「ここは……どこ?」
目を覚ました僕は見知らぬ空間に居た。寝ている体を起こして、周りを見渡してみる。
何処までも続きそうな真っ白い空間。ただ、そこに一か所だけ似つかわしくない所があった。六畳ほどの畳に、古ぼけた箪笥、ブラウン管のテレビ(チャンネルを回すタイプ)、ちゃぶ台。僕から見るとレトロな日本の居間を再現した感じだ。
そして、そこに座布団の上に座り、湯呑みでお茶らしきものを飲んでいる、和服の女性。…なんだろ? 全部、日本っぽいのに妙にミスマッチな感じがするのは。
「おお、起きた様じゃな。ささ、こっちに来い。茶でも馳走しよう」
「はあ…」
とりあえず、状況の掴めない僕はその女性に勧められるがまま、向かい側に座り、湯呑みに淹れてもらったお茶を飲む。…うん、美味しいし落ち着く。
「どうじゃ、茶の味は」
「美味しいです。どこのお茶ですか?」
「伊勢茶じゃ。知名度は有名どころに劣るが、個人的な好みじゃ」
「あんまり聞いた事ないです」
その前に産地とか気にした事なかったし。
「じゃろうな。静岡や宇治の原材料になっていたり、加工用になっている方が多いからのう」
「へえー。このお茶請けとしてあるお餅も美味しいですね」
「それはへんば餅じゃ。これも伊勢の物じゃ。伊勢の菓子と言えば赤福餅が有名じゃが他にも美味いものが多いぞ」
えらい、伊勢押しだな。やっぱり、日本の神様にとって伊勢は特別なのかな? 個人的にイメージとして伊勢と出雲って大事な感じがする。
「さて、食い物の話はこの辺にして、お主の身の振り方についてを話そうかの」
「身の振り方……ですか?」
「そうじゃ。時にお主、ここに来る前の最後の記憶はあるかの?」
「えーっと…」
そう言われて、記憶を思い返す。確か…急に容体が悪化したから、救急車に運ばれたところまでは覚えているんだけど、そこから先は覚えていない。
「その様子じゃとちょっとばかし、あやふやな様じゃな。端的に言うとお主は一度死んだ。間が悪く、病院までの道のりで交通事故があって通行止めになっていたのじゃ。それで間に合わずにの」
「そう……ですか」
自分が死んだというのは実感が湧かない。むしろ体は今までよりも元気だし。まあ、死ぬという実感が湧くものかは知らないけど。
「それで、僕はどうなるんですか? さっき、身の振り方と言ってましたけど…」
「ふむ、儂らは俗にいう神と呼ばれる存在で、年に何人か、死んだ人間を転生させているんじゃ」
「何でですか?」
「正直、暇なのじゃ。儂らは不老不死じゃ。羨ましく思う奴もいるだろうが、儂は呪いに等しい物だと思うておる。それの退屈しのぎじゃ。色々な物を与えた奴らがどう生きていくかは、生半可な物語よりも面白いからの。嫌なら断ってもらっても構わん。これは儂のわがままじゃ」
とある事情で一日の大半を家で過ごしていた僕は二人いる兄貴の内、下の兄貴の影響で漫画とかアニメをよく見ていた。そこから派生して、二次創作も。
「神様転生って奴ですね」
「そうじゃな。そういう事になる。…誰か知らんが、自身の体験を物語にしたから、そのように呼ばれるようになったのう」
まあ、僕も含め皆フィクションだとは思っていたと思うけど。
「…分かりました。その話ありがたくいただきます」
「感謝する」
「お礼を言うのは僕の方です。もう一度生きれるんですから。それに好きに生きていいんでしょ?」
「もちろんじゃ。お主の生きたいように生きろ。さて、次に転生の特典を三つ与える。うち一つを使って、『百個にしてください』など言うなよ」
「言いませんよ。ていうか、そんな人いたんですか?」
「いた。問答無用で送り出してやったわ」
強欲は罪らしい。流石は七つの大罪の一つ。
「…と言っても、望むものは丈夫で健康な体位ですね」
こう僕が言ったのは理由がある。
僕は生まれつき治療不可能の病気を持って生まれてきた。だから、一日中家や病室に居る生活が続き、学校にもまともに行けなかった。
だから、僕が次の人生に望む事は『元気に一生を過ごす事』それだけだ。
「…無欲じゃのう」
「そうですか? 僕としてはこれ以上も無い位の欲なんですけど」
今まで望んでも手に入らなかったものがここで手に入るんだから、これ以上は無いと思う。
「他には無いのか? 前世での趣味とかに関連するものとか」
「そうですね……。家で出来るような簡単な編み物とかはよくやってましたね。今度は設備の要りそうな金属の細工とかしてみたい気がします。あっ、なら『RAVE』って作品の『銀術』が欲しいです」
「『RAVE』か……懐かしいのう。儂も好きじゃ。分かった、そのようにしよう」
「……漫画読むんですか?」
「読むぞ。こう見えてジャンプ購読歴46年じゃ」
……筋金入りだこの人。いや、この神様。
「たまに土曜発売になるのはやめてほしいのう」
「ハッピーマンデーなんて考えた人が悪いんで、その辺はどうしようもないですね」
何か、悩みが中学生レベルなんですけど。
「さて、最後の一つじゃが…」
「その前に一つ良いですか?」
「なんじゃ?」
「僕が死んだ時、家族はどうでしたか?」
「皆泣いておったぞ」
「本当ですか?」
「嘘ではない。お主の家族は皆泣いておった。信じられないか?」
「…迷惑かけ続けていましたから。楽になったと思ってもらえると考えていました。でも……」
「家族が死んだんじゃ。悲しむ事が、泣く事が普通じゃ。お主は家族に愛された一生だったのじゃよ」
「……そうですか」
いつの間にか僕は涙声になっていた。目からも涙が零れ落ちて止まらない。ひたすら、泣き続けて、落ち着いてから、
「最後は…僕の前の家族が幸せにしてください。それをお願いします」
「それで良いのか?」
「それが、親より先に死んでしまった親不孝者に残されたたった一つの親孝行ですよ」
『一日でも長く生きて欲しい』それが生前僕が居ない所で両親が口にしていた言葉だった。夜トイレに起きた時聞いてしまった僕は真っ暗な中に光がさしたような感じを受けた。
人に迷惑しか掛けられない僕を家族は嫌な顔一つせず愛してくれたと思う。
仕事や家事が忙しいのに僕の看病で夜遅くまで起きている父さんと母さん。色々遊びたい時もあったはずなのに、僕の面倒を買って出てくれた兄さん達。
もう、お礼を言う事は僕には出来ない。でも、僕も恩返しをしたい。たとえ自己満足でも。
「…分かった。そうしよう」
「ありがとうございます」
「気にするな。では、そろそろ出発してもらおうか。襖を開ければ、お主の次の人生が待っておる。…最後に良いか?」
「何でしょう?」
「次の人生、お主は何を望む?」
「そうですねえ……元気に過ごすは出来そうですし、空を自由に飛びたいです。趣味でセスナの免許を取るか、航空会社の就職を目指すか、戦闘機のパイロットになるかは分かりませんけど」
僕は部屋の窓から空を見上げるのが好きだった。そして、そこを自由に飛び回る鳥が羨ましかった。この憧れを次は叶えたい。
「そうか。時間を取らせたな」
「いえ、ありがとうございました。もう一度チャンスを与えてもらって。では、行ってきます」
襖をあけるとそこには光の道が。僕はその道を歩き出す。やがて僕の意識は無くなった。
「ふむ、空を自由に飛びたいか。なら、あの世界が良いだろう。他に好きだった作品は……なるほど、なるほど。これはサービスにくれてやろう。ククク、面白くなってきたのう」