オラオラヒーロー『スタープラチナ』 作:花京院
「群がれマスメディア! 今年もお前らの大好きな高校生達の青春暴れ馬……雄英体育祭が始まディエビバディアァユウレディ!?」
「ったく、面倒な事になっちまったぜ」
ボイスヒーロー『プレゼント・マイク』の騒がしい声が反響する青空の下。
スタープラチナは非常に不本意ながらも雄英体育祭の警備に当たっていた。
しかしそれにしても面倒臭い。
何が面倒臭いって、警備という仕事自体がそもそも面倒臭い。
待つ事が嫌いなスタープラチナにとって、何かが起こるまで周囲に目を光らせながら待つ必要がある『警備』という仕事は、正しく最も苦手な仕事の一つと言えた。
その時点で既にスタープラチナはもうこの仕事をバックレて家に帰りたいが、その上に更に厄介で面倒なのが────
「えぇ〜!? スタープラチナ! アレってスタープラチナじゃない!?」
「本当だ! スタープラチナだ! スタープラチナも雄英の警備に当たってたんだ!」
「写真撮ってくれませんか!? ツーショット撮らせてくださいよツーショット!!」
「本物のスタープラチナでっけぇ! ってか脚なっが!? 股下が3kmくらいあるぞ!?」
「すみません! 私、週刊ライムという雑誌の記者をやっているものなのですが、今話題のヒーロー『スタープラチナ』に是非ともお話をお伺いしたく!?」
「マジかよスタープラチナがいるぜ!? サインくれ! このスマホにサインくれよ!」
こうして自身に群らがって来るファンやメディア共である。
個性の登場によってオリンピックが消失した今、現代における新たなオリンピックとして雄英体育祭は非常に有名で、敷地内はもはやお祭り騒ぎ。
更にはこう言ったヒーローファン達が大量に押し寄せるので、当然、スタープラチナのファンも大量にこの会場にやって来ているのだ。
そしてスタープラチナは、こういう輩が非常に嫌いだ。
騒がしい事もそうだが、何より自分勝手にスタープラチナに対してリアクションを求めている事が気に食わない。
ヒーローになった以上そういうものが付き纏うのは当然と言われれば当然なのだと理解してはいるが、しかしそれでも嫌いなものは嫌い。
変装をするにしても、こんな連中のためにわざわざ自分が変装しなくちゃならないと考えると実に面倒だ。
だからスタープラチナは、こういう場面になった時、いつも決まってこうする事にしている。
「やかましいッ!
ビリビリビリ、と。ファン達の騒ぎ聲すらかき消す、大気を震わせるような大声での一喝。
その声に気圧され、ファン達はビクリと体を震わせるが────
「うおおおおおお! 出たぞォー!」
「俺に向かって言ったんだ!」
「いいや、俺に向かって言ったんだよ!!」
「すっげーデッカい声! ちゃんと録音ボタン押しておいて良かったァー!」
「やっぱりスゲー漢だぜ、スタープラチナ!」
すぐにいつもの調子を取り戻すどころか喜色に塗れ、中には恍惚とする者までいる。
そうしてファン達がファン同士で騒いでいる中、スタープラチナはサッサと別の場所へと避難する。
スタープラチナの幸運なところは、スタープラチナが既にそう言うキャラとして定着しており、こう言ったセリフさえも好意的に捉えられる所だ。
このセリフさえ言えば勝手にファンが満足してくれるので、実に楽なものである。
しかしこういうのは何度もやれば価値が段々と落ちて来るもの。
皆が聴き慣れておらず、希少であるからこそ、このセリフには価値があるのだ。
この調子だとこの会場に少しいるだけで何十、何百とこのセリフを吐かされる事になる。
そうしてファン達が飽きてしまったら、その後が非常に面倒だ。
だからスタープラチナは出来るだけ早くにファン達が押し寄せて来ない場所に避難する必要があった。
「……ふぅ」
そうしてスタープラチナが転がり込んだのは、警備に当たるプロヒーロー達のための休憩所だ。
まだスタープラチナは休憩時間ではないものの、こうもファンに群がられてしまうようでは仕事どころではないので問題は無い。
当然の如く一般人は立ち入り禁止なので、この場にさえいれば、少なくともファン連中や記者連中に群がられる事はなくなる。
ただ────
「アイツ……スタープラチナか」
「デビューして1年足らずでビルボード12位の大型新人。俺らみたいなのとは大違いだな」
「そんな大物が警備とか、随分と豪勢なモンだぜ」
この場はこの場で、同業者であるプロヒーロー達の視線が面倒臭い。
プロヒーロー業はつまり、見せ場とファンの奪い合いだ。
プロヒーローは自らが飯の種を稼ぐために
だからプロヒーロー業以外も副業を行ったりしているが、それも自身のプロヒーローとしての人気と稼ぎがほぼ比例関係にある。
だからこそ、プロヒーロー達は自らの活躍の場とファンに飢えているのだ。
その点において、自らよりも下積み期間も活動期間もよっぽど短いはずなのに、自分達の何倍もの人気を誇り、そして何倍もの金を得ているであろうスタープラチナは、同業者たちにとって大きな羨望の的であるのだ。
「チッ」
そんな羨望が、スタープラチナにはやはり気に食わない。
自分だって、欲しくて手に入れた人気でも何でも無いのだから。
いかにも不機嫌そうにどっかりと椅子に座り込み、周囲の人間を意識から外すべく、体育祭の中継映像が流れるテレビを覗き込む。
流されているのはどうやら一年の部のものであるらしく、画面の中で未熟なひよっこ達が騎馬戦で戦っていた。
中には、USJでスタープラチナが助けた生徒の姿も見える。
「…………ふん」
しかし、今年は中々にいい動きをする生徒が多いようだ。
それこそUSJの時だって、路地裏にいるチンピラレベルとは言え自分達の総人数の3倍近い数の
東の雄英、西の士傑などと世間では言われているが、やはり総合的な実力で見れば雄英の方が圧倒的に上なのだろう。
特に凄まじいのは1000万ポイントとかいう馬鹿げた数字を持っている一位────ではなく爆破の個性を持っている少年と氷結の個性を持っている少年。USJのあの場にも居た2人だ。
氷結の個性の少年の方は苗字からしてNo2ヒーロー『エンデヴァー』の息子で、ヒーローになるべく訓練を積まされたのだろうが、そう考えれば爆破の個性の少年の方は独学であそこまで鍛え上げた事になる。
正しく才能の塊だ。
しかし、真にスタープラチナが気になっているのはその二人では無い。
1000万ポイントの少年……の、馬。
その前方を担当している、黒いカラスのような見た目の少年だ。
「ほう」
じぃ、と。
周囲の視線を完全に忘れ、スタープラチナはテレビを食い入るように見つめる。
実に興味深い個性だ。スタープラチナの個性と、どこか繋がる部分もある。
「…………」
顎に手を当て、映像を見ながらスタープラチナは深く考え込み────そうして、試合終了直前。
「これはッ!!」
殆ど注目していなかった緑髪の少年。
その少年の腕が、ほんの一瞬だけ、輝いたのがスタープラチナの目に映る。
「……ヤロウ……ッ!」
画面から試合終了を告げるアナウンスが鳴り響くと同時に、スタープラチナは椅子を蹴って立ち上がった。
その顔には怒りの感情がこれでもかと満ち溢れ、今にも人を殺しそうな眼光をしている。
そうしてズカズカと休憩所のテントを出て、一年生の競技が行われているアリーナに向けて歩き出すのだった。