Stella Break   作:無間ノ海

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薬師の大船は来たり

 

 

 そして今、全ての悲劇の元凶が――【悪鬼侯爵】が、セヅキの目の前にいる。

 

 ソルヴェリア・コアから流れ込む膨大な魔力に真っ赤に焼かれた目は、凍りつくような殺意を乗せつつも、笑みの形を絶やさない。

 

 それが、怒りという名の荒れ狂う火災旋風を、笑顔という蓋で押さえつけたものであることなど、誰の目にも明らかであった。

 

「聞こえなかったかなー? もしもーし。貴方がサンドーヌさん、で合っているのかなー。

 

 ――私はあんまり気が長い方じゃないのでね。早めに答えることを、勧めておこう。」

 

 その一言とともに、津波の如き魔力と殺意が叩きつけられた。

 ビキビキと、周囲の建物が悲鳴を上げる。

 圧倒的な恐怖と共に心臓が締め上げられ横隔膜が麻痺し、息が吸えなくなった。

 

「――がほっ、あっ……!! ヒ、ヒイィィイ……!!」

 

 ギギギ、ギギ。

 

 身体中が泣き叫び、目の前の存在に是非もなく屈服しようとする。

 それは生物が、天敵を前に許しを請う本能だった。

 

 あの大魔級二人を前にしても、逃げだすことは出来たというのに。

 目の前の、少女と見紛うような美しい男には、その気すらも湧かないのだ。

 

(な、なんなのだこいつはッ!? テグジは? まさかあの手にある生首は――バカな、テグジが殺されたといのかッ!? 一体どうやって!? ふざけるな、ふざけるなっ!?)

 

 泥のように纏わりつく恐怖を振り払い、必死に声を上げ、生き延びる道を探し始めた。

 その情けない様相に、【悪鬼侯爵】と恐れられた死の商人の姿など何処にもない。

 

「そ、そうだ! 私がサンドーヌ元侯爵だ! こ、これで満足か? そ、そうだ! 貴様らに提案があるのだ!

 き、貴様らの実力はよ、よくわかった! 貴様らであれば名誉ある私の盟友となれることだろう!」

 

「は? 盟友?」

 

 セヅキは訝しげな目を向けた。

 

 この後に及んで何を言っているのだろう、この人は。

 彼自身がサンドーヌだと認めた以上、自分の役目はもはや処することだけなのだが。

 それとも遺言なのだろうか、それなら最後の慈悲としてちゃんと聞き届けてあげてもいいが。

 

「――正直信じられないので一応聞いておくが。それは私達を貴方の事業に勧誘してるって認識で良いのか?」

 

「悪い話ではあるまい? 私の脈々と編み上げたルートと、貴様らの優れた武力があれば、表の国家どもすら歯牙にも掛けない巨大シンジケートが作り出せる! 望むのなら金はいくらでも出そう! そ、それとも欲しいのは薬かそれとも奴隷か、構わん好きなだけくれてやる! だから手を組もうじゃないかっ! どうだ、私の提案――――」

 

 

「――そうか、もういい。」

 

 

 直後。

 

 戯言をほざいていたサンドーヌの四肢が、爆ぜた。

 

「お゙、がはっ……………!!」

 

 何のことはない。

 セヅキがその怪力で指を弾き、衝撃だけでサンドーヌの手足を切り飛ばしただけ。

 こんな奴に、綺麗に手足を切ってやろうという気すら、セヅキの中からは失せていた。

 

「ぎ、びいぃいいいいい!!」

 

 激痛が思考を遮り、涙と鼻水がとめどなく流れる。

 

 何故、何故、何故、何故。

 

 

 その苦痛を断ち切る慈悲は――介錯の拳であった。

 

 

 

「生きて贖罪をする気がないなら――死んでから彼らに償え。」

 

 

 

 パンッ、と。

 

 

 

 叩き込まれた左拳が、心臓から上を真っ直ぐ抉り飛ばした。

 テグジのような不死性など持たないサンドーヌの命はその瞬間に潰え、首を失った屍骸は、とさりと後ろ向きに崩れ落ちた。

 

 勢い余って、後ろの壁までまとめてぶち抜いてしまったが、聞くに堪えない戯言を垂れ流していた彼が悪い。

 自分の知ったことではないと、セヅキはサンドーヌの骸から目を逸らした。

 

 

「――さらばだ。せめて来世では、貴方が真っ当に光を浴びて生きられることを祈ろう。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……いぃ……ひ……」

 

 クスリに侵された、“商品”の一人、毛布を被せられた全裸の少女。

 ふわふわとした金髪に、小さく華奢な身体は――さぞかし高い『商品』と見られていたのか。

 

 お人形さんのように可愛らしい顔は、エヴァロンの副作用で神経をやられ、死相のように歪んでいる。

 外傷こそないが、だからといって心を壊す劇毒を盛られて、無事で済んでいるわけがない。

 

 

 虐げられ、すっかりと細くなってしまったその腕を、翡雨セヅキが、そっと取った。

 

「助けが遅れてごめんなさい。でももう大丈夫。ほら、力を抜いて――解毒剤ですから。すぐに楽になれますからね。」

 

 微笑みながら言って、セヅキは首筋に当てた、無痛浸透型の注射器のボタンを押した。

 

 ふしゅ、と空気が抜ける音と共に、淡黄色の薬液がゆっくりと少女に流し込まれる。

 壊された心の痛みがほんの少し和らぎ、呼吸の荒さが少しだけ緩む。

 少女の瞳が潤み、ゆっくりと瞼が閉じられた。

 

「寝てていいですからね。起きた時には、全部終わらせておくから。」

 

(……どれだけ、眠れなかったんだろう。こんな状況だ、満足に眠れも食べれもしなかったんだろうな。)

 

 言っても、仕方のないことではあるが。

 【悪鬼侯爵】の悪行をより早く見つけ出し、さっさと殺しておけば。

 

 このような幼気な少女が、奴隷になど堕とされることなどなかったのに。

 

 

 

 

「セヅキさん、処置と保護は俺達が……」

 

「いや、やらせて欲しいんだ。――助けられなかった分、せめてもの処置の手伝いくらいはやらないと、夜も眠れないから。」

 

「……そっすか。じゃあ、左三人、任せるっす。トリアージが重いのは、俺達がやりますから。」

 

「分かった。こっちの子たちは任せて。」

 

 

 むん、と腕をまくって気合を入れる。

 

 なにせ、師匠が医者なのだ。

 普段、悪党相手の殺し屋稼業ばかりやっているが、これでも軽い手当てくらいはお任せである。

 

「これくらい出来なきゃ、お師匠の竜骨メスで串刺しだものね。」

 

 犯罪組織戦ではいつものことだ。

 殺してそれで終わりではない。

 次に待ち受けるのは、被害者たちを救うための戦いである。

 

 セヅキは、さっそく目の前で痙攣を起こしかけている少年の処置に取り掛かった。

 

「オートラック92番と神経ブロック術式貸して! 脳細胞をダウンさせてショックを防ぐ!」

 

「了解です!」

 

 

 

 

 

 

 一通りの応急処置の目安が見えてきたころ、ようやく凩とエドラがE1棟へやって来た。

 返り血でどす黒く染まった衣装を見る限り、ほぼ研究所内全域の「()()」を終わらせてきたらしい。

 

「お、やってるじゃないか親友。相変わらずの手際だねえ。流石、サフィア大先生の一番弟子だ。」

 

「アホ言ってる暇があったら手伝ってエドラ! とりあえず被害者の子たちと救護隊員に、私を除いた全員にバフお願い! 応急処置だけじゃ体力がどんどん下がっていくから……」

 

「ほほう、この僕の、イルドレア(美の神性)すら虜にする音色を、よりによって栄養ドリンク代わりにするとはね。なかなかにぶっ飛んだ発想じゃないか。本当なら

「ごちゃごちゃ言わないでさっさとやるのっ!」

――はいはい、了解だ。」

 

 必死に処置に奔走する、ちょっとおこな親友(口調も柔らかい素に戻っているあたり滅茶苦茶焦っている)に、エドラは苦笑して手を貸した。

 

 

 ポンポロロンと竪琴が明るめの和音を転がすと、たちまち音色が可視的なオーラとなり、弦から空間を満たす。

 

 

「『溢れたまえ、命の神水』『異郷の旅人のゴブレット』『かの慈悲に区別はなく、波となるまで豊穣で満たそう』」

 

 

 ――【月影の夜想曲(ルナリアノクタ-ン)】――

 

 ――【第五章:ディアケフの泉の奇跡】――

 

 

 それは空間にいる者たちの細胞に染み渡り――ミトコンドリアの代わりとして臓器に膨大な活力を与えてみせた。

 

「おお……身体が軽く!――これが滅相者の皆さんが普段使ってる強化効果なのか。やっぱり規格外だな……!!」

 

「うわ、わわわわ、何か変な感じがする、すっげえな――これ、ホントに俺の身体なのか? サイボーグ手術もしてないのに、まるで全身が機械に置き換わったみたいだ!」

 

「当然だろう? この僕の音色だ、望むなら君たちが何十時間だろうが活動できる力を与えてみせるともさ。」

 

 音を介して全員に撃ち込まれた、絶大な体力バフと身体機能強化は、何時間も救援に当たっていたせいでヘトヘトな仲間達を一気に叩き起こした。

 

「ぐ、ううう……あれ、ここ…………?」

「な、なんだ? アンタ達誰なんだ?」

 

 さらには、精神の傷が浅く軽症で済んでいた者たちは、体力回復によって少しづつだが目を覚まし始めた。

 意識を取り戻した者については、救護隊員が事情説明を行っている。

 

「くそっ、か、身体が動かねえ…………」

 

「あー無理しちゃダメだよ。僕の音階は、あくまで君たちに活力という美酒を注ぎ入れるだけだ。治癒はしてないんだから、重症の人は動かない方がいい。」

 

「お、おう……?」

 

 治り切ってないうちに動くなと、重症者にエドラは釘を刺した。

 その様子を見て、治療に奔走していたセヅキはようやく一息ついた。

 

「助かったよエドラ、ありがとう。私の魔力は他の人に注いでも壊してしまうだけだから、本当にありがたい――他の手下たちはどう? 全員始末できた?」

 

「ああ。さっき施設をスキャンしたけど、生き残りはいなかったよ。」

 

「この吟遊詩人が遊んで取り逃がした残りの連中も、全員俺が見つけだして始末しておいた。安心しろ。」

 

「そっか……了解です。」

 

 

 

「ま、そういうことで、シュテレーラの仕事は終わりかな。」

 

「そうだね。これでとりあえずは落着になる。」

「うむ。」

 

 滅相者(戦闘要員)3人だけが、帰投の準備を始める。

 そこに大慌てで寄ってきた若い青年がいた。

 つい最近シュテレーラの医療部門に配属された、有望な新人である。

 

「えーっと、それってどういうことです? まだ処置が終わってない人たちがいるんです。このまま撤退するのは――」

 

「……大丈夫、すぐに分かるよ。」

 

 

 

 その時、何処からか流れ込んだ蒼碧に光り輝く神秘の濁流が、フロアを覆い尽くした。

 

 

 

「うわ……!!」

 

「これは――」

 

 美しい見た目に違わず、その神秘に攻性はない。

 それどころか、オーラに触れた被害者の怪我が一気に修復されていく。

 

 

 カツンと、生真面目そうな足音が背後から聞こえた。

 三人の滅相者たちは、まるでその人物が来ていることが分かっていたように振り返った。

 

 

「『慈悲深き薬善如王(やくぜんにょおう)、その薬湯の腕は千州の地に及び、我らその判官にて癒者の務めを果たさん。』っと。急患のいる場ですし、決まり文句はそこそこにしておきましょう。

 

――こうして顔を合わせるのは久しぶりですね。シュテレーラの滅相者の皆様方。」

 

 

 そこには、細身のボディアーマーの上に白い異邦のスーツで身を固めた、長い金髪を垂らした男がいた。

 フレームの細い眼鏡をかけて柔和な笑みを浮かべる彼は、手袋に覆われた手を差し伸べてくる。

 

 セヅキが代表としてその手を握った。

 

「お久しぶりですね。シニエルさん。急な呼びかけにも関わらず『癒人舟』の協力を得られたこと、心より感謝します。」

 

「お気になさらず、セヅキ様。病んだ者がそこにいるなら治さずにはいられぬのが我々の性分というものです。シュテレーラからの緊急コールを受け、『癒人舟』より30名の癒者を連れて参りました。」

 

 シニエルと呼ばれた男は、『癒人舟』の外部救急隊の代表の一人であり、シュテレーラとの合同任務の経験もある旧知の仲だった。

 

「た、助かった……もうそろそろデスマーチで死にそう……」

 

「お疲れ様でした。あとは我々にお任せを。」

 

 シニエルの後ろには、動きやすく薄い生地の防護服を着た、少しばかり緊張気味の癒者たちがいる。

 

「彼らは僕の直参の部下たちです。ああ、経験こそ少し浅いですが、全員が本舟所属を見込まれた優秀な者達なのでご安心を。」

 

 

 パンパン、と手を叩き、シニエルが号令をかけた。

 

「――では、処置を始めなさい。今回の患者はかの【悪鬼侯爵】の被害者達です。投与された薬物のレシピは既にシュテレーラから頂いています。言うまでもありませんが、いつも通り、一刀たりとも瑕疵は許されぬと心得るように。」

 

『ハッ!!』

 

 言うや否や、シュテレーラ救護部隊の治療を、癒人舟の癒者達が引き継いでいく。

 

 医療術式を被害者の身体の各所に仕込み、身体の状況をモニタリングしつつ適宜必要な薬を個人ごとに合わせてその場で調合し、迷いなく投与する。

 その施術の手際は、素人目にも恐ろしく優れているとわかるもので、一生を医療に費やした人間特有の精緻な動きだ。

 

 まるで機巧術腕(ロボットアーム)だな、と見ていた凩は思った。

 同時に一切の迷いなく、垂れもしない医療処置にいっそ感心する。

 

 なお凩に医術の心得は一切ない、適当に治癒能力を魔力でぶん回せば治ると言って憚らないからだ。

 だからこそ、余計に彼らの術技が凄まじく思えるのかもしれないが。

 

「見事な手際だが……医療ミスなどはないのか。手先に一切の迷いがないが。」

 

「くくっ、ご安心ください。癒人舟の癒者は本舟での育成段階において、施術ミスをするごとに骨を一本砕かれます。激痛と屈辱で強制的に覚えさせるのですよ、自分たちの手が人の命を丸ごと背負っているという事実を。3ヶ月もすればミスなど出来なくなります。」

 

 狂ってんなこいつら、と自分たちのことを棚に上げて凩は思った。

 なにせ、医療というものに自分の全存在をかけた修羅勢である。

 しかもエリートのみとかではなく末端に至るまで、癒人舟の人間は全員そうだ。

 そう言い切れる程度には、彼らの医療の研鑽は徹底していた。

 

 エドラがその様を見ながら茶々を入れる。

 

「相変わらず癒人舟の人達は、みーんなヒーラー業に命をかけてるねえ。いやはや、怖い怖い。ここから見ていても熱気が伝わりそうだ。」

 

「はは……ですが私としては、あなた方シュテレーラの方が常軌を逸していると感じますがね。聞きましたよ、致死率95パーセントを超える訓練を経て、文字通り死の瀬戸際で魔力と戦闘技術を磨くのだとか。

 ……よりにもよって、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()と考えれば、納得はできますが。」

 

「よく知ってるなあ……まあそうだね、あの試練は二度と体験したくはないかな。今なら簡単に乗り越えられるだろうけど、だからって死ぬような思いなのは変わりないし。――そういえば、神秘災害についても知ってるのかい?」

 

「ええ……何を隠そう、私もアレに襲われて、故郷を滅ぼされたクチですから。その恐ろしさは嫌というほどよく知っています。だからこそ、あなた方という組織が、悪党殺しに並んで神秘災害の滅殺を生業にしていると聞いた時は、心底驚きましたよ。」

 

 シニエルは遠隔で治療魔術を飛ばして部下達のサポートを行いつつ、そういって忌々しげな顔をした。

 

 

 シニエルたち癒人舟の者とて、元から医療に狂っていたわけではない。

 幼少のみぎりに、何か災害に遭って、あるいは誰かの悪意に晒されて、そんな時に『医療』という誰かから差し伸べられた救いを掴んでしまった――それが、生きる意味という名の唯一の光に見えてしまったのだ。

 

 だから、もはや医療の道にしか、生きることはできない。

 そういう者だけが医術の訓練と学問を積みに積み上げ、癒人舟の『本舟』――すなわち世界中を巡る「超々巨大総合医療母艦」に乗り込み、救いの手を差し伸べることを許されるのだ。

 

 

「お互い苦労するね。そういう運命に魅入られてしまった人間はさ。」

 

「全くです。」

 

 

 

 エドラとシニエルが黄昏ているなかに、やってきたのは紫のバトルスーツにいつもの星の紋様が入った黒コートを羽織り直したセヅキだ。

 ちなみにこの黒コート、知る人ぞ知るシュテレーラの証である。

 

「シニエルさん、この場はお任せしても構いませんか? エドラ、治療後の保護の手配を頼みたいんだが。」

 

「ええ構いませんよ。」

 

「親友、もしかしてサンドーヌの他の拠点の場所がわかったのかい?」

 

 エドラの問いに、セヅキが端末を見せる。

 

 そのマッピングアプリには、国内に1箇所、さらに隣国に2箇所と、マーキングが施されていた。

 

「今しがたミスカが中央サーバーをハッキングしてくれてね。場所が発覚した。他の拠点はあくまで薬品材料と製品の保管庫がメインらしいし、座標さえわかればこっちのものだ。今すぐ行って叩き潰してくる。確認するけど、全部消滅させて構わないんだろう?」

 

「大丈夫だ。せっかくだし、どデカい花火を打ち上げてやるといい。もう連中が、二度とこんな真似を使用と思わないようにね。――メーレ(小型飛行艇)ヴェスパー(個人用戦闘機)の準備はいるかい?」

 

「いや、いいかな。全部半径700キロ圏内――ここからなら。」

 

 軽く何度かジャンプして身体をほぐした後。

 ギギギギギ、とセヅキが魔力強化で発条と化した腿にパワーを溜め込む。

 

 

「――50歩で着く。」

 

 

 ボッッ!! と空気が爆ぜる音と共に煙が立ち、その姿がかき消えた。

 

 エドラが上を見上げれば、半壊したE1棟の天井の穴から、大穴をぶち抜かれた雲が見えた。

 切れ間から差し込む日の光がキラキラと光る。

 ――まあうん、わかっていたことではあるが。

 

 

「パワーだよなあ、僕の親友は。」

 

「ソルヴェリア・コアでしたか? 何度かセヅキ様と仕事を共にしたことはありますが、あそこまでの魔力供給を可能とするアーティファクトの存在など、何度見ても目を疑いますね。なんとか治験に協力してもらえぬものか……」

 

「……忠告しておくけど、親友に手を出せば確実に癒人舟が海の藻屑になるからやめておきたまえ。」

 

「冗談です。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……おい、第一研究所と連絡がつかねえぞ。」

 

「んなバカな、貸してみろ。……チッ、壊れたのか、このポンコツがッ! おい伝達魔道具担当の技師はどこだ。適当な仕事しやがって。」

 

「全くだ。へへ、こりゃ先輩としてシメねえとなあ――ん、なんだありゃ。」

 

 元・マリク王国内、第二研究所。

 警備のため駐屯していたサンドーヌの部下は、空に輝く一筋の流星を見た。

 

 流れ星とは珍しいな、と思った直後である。

 その白い星の光は、徐々に徐々に大きくなって。

 

「おい――アレ、こっちに来てねえか……?」

 

 そんな言葉が漏れた直後。

 

 

 

 白光を戴いた流星は、白雲を貫き、地上へと直撃し。

 

 

 その落着の衝撃と爆発的に拡散した魔力圧によって。

 

 

 第二研究所の擁する全ての人員・設備・麻薬製品および原材料。

 

 

 ――その悉くが消滅した。

 

 

 

 天を穿つような巨大な火柱と莫大な噴煙は、暗雲を吹き飛ばして上空何キロにも立ち昇る。

 地上に存在していた物体は、絶望的な力の奔流に砕き潰され、上空まで巻き上げられるか地中の奥深くまで叩き込まれた。

 

 残ったのは、真っ黒に焦げて綺麗に均された地上と、すり鉢状に抉られた特大のクレーター。

 

 そして、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()この大惨事を引き起こした主犯(セヅキ)は。

 半径何キロという巨大クレーターの中心で、吞気にコートに付着した埃を払っていた。

 

 彼は「()()()()()()()×()()()()()()()()」の式の信奉者である。

 

 すなわち、擁護しきれないほどの脳筋であった。

 

「生体反応なし、仕留めきれなかった奴はいないかな。えーっと、次の座標は……うん、時間はかけたくないし、いちいち真面目に国境検問なんて通ってられないな。もう国境を飛び越えていけばいいや。」

 

 

 端末を開き、次に潰すべき隣国に位置する研究所の座標を確認していた。

 

「あと二回――っと!!」

 

 

 

 そして再び、流星が空へ駆け昇る。

 

 結果から述べるならば。

 およそ7分と48秒後。

 

 

 【悪鬼侯爵】サンドーヌが築き上げた財産の数々は。

 

 分け隔てなく、この世から消滅した。

 

 

 

 どこかの塔の頂上で、小さな魔女が微笑んだ。

 

「もう……無茶ばっかりするんだから、あの子は。いいよ、情報操作くらいはワタシがやってあげる。」

 

 

 この事件は各国の報道機関により、『隕石落着による局所的地殻変動と崩落』とだけ報じられたという。

 

 

 

 

 

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