さて、今回も俺が先に出て来た。初戦を見た感じだと接近戦オンリーの機体っぽいし、距離を取って戦えば比較的安全に勝てるだろう。アリーナという限られた空間だから、その辺の立ち回りは気を付けないとだろうけど。
そんな事を考えていると別のピットから一夏が出て来た。
「遅かったな、一夏」
「……正直言うと、戦いたくねえ。なんだよあのミサイルの量! 反則だろ」
「ところがどっこい、別に搭載量にルールなど無いんだな、これが」
だから、現役時代の織斑先生みたいなブレードオンリーの機体もあれば、重火力機体も存在する。国や企業の個性が出て中々面白いと個人的に思う。
「だよなあ。……ってか、なんか細くなったか?」
「あれはああいう装備なんだよ。簡単に言えば全身にミサイルを積み込んだ鎧って所だ。出来立てほやほやだったからどっちかの試合で使うつもりだったんだよ」
「……俺には必要ないって言うのか?」
若干怒り気味の一夏。思ったんだけど、やっぱり短気だよな。
「違う違う。あれは火力はバカみたいに上がるけど、機動力をある程度犠牲にするから、高機動格闘型のお前に相性悪いと思ったから使わないだけ」
というより、使えないの方が正しいか。弾数が少なくて明日か明後日のテスト分しか残ってないのが最大の理由だし。と言ってもちゃんと一夏に言った理由もある。俺の腕がもっと高ければアーマード装備状態でも今と同じレベルで動かせるようになるだろうけど、それは今の俺には出来ない。
「それに攻撃力と防御力はあっちの方が上でもこっちの方が慣れてるからな。どっちも俺の全力だぜ?」
試合で手を抜けるほど器用じゃないし、無粋でもない。
『お二人とも、準備はよろしいですね? では、始めてください』
山田先生の合図で試合の火ぶたが切って落とされる。……さっきは開始の合図織斑先生じゃなかったっけ?
まあ、今はそれはどうでもいいか。
開始の合図とともに一夏はツッコんでくる。ブレードオンリーっぽいから、それしか手段が無いとはいえ、駆け引き無しってのはどうかと思う。
流星を呼び出して、ガトリングモードで弾幕を張る。
「うおっと、凄い連射量だな」
「そりゃ、ビームマシンガンだからな。回避が甘いぜ!」
会社でのコーチやカナほどの動きではないから、一夏にドンドン当てて、削っていく。
「くっ、弾数の差でブルーティアーズより避けにくい!」
「まあ、スナイパーライフルとマシンガンだからな。そもそも特性が違うし」
それにセシリアの射撃技術は中の上といった所。俺の身近に特上のスナイパーが居るからな。狙った標的と女は百発百中の天才が。
「こうなったら!」
一夏は弾幕を無視して突っ込んでくる。まあ、チョイスとしても悪くは無いと思う。だけど、
「ここまで寄られれば、避けにくいだろ。一式、バーストモード」
そこそこ削ってあるから、これで!
しかし、一夏はギリギリで直撃を避けたからダメージは大きいけど、試合終了までには行かなかった。すぐに追撃の体勢を整える一夏。バーストモードは連射が効かないし、瞬時加速はチャージ時間が足りない。となると……。
「「これで!」」
一夏はそのまま突撃。俺は機体をファイターモードに変形させる。
「はあっ⁉」
突然人型のISが飛行機になったんだ。そりゃ、驚くよなあ。多分観客もあの織斑先生も驚いているだろうし。
その隙に俺は一気に一夏の横を最高速度で駆け抜ける。
「うわっ⁉」
体勢を大きく崩す一夏。この学園の生徒で一番ISの操縦の上手いカナですら、この突然の状態からの体勢の立て直しは時間が掛かる。初心者の一夏ならもっと掛かるだろう。
俺は人型に戻してから落ち着いて照準を定める。
「これで、ゲームセットだ」
「流石は兄貴っすね~。二連勝でしっかり決めるなんて」
オイラがアリーナの探検、もとい整備室の見学をしていたら、兄貴の勝ったアナウンスが流れた。
戦いの事はからきし分からないけど、ここ一ケ月の運用データを見る限り、兄貴のIS適正はかなりの物だった。その辺はウチで兄貴をコーチしていた人も言ってたし。
元々、身体能力も抜群だった兄貴にとってパワードスーツであるISは好相性だったと思う。
「でも、やっぱ兄貴には戦闘機が似合うっすね~」
兄貴だけじゃなく、スカルのメンバーは本気で戦闘機と空が似合う。
ウチのアグレッサーチーム、特にスカルのメンバーは新星市の子供達にとって、身近なヒーローだからとても人気がある。オイラも小さい頃は憧れたものだ。
「しかし、こんな道が作られているなんて、色々考えてあるもんっすね~」
そういうオイラが居るのがアリーナの地下通路。
そもそもアリーナには二か所整備室が作られている。基本的にピットは二つあるから、戻ったピットの近くに一つずつある。その間を機材やらを移動させるのにアリーナの中をぐるっと一周させるのは効率が悪いから、こうやって地下通路が作られているのだと思う。
ちなみに今回の総当たり戦は、
兄貴は一戦目更衣室待機で二戦目からピットに。(これをAとしておく)
イギリスの人が連戦の後観戦。(こちらをBとする)
一人目の男子が逐一移動で合間は管制室で観戦(この場合、使用したピットはA→B)
と、こんな感じでやりくりがされてた。
しかし、流石は国立。環境の良さの為にはお金をいとわない事に定評のあるウチの開発部並の設備が整っていた。時間と金さえあれば、新しいISも作れるレベルだな~。
今は一応、もう片方のも見に行く道中だ。
「うーむ、ISは兵器にカテゴライズされて、その中では軽い方ではあるけれども、人力ってのは結構運搬に手間がかかるんじゃないっすかね~アリーナの端から端まで結構な距離あるし」
この通路に自動で動く運搬用カートでも用意すれば良いのに。整備をするためだから、楽だという理由でISを装備して運ぶわけにはいかないだろうし、アリーナの規模は結構大きいから、移動をサポートできる何かがある方が絶対良いと思う。
まあ、それを考えるのはオイラじゃないけど。
そんな事を考えてたらいつの間にか着いていた。さーて、こっちはどんな感じかな~?
入ると一人の生徒が黙々と作業をしていた。確か、このアリーナ貸切で今日は整備室は使ってなかったんじゃ?
その子はオイラが入って来た事にも気付かない。普段の混んでいて物音がありそうな状態ならともかく、静かで自動ドアの音もそこそこしたのに作業をし続けるなんて凄い集中力だ
どんな事をしているのか好奇心が疼いたから、オイラは彼女の背後にまわり、モニターを覗き込む。
ふむふむ、一見何がなんだかさっぱりだけど分かる人が見れば何をしているかは一目瞭然。そして、オイラはその分かる側の人間だ。
「あっ、そこは間違ってるっすよ」
間違いを見つけて、思わず口出ししてしまう。そこで、彼女はようやくオイラに気付いた。
その子は兄貴の彼女である、刀奈さんにそっくり。違うのは眼鏡を掛けてる事と、髪が外はねじゃない事位。
「っ! 誰⁉」
「ども、通りすがりの技術者っす」
「……仮面ライダーじゃなくて?」
「おおっ、まさかIS学園でネタを拾ってくれるとは。それは置いておいて。オイラはこういう物っす」
そう言ってオイラは懐から名刺を取り出す。これはIS学園への出向? 編入? まあどっちでも良いけど、とにかくIS学園行く事が決まった時、オイラの上司に用意された物だ。まさかこんなにすぐに役に立つとは。
「えっと、ご丁寧にどうも? それと……私は更識簪。それで、大村って事は……二人目の関係者?」
「二人目はオイラの兄貴っす。それと紛らわしいんで、オイラは下の名前の悠樹で良いっすよ、更識さん」
「私も下の名前で良い」
血は繋がっていないけど、オイラと兄貴にはそれは些細な問題だ。それにしても更識って結構珍しい苗字だし、見た目の事を考えると刀奈さんの関係者かな?
「なら、機体にも詳しいの?」
「詳しいも何も作ったのはオイラっすし。どうでしたっすか? 感想を教えて欲しいっす」
正確に言うと設計の大本がオイラでそれのブラッシュアップと開発がオイラの率いるチームだけど、まあ、その辺は省略って事で。
「変形したり、装備をISに合体させてる所がかっこよかった! あれって、パージも出来るの?」
おおう、テンション高いっすね~。仮面ライダーの話も拾ったし、特撮とかの男の子が好きなのが好きな感じか?
「出来るっすけど、ぶっちゃけ収納するっす。回収も面倒っすし」
「それもそうだね。……でも、凄い。あんな機体を作れるなんて」
「それで給料を貰ってるっすから」
好きな物作ってそれでお金貰えるんだから、オイラにとって天職とも言える仕事だよ。
「今日の動きを見て、お兄さん、強いって思ったし、ISを戦闘機で落とせる人達のスカル隊にいるって噂を聞いたの。悠樹君はそんな凄いお兄さんを持ってどんな感じ?」
「どんな感じって言われても、自慢の兄貴っす」
「そう。……少し話聞いてくれる?」
「さっき知り合ったオイラにっすか? 簪さんがそれで良いのなら構わないっすよ」
こういう事って案外関係の無い人に話を聞いて貰った方がすっきりすると個人的には思う。境遇も近いみたいだし。
「うん。何も知らない人に聞いてもらいたい。私にもね1つ上の姉妹、姉が一人いるの。お姉ちゃんは勉強も運動も出来て、ISも国家代表に選ばれる位上手だし、ISも作ったって噂が建てられるくらい」
「それは……凄い人っすね」
刀奈さんの事は兄貴や日本の研究所に居た人に聞いている。高校二年で日本の国家代表の最有力候補と言われている逸材だ。
「うん、小さい頃は自慢のお姉ちゃんだった。でも、ある時から周りに『あの子の妹』というフィルターで見られるようになって出来ても「あの子の妹だから出来て当たり前」、出来なかったら「あの子の妹なのに出来ないの」って言われるようになってから苦痛になって来たの」
コンプレックスと、自分自身を見られず、まるで他の人の付属物の様にみられる。これは辛い。オイラにも経験がある。やっぱり、兄貴も凄いから。
「お姉ちゃんは『私は私、簪ちゃんは簪ちゃんだから、周りの言葉なんて気にしなくていい』って言ってくれたし、幼馴染や家族も私で見てくれたし日本のIS関係者の人でもちゃんと評価している人も居たけど、やっぱり辛かった」
「なるほど、それで自分の評価の確立の為に頑張ってるっすね」
「うん。政府のIS関係の人がお姉ちゃんが決して独力で作った訳じゃないって教えてくれたけど、なら、それが出来れば私の評価につながるって思って」
この辺の裏事情とかはそっち方面で働いていた人に聞いてみれば良いかな。探せば一人くらい知ってるだろうし。その政府の人は単純に無茶を止めたかっただけだろう。簪さんにはそれが逆に作用してしまったようだけど。
「頑張り屋さんなんすね~。良い事だと思うっす。でも、無茶はいけないっす。一人で出来る設計やプログラミングならともかく、組み立ては人海戦術の方が絶対に良いっす。簪さんは代表候補生なら、腕も磨かないと」
開発を頑張るのもいいと思うけど、彼女は代表候補生、つまりは乗り手だ。そこを間違っちゃ意味がない。
「そう……だね。私、意固地になり過ぎてた」
「後は凄い能力の上の兄弟を持つ身としては、一回思いっきり思いの丈をぶつけてみる方が良いっす」
「……それは経験談?」
「そうっす。オイラの父さんはオイラが小学生に上がるかどうかの時に事故で亡くなったっす。それから少ししてから今の父さんと結婚したっす。新しく父さんが出来た事に変な感じはあったっすけど、父さんは厳しくも優しい人でオイラの事も気にかけてくれたからから割とすんなりに受け入れれたっす。でも、兄貴はすぐに受け入れられなかったっす」
「どうして?」
「今思うと、突然できた兄、しかも、美星の航空科のエースでさっき言ったスカルのメンバー候補に名前が挙がっていたから地元ではかなりの有名人だったから、違和感があったのと、お互い歳が近いからこそ兄貴も距離感を掴みきれてなかったからだと思うっす」
ホント、ぎくしゃくしてた。
「んで、オイラは兄貴に負けたくなくて、色々頑張ったっす。兄貴もかなり出来た方だったから比べられたし、それが嫌だったから。一時期、本気でパイロットを目指してがむしゃらに努力してたんっすけど、無茶しすぎて倒れたっす」
あの頃は兄貴への対抗心だけで色々な事を考えてた。兄貴が出来るなら自分だってと思っていた。
「目を覚ましたら病室で、いきなり兄貴に殴られたっす。なんでそんな無茶をしたんだって怒られながら。その時、殴り返して初めて兄貴にオイラの感情をぶつけて、兄貴の感情をぶつけられたっす」
後で考えるとお互いいきなり兄弟が出来てどうすれば良いか分からなかったから起こったすれ違いだった。だけど、
「でも、それのお蔭で本当の兄弟になれたと思うから、してよかったと思ってるっす」
これがあったからこそ、同じ道に進んでの対抗心から、自分に出来る事で、自分の選んだ道で、兄貴以上の結果を残すっていう対抗心に変わった。そのための勉強を沢山して、今のオイラが居る。
「いくら家族、姉妹と言っても相手の心の中までは分かんないっす。だからこそ、思いの丈をぶつけ合う。そうすればきっといい方向に向かうと思うっす」
『ケンカするほど仲が良い』じゃなくて、『ケンカするから仲が良い』だ。本当に嫌いな相手はケンカなんて起こらない。
好きの反対は嫌いじゃなくて、興味が無いだと思う。コンプレックスは言い換えれば「その人を良く見ていて意識してしまうから、その人の良い所がはっきり見える」って事だ。相手を気にしていないと起こりえないし、好きでないとそこまで見ない。
「……私は今までお姉ちゃんに壁を作ってた。でも、それじゃ何も進まないんだね。うん、ぶつかってみるよ、思いっきり」
「オイラは簪さんの事を応援してるし手伝うっすと」
「じゃあ、今から行くから手伝って」
「……はい?」
「手伝ってくれるんでしょ?」
この行動力は兄貴から聞いてた刀奈さんに近い物を感じる。やっぱり姉妹って事か。
「了解っす。兄貴に今どこにいるか聞いてくるっす」
「……やっぱり、お姉ちゃんと二人目が付き合ってるって噂本当だったんだね」
……もう、噂になってるとか、兄貴、どんだけ刀奈さんと人前でイチャイチャしてたんっすか……。確かに、二人の空間を少し見た感じお似合いの二人だとは思ったけどさ。
学校が始まったので投稿ペースは不定期になると思います。なんとか、二週に一回くらいは更新しようとは思っているので、これからもよろしくお願いします。