Stella Break   作:無間ノ海

10 / 31
シュテレーラ

 

 

 

 

「その子、大丈夫なの?下から見てたけど、結構ボコスカ殴ってたよね。」

 

「ああ、よく眠ってるよ。かなり疲れさせたからね。いくら竜種でも翼の再生にはエネルギーを使うし、きっとしばらくは寝たきりのはずだ。」

 

 意識を断ち切られた竜の子を、ケガさせないように地上に下ろしたセヅキ。

 そんな彼を出迎えたのは、抵抗されないようドリク博士を締め落として猿轡をかけていたリンだった。

 

 ……やっぱりリンもちょっとキレてるらしい。心なしか締め方が荒っぽかった。

 

「生まれたばっかりで、すぐ戦わなくちゃいけないなんて……ひどいよ!」

 

 リンは眠り続けるドラゴンを見つめて唇を噛み締めた。

 

「野生だから……で済ますには、今回は人の悪意が入り込み過ぎてる。以前手配されてた件も含めて尋問と裏どりを連盟で済ませて、帝国に引き渡しかな。」

 

 綺麗に絞め落とされ気絶しているドリク博士を見てセヅキが呟く。

 しでかしたことを考えれば間違いなく終身幽閉か処刑だろうが、その執行権は彼らにはない。

 

 出来ることといえば魔獣の保護と生態系の監視、それと博士の研究結果の回収と隠蔽だろうか。もっともそこまでは自分たちの仕事ではない。博士の古巣である帝国の判断次第、と言ったところか。

 

 パンパンっと頬を叩き、よしっとテンションを持ち直したリンが得意げに腕時計型の端末を叩いた。

 

「島に仕込まれてた隠蔽術式と結界システムの解析、それと動力源の切断も終わり!やっぱりコントロール権限は博士が持ってたみたい。あとは術式情報を持って帰るだけだね。」

 

「ふふ、相変わらず仕事が早いね。ありがと。」

 

 にひーっと笑顔を見せるリンの頭を、セヅキがそっと撫でた。

 

 

 ちなみにシステムダウンの経緯はあまり語るべきことでもない。

 ラボに踏み込んだ瞬間豹変した博士が、

 

 「カカカカ、このワシがなんの準備もなくラボに案内すると思うてか!貴様はこの魔獣たちの身体機能を活かした七重の防衛トラップで殺してやるわ!」

 

 と自信満々で爆撃やら毒ガスやらのトラップを起動したものの、全部まとめてリンが1秒で粉砕して終わりである。

 

 結局、逆に尋問の容赦が無くなったリンに島のシステムを絞り出されて、停止した後はさっさと気絶させて拘束して、というだけである。

 

 これで島がこれ以上移動し、島の魔獣たちが生態系を破壊するようなことはない。最終的な措置まで、ひとまずの緊急事態は抑えられると見ていいだろう。

 

 

 と、そこまで考えて。

 飛んできた殺気に反応して、セヅキの左腕がブレた。

 

 

「っ!」

 

 ガキョンと鈍い音をたて、瞬時に顕現した湾刀が何かを弾く。昼間でも目立ちづらい色に彩色され、弾丸以上のスピードで飛んできたそれは。

 

「…ダガー?」

「っ!セッちゃん上!!」

 

 黒塗りの小剣を弾くや否や、上から降ってくる魔力を纏った石礫の弾丸。と同時に。

 

(地面の隆起と挟み込み…上は陽動を兼ねているか。)

 

 土石流を引き起こしつつ、起き上がった地面が二人を押し潰してサンドイッチにしようと挟み込んでくる。

 

 それを。

 

「【(フラメス)】――砕けろっ!!」

「散れ。」

 

 一瞬で火炎が付与されたリンの双腕が吹き飛ばし、同時にセヅキの湾刀が粉々に裁断した。

 木っ端微塵に砕かれたダガーの破片が虚しく飛び散る。

 

 その空中から、音もなく着地した男がいた。

 屈強な肉体に羽織った上等のバトルジャケットに銃を下げた、スキンヘッドの傭兵だった。

 

「ちっ、不意打ちは効かねえか。」

 

「その気配…なるほど、リンちゃんと戦っていたのは貴方だったのか。」

 

 先ほどのヒルダとは全く異なる、とても静かな気配。されどその内側は、敵対者を沈め喰らう猛毒の沼。

 戦い方といい、蛇のような男だな、と思う。

 

 先の戦いのどさくさに紛れ気配を殺していた男は、再び彼らの前に姿を現した。

 

 仲間を襲った敵の出現に、青年の気配が一瞬で鋭くなる。

 

「リンちゃん、この人は?」

 

「犯罪傭兵組織のジネドーゴって覚えてる?そこの元エース。さっきのドリク博士に雇われてたみたい。……そういえばまだとどめを刺してなかったよね。一応聞くけど、まだやる元気があるの?」

 

「うるせえよ小娘。一度受けた依頼なんだ、こなしきらねえと俺の看板に関わんのさ。それに、そのドクターにはまだ成功分の報酬を払ってもらわなきゃならねぇ。連れてって貰っちゃ困るんだよ。」

 

 リンに叩きのめされたボロボロの体は、だけどまだ動く。骨は折れておらず、内臓も潰れていない。この程度の怪我は戦場でいくらでも負ってきた。

 経験上まだまだ戦えるコンディション。退く気はなかった。

 

「そ、分かった。じゃお望み通り、続きの相手をしてあげ

 

「テメェには用はねえ。どけ。」

 

…………はい?」

 

 バトルの続きを再開しようと腕を捲る少女戦士に、いきなり男はNOを叩きつけた。いやそこはあたしと戦る流れでは?と目が点になる。

 

 しかしリンにはもう興味は無いとばかりに、その目は真っ直ぐに青年…セヅキの方を射抜いていた。

 

「テメェ…あの竜を倒しやがったのか。ドクターの虎の子だったんだがな。」

 

「あの子はまだ産声を上げたばかりの小さい子だよ。ちゃんと寝かしつけてあげないといけないでしょう?」

 

「ハッ、馬鹿言え。魔獣の因子で改造された純粋種のドラゴンだぞ。どんな腕してたらそんな言葉が吐ける。相変わらずムカつく野郎だぜ。」

 

 その声のトーンに、少し引っ掛かりを覚えた。

 何かに、納得したような。

 

「失礼ながら、どこかで顔を合わせたことがあるのか?貴方の目からは、私に対する既視感を感じる。」

 

 それはまるで、探し求めていた宝物を………あるいは、仇敵を見つけたかのような。

その言葉に、男は口角を上げた。

 

「3年前、テメェが根こそぎ潰した『天櫻(てんおう)』の宗教団体があっただろう。忘れたとは言わせねえぞ。あのアホみたいにデケェ魔力を間違える訳がねえ、間違いなくあそこにいたのはテメェだ。」

 

「………『赤と荊』のことだね、もちろん覚えている。あの場にいた全員は確かにこの私が手ずから屠ったよ。だが…貴方の顔に覚えはないな。ジネドーゴとも敵対した記憶はない。」

 

「だろうな、俺は別件で他所にいたんだ。だが連中(クズ共)の警護をしてたウチの可愛い部下を、山ごと灰に変えやがったのはテメェだろう?」

 

「当時はジネドーゴは関わっていなかったはずだけど…ああ、情報工作で名義を変えていたのか。」

 

「おうよ。俺たちはみんな金のために幾らでも殺すし殺される職だ。本当なら別に敵討ちなんて面倒なことする気はねぇんだが…」

 

 そこで男から笑みが抜け落ち、ジャキンと予備のダガーソードと銃が構えられる。

 じっとりと粘つくような殺意。あるいはそれは、執着。

 

「テメェだけはそうもいかねえ。せめてもの手向けだ。テメェの首を刎ねて、その首をアイツらの墓石の前に酒と一緒に掲げてやるよ。それでようやくすっきりするんでな。」

 

「手向けか…なるほどね。」

 

 仲間の無念を晴らす。それが本心であるか詭弁であるか、男自身にも分からない。

 

 だが目の前にいるこの緋色の青年と、決着を望んでいることは確かであった。

 故に。

 

「…承知した。ならば受けて立とう。」

「ちょっ、セッちゃん!?」

 

 音もなく、片刃刀が抜き放たれる。

 

「貴方と共に生きた人たちを殺し弔えた時、私は確かに名乗らず去った。なればこそ、その願望は認められるべきなのだろう。」

 

「テメェのその喋り方も気に入らねえな。劇作家気取りか?俺は昔から傍観者気取りで悲劇を描く脚本屋がどうにも嫌いなんだよ。テメェを殺す理由が増えたな。」

 

「あいにく本の読みすぎによる唯のクセだ。気に入らないのなら聞き流してもらおう。」

 

 まだ仕掛けない。

 ジリジリと殺意と剣気が混じり合い、圧力に耐えきれずぴしりと空気が罅割れる。

 

 二人の男は、無言の気にて語る。

 

 ――近づいたら、殺す。

 

 

 

「あーもう、男ってほんとバカばっか!!

――『瞳潤む石工の蜥蜴』『彩玉の箱に錠を掛けよ』!」

 

 リンは退避しつつ、指で方陣を描き術式を成立させた。

 フォンッと澄んだ音と共に巨大な青色のバリアが地面を覆って輝きだす。

 

 どのみちセヅキが本気でやり合うなら自分はむしろ邪魔だ。そう判断したリンは島への負担を抑えるため周辺一帯に衝撃殺しの結界を張る。

 即興故、余波を弱める程度でしかないが、無いよりは遥かにましだ。

 

(これで負けたら許さないよぜったい!!)

 

 

「最終確認だ。どうにもこの島についても分かっていないことが多く、情報源は少しでも惜しい。大人しく縛を受けてくれるなら手荒な真似はしないが、どうする?」

 

「舐めんなよ。ここでテメェらを魔獣どもの餌にすれば解決だろうが。知りてえヤツがいなくなるだろ?」

 

 

 ガキリとギアが噛み合い。

 

 再び『炉心』が叩き起こされて。

 世界を燻す星が再臨する。

 

 莫大な魔力の圧力に髪を揺らす青年は宣言した。

 

「対異常事象秘密機関『シュテレーラ』。"灰劫"翡雨セヅキ。――参る。」

 

 記憶に刻まれたその姿に男はニヤリと笑み。

 もう何年も用いていなかった本名で、同じく宣言した。

 

「元暗殺傭兵団『ジネドーゴ』エース。ヨハン・フォルゲ。この名にかけてテメェを殺す。」

 

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。