オラオラヒーロー『スタープラチナ』 作:花京院
アリーナに備え付けられた、選手用控え室の一つ。
鍵がしっかりと閉められ、更には周囲の人払いすらされたその部屋の中で、オールマイトとスタープラチナは向かい合っていた。
話題は、オールマイトの個性にして、同時に現在は緑谷出久の個性でもある、『ワン・フォー・オール』についてだ。
何とワン・フォー・オールという個性は、超常黎明期にかの巨悪『オール・フォー・ワン』……『個性を奪い、与える個性』を持った男が、『個性を与える個性』を持った弟に『力をストックする個性』を与えた結果、その二つが混ざり合ったことで生まれたらしい。
そしてそれは今に至るまで連綿と受け継がれており、現在ではオールマイトを含めて8人もの継承者がおり、緑谷出久を含めれば9人の継承者がおり、保有者は彼らが育てたパワーを振るうことができるのだと言う。
「育て、受け継がせる個性……か。俄かには信じ難い話だな」
「……ああ、そうだ。確かに信じ難い話かも知れないが……」
「いいや、アンタがそう言ってんなら、そうなんだろうぜ」
タバコを吹かしながら、スタープラチナは言う。
彼は現在まだ19歳で、20歳になるまであと半年以上あり、思いっきり未成年喫煙であるが、正直そんな事はオールマイトを含めてもう誰も気にしていない。
一応公には『個性の都合』と言うことにしているので、世間体的な対策もバッチリだ。
「信じてくれるのかい?」
「信じるってより、信じるしかねぇって感じだがな。だが、そういうのにはもう慣れちまった」
「慣れた……? ああ、あの『吸血鬼』の……」
そこまでオールマイトが喋った所で、スタープラチナはギロリとオールマイトを睨みつける。
余計な話はするな、と。その翡翠の瞳が雄弁に語っていた。
「……うん、そうだね。今は関係のない話だった。それで、今ここで君にした話なんだが……」
「秘密にしておけ、ってか」
「そうだ。くれぐれも秘密にしておいて欲しい。前の襲撃事件のような例もある。いつどこで誰が聞いているのか、わかったものじゃない」
「……いいだろう」
そう言って、話は終わりだと言わんばかりにスタープラチナは立ち上がる。
「おや? もう行っちゃうのかい? ここにもテレビあるし、一緒に観戦しようよ」
「……一応、これでも警備員って扱いなんだがな」
まぁ、とは言ってもつい先程までほとんど警備員としての仕事などしていなかったし、何ならこれからも意識して警備員としての仕事をしようとするつもりは微塵もない。
そして雄英側としても、『あのスタープラチナが警備についている』という情報のみが目当てであり、スタープラチナに真面目な働きは期待していない。
なのでスタープラチナとしてはここでタバコを吸いながら一年生の試合風景を観戦しても何ら問題は無いのである。
「……ふん」
「ふふふ」
鼻を一つ鳴らし、スタープラチナは再びドカリとソファに腰を下ろす。
そうして、オールマイトと共に一年生の試合の見物を始めた。
すると早速始まったのは、トーナメント唯一の普通科からの出場者、心操人使と、件の『ワン・フォー・オール』継承者にしてオールマイトの弟子、緑谷出久の勝負だ。
「早速だな」
「そうだね。彼がどんな個性を持っているのか正直覚えてないけど、成長した緑谷少年ならきっと勝ってくれる────」
と、オールマイトが言った矢先、緑谷出久の体が不自然にピタリと静止した。
「……」
「アレぇ!?」
オールマイトが焦ったような声を出す横で、ありゃあ個性にかかったな、とスタープラチナは冷静に分析する。
恐らくは身体操作系、そうでないのならば精神干渉系の個性だ。
緑谷の動きが止まる寸前、即ち試合開始の合図が鳴った瞬間、心操人使の口が動いていたのをスタープラチナは視認していたので、恐らくトリガーはそれだろう。
「えっ、緑谷少年!?」
静止した緑谷出久の体がくるりと入口の方を向いたかと思うと、そのまま真っ直ぐと進み始める。
このまま進んでしまえば、緑谷出久は場外で敗北となってしまうだろう。
「……精神干渉系だな」
カメラの方を向いた緑谷出久の顔が呆然としているところから、スタープラチナはそう断定する。それと同時に確信するのは、緑谷出久の敗北だ。
あのレベルの精神干渉系は、基本的に外部からの衝撃か刺激が無ければ解除される事はない。
そしてこの試合は一対一の真剣勝負。
外部からの刺激は期待できない。つまりは緑谷出久の敗北は必至という事だ。
「ああああああああ! 緑谷少年んんんんんんんん!」
しかしそれにしてもこのオッサンがうるさい。
「静かにしな。見苦しいぜ」
「うおおおおおおおおおおお! 緑谷少年んんんんんんんんんんんんんんんん!!」
話を聞いちゃいない。むしろ更にうるさくなった。
画面に齧り付き、少なくない量の血を吐きながら叫んでいる。
そりゃあまぁようやく見つけた後継者が負けそうになっている以上、必死に応援したくなる気持ちはスタープラチナにもわからなくもないが、それにしても今ここにはスタープラチナもいる事を忘れてもらっては困るというもの。
いい加減個性でも使ってどかしてやろうか、と。スタープラチナはそう思い始めた。
─────その瞬間である。
バキィッと凄まじい音が画面から響き渡り、緑谷の動きがピタリと止まった。
『おおっとぉ! 緑谷、留まったああ!!?』
「!?」
「うおおおおおおおおおおおおおおお! 緑谷少年んんんんんんんんんん!!」
オールマイトがまたも血反吐を吐きながら、今度は歓喜の雄叫びを上げる中、スタープラチナは冷静に自分の見た情報を分析しようとする。
ありのままスタープラチナの目に映ったものを説明すれば、ステージの端に立った瞬間、緑谷出久の足がピタリと止まり、突如として『ワン・フォー・オール』が発動したかと思えば、緑谷出久の左の人差し指と中指が壊れて、精神干渉が解けていた。
一体何が起こったのかさっぱりスタープラチナにはわからなかった。
頭がどうにかなりそうだった。
力のストックだとか超パワーだとか、そんなチャチなものではなく、もっと恐ろしいものの片鱗を味わったようだった。
「よし! そこだ! いけ! やれ! 緑谷少年……ッ、よし! よぉおおおおおおおし!」
ガタリ、と。スタープラチナはソファを立ち、テレビの前で大喜びしていやがるアホの後ろへと歩いてゆき、テレビから緑谷出久の勝利を告げるアナウンスが流れる中、オールマイトの肩にポンと手を置く。
「オイ。こいつぁどういう事だ?」
「え? あれ? スタープラチナ君? どうかしたのかな?」
「『力をストックする個性』と『個性を与える個性』が融合した個性っつってたよなぁ。あの『ワン・フォー・オール』とやらはよ」
「あ、ああ……その通りだが……」
グググ、と。スタープラチナが肩を掴む力が大きくなる。
「じゃあさっきのは何だ。一体何が起きやがった? 『ワン・フォー・オール』ってのは、本当に『育てたパワーを受け継ぐ』ってだけの個性なのか?」
「え、あ、そ、それは……ちょっと、私にも────」
オールマイトがそう言葉を濁した瞬間。
ガンッ、と音を立てて、スタープラチナは机を蹴り飛ばし、オールマイトの胸ぐらを掴み上げる。
「とっとと知っている事を洗いざらい吐きな!! ありゃあ一体、『何』が起きやがった!」
「わ、わからない! 私にだって『ワン・フォー・オール』にはわからない事が多いんだ!」
スタープラチナに掴み上げられながら、オールマイトは何とも情けない声でそう叫ぶ。
「…………」
その様子に、少なくとも、スタープラチナを騙そうだとか、嘘をついてこの場をやり過ごそうだとか、そんな雰囲気は感じられない。
「チッ」
「うおっ……と」
スタープラチナはオールマイトを手放し、踵を返して扉から部屋の外に出ようとする。
「ちょっ、ちょっと? どこに行くのかな?」
「決まってんだろうが。テメーがあんまりにも使えねぇんで、あのガキに直接話を聞いてやる」
「えぇっ!? ああ待ってくれ! 私も、私も緑谷少年と話をしなくては!」
ドタドタと背後からついてくるオールマイトを無視して、おそらく緑谷出久が向かうであろう保健室の方へズカズカと歩いてゆくスタープラチナ。
そうして『リカバリーガール出張保健所』とファンシーな字体の看板を掲げた扉を、無遠慮に半ば蹴破るようにして押し開けて中に入り────
「わぁ! スタープラチナ! スタープラチナだ! 風の噂には聞いていたけど本当に雄英に警備として呼ばれてたんだ! うわぁすごい! あの時はそれどころじゃなくてじっくり見れなかったけど近くで見るとこんなに大きいんだ! っていうか本当に足長っ! 肩幅広っ! これで体重82kgって、一体どうなってるんだろう!? 少なく見積もっても100kg以上は確実なのに! うわぁ……うわぁ〜……! やっぱりヒーローは生で見ると感動がすごいなぁ……!! 僕もこれくらいの体があれば……あっ、そういえば帽子が髪の毛とほぼ同化してるって話だけど……うわっ、本当に一体化してる!? これどうなってるんだろう!? 個性の影響かな。いやそれにしては……」ブツブツブツブツブツブツ
そしてスタープラチナは、自分の安易な行動を心の底から後悔した。
ちなみに分かった事は特に無しである。
この一件でスタープラチナのファン嫌いが加速した事は、言うまでもない。
筆者が一番好きなうろジョジョのシーンはPART62の「潰れろォ!(懇願)」です。