オラオラヒーロー『スタープラチナ』   作:花京院

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オラ

「やれやれ。テメーがいながらなんてザマだ、オッサン」

 

 ウソの災害や事故ルーム、略してUSJ。

 普段はヒーローやその卵達が、災害現場における民間人の救助の訓練を行うための施設だ。

 そして今日も、雄英高校一年A組の生徒達が訓練を行う予定だった。

 

 しかし今、そんな悠長な事をしていられる暇は無かった。

 何故なら、その施設に突如として(ヴィラン)が現れたからだった。

 (ヴィラン)の狙いは、今年から雄英の教師として教鞭を執ることになっていたNo.1ヒーローにして平和の象徴、オールマイトを殺す事。

 

 オールマイトを殺すなど、普通の方法ではまず無理。

 何故なら彼は最強だからだ。平和の象徴たりうるだけの強さがあるからだ。

 だが、彼らは知っていた。オールマイトが衰えつつある事を。オールマイトが弱体化しつつある事を。

 

 そしてその事を踏まえ、彼らはオールマイトを殺すだけの戦力を用意してきた。

 それこそが、『脳無』。

 人外並みの凄まじい素の身体スペックに加え、ショック吸収、超再生など、対オールマイトに特化した、幾つもの個性を複合させたことにより誕生した怪物である。

 事実として、オールマイト以外にこの場にいたプロヒーロー、抹消ヒーロー『イレイザーヘッド』こと相澤を完封で倒す事が出来るだけの実力を持っており、オールマイト以外は歯が立たないであろうことは誰の目から見ても明らかであった。

 

 これに対し、オールマイトは苦戦を強いられた。

 衰えた体では思った通りの攻撃の威力を出せないだけではなく、(ヴィラン)の一人、黒霧によるワープゲートの支援もあって、

 遂には自分が守るべきヒーローの卵である生徒達にも助けられてしまった。

 

“情けない”

 

 オールマイトは心の中で自分を叱咤する。

 衰えたとは言え彼は現役のNo.1ヒーローだ。平和の象徴だ。

 民衆の心の拠り所でなくてはならない。頼れる最強でなくてはならない。

 それがこのように、守るべき生徒に守られてしまうとは。

 このままではいけない。

 

 そう思って、立ちあがろうとしたその瞬間だった。

 コツ、コツと。足音を立てて背後から誰かが近づいてきたのは。

 

「あぁ……?」

「……死柄木弔、これはまずいかも知れません」

 

 それは、一人の男だった。

 身長は195cm。体重82kgの恵まれた肉体は筋肉と活力が満ち溢れ、翡翠色の目から放たれる強い意志の力はギラギラと輝いているようだ。

 大きく改造された長ランは風にはためき、これまた改造された学帽は短く切られた黒い髪と半ば一体化している。

 そんな男が赤と黄色、赤と緑の、特徴的な色合いのベルト2本を巻いた、唯一改造されていない制服のズボンのポケットに手を突っ込みながら歩いて来るその様は、まるで大昔の漫画に登場する不良のようだった。

 

「君は……!」

「オッ、オラオラヒーロー『スタープラチナ』!?」

 

 オールマイトのセリフを遮り、緑の縮れ髪の少年が大きく声を張り上げる。

 セリフを奪われたオールマイトはいつも通りの画風の違う笑顔を貼り付けたままだが、その笑顔はなんだか寂しげだ。

 しかしそんなことは知ったこっちゃないと言わんばかりに緑髪の少年、緑谷出久はブツブツと男の紹介を続ける。

 

「オラオラヒーロー『スタープラチナ』去年士傑高校を卒業しその後いきなりソロデビューそしてデビュー後すぐなのにも関わらず全国各地で凶悪な(ヴィラン)を捕縛するなどの功績を上げておりその実力はトップヒーローにも劣らないとされる期待の超新星不良っぽい雰囲気と口調の荒々しさから怖いと勘違いされそうだけどいざ実際に話してみると口こそ悪いものの優しさや気遣いが垣間見えてそのギャップが萌えると女性から大きな人気がありヒーロービルボードでも既に12位とデビュー1年目とは思えないほどの好成績を叩き出しているそんな中でも特にすごいのはやはりその実力悠々とポケットに手を突っ込みながらも相対する(ヴィラン)がボコボコにされてゆく様はまるで『見えない誰かが戦っているようだ』とさえ表現されているだけでなく高速移動を行ったりラビットヒーロー『ミルコ』並の跳躍を行ったりと様々な能力を見せる事から個性は離れていても働く力である『磁力』や『重力』、『サイコキネシス』などが有力視されているでもそれだと説明できないような事象も多すぎて一口には言えないけどとにかく強くてオールマイト並みとすら評価されている程のヒーローだ。……そんなヒーローが、なんでここに!?」

 

 いや、それどころじゃねぇよ。怖ぇよ。

 息継ぎ無しでどれだけの文量喋るんだよ。あと詳しすぎるよ。

 ……と、緑谷の近くに居てその台詞の全てをしっかり聞いていた峰田実は思った。

 

「……オフの日に散歩でもしようとチョイと外に出たら、個性まで使って妙に急いでるガキを見つけてよ。気になって事情を聞いてみりゃあ────」

 

 男は───スタープラチナは、チラリとオールマイトを見る。

 平和の象徴、世界最強であるはずのその巨漢は、今や脇腹に大きなダメージを負い、片膝をついて荒い息を吐いていた。

 そうして次に、生徒に担がれた満身創痍のイレイザーヘッドを、最後に、このUSJの設立者にして管理者のプロヒーロー、13号が体を削られ、倒れている姿を見る。

 

「……随分とまぁ、手酷くやられちまったみたいじゃあねぇか」

「そしてお前も、今からそうなる。やれ、脳無」

「ッ、気をつけろ! ソイツはショック吸収の個性を持っている!」

 

 顔や肩に幾つもの手を貼り付けた(ヴィラン)のリーダー的存在、死柄木弔と呼ばれたソイツがスタープラチナに向けて脳無をけしかける。

 凄まじい速度だ。生徒達は誰一人としてその速度に目が追いついていない。

 だが、プロヒーローは違う。

 

「オラァ!!」

 

 野太い声が響き渡り、脳無の体が止まる。

 ピタリと、まるで見えない何かに食い止められたかのように、スタープラチナの2mほど前でピタリと停止したのだ。

 

「はぁ!?」

「一体何が……!?」

「今のオラァって声、誰の?」

「スタープラチナの口、全く動いてなかったよね……?」

 

 ざわざわと、生徒達に困惑の色が広がる。

 

「ええい何をやっている脳無! 早くソイツを殺せ!」

 

 命令を受けた脳無は命令を忠実に遂行すべくなんとか体を動かそうとする。

 しかし、脳無はその場から動く事ができない。

 ジタバタともがく様は、まるで地上で溺れているようであった。

 

「やれやれ、なんつーパワーだ。俺の個性を以てして、まさか抑えるのに精一杯なんてよ」

 

 とは言っているものの、しかしスタープラチナは未だにポケットに手を突っ込んだまま、涼しい顔を保っている。

 

「ええい、クソ! 黒霧!」

「えぇ……仕方がありません。我々も対処しましょう」

 

 黒霧と呼ばれた黒い靄の集合体のような男の体が蠢いたかと思うと、スタープラチナの背後にも黒い靄が現れる。

 そうして死柄木が黒い靄の中に手を突っ込むと、スタープラチナの背後から死柄木の手が現れた。

 

「死ね!」

「!」

 

 あまりにも理不尽すぎる背後からの不意打ち。

 だが、承太郎はそれをまるで見えていたかのように容易く避ける。

 

「はぁ!? クソッ、なんで当たらねぇんだよ! テメェなんかに構ってる暇はないんだ! さっさと死ね!」

 

 そのまま死柄木は全身を靄の中に突っ込み、スタープラチナの背後に移動してから掴み掛かろうとする。

 しかし、やはりそれもスタープラチナは容易く避ける。

 ひらりひらりと、間一髪で、しかし余裕たっぷりに尽くを回避する。

 

「なんだよソレ! チート使ってんじゃねぇの!? おかしいだろうが!」

「やれやれ。随分とせっかちなヤローだ。だが、まぁいい。俺も大概せっかちだからな」

 

 そうスタープラチナが言った瞬間、先ほどまで動けなかった脳無が突然動き出した。

 

「ッ、脳無! 早くやれ!」

「マズい! 死柄木弔! そこに居てはいけない!」

 

 動き出した脳無に死柄木が命令を下すのとほぼ同時に、黒霧が死柄木の体を飲み込む。

 

「逃げられちまったな……仕方ねぇ。じゃあ、まずはテメーからぶちのめしてやる」

「!!!!!」

 

 獰猛に笑うスタープラチナに向け、脳無は拳を振り上げる。

 そして─────────

 

「オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラ、オラァッ!」

 

 凄まじい光景だった。

 ショック吸収、超再生を持っているはずの脳無の体が、謎の声と凄まじい打撃音と共に、ベキベキにひしゃげ、潰れ、最後にはブッ飛んで行ってしまったのだから。

 

「んなっ……嘘だろ、おい。俺の脳無が、あんなよくわかんねー野郎に……」

 

 どうやら未だにこの場に居たらしい死柄木が、信じられないものを見たような表情で呟く。

 

「ああ〜……クソ。クソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソ。ふざけんなよクソ。やっぱりチート野郎じゃねぇか。ふざけんな。なんでオールマイト以外にあんなのがいるんだよ。折角殺せそうだったのに。最悪だ」

「諦めましょう、死柄木弔。ゲームオーバーです。あのような化け物がいると分かっただけで収穫です」

 

 と、そう言って、今度こそ二人は完全に消えた。

 

「……やれやれ。面倒ごとに繋がりそうだぜ」

 

 そうして承太郎も、踵を返して帰ろうとする。

 

「ま、待ってください! スタープラチナ!」

「あ?」

 

 しかしそれに待ったをかけるのは、緑谷出久だ。

 

「そ、その、実はクラスメイト達がバラバラに引き離されてて、そこら中に(ヴィラン)が沢山いて……もしかしたら大変な目に遭ってるかも知れないんです! 助けてくれませんか!?」

「……そうか」

 

 それは、至極真っ当な要望。

 助けを求めている人がいる。だからプロヒーローに彼らを助けてほしいとお願いする。

 そしてプロヒーローにとって、それは引き受けて当然の要求だ。

 何故なら、ヒーローとは民衆を助ける存在なのだから。

 だが────

 

「嫌だね」

「えっ……」

「んなっ!?」

 

 その場にいた全員が驚愕する。

 一体何故、と。

 プロヒーローが救助を断るなんて、一体何事なんだ、と。

 この人は、本当に噂通りの優しいヒーローなのか、と。

 そうしていよいよ生徒達やヒーロー達がスタープラチナの人格を疑い始めた頃、もう一度スタープラチナは口を開いた。

 

「頼むまでもなく俺よりも適任で確実な連中がもう居やがるのに、俺がやる必要はねぇ」

 

 パァン、と。

 まるで見透かしたようなタイミングで、銃声が鳴り響く。

 皆が一斉に銃声のした方向を向けば────

 

「1-A組クラス委員長飯田天哉! ただいま戻りました!」

 

 頼れるクラスの委員長が、沢山の教師兼プロヒーローを連れて入り口に立っていた。




一発ネタ。
好評なら続く。
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