「今? 試合前に話してた更衣室でのんびりしてるけど?」
『んじゃ、そっちに戻るっす~』
「りょーかい。待ってるぜ」
試合を終えて更衣室でのんびりしていると、悠樹から連絡があった。まあ、戻ってこないと、この後の試験の連絡とか出来ないと思うしな。
忘れそうになるけど、悠樹がここに来た理由は一応、編入試験を受けるためだったな。
「悠樹君どうしたの?」
「いや、俺達の場所を聞いただけだぜ。試験の連絡とかここに来るからじゃねえの?」
「それは、おかしいですね」
俺の言葉を聞いて虚はそう言った。
「なんでだ?」
俺は聞き返す。悠樹の行動には別段変な所は無いと思うけど。
「イサムの居ない内に悠樹君が織斑先生に整備室の見学の許可を取ってて、それと一緒にこの後の予定も聞いていたもん」
「確かに。それなら別に戻ってこなくても直接行けばいいだけだな」
まあ、その辺は戻ってこれば分かるだろ。
「兄貴、ただいまっす~」
「おう、お帰り。事情は二人に聞いたけど何で態々戻って来たんだ?」
「それは、ちょっとした頼まれ事っす」
「頼まれ事?」
こんな短時間で悠樹に誰からか何かを頼むってどういうことだ? この学園に居る俺以外の悠樹の知り合いはアイシャかマリアだけだし、二人なら、急ぎでない限り夕食や明日にでも直接言いにこれば良いだろう。
「こっちっすよ~」
「ちょ、ちょっと待って……」
悠樹はそう言ってドアの向こう側に隠れていた女の子を引っ張り出した。その子は纏っている雰囲気こそ違えど、カナにかなりそっくりな女の子。ひょっとして……
「簪ちゃん……」
「お姉ちゃん……」
悠樹はカナの妹さんを連れてきたわけだ。
俺がカナや本音から話を聞いて考えた事は機体に興味を持ってもらって、本音経由か直接かどっちかで接触してくると考えてたんだけど、まさか、悠樹が連れてくるとはな。悠樹の行動から考えると、整備室の見学をしてる時に何かあったのか? その辺、後々機会が有れば悠樹に聞いてみるか。
「「…………」」
二人の間に流れる沈黙の時間。はあ、見てらんねえよなあ。
「カナ、こういう機会が出来たんだ。思ってる事ぶつけてみろよ」
「兄貴の言う通りと思うっすよ、簪さん。だいじょーぶ、絶対上手く良くっすよ」
俺達はそう言って、俺はカナの手を、悠樹は妹さんの手を握る。
逃げるのは簡単だけど、向き合うって言うのは案外怖い。俺が出来るのはこうやって、少しだけカナを後押しするだけ。後は二人の一歩を踏み出すほんの少しの勇気だけだ。
「……えっとね、お姉ちゃん」
切り出したのは妹さんの方から。
「……何かな、簪ちゃん」
「私はね、お姉ちゃんの妹として見られてきた。お父さんやお母さん、本音や虚さんのおじさん、おばさんは私として見てくれたけど、大体の人がそう見てて。私はそれが重荷だったの」
「……うん」
「でもね、それよりも私にとってお姉ちゃんは憧れで目標なの。まあ、その目標に向かうためになりふり構わず一人で頑張っていたんだけどね」
片や周りの評価にめげず、自分一人で頑張り続けてきた妹。
「そっか……。私は、見栄っ張りなの。簪ちゃんにカッコいい所見せたくて頑張ってたの。でも、それが簪ちゃんの重荷になってる事に気付いた時は遅かった。簪ちゃんが一人で頑張ってる姿を見て、どうすれば分からなくなってた」
片や妹が自慢出来る存在で居たいから、努力し続けてきた姉。
「でも……」
「でもね」
何処までも不器用なすれ違いだよな。だけど……
「「私は簪ちゃん(お姉ちゃん)の事が大好きです」」
お互いの想いは同じなんだから、その気持ちを言うだけで良い。
「あははは」
「うふふふ」
「こうやって、簪ちゃんの本心が聞けて良かった」
「私も。たった二人の姉妹なんだから、もっと早くにお互いの気持ちを話しておけばよかったね」
二人に笑顔が戻る。これにて一件落着だな。この件のMVPは偶然とはいえ悠樹だな。
てか、二人とも案外似た物姉妹なんじゃねえの? こうやって迷っていたり、不器用なあたりさ。
「そういやさ、悠樹」
「なんっすか?」
「お前試験の時間、大丈夫なのか?」
「……あっ」
……どうやら完全にすっぽ抜けていたみたいだな。
1つの事に集中するのが悠樹の良い点であり、悪い点だな。去年、アイシャが開発に熱中しすぎて学校のテストをすっぽかしかけたって言ってたし。
美星は普段の出席に関してはかなり緩いけど、それだからこそ定期試験はかなり重要視される。それを体調不良で休むならともかく、すっぽかすのはかなり拙い。
「ちょっくら、試験に行ってくるっす!」
そう言って部屋を飛び出す。……妹さんの為に動いたんだろうけど、それでも頭の片隅に置いておけよと思う。自分の事なんだしさ。
「そうそう、簪さん。眉間にしわ寄せて難しい顔してるよりも、笑顔で居る方が可愛いっすよ」
戻って来て、扉の向こう側から顔だけ出してそう言う悠樹。
「ミシェルみたいな事言ってないで、さっさと行って来い!」
「了解っす~」
ったく、アイツは誰の影響であんな事言うようになったんだ? まあ、こういう影響与える奴は俺の知る限りミシェル一人しかいないんだけどさ。
「悪いな、妹さん。悠樹があんなナンパな言葉言って」
そう言いながら振り向くと、妹さんは顔を真っ赤にしていた。熱……って感じじゃねえなあ。
「あらら、簪ちゃん、悠樹君に惚れちゃった?」
「……まだ、よく分かんない。でも、さっきの言葉はすっごく嬉しかった」
「そっか。悠樹君関係で相談が出来たらいつでも来てね。私もイサムも力になるから。ね、イサム」
「もちろん。つーか、まだ自己紹介がまだだったな。俺は大村イサム。肩書は色々あるけど、カナの彼氏だ」
「更識簪です。よろしくね、お義兄ちゃん」
「おう、よろしくな簪」
「お、お義兄ちゃん……」
あらら、今度はカナの方が真っ赤になっちゃったよ。
「この反応は二回目だな」
「そうですね」
俺の言葉に頷く虚。まあ、一回目の切っ掛けは虚の一言だったしな。
「そうなの?」
「ええ。私がイサムさんと初めて会った時に、イサムさんの事を旦那様とお呼びしたら、同じ反応をなされました」
「なるほど。……でも、私は変えないよ?」
「か、簪ちゃん⁉」
妹の予想外の行動に驚きを隠せないカナ。だけど、さっきまでの壁があった時よりもこういう方が何倍も良いと思う。
「だって、いつもしっかりしてるお姉ちゃんが可愛いんだし、そういう姿も見たいもん。それに、お義兄ちゃんもお姉ちゃんの可愛い所見れて嬉しいでしょ?」
「まあ、そうだな。俺としてもカナの可愛い所見れるんなら問題無いな」
「二人とも、バカ~!!」
ありゃ、やり過ぎたかな? 恥ずかしさと怒りで顔が真っ赤だ。
「少しからかい過ぎたかな、お義兄ちゃん」
「かもな。まあ、落ち着かせるのは俺の仕事だから、任せな」
そう言って、俺はカナの後ろに行って背中から抱きしめる。
「いやいや、お義兄ちゃん。いくらお姉ちゃんが義兄さんの事が好きだからって、これで落ち着くわけ……」
「あふぅ……」
「ええっ⁉」
一気に鎮火して俺の腕の中で落ち着いているカナを見て驚く簪。まあ、簪が今まで知らなかった部分のカナを見たから仕方ないっちゃあ仕方ないのか。
「簪様、お嬢様はイサムさんと一緒だと大体あんな感じですよ」
「そうなんですか……なんていうか、慣れてますね、虚さん」
「そうですか? まあでも、お嬢様にとっては初恋の相手と長い時間を経て結ばれたわけですから、これ位はしたいのだと思いますよ?」
「へえ~、初耳」
「こういう事は年上の私か、お嬢様とイサムさんの共通の友人の方、気付かれた奥様と私の母が相談相手でしたから」
へえ、それは俺も初耳。まあ、簪にカッコつけたかったカナからしてみたら、相談しにくかったのもあるだろうけどな。
「そうなんだ。いつから?」
「お嬢様が大事にしている髪飾り。簪様もご存知ですよね」
「もちろん。それこそ、十年くらいずっと大事にしてて、節目の時とか大事な時に絶対に使うやつでしょ」
……そこまで大事にしてくれてんのか。プレゼントした甲斐があるってものだぜ。渡した他の二人であるアルトとシェリルも今でも大事にしてくれているし、やっぱいい出会いだったよな。
「それを渡したのがイサムさんらしいです」
「そうなの?」
「ああ。なんかよく分からないけど、生まれつき『金属を自由に操れる』っていう変な能力があってな。それで、即席で作った」
出来る限り、あの能力については隠したいんだけど、親しい人には言っている。カナにもその内言おうと思っていたから丁度良い機会だった。
「あれって、種も仕掛けも無かったんだ」
「まあな。といっても、あれを渡したのはカナとアルトとシェリルの三人だけだけどな」
俺の中ではカナは当然としてアルト、シェリルは特別な存在なのだと思う。もちろん、二人以外にも何人も友人は居るし、親友と呼べる存在も居る。でも、やっぱり生まれて初めての親友だから二人は特別なんだと思う。
「あっ、そうだ。同じのをさ、簪ちゃんと虚ちゃんと本音ちゃんにも作ってあげられない?」
「それは別に構わないけど、なんでだ?」
「いやー、小さい頃ね、これが切っ掛けでケンカになった事があるくらい、皆が気に入ってるのよ」
「お姉ちゃん!」
「お嬢様!」
あんまり知られたくない過去を話されて顔を赤くして怒る二人。作った俺としてはかなり嬉しいんだけどさ。
「分かった。丁度最近シェリルとアルトにも新しいの作って送ったから、デザインとかは覚えてるし。材料は……このベンチの端でも失敬するか」
そう言って俺はベンチ(俺が寝ても余裕で余る位の長さで背もたれが無いタイプ)の端を触り、三センチほど切り取ったこれを更に四等分して、四つの髪飾りを作る。二つは少し青みががった色に、残りは少し赤っぽくした。無論、その間カナを抱きしめ続けている。
「はいよ、青い方はカナと簪に、赤い方は虚と本音にだ」
「ありがとうございます、イサムさん。本音にも渡しておきますね」
「ありがとう、お義兄ちゃん。大切にするね」
「礼を言われるほどの事じゃ無いさ。大した手間じゃないし。むしろ、これで喜んでくれて俺としては嬉しいさ」
「……むー」
何故かふくれっ面になるカナ。しかし、俺の腕の中である。……なんでだ?
「どうしたんだ、カナ?」
「……なんでもない」
「なんでもないって事は無いだろ。そんな顔してさ」
「……笑わない?」
「流れがよく分かんねえけど、出来る限り善処する」
「えっとね、簪ちゃんや虚ちゃんと楽しそうに話しているのを見て、嫉妬したの」
なんつーか……すげー可愛い理由だな。思わず抱きしめる腕に少し力が入る。
「悪かったな、ごめん。でも、俺が女性として好きなのは後にも先にもお前だけだよ」
これは絶対に変わらねえ、カナに初めて会ったその日から持ち続けてる俺の気持ち。
「うん、私も……」
同じ気持ち。ただそれだけだけど、それが俺にとってはすごく嬉しい。
「……お義兄ちゃんもお姉ちゃんももうちょっと周りに目を向けて欲しいよ」
「ですね」
「私は気にしないわ」
「俺もだ」
そんな周りの目なんか無視だ無視。
「……だめですね、完全にお二人の世界になってます」
「みたいですね。バカップル道を邁進中って感じです。虚さん、後でコーヒー飲みに行きましょ?」
「私が淹れます。おかげさまで、最近上手く淹れれるようになりましたから」
「……なんか、すみません」
なんか二人が話してるけど、スルーだスルー。
「では、後はお二人で」
「そうですね。じゃあ、お姉ちゃん、お義兄ちゃん、また部屋に遊びに行くから」
「待ってるわよ~、簪ちゃん」
んで、結局この後、三十分位俺はカナを抱きしめてた。
流石にアリーナの閉館時間も近付いてきたので、その後は部屋に戻って、抱きしめてた。
だって、すげー落ち着くんだもんよ。こうしてるとさ。今日の疲れを癒すという意味でもこうして居たかったんだよな。
あっ、そうそう、悠樹はめでたく編入試験に受かったみたいだ。だけど、部屋の調整とか……先生方お疲れ様です。
更新できなかった最大の理由は……虫歯です。凄い痛いんです。しかも、治療がこの作品を大体更新していた木曜日だったので、「今週更新しよ」→「麻酔切れて痛い……」→「来週で良いや」の繰り返しでした。
今は大分と楽になってます 痛みのピークだったGWはほとんど一睡も出来ずに過ごしましたし。
次回は……ちょっとした短編の詰め合わせみたいな形になると思います。