ホロライブJP最強王決定戦   作:七星かいと

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だいぶお待たせした上に、今回も前後編です。筆が乗り過ぎました。


12.準決勝第一試合『轟はじめ』 VS 『博衣こより』前編

「さて、枠を開けましたー。皆さんこんばんわ。ホロライブ最強王決定戦、準決勝第一試合、轟はじめ対博衣こよりの実況解説枠へようこそ! 実況はホロライブDEV_ISよりReGLOSSはネタ枠、担当! 儒烏風亭らでんでございます! そして!」

 

「はーい、皆こんやっぴー! ホロライブ四期生、常闇トワ様です! 今日は解説を担当するよー。というわけでらでん、説明どうぞー」

 

「はいはい、任されました。本日はすでに準決勝第一試合、第二試合、そして敗者復活、と決勝、すべて終了しています。試合はそれぞれ各参加者の視点枠で配信されておりまして、すでに合計八枠ほど立っているわけですが、この枠はこより先輩と番長の視点を同時視聴しながら二人で見ながら実況と解説をしていこうという枠ですね。ちなみに皆さん、この枠で試合を楽しみにしてる人たちがいるので、コメントでネタバレは厳禁ですからねー?」

 

「ちなみに、一旦試合枠は全部非公開になってるよ。各試合の解説枠が終わったらアーカイブが復活する予定だからよろしくねー」

 

 

こんやっぴー

らでんちゃんもこんばんわー

正直、ばんちょー枠で試合枠観てたけどバトルシーンは何が起こってるか全然わからなかったから解説枠助かる

ネタバレ禁止了解!

試合枠は見れなかったから楽しみ

SNSで結果はいろいろ出てたけど、実際どうなってそうなったかわからないから楽しみ

どきどきわくわく

 

 

「さて、というわけで、さっそく準決勝第一試合のアーカイブを二枠同時に閲覧していきながら実況と解説を行っていこうと思います。ただ音声も同時に出してしまうと配信がごちゃごちゃしてしまいますので、音声を出す枠は適宜切り替えて、もう一枠は映像のみで楽しんでいく形となります。画面の大きさも変えられますので、メインは大きく、サブの方は小さくワイプで映していく感じとなりますので、ご了承ください」

 

「ワイプシーンが気になった人はあとで上がる各自のアーカイブ見てあげてね。というわけで、さっそく配信流していくよー」

 

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【配信アーカイブ:『ホロライブJP最強王決定戦 準決勝第一試合』の『博衣こより枠』および『轟はじめ枠』を再生します】

 

 

「うぉー、始まったじぇ……。どどど、どーする!? まずはこよりしぇんぱい探さないと詰むぅ!!」

 

 都市ステージの一角。何でもない民家の中で、轟はじめが右往左往と四畳の和室をぐるぐると歩き回っていた。

 

『はい、というわけで始まりました準決勝第二試合。まずは番長枠の音声を入れております。わかりやすいように画面上へ都市ステージのマップとこより先輩、および番長の位置関係を示した光点を出しておきますが、お互いのスポーン位置は見事に対極ですね。番長は東南の民家、こより先輩は北西のショッピングモールがスポーン位置となっています』

 

『はじめちゃんはすっごい勢いでぐるぐる歩き回ってるけど、これ何してるの?』

 

『これは……パニックになってますね』

 

 

出だしパニックで草

詰むの発音よ

ツ↑ムゥ↓

止めて差し上げろwww

対するこよちゃんは音が出てないから何言ってるかわからないけど、速攻でなんか作り出してるな

体力バーがモリモリ減ってるから、アルケミスト使ってるんだろうけど、何作ってるんだろ

分かんないけど、なんか部品っぽいものを大量に作ってるのはわかる

 

 

「って、いつまでもここでこうしててもしょうがないし……しょうだ! カメラ探さないといけない! ど、どこ? どこにあるにょ? カメラ……監視室? でも監視室ってどこ!?」

 

 部屋を歩く足を止め、手を動かして都市のマップを呼び出すと、そこには大まかな都市にある建物の配置と自分を示す光点、そして建物の役割が書かれた図が浮かび上がる。

 はじめがいるのはマップの右下。住宅街と記された場所だが、そのすぐ上側に警察の表示がある。

 

「ここだぁ!? 警察に行けばきっと監視カメラとかあるでしょ!? あって! あってほしい! とにかくいくじぇ!」

 

 マップを浮かび上がらせたまま、家を飛び出す。

 目指すのは今確認した警察署。都市マップの監視機構がある建物だ。

 

『お、はじめちゃんが動き出したね。警察署に向かって真っすぐだ』

 

『ちなみにこれは余談ですが、事前に都市マップの構造はこより先輩から出場者の皆様に説明が入っています。なので番長も当然監視カメラ含む都市の監視機構が警察にあるのは知っているはずなんですけど……』

 

『焦りすぎて思い出せてないね、たぶん』

 

『でしょうねぇ。さて、この後は少しの間番長が警察署まで走るランニングASMRが続くので、そこはこの後にあがるアーカイブをチェックしてもらうとして音声をこより先輩の方に切り替えましょう』

 

「――――でね、とりあえず順番としてはまずクロたんの装備を作るための基盤や外装は"アルケミスト"で作ったわけだけど、それ以外の細かい部品まで作ってるとHPがいくらあっても足りないからね。助手君たちを呼び出してパーツ集めに行って貰うよー。というわけでー、"プリンセス"! でMPを限界まで消費して助手君軍団しょーかん!」

 

 博衣こよりがいるのは、ショッピングモールの監視室。モール内を監視をするカメラが映し出されるはずのモニタで動いているのは、対戦相手である轟はじめの姿だ。

 都市ステージは全てがネットワークでしっかりと繋がっている。すなわち、技術と知識があれば"マシーナリー"で出来うることはたいてい実現が可能なステージだ。

 すなわち、その技術と知識を持っている博衣こよりにとっては、もう一つ能力が付与されているようなものだ。

 そんな場所で楽しそうに虚空に向けて話しかけている相手は、自分を映し出しているだろうモニタの前の視聴者たちだ。

 形式上コメントが見れないため朗らかに一方的な会話を進めながら行ったのは"プリンセス"による召喚。

 

「はーい、助手くんたちいってらっしゃーい。というわけで、今から助手くんたちはショッピングモールを回って"イーター"でこよが食べる食材と、あとこの後作るものに必要な各種部品や工具を取ってきてもらうよ。戻ってきたら一気に組み立てとかするけど、それまでは番長の動きを観ながらクロたんの武器をある程度まで組み立てておくかな。絵的には地味になるけど、もうちょっと待ってね」

 

 自身のリスナーである"こよりの助手くん"であるミニコヨーテを大量に呼び出し、あっという間に周囲へと拡散させる。

 行ってもらうのは、ショッピングモールでの資材や食料集めだ。

 

『これ、こより先輩誰と話してるんでしょう? いや、話しているというか、普段通りに配信してませんかこれ』

 

『コメント観れないけど、まぁ、やってる事は配信と同じだからね。今回は個別枠が立ってたわけだし。番長はそれどころじゃない感じだけど、こよりは余裕綽々じゃん』

 

『しかしえぐい。えぐいですよこれ。こより先輩、は番長に比べて能力が少ないのがネックかと思いましたが、セルフでそのあたり補ってますね?』

 

『というか、これ試合終わった後にこよりに聞いたんだけどさ』

 

『はい』

 

『こより、初期段階で都市と兵器工廠に当たるとまともな試合にならない可能性が高いって思ってたらしいよ』

 

『まぁ、それはそうでしょう。いや、"プリンセス"を手に入れたことでさらに酷いことになってる気もしますけど』

 

『手先が器用な頭脳は科学者に手足になる助手くんがほぼ無制限に増やせる能力はね……』

 

『これも試合の後でこより先輩に確認しましたけど、あの助手くんさん達って本当にモノを持ったり投げたりする程度の能力しかないので、かなりコスパ良いらしいですよ』

 

 

ただでさえ本人が色々できるのに手数増やすのはあかん

ちなみにこよちゃんの枠観てたけど、直接対決以外は延々としゃべり続けてたよ

流石配信モンスター

コメントも助手くんたち流石っていうか、誰一人その状況に違和感感じてなかったけど見えないコメントと普通に会話してたからな

さすこよ

番長の行動もリアルタイムモニタリングしてたから、状況を実況してくれる余裕もあった

手元はわけのわからない速さで動いたりしてたけどね

 

 

「あ、ここではじめちゃんが警察署についたね。大丈夫かな? 監視カメラの映像見れる部屋までちゃんとたどり着けるかな?」

 

『心配するのそこなんか』

 

『こより先輩らしいというかなんと言いますか。さて、そんなことを話している間にショッピングモール内へ散っていった助手くんさん達が戻ってきはじめました。最初に戻ってきた助手くんさんが持ってきたのは……マヨネーズ? それも五本?』

 

『あー……。こより、マヨラーだから』

 

『それでいいんですか!? と、どんどん助手くんさん達が食品コーナーから持ってきた食べ物を並べ始めます。主に野菜やお惣菜、パンがメインですね。食品コーナーには当然お肉やお魚といった食材もありますが、調理機材は流石にないので……いや、キャンプ系のコーナーにはありそうですけど、料理してる時間はないですからねぇ』

 

『こよりが料理するとなんか溶かしそうだし』

 

『止めて差し上げてください! ウチにも限界飯の民がいるのであんまり強い事言えないんですよ!?』

 

 

わぁ、キュウリにマヨネーズはわかるけど、カレーパンにマヨネーズはわからない

マヨネーズかければ何でも行けるから……

あ、はじめちゃんが監視室にたどり着いた

四苦八苦しながら監視システム動かしてるね

"マシーナリー"あるとはいえ操作は慣れだろうからなぁ

こよちゃんの位置見つかった

そしてこよちゃんの所で自分が写ってることに気づいた

 

 

「なんで!? どうしちぇ!? はじめうちゅってるよ!? あれ!?」

 

『というわけで、こより先輩を見つけた挙句、その映像でも自分が写っていることに気づいた番長の様子です。こより先輩はお食事と部品の組み立てと配信用におしゃべりしている感じになりますので、一旦リアクションがおいし……おもし……動きがありそうな番長に音声と映像を移動させております』

 

『らでんちゃん、意外に同期相手だと容赦ないよね』

 

『そこはもう、同期ですので。さて、こより先輩を映している監視カメラの位置とマップを比べてこより先輩の場所を確認した番長。自分のマップに位置を書き込んで、急いでマップ北西に向かって移動を始めます』

 

「遠い! とおい! なんで! いっぱい走らされ……っ! ぱちょかー! あっ、でもはじめ免許持ってない! えっ、でもゲーム世界だからいけりゅ!? どうなにょ!? いけりゅ? こより先輩! 運営! あっ、敵だった! ダメだ、確認できにゃい! じ、自転車! 自転車!」

 

 勢いよく警察署を飛び出したはじめだが、マップが示す距離は今の地点から数キロも先だ。

 さすがに走りだけで移動するには遠い距離な上、確実に疲労が出る。ゲーム世界だからこそHPは減らないが、気分的に疲労はぬぐえないのはこれまでの試合で実感済みだ。

 

「あっちゃー! よぉし、待っててくだしゃいねこより先輩! いっくぞー!」

 

『こよりに試合後に聞いたけど、別に乗れるんだったら車使って良かったらしいよ』

 

『あ、そうなんですか?』

 

『うん。でもそういうゲームとは違って普通に車を運転する技術は必要なんだって。でも番長は"マシーナリー"持ってるから行けたと思うって言ってたよ』

 

『なるほどなるほど。さて、とは言えそこで真面目に自転車で走るのが番長です。紫電と銀光を纏いながらマップに最短ルートを表示させながら自転車で疾走する番長。能力二重稼働させながらの動きは相当早いわけですが、これ良く自転車持ちますね』

 

『オブジェクト的なものはそれなりに頑丈に作ってるらしいよ』

 

『なるほど。このままだと創造よりも早くこより先輩の下にたどり着けそうですが……。しかぁし、そこでまっすぐ目的地にたどり着かせないのがこより先輩クォリティ。ちなみにこより先輩は助手くんさんの介護でご飯を食べながら手を高速に動かして何やら四角い……これはなんでしょう? 何かを作っております』

 

『一応、実況解説するために先にこよりからもらったもっとざっくり編集したまとめバージョンの映像は観てるけどさぁ……。この展開は流石に可哀そうだったよね』

 

 "サンダー"と"ダンサー"の発動光を身に纏いながら自転車をこいで夜の都市を爆走するはじめ。

 ハンドルの上に出しているマップの半分くらいまで進み、残り半分。博衣こよりを示す光点は移動開始の時から一切移動していない。

 

「行ける、行ける……! あとはこのまま沙花叉先輩を呼び出される前にこより先輩追い詰めて倒してはじめの勝ち……! あれ、なんか飛んでき――ひぎゃぁ!!!!」

 

 はじめの進路上から薬品が入った試験官が飛んでくる。

 ちょうど墜ちてくる位置に自転車がたどり着いたところで、試験官が地面に着弾。爆発。はじめは爆風に吹っ飛ばされて転倒。

 

「なに!? なにがおこっちゃの!?」

 

 

番長吹っ飛んだー!

そして物陰からわらわら出てくる助手くんの群れ

手元に試験官持ってて、助手くん毎に薬品の色が違うの怖い

なんなら、暗闇に助手くんの目が光って怖い

これでこよちゃんが召喚した助手くんの三分の一くらいだもんなぁ

時間稼ぎ要因きちゃー

 

 

 ビルの隙間から、上から、窓から、顔を覗かせるこよりの助手くんたち。その手には種々様々な薬品が入ったフラスコや試験官を持っている。

 爆風で吹っ飛んだはじめが地面を転がり、衝撃を受けた自転車は拉げて壊れた。

 自転車の残骸を悲しげに見ながら立ち上がったはじめが、吹っ飛ばされたことで消えた紫電と銀光を纏い戦闘に備えて構える。

 

「助手くんさん達……! どうしよう、さすがにこれ突破しないとこより先輩のところ行けないよね」

 

『さぁ、ここから始まる番長の不憫タイム。この戦い、こより先輩の嫌らしいところが存分に出た戦いです。そしてこのこより先輩がナンバースリーだというHOLOXのやばさが際立ちます』

 

『さぁ、番長に向かって連続して試験官が投げられる! そしてそれを丁寧に避けていく番長なわけだけど……。まさか避けられることも計算に置いてるとは思わんよね、番長も』

 

『これが初見の皆様はよくわからないと思いますが、この後に見せる番長の行動に注目です。雨霰と投げつけられる試験官の嵐。"足止めする薬"を始めとした多種多様な薬品がぶち込まれていくわけですが、そこはここまでの激戦を勝ち抜けてきた番長。助手くんさんたちの規則的な投擲を華麗に避けてダメージを受けずに捌いております』

 

「ほっ、ふっ、にゃっ、つぁー! どうだ! 避けきってやったぞ!」

 

 着弾と同時に爆発する試験官。ピンク色の煙をまき散らす試験官。不発だったのか何も起きなかった試験官。それらの攻撃を避けきったはじめが気合いの声を上げると、まるでそれに恐れをなしたかのようにこよりの助手くんたちがさささっと姿を消していく。

 

「……あれ? 助手くんさん達どこ行っちゃにょ!? いなくなっちゃ!?」

 

 静寂があたりを満たす。

 はじめが見回す視線の中に敵はおらず、こよりの助手くんたちが投げた"足止めする薬"の跡だけが残っていた。

 

「……もういない? 進んで大丈夫? なら、とりあえず慎重に進もう……って自転車壊れちゃった! 走るかぁ……」

 

 最初の爆発で壊れた自転車を悲しそうに数秒見つめた後、パンパンとほほを叩いて気合いを入れなおす。

 そのままはじめは真っすぐ走り出した。

 明らかに、見当違いの方向へ。

 

 

は?

番長、それ向き違う!

別方向に進んでるよ!? なんで!?

あー、これなぁ……。こよちゃんの配信見てるとわかるんだけど

こんこよの作った混乱薬の効果にハマってる

正しい方向が分からなくなってるんだよ、今の番長

番長的には真っすぐ正しい方向に走ってってる感覚なんだよね、これ

 

 

『はいコメント欄の皆様が仰っているように、番長はこより先輩の混乱薬による混乱状態に陥っています』

 

『助手くんたちが投げてた試験官の中に、はじめちゃんの色々な感覚や認識をバグらせる薬が混ざってたみたいなんだよね。それも揮発して吸わせることで効果を発するタイプ』

 

『煙りを出す薬やら、爆発する薬やらに混じって何の効果も出さなかった薬ですが、本命はそれで、番長に吸わせることが目的だったというね。これ、毒だったら番長のHPをじりじりと削って終わりになってたと思うと……』

 

『そのあたり、こよりもちゃんと配信者しているというか、自分の発明品がもたらすマジレスが寒い結果になるの理解しているというか』

 

『こより先輩、主催者側として盛り上がれば自分の勝敗二の次みたいなところありますものね』

 

『もちろん勝つための道筋はちゃんとつけてるんだろうけど、それはそれとしてきっちり戦いとして盛り上げようとしてるのがよくわかるよね』

 

『さて、この後番長は薬の効果が切れるまで夜の都市ステージをさまよい続けるわけですが、その間にこより先輩の方に音声を戻しましょう。今は……何かの組み立てをしてるみたいですね』

 

 博衣こよりの画面がアップになると、そこでは自分を観測してるであろうし調査に向かって話し続けながら作業を続ける姿が映る。

 手元で組み立てられているのは四角い何かだ。

 それとは別に、こよりが"アルケミスト"で作り出した布やその布を縫うためなのか針に糸が散らばっている。

 

「さて、そろそろ組みあがるよ、クロたんのメイン武器。これ自体は元々こより謹製だから作ろうと思えば"アルケミスト"で作れなくはないんだけど、性能高すぎてHPが全損するんだよね。だから、一番大事な中枢部分と、こよの発明した金属や布で作る外装部分以外の細かい基盤やネジなんかはショッピングモールで手に入れてきてもらったよ。あとは他の場所にあるパーツショップ系に助手くんが行ってゲットしてきてるね」

 

『さっき助手くんさん達が番長を足止めに行った帰りに取ってきたんでしょうか。一石二鳥というか、効率性を求めているというか』

 

『そのあたりもものすごくこよりっぽいというか……あ、組みあがったみたいだよ』

 

「じゃじゃーん、かーんせーい! 博衣こより謹製、沙花叉クロヱ専用兵装"天涙"と沙花叉クロヱ専用装備"牙香"。ゲーム基準で言うとMPを消費して刃を作る柄だけのナイフに、MPを消費して棒手裏剣を作り出す手袋だよ。クロたんのお掃除道具だね。現実的に言うとどちらも物理じゃなくて幻想兵装だから幻想存在に聞くんだよね。なので悪性存在のお掃除に使ってるってわけ」

 

 完成した黒い手袋と、鍔すらない、一見するとただの四角い充電器にしか見えないナイフの柄。それを誇らしげに自分を映しているドローンへ向けて掲げながら、夜の街を自信満々に迷子になっているはじめの姿をこよりは見た。

 

「そろそろだねー。番長に使った混乱薬の効果が終わるよ。あの混乱薬は正常な認知をできなくさせる効果があるから、今番長的には真っすぐにこよのいるショッピングモールに向かってる認識なんだよね。実際は西南方向に爆走してるわけだけど。さてと、装備もできたし、あとはクロたんを呼び出すだけだけど……その前に補給しないとね」

 

 

何気なくだけどこよちゃん色々えぐいこと言ってない?

悪性の幻想存在っていうと、お化けや幽霊とか、後は悪性の妖怪とかか

後は低級の悪魔とか、都市伝説系とかかな

たまに行き過ぎた天使なんかも含まれてるのは聞いたことがある

HOLOX、それらの退治事業もやってたんか

まぁ、他にどこであの武力行使するんだって話でもある

でもござるさんやルイ姐ホラー苦手やで

ホラーゲームと実際の戦える相手はまた別なんじゃないかなぁ

にしても、こよちゃんが作ってる装備ガチすぎん? つまりあれ、見た目からはわからないけど携帯できる武器生成装置ってことでしょ?

あの素材からどうやってあんな手袋作ったんだ……?

わからん

あ、番長が気づいた。マップで自分の現在地確認して悲鳴上げてる

 

 

「ここどきょ!? はじめなんでここにいるにょ!? あれ!? こより先輩のところにもうちょっとでつくはずだったのに!?」

 

『あ、こより先輩の宣言通り、番長が混乱から回復して自分がいる場所に気づきましたね』

 

『真っすぐショッピングモールに向かってたはずが、今いるの商店街だもんねぇ』

 

『とはいえ、後は真っすぐこより先輩がいるショッピングモールに向かうだけです。もちろん、妨害はあるんでしょうけど』

 

『沙花叉の召喚が完了するまでに番長がたどり着ければほぼ番長の勝利、召喚が間に合ったらこよりがかなり有利になる場面だけに確実に色々妨害するとは思うよ』

 

 解説の常闇トワがそう告げるのと同時。

 こよりがいる方向に走りだしたはじめの眼前に、試験官が墜ちてきた。

 

「――――びゃくだん!?」

 

 着弾。爆発。

 ひょっこりと姿を見せたこよりの助手くんによる"足止めする薬"の投擲だ。

 とっさに前方へ飛んで転がりながら回避したはじめは、一瞬の迷いを見せてから銀の能力光と紫電を纏う。

 

「止まったら、終わっちゃう!」

 

 地面を蹴り、跳ぶように走りだす。

 時間差で、偏差すらも考えながら投擲される試験官を躱し、時にはキャッチして投げ返す事で助手くんたちを吹っ飛ばしながらはじめは進んでいく。

 

「邪魔ぁ!? なんでそんな邪魔するにょ!」

 

『そりゃ時間稼ぎしなくちゃこより先輩の負け筋が太くなるからだよ番長』

 

『当然よそうされるべき妨害にそんなにキレられても』

 

 キレて叫び散らかすはじめの様子に、その様子を見守っている二人から冷静で辛辣な突っ込みが入る。

 それは当然過去の時間にいるはじめに届くわけもないが、現在にいるはじめからレスポンスが返る。

 

 

轟はじめ:わかってても妨害されたら怒りますよ!

番長もよう見とる

ばんちょー、渾身の突っ込みである

助手くんたちの妨害攻撃やらしいね

タイミングのずらし方とか、偏差投擲とか、威力とか

ちゃんと番長が遣られない威力で、かつ派手に爆発する感じにしてるからね

見せ爆発かぁ

しかし番長視点ではそれがわからないのである!

この情報も、今入ってないけど沙花叉の召喚準備のご飯食べながら解説してくれてたから知ってるだけだし

轟はじめ:威力少なかったの!? こんなに派手に爆発してたのに!?

 

 

『このあたり、こより先輩のエンタメ力というか、気の使い方が出てますよね』

 

『威力よりも見た目重視の爆発とかどうやってるんだって話ではあるけど、これ、こよりが"アルケミスト"で作り出したと考えるとそういうのもいっぱい色々作ってるんだろうね』

 

『さて、番長が飛んだり跳ねたり助手くんさんたちと戯れている間に、こより先輩は補給を完了。いよいよ沙花叉先輩の召喚に移るようですが……あれはなんでしょう? こより先輩が先端が光っているペンを取り出しました』

 

『うん、トワ、正直この映像観た時戦慄したよね。マジ、こより舐めてたわ。あれ、ガチで神聖存在召喚する時にも使われる召喚陣を描く為のペンだよ。で、あれを"アルケミスト"で作り出したということは……やべぇよ、あいつ。あれ作る素材手に入れるだけでも相当なのに、それ自作してるんだもん。違法でも何でもないけど、多分これ見てる天魔両界のお偉方頭抱えてんで、マジで』

 

「まぁ、たぶん、この配信をあとで見ているトワ様かかなたんあたりが天界魔界の両界で偉い人たちが頭抱えてるんじゃないかって話すると思うけど大丈夫、卸先の一つこよだから! もう偉い人たちが頭抱えるターンはとっくの昔に通り過ぎてるから大丈夫だよ!」

 

『……は? マジ? この会話、トワ見逃してたんだけど!?』

 

 

博衣こより:実況解説に事前確認用で渡したデータの中で、面白そうなリアクション取ってくれそうな部分はあえて音声消したり不自然にならない程度に切り貼りしてますよ!

手のひらの上で草

こよちゃんマジで何ならできないんだ

休む事と配信しない事と変な発明しない事

ちゃんと休んでもろて

たぶん右脳が休んで左脳が起きてるみたいな生態してんじゃないかな……

博衣こより:失礼な! ちゃんと寝てるよ! でもトワ様新鮮なリアクションありがとうございます! 有識者いてくれて助かる!

 

 

「まぁ、そんなことはさておいて、これからクロたんを召喚するための召喚陣を描いていくよー。基本は円。これは始点と終点を結ぶことで力の循環を示しているんだよね。世の中にある大体の魔法陣が円形なのもその理屈。円という形で外と内を分ける事で、一つの世界を表現し、その世界に数式を書き込むことで力を生み出してるんだ」

 

 解説を続けながら、よどみのない動きで地面に魔法陣を描き続ける。

 まずは大円。直径一メートル程の円が描かれ、その内側に一回り小さい円が描かれる。

 

「円を二つ描くことで二つ目の世界を作る。一つ目と二つ目の間に描くのは世界の定義文章だね。この世界はどういう属性で、どういう役割で、何をする世界なのかをきちんと決める。今回であれば、"幻想"属性――ありとあらゆる属性を内包する一番大きな属性で、"エネルギー供給"――これから行う召喚のエネルギー供給を複数の導線で行う役割を持ち、"召喚"――術者が思い描いた存在を召喚するための世界だよって記述する。まぁ、こよりの場合はそのあたりを数式で全部書くからすっごいごっちゃっとした感じになるけど」

 

『おいバカやめろ、それガチの召喚魔法陣の描き方講座じゃねぇか! 知識がある奴だとそれだけで召喚魔法陣作るんだからやめて!? なんつー爆弾隠してるんだこより!』

 

『トワ先輩が発狂しておりますが、これ、本当ならかなりの授業ですよね。魔法陣の理屈ってここまで詳細に語られることがあんまり無いので、実はものすごく貴重なんじゃないでしょうか。あ、番長がワイプで爆弾によって吹っ飛ばされた』

 

 外円と内円の間にびっしりと数式が記述される。数式が一つ完成するたびに描かれた線が光を発し、こよりのMPバーが勢いよく減り、端まで到達したところで一気に回復。それと同時に、HPのバーが削れていく。

 消費だ。

 博衣こよりが沙花叉クロヱを召喚するために費やすのはMPだけにあらず。HPをMPに変換して、文字通り身を削りながら召喚陣を描いていく。

 

「おそらくトワ様が何してんだー! って怒ってると思うんだけど、でも大丈夫。このやり方って現代だともう無理なんだ。理由は単純で、この魔法陣を描くために消費する神秘がとんでもない量なのと、それだけの神秘を操れる存在が現実世界だとほとんどいないからだね。こよも電脳世界でゲーム的に神秘……MPを消費できて、命、すなわちHPをMPに変換できる環境じゃないとこんなことできないし」

 

 魔法陣を描き終わる頃には、先ほど大量に食べ物を摂取したことで回復したHPが九割削れている。

 円の中では六芒星が足されその頂点にはさらに小さい丸が配置されており、それぞれ中に鯱、ナイフ、仮面、魔法帽子、杖、猫のシンボルが描かれている。

 それ以外にも大量の数式が配置され、傍から見ただけでな何を意味しているのかが全く理解できない魔法陣になっていた。

 

「数式は大体が変数で、変数の定義も描いてあるけど、詳しく説明しちゃうと色々まずいから割愛するとして……。六芒星の頂点にあるのはクロたんを召喚するための要素。つまり正位置の三角形にクロたんを象徴するシンボルたる鯱、ナイフ、仮面。逆位置の三角形にはそれを補助するシオン先輩を構成する帽子と杖と塩っ子さんイメージの猫ですね」

 

『あー、シオンちゃん要素を組み込んで沙花叉を誘導するわけね』

 

『ついにトワ様が突っ込むのを諦めましたが、ここでこより先輩の魔法陣が完成。あとは召喚……と言うところなのですが、こより先輩は再びHPを回復するためのお食事タイムに入りましたので、視点を番長の方に切り替えましょう。ワイプから大きく拡大した番長は……あ、助手くんさん達とガチンコしてますね。走るのをやめたみたいです』

 

 

シオンの要素呼び水にするのかー

この間使い古しの歯ブラシで召喚されてたしな……

数式っていうか、半分くらいプログラムみたいな感じなんだね

変数定義って言われると途端に魔法からプログラムに認識変わるわ

分かりやすいけど、何かいてるか全くわからないあたり対策もばっちり

同じのを描いたところで沙花叉召喚できるわけじゃなさそうだしなぁ

トワ様の顔がちょっとやけっぱちで面白い

トワ虐始まったw

まぁ、考えることをやめたくなる情報量ではあった

そりゃー、神話の文献とかに生け贄の話とかあるよね。命使ったりするわけだし

命で神秘を賄うってそういう事だもんなぁ

博衣こより:ちなみに、一応両界のしかるべきところには了承取って組み込んであるよ、あの魔法陣

さすこよ

手回しは抜かりがない

しごできコヨーテ

あ、番長に切り替わった

まぁ、こんこよはまた食べ物にマヨネーズかけて食べるターンだししゃーない

お腹すくもんな

 

 

 トワたちが見ている画面の大きさが切り替わる。

 先ほどまではこよりがいる場所に向かって走りつつ、こよりの助手くん達が投げる爆弾を避けて進んでいたはじめだったが、いい加減に鬱陶しさが勝ったのか足を止めて対峙する事を選んでいた。

 

「急がば回りぇて言うもんにゃ! 行くぞ助手くんさん達! はじめの攻撃、避けれるきゃ!」

 

 バチリ、とはじめの両目から紫電が走る。

 きょろきょろと数度あたりを見回した後、斜め前に位置するビルに向かって真っすぐ駆け出し、跳躍。

 

「"りゃいこういっちぇん!"」

 

 タタタン、と何度か宙を蹴り上げて高さを稼いだ所で空中回し蹴りを放ち、その軌道上に雷を纏った衝撃波が飛んでいく。

 "サンダー"と敗者復活で獲得した"ウインド"で敗者復活の時よりも射程と威力が強化された攻撃だ。

 着弾と同時にビルの外壁をバターのように切り裂き、中に潜んでいた助手くんを両断した。

 

『おおっと、これは敗者復活第三試合で番長が見せた"雷光一閃"! 蹴りによって放たれた雷を纏う飛ぶ蹴撃がビルに潜んでいた助手くんさん達数人……数匹? をまとめて薙ぎ払って消し飛ばしたぞ!』

 

『はじめちゃんの目から稲光が走っててすっごくカッコイイんだけど、あれたぶん助手くんの事を電力で見つけるために能力行使してる影響だね。助手くんたち、あれでロボコヨーテらしいから、やっぱ電力で動いてるんでそれを目印にしたみたい』

 

『……"サンダー"ってそんな事できるんですか?』

 

『実際にできちゃってるからねぇ。能力の拡張は使用者次第だってよく言われるけど……。こんかいの大会を通じて感じるけど、はじめちゃんのセンスと発想力は凄いと思うよ、本当に。なんだかんだで一番技を作り出してるもんね。それもかっこいいのから地味なのまで』

 

 "雷光一閃"が着弾した場所から発生する爆発。

 こよりの助手くんが倒されたことで生じたそれをしり目に、空中を迷いなく駆けるはじめが次々と隠れ潜む助手くんたちを爆発させていく。

 "サンダー"で生み出された雷光だ。

 これまで肉体の強化、補助をメインに使っていた能力を、一番最初に想定された魔法的な飛び道具として駆使する様子に、魔法の取り扱いに慣れている側のトワが感心した解説を加える。

 

『はじめちゃん、能力持ってたら凄い色んな事に発展できそうだよね』

 

『そうですね。私も含めてですがReGLOSSは全員特殊能力を持っていないので能力持ちの方々を少しうらやむ心もなかったと言えば嘘になるのですが……。こうして番長が生き生きと能力を使っているのを見ると、能力を持ってないからこそ柔軟にいろいろできるのかもしれないですね』

 

『そうだねぇ。実際に先天性の能力者より、後天的に能力者になった人の方が柔軟に能力拡張するケースも多いらしいからね。もちろん全員が全員じゃないだろうけど』

 

『この能力はこういうものだ、という固定観念が薄いというか、逆に強いからこそ思い込みで色々できるというか。と、さてそんな話をしている間に番長を足止めに来ていた助手くんさん達が全員撃破されたみたいです!』

 

『ちなみに、これもこよりから聞いたんだけど』

 

『はい』

 

『こよりの助手くんって、こよりの意思で自爆させられるらしいよ』

 

『……マジですか!?』 

 

 

マジです

助手くんボディは気軽に爆発させられる

悪いことすると自爆ボタンが押されます

まぁ、直ぐに新しいボディでスポーンするけれども

まぁ、変なことしなければいいだけなんで……

あれどういう仕組みか知らないけど、リスナーの意識をマジで助手くんボディに呼び込んだりするからなこよちゃん

ヒエッ

博衣こより:ちゃんと色々な制約と契約と同意のもとで助手くんボディに入ってもらったりしてるだけだよ! ぷるぷる、ぼくいいコヨーテ! 悪い事してないよ!

 

 

『当事者と開発者からのお言葉からするとマジなんですね、怖ぁ……』

 

『こよりは真面目にやれることの幅が広すぎて、こよりの事を知るたびに怖くなってる』

 

『本当に。さて、そんな中画面の中では番長がついにこより先輩が根城にしているショッピングモールを視界にとらえました!』

 

『根城て』

 

「み、見つけちゃー!? もういないよね? 流石にさっきので全部だよね!?」

 

 こよりの助手くん達を撃破し、一直線にショッピングモールを目指していたはじめがショッピングモールの駐車場にたどり着く。

 開けた場所には隠れれる場所などないが、そこはこれまでの所業が頭をよぎりはじめから警戒の意識を消させない。

 きょろきょろと周囲を見回して改めて誰もいないことを確認。

 自身の状況を確認すると、もうMPが枯渇寸前な事に気が付く。

 

「こりゃー、少し休憩しないとダメだこりゃ。MPがないと"サンダー"も"ダンサー"も"ウインド"も"アース"も使えないもんね」

 

『MPは時間経過、あるいは先ほどこより先輩が行っていたようにHPを消費することで回復することができます。ただしHPは"イーター"などの回復系能力を持たない場合は回復することができないため、基本的には時間経過での回復しかできないと思っていただいて問題ございません』

 

『今の番はじめちゃんみたいにじっとして動かないことで回復速度が上がるよ。で、動きが無くなったはじめちゃんの代わりにこよりの配信をピックアップするけど……これ、召喚始めようとしているね』

 

 こよりの配信が拡大される。

 二つのゲージを最大まで回復させ、魔法陣の前に立ったこよりが口を開く。

 詠唱だ。

 

「"からのとき"、"天狐の銀嶺"、"悪魔の口づけ"、"白兎"、"謳う羊"、"白獅子"」

 

 読み上げるのはホロライブのメンバーを象徴化したキーワードだ。

 0期生から5期生までのメンバーから、博衣こよりが抱く沙花叉クロヱのイメージを補完するメンバーを思い浮かべて、読み上げる。

 一言一言読み上げるたびにMPが半分ほど削れ、枯渇した瞬間にHPが削れて回復する。

 それに反応して魔法陣が上から少しずつ光を放ち始め、こよりがいる部屋を白く染め上げていく。

 

「"ラプラスの魔"、"笑い鷹"、"忍ぶ侍"」

 

 続けてHoloxの仲間たち。自分たちを除くそれぞれを思い浮かべながら言葉を紡ぐ。

 

『これ、ミオ先輩やルーナ先輩、リオナは詠唱なんてしてなかったと思うんですけど、なんでこより先輩は詠唱なんてしているんでしょうか。なんなら魔法陣も描いているのはこれが初めてですよね?』

 

『コストの重さだって。それにリオナは詠唱してたでしょ?』

 

『あれって詠唱だったんですか!?』

 

『そう。ルーナイトや狼、助手くん達みたいなノーマルユニットって言っていいのかな? の召喚だとMPだけで問題なかったんだけど、いざゲーム内でクロヱを召喚しようと思いついたときに試したら召喚できなかったんだって』

 

『リソース不足って奴ですか?』

 

『そう。今も詠唱自体は終わってるけど、魔法陣の全部が光ってないでしょ? 本来の召喚っていうのは、魔法陣を描く、詠唱を行う、ふさわしい神秘を消費する、相手側が了承して召喚に応じる、っていう四工程を踏む必要があるのね。ゲームシステム的に"プリンセス"を使うだけならそんな面倒な工程は一切いらないし、リオナも自分をルーナイトとして呼び出すってだけだから多いMPを技名を叫ぶってだけのコストで召喚で来たんだけど……』

 

『……こより先輩が召喚しようとしている沙花叉先輩って、それほどのリソースつぎ込まないと召喚できない代物って事ですよね? ゲームシステム的に』

 

『そう。本域のアイテムを使って魔法陣を描きこんで、召喚詠唱を行い、HPを全損するほどにMPをつぎ込んで漸く召喚できるレベル……これ、はじめちゃん勝てるのかな?』

 

『……どうなんでしょう?』

 

 

そりゃー、召喚魔法なんて廃れるわ……

大量の生け贄用意しないと異界からの召喚なんてできないだろうからね

幻子爆弾使わなきゃ割れなかった世界の壁を割るほどの神秘量なんてどんだけ生贄捧げろって話だよ

それはともかく、本域沙花叉ってそんだけやべぇのか

これ、ラプ様たち召喚できなかったのってコストが足りなかったからじゃね……?

博衣こより:だいせいかーい! Holoxメンバーだとクロたん以外召喚できなかったからね!

あらためてござるさんやば過ぎ

あ、番長が光に気づいた

 

 

『おっと、こより先輩の召喚陣から溢れる光が番長にも届いたようですね』

 

『ちょうどはじめちゃんがいる駐車場側に窓があったんだ、あの部屋』

 

『そのようですね。では、視点を番長側に移動させましょう。今度はこより先輩側が召喚陣にMPつぎ込んでいるので動きがないですからね』

 

「何!? あの光なに!? 爆発!? 爆発すりゅ!?」

 

『番長パニックになってて草』

 

『まぁ、こよりの拠点でいきなり光り出したらそりゃビビるか……』

 

「あっ、違う! あれ召喚か! 沙花叉先輩呼び出そうとしてるにょ!? ヤバい! MP……はまだ回復しきってないけど、もう行かないとむりぃ!」

 

 膝立ちでじっと休んでいた身体を動かし、はじめは立ち上がる。

 MPのゲージ回復量はおおよそ9割といったところ。

 それでも、沙花叉クロヱが召喚されてしまったら自分の勝ち目が殆どなくなることをはじめは理解している。

 だから一気に建物へ近づいて外側から奇襲をかけようと駆けだし――落ちた。

 

「ぴぎゃぁああああ!?!?!?!?!?」

 

『番長が落ちたー!? 落とし穴だぁああ!!!!!』

 

『えげつなー……。あれ、番長の移動ルート全部読んでないと配置できないよ』

 

『流石に他にも何個か仕掛けてあるとは思いますが、なんにせよ見事に計算された落とし穴にはまってしまった番長! そしてこより先輩がいるであろう場所から爆発的に光が溢れ出し、消えました! これはもしかして!?』

 

 画像が切り替わる。

 拡大された映像の中には、ぐったりとした様子で椅子に座るこよりと、その傍らに立つコートを着た人影がいた。

 

「あーあー、こんこよ、もうギリギリじゃん。それ、回復できんの?」

 

「どうかなぁ? "イーター"で回復する許容範囲をどれくらいにしたか覚えてないんだよね……。でもたぶんそろそろオーバードーズが近いから、一応回復するために助手くんが持ってきた何か食べてみるけど、それでオーバードーズになったらヤバイね!」

 

「そうだよねぇ。ま、安心して待っててよ。沙花叉がちゃちゃっとはじめちゃんをボコって勝ってくるからさ」

 

「カッコいい事言っちゃってー。まったくもう、クロたんってばこよのこと好きすぎだからすーぐそうやってかっこつけるー」

 

「いやー? こんこよが沙花叉の事好きだからそう思うだけじゃないのー? って駄目だ、コピー沙花叉までそんなことしてたら余計にこよクロ過激派を刺激してしまう!」

 

 

クロヱ召喚だぁー!

新鮮なこよクロだー!

えっ、これ召喚したコピーってマジ……? 沙花叉すぎんか

博衣こより:実はクロたんに協力してもらってデータ取らせてもらったので、思考パターンは大体そのまんまだよ

だとしたらやりとりエモすぎんか

こよクロはあったんだなぁ……

過激派こわ

 

 

『コメント欄でこよクロ過激派が大喜びしております』

 

『にしても本物感がえぐすぎる……。まんまクロヱじゃん、あれ』

 

「あ、クロたん、武器はそこに用意してあるから持ってってね」

 

「はいはい、りょーかーい。そんじゃ、ま……いっちょやったりますかぁ!」

 

 テーブルの上に置いてあった沙花叉専用装備二つを手に取り、手袋を身に着け、柄だけのナイフを手の中で弄ぶ。

 ツカツカと足音を立てながら窓際に移動するとからりと窓を開けて外を除きこむと、そこには大穴が空いた駐車場。

 

「おおー、落とし穴に落ちたみたいだね、はじめちゃん」

 

「落ちたんだ? じゃー、想定通りながらそこそこ精神的な部分は削れてると思うから、後はクロたん任せたよー。こよはMPだけ維持する感じにしとくから」

 

「それじゃあ、よろしくー。行ってきまーす」

 

『お饅頭をもぐもぐ食べてHPを回復させるこより先輩。そして回復したHPを即座にMPに回してMPを全快させます』

 

『クロヱはあくまでこよりが"プリンセス"で召喚した召喚獣扱いだからね。沙花叉が能力行使するにはこよりのMPが必要だから回復するしかないんだけど……あっ』

 

『次のお饅頭を食べたこより先輩の身体が毒々しく光った! これは"イーター"の食べ過ぎによるオーバードーズだぁ! お腹が漫画みたいに膨れて仰向けにぶっ倒れたぁー!』

 

『食べ過ぎはいけません、という事でこれでこよりはHPが回復できなくなるのと、オーバードーズが回復するまで動けなくなったよ。MPはシステム的に回復するし、今のお饅頭分の回復は有効だからそれをMPに回すことはできるけど……ほぼ瀕死だね』

 

「あっはっはっは! こんこよ何それ! マジで面白いんですけど!」

 

「うるさいなぁ! いいじゃん面白く、見てる方にもわかりやすくするためにはこういうのも必要なの! ほらさっさと行った行った! もうこれで、クロたんが負けたらこよの負け確だから頑張ってね!」

 

「はいはーい、頑張るよー。それじゃあ……"牙香"」

 

 沙花叉の手に、棒手裏剣が生成される。

 それを窓の外に出した手からスナップのみで投げると同時、"イミテーション・ミミック"により身体を飾り紐に変じさせ棒手裏剣にくっついていく。

 その瞬間に画面がはじめ側の視点に移ると、そこには落とし穴を這い上がるはじめの姿があった。

 

「ううぅ、落とし穴の底にまさかもふこよが敷き詰めてあるなんて思わなかっちゃ……、もふもふが気持ち良すぎて這い上がる気持ちを失わせる罠は酷くないでしゅかこより先輩!」

 

 落とし穴の底。

 こよー、こよー、とかわいらしい鳴き声を上げながら落とし穴の壁をよじ登るはじめに向かって手を振る大量の生命体がいた。

 もふこよだ。

 博衣こよりが生み出したマスコットキャラクターであり、そのもふもふには中毒性がある(Byござる)と言われるもふこよが、落とし穴に落ちた時のクッション材として用意されていたのだった。

 落ちた衝撃を受け止めたもふこよの愛らしさに少しの間我を忘れてもふって癒されていたはじめだったが、外に満ちた眩い光に目的を思い出して這い出したのが、今。

 そしてようやく落とし穴から顔を出したはじめの眼前に、棒手裏剣が突き刺さる。

 

「にぎゃ!? にゃに!? 棒!? 鉄の棒ナンデ!?」

 

「なんでってそりゃー、はじめちゃんの所に近づくためだよ?」

 

「近づく!? はじめに? って……沙花叉先輩!?」

 

「はぁーい、こんばんわ、はじめちゃん。それじゃあ……ガチンコ真剣バトル、やろっか?」




ここまでお読みいただきありがとうございます。

実は、これ、これまで前後編にしてた話の七割分くらい書いてました。
まだこの後に後半として沙花叉VS番長が始まるわけですが、まだ全然書けてないのでこの後も執筆頑張ります。

戦闘のリザルトは試合が終わった後に書くとして、沙花叉の能力と武器について簡単に設定を乗せておきます。

"イミテーション・ミミック"
擬態ごっこ。自由自在な変身能力。無機物有機物なんでもござれ。生物に変身した場合、能力者ならその能力もまねる事ができるが、その運用は沙花叉クロヱの能力に依存するため十全に使えるとは限らない。

沙花叉クロヱ専用兵装"天涙"、"牙香"
"天涙"は自在に刃を作り出す柄だけのナイフ。"牙香"は棒手裏剣を生み出す手袋。いわゆる暗器であり、お掃除道具。どちらも神秘を用いた武器の為幻想存在相手にもよく通る。
武器の名前はとあるなにかのアナグラム
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