシも歳で前ほど自由利かなくなってきたから大助かりだよ。

 生まれてくすぐに捨てられた子達だから、こうやって人との関わり方やらなんやら覚えさせてるのさ……毒系、特にあの子達みたいなナリは一般トレーナーには中々人気出ないけど、ちゃんと人との関わり方覚えればゴミ収集業者のパートナーとか引き取り手が無いわけじゃないからね。』

 

 

 今までは確認出来なかったポケモンの隠れ特性や性格に個体値等と強く育つポケモンの条件の目視化技術が出来上がり、そういったモノによる選別、通称【厳選】の煽りで捨てられるポケモンや違法ブリーダーが増え、このヤブクロン達は以前捕らえた違法ブリーダーの施設で引き取り手がつかなかった子達たと告げた。

 

 

「…アノ時の子達でしたか…」

 

『お嬢ちゃん達は覚えときさえすればいいんだ……わざわざ心に傷なんて刻まなくて良いんだよ。

 お嬢ちゃん、真面目は良いことだけど真面目過ぎるのは良くないね…』

 

「…はい…」

 

 

 キャプチャーボールを渡し終わったヤブクロンからシズエの元へと集まってくる。

 すると、ヤブクロンの一匹がスンスンと落ち込んでいる女性の匂いを嗅ぎ始めた。

 

 

「へっ…な、なんですか?」

 

 

 まさかヤブクロンに好かれるような匂いがしてるのではと、自身の匂いを嗅ぐ女性を前に、ヤブクロンがキャイキャイと騒ぎ始めて全員が集まれば女性を見上げ、それぞれが瓶ジュースの王冠やビー玉などキラキラしたモノを渡す。

 

 

『全員とは言わないが、アンタ達の努力を分かってくれる子達はこうしてちゃんと居るんだから、しゃんとしなさいな。』

 

「は、はい!」

 

 

 渡された一つ一つを大切そうに受け取り、ガシガシッと袖で潤んだ目を拭く彼女からは先程までの落ち込んだ気は感じなくなっていた。

 その後、事務的な手続きや捕獲したポケモン達への対処を話し合った2人はジープに乗り込み、小高い丘から町へと降った。

 

 

『「……はぁ……」』

 

 

 スタンピード鎮圧という死ぬ可能性すらある荒事終えた二人が揃って溜息をつく。

 後処理で丘に残った部隊の連中がこの場に居たならきっと同じ反応をしたんだろうな……そんな事を考える二人の目の前には大勢のメディアが居た。

 

 

「あっ! 降りてきたぞ!!」

 

 

 トランクから車椅子を降ろし、それにシズエが座ると女性は車椅子を押しながら仮設の対策所として借りている町の講堂へと向かう。

 そんな二人を見つけた記者の一人りが叫ぶと取り囲むように記者やカメラマンが群がってくる。

 

 

「少しお話し聞かせてください!!」

 

「今回の方法は正しかったのか、疑問視する声が上がってますが!!」

 

「シズエさんのやり方はポケモンを傷付けるだけだと言う声もありますが、どうなんですかシズエさん!!」

 

「あのヤブクロン達、シズエさんの手持ちでないとの事ですが、トレーナー規約の【手持ち数の上限】に反していませんか!?」

 

「貴女のやり方を疑問視する、市民の方に説明はありませんか!?」

 

「どいてくれっ!! 我々には市民に声を届ける義務がある!!」

 

「政府から多額の金銭を受け取っている、可哀想なポケモンでボール開発の実験をしているとの声も上がってますよ!!」

 

 

 後に会見の場を設けているにも関わらず、次々質問を投げかける記者達の中には失言を引きだそうとする悪意ある者まで居る。

 

 

『……これこそ本当のスタンピードじゃないかねえ……』

 

「ブフッ!!」

 

 

 矢継ぎ早の質問やシャッター音でかき消されて記者達には届かなかったが、シズエの呟きは隣に居る彼女にはしっかり聞こえていた。

 くしゃみをする振りを誤魔化せたが、彼女は内心笑いが止まらなかった。

 

 

『記者の皆さんには申し訳無いけど、アタシ達はつかれていてねえ……記者会見の場はあるんだから、今はどいてくれないかい?』

 

 

 シズエの言葉を聞くや否や記者達は説明責任は無いのか!、説明責任を果たせ!と叫び始める。

 このままでは本当に暴動になるとマスコミ連中を抑え込んでいたジョーイさん達が思ったその時、ドスン…ドスン…、バサッ!バサッ!と足音と羽搏きが聞こえてきた。

 

 

『最後まで見張りありがとうね…バンギラス、ボスゴドラ、サザンドラ…』

 

 

「ングオォーン」

 

「ヴグァオォーン」

 

「ギギャァオ"ォーン」

 

 

 獰猛なことで知られる3匹の登場に手持ちこそ居るがトレーナーではない記者連中はたじろぎ後退りする。

 サザンドラの背中から影が降ってくると、2人と記者の間に下り立った。

 

 

『マニューラもご苦労だったね……悪いけどもう一仕事頼めるかい?』

 

『ニギャァァン!』

 

 

 マニューラが女性に代わって車椅子を押し、バンギラス、サザンドラ、ボスゴドラが周りを囲み記者達に睨みを利かせて講堂へと向かう。

 

 

 

 




あいも変わらず新作ばかりの投稿すいません!
ネタは浮かぶも中々書けず、気分転換兼ねた作品ですので温かい目で見てもらえると助かります!

一応他の作品も書いては居ますが、地の文の表現が中々上手くいかずまだ投稿出来てませんが、そのうちそちらもアップ出来ればと考えてます!

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