鈴に会ったり、レアが完成したという連絡を受けて、マリアが喜び、その後のテストの為に呼び出されたアイシャがへこんでいたりと色々あった日から一夜明けた朝。俺もカナもいつもより早く目が覚めたから、ちょっと部屋でのんびりしている。
朝なのになんでこんなに余裕があるかというと、最近はカナと仲直りした簪が悠樹と一緒に朝食を一緒に食べようと誘いに来るから、全く焦る必要がない。
ちなみに悠樹と簪は同じ部屋だったりする。カナが面白そうだからとそうしたらしい。いや、確かに面白そうではあるが、悠樹に言わせると「やべーっすよ、毎日が簪さんの可愛さの発見の連続でオイラの理性がマッハで削られてくっすよ」らしい。……よく分かるぞ、それ。俺もこの約一ケ月で何回本能に任せてカナを襲ってしまおうかってのを考えたか。
まあ、お互いが意識しているし、これからどうなるか楽しみだな。
「そういや、カナ」
カナを後ろから抱きしめて座っている俺は抱きしめられているカナに話しかけた。
「何?」
「鈴ってどれくらい強いんだろうな」
「うーん……私も生で見た事は無いから何とも言えないけど、たった一年で頭角を現して専用機持ちになったんだから、才能はあると思うわ。まだ、発展途上だろうけど」
「発展途上なのは仕方ねえだろ、まだ学生なんだし」
「そうね。ここで終わりと自分で決めなきゃ伸びる余地は十分あるわね。ISも出来てまだ浅いんだから」
我が家の家訓であり、新星インダストリーの社訓の一つに「いつも心に
つまり、どんな道だろうが自分の選んだ道を突き進め、たとえそれが未踏の道でもって事。その心を持って前に進み続けていれば限界なんてない。俺はそう思う。……まあ、親父は「限界? んなもん、ぶっ壊すだけだ」って言ってたし、悠樹は「限界はあるかもっすけど、それをどうやって超えるのかが楽しいんじゃないっすか」との事。……なんだかんだ親子だよなあ、俺達。
「ま、一つ言えるのはウチのクラスがクラス対抗戦での優勝が厳しくなったってだけだな」
一組から四組までのクラス代表で、専用機持ちは現在、一夏だけ。代表候補生は簪とマリア。この状況だけで、三組は可哀そうだがかなり厳しい。機体性能的には圧倒的に一夏有利だが、実力なら簪とマリアの方が上だ。簪とマリアの専用機が間に合うかは分からない。だから、勝敗の予想が難しいというのが昨日までの状況。
しかし、今はマリアが抜けるものの二組に専用機持ちである鈴が代表代行に、四組は完全な完成とまではいかないがひとまず戦えるくらいまで『打鉄新式(仮)』が出来そうなので簪も力を発揮できる。優勝候補が二組、四組に絞られたと思う。ひっくり返すには……一夏がどこまで伸びるかだろうな。まあ、優勝クラスの賞品である半年間のデザートフリーパスに興味は無いからどうでもいいけど。
「しかし残念だな~」
「何が?」
「一組が優勝したらイサムに甘い物奢ってもらおうって思ってんたんだけど」
「二年は無いのか? ってか、デザート位なら奢るぜ。社会人として給料もらってるし」
「それはまた今度お願いしようかな。で、フリーパスの事なんだけど、上級生は『新しい学年、クラスの実力、団結力を測る』っていうクラス代表戦の意義もちゃんと理解してるからね。そりゃ、賞品が出ればよりやる気にはなるでしょうけど、無くても、クラス内で団結するし大丈夫なのよ」
なるほどね、半年間のデザートフリーパスはそれを餌にして一年生のやる気とクラス内の団結を伸ばすためなんだな。……となると、
「一組は難しそうだな。異物の俺等がいるから」
クラス内での団結という意味で多分、賞品への温度差が俺達男子とそれ以外の女子であると思う。一夏には半年間の定食フリーパスとかの方が良い。ここの食堂、女子高だから量少ないし。俺や悠樹は大体、定食+一品って感じだし、一夏もそれに近い。俺達は会社からかなりの給料を貰ってるから懐は痛まないけど、普通の高校生の一夏にはちょっと厳しいと思う。
後、女子同士の団結力は凄いからな。その辺は男子同士の絡みが好きな女子たちのターゲットになっていた美星時代に感じてる。
「まあ、織斑君中心で纏まれば良いと思うけど、それでも女子同士の団結よりは弱いわね~。だから、個人的な予想としては優勝候補筆頭は二組。機体と乗り手の総合力を考えたら妥当な所でしょ」
「簪とは言わないんだな」
「いくら簪ちゃんでも、受領してすぐの機体で勝てるほど甘くないわよ。オルコットちゃんと織斑君の試合とは違うんだから」
まあ、お互い代表候補生って分かってるから手抜きは無いだろうな。一夏とオルコットの試合の結果がああなったのはオルコットの慢心が問題だし。
「後、多分マリアちゃんが会社に行くまで鈴ちゃんのコーチするでしょ。クァドラン借りやすいし」
クァドラン不人気はここでも如実に出ている。しかし、クァドランユーザーのマリアに言わせれば「借りやすくて、性能も良くて訓練も積めるのに何で見た目だけで決めるのかが分かんないよ。皆IS乗りになるためにここに来てるのにもったいない」らしい。まあ、そんだけ意識の高い学生が少ないってこったな。
「それにマリアちゃんは天才型だけど、天才型らしくない感じだし」
「ああ、思考の飛び越えが無いからか」
天才型独特の物に『過程をすっ飛ばして、答えを得る』というのがあると思う。何故出来るかという物の答えが出来たからって奴。『名選手が名コーチになるとは限らない』っていうのはここから来てると思う。俺や悠樹はこれがよくあるし、カナもある事らしい。まあ、これが出来ても体に染み込ませるには反復練習がいるけど。
それはそれとして、マリアもこういうパターンが多いのだが、彼女の場合、その後に何故出来たかをしっかり考えて答えを出す。「出来るようになったから出来る」と思考停止せずに過程もちゃんと求めるタイプなのだ。
これのおかげでマリアは物事を教えるのが上手い。(逆に言うと、出来るから出来るで終わらせる俺は教えるのが得意ではない)
「多分、七人姉妹の長女で常に教える方に回ってたから、自然とそうなっていったんだろうな」
「教えるのは過程を自分で理解してないと難しいからね。それ以外にも色々あるけど、マリアちゃんは良いコーチになるわよ」
「だな」
カナの太鼓判もあるし、俺自身もそう思う。
あくまで個人的な考えだけど、マンツーマンのコーチに必要な物は教える技術も当然だけど、それにプラスで根気と面倒見の良さだと思う。特にこういう対価が無い場合だとなおさらだ。
マリアは小さい頃の環境からそれを自然と身に着けて言ってると思う。
「それにマリアの能力は指導力含めてミセス・ヴァルキリーのお墨付きだからな」
「いや、娘さんだけど……」
「それぬきでのミリアさんとジェシカさんの評価。後、アメリカの今の国家代表が格闘型だからな。射撃部門の方の代表に選ばれるのは時間の問題じゃねえの」
新星インダストリーに所属するIS操縦者は基本的に身内や地元の子で適性と体力テストで絞られた後、二か月の訓練を経て正式決定する。これが大体中学1~2年の事。その後は美星に通いつつ、ウチのテストパイロット達(ミリアさんに育てられたジェシカさんを筆頭とした国家代表レベルの精鋭揃い)に師事する。
マリアは選ばれた後、家庭の事情でアメリカに渡ったのでアメリカ支社内の施設でマリアさんのマンツーマンの訓練をする、世界中のIS乗りからしたら垂涎の環境で過ごしていた。さらに、ミリアさんの要請でジェシカさんも出向いていたのだから、経験値が段違いだ。
これに合わせて、割と早い段階でアメリカの代表候補生になったので、同年代や下の子に自分が色んな人に教わって来た事を教える機会も多かったらしい。
父親のマックスさん経由で聞いた話では現アメリカ代表を含め、何人ものIS乗りを育成してきたミリアさんが「人に教える事に関しては私以上かもしれない」と言ってたらしいし。
「まあ、練習を見てた限り、現状一年最強の一人でしょうね。というか、今はイサムとマリアちゃんの二強ね」
「俺がその一角かどうかは置いておいて、マリアが最強候補なのは同意だな」
「ま、イサムのはIS乗りの強さとはちょっと違ったものだしね。純粋にIS乗りの技量ならマリアちゃんがトップね」
俺……というより俺と相棒の強みは超音速の世界の経験からの高機動戦闘。それもただの高機動戦闘じゃ無くて相棒にしかできない、変形機構を活かしたトリッキーな物だ。人型と飛行機型の違いはあるけど、根本の機動力を生かして有利な状況を作るというのは変わらない。基本戦術の一つの高速移動時の衝撃で体勢を崩させるのもその一環。相棒はそれだけじゃなくて、派手な高火力技も持ち合わせる頼りになる奴だけどな。
そんな事を考えていたら、ドアがノックされた。多分悠樹と簪が来たんだろう。
「もう、こんな時間? やっぱり、イサムと二人っきりの時間はあっという間に過ぎるわね」
確かに。もうちょっと、いやもっと続いてほしい所だ。まあ、これは俺のわがままだけどな。
「ま、今はこんだけってだけだろ。放課後も夜も、これからずっと二人っきりの時間なんていくらでも出来るだろうさ」
「……そうね。それじゃ、行きましょうか」
半年前の俺はまさか、卒業してすぐまた高校生活をするとは思ってなかっただろう。
ISを動かした直後の俺はめんどくさい事になった人生を呪った。
でも、今の俺にそんな気持ちは全く無い。ここで出会えた新しい友人、大切な弟にも迎えそうな春、そして、長年想い続けてきた人との再会と想いの結実。それだけで十分だと言える。
さて、この日常を楽しみますか。
いつも通りカナ、悠樹、簪と朝食を済ませた俺は道中でカナと簪の二人と別れて悠樹と一緒に教室に向かった。
「そういや、昨日の夕飯の時もちょっと話に出てたけど簪の機体の方はどうなんだ?」
「今日明日中にはパーツが全部届くっす。それをオイラ、簪さん、本音さん、黛先輩、布仏先輩の5人で今週中に突貫で組み上げて、来週出来る限りのテストって感じっす」
「かなりの強行日程だな」
「ま、70時間は寝なくても大丈夫って兄貴の機体を作った時に気付いたっすから。後、技術者としてぶっつけ本番ってのは許せないっすし」
「俺には絶対無理だな」
短時間睡眠でも大丈夫だけど、徹夜は無理。体が持たん。そういう意味では連日徹夜しても平気な悠樹は凄いと思う。羨ましいとは思わねえけど。
「身長伸びねえぞ」
「……170超えたんで別にもう良いっす。兄貴位とは言わなくてももうちょい欲しいとは思うっすけど」
「なら、早寝早起きしろ」
「ですよね~」
高校に上がるまで9時寝、6時起きの9時間睡眠というとんでもなく規則的な生活をしていたおかげで今の体があると思う。
「で、でも! まだ、諦めるのは早いっす!」
「……お前の二つ上のルカ、高1で身長の成長止まってるからな」
「現実は非情っす……」
ルカ―俺の後輩で航空科で技術者とパイロットの二足の草鞋を履く変わり種、ルカ・アンジェローニ―はやりたい事が多くて中学時代から生活リズムの悪い生活をしていたせいか、割と早く身長が止まってしまった。まあ、それに関しては個人差って所だと思うけどな。
「ま、無茶すんなってこった。ぶっ倒れたら、簪が責任感じて自分責めるだろ」
「そうっすねえ~気を付けるっす。自分の体の限界を把握できないのは二流だと師匠たちにも言われてるっすし」
健康は何かを為すための最低限の条件。自分の状態を把握できない人間は一流とは呼べないって事だな。逆説的に自分の限界が分かれば、全力で動き、全力で休むっていうメリハリも付けれるしな。
「おはよー、いーさー、ゆーゆー」
教室に入った俺達に朝の挨拶をくれたのはクラスで一番付き合いのある本音。
「おっす、本音」
「おはようっす、本音さん」
「二人とも大体この時間だね~」
「俺は悠樹任せだからな」
「出来る限り同じ時間に起きるようにはしてるっす。規則正しい生活っす」
「かんちゃんとゆーゆーがするべき事は、同じ時間に起きるじゃなくて、早めに寝る事だと思うよ」
本音はよく悠樹と簪の部屋に遊びにいっているので、普段どのような感じか良く知っている。
「言い返せないっす……。なんか、朝から憂鬱っす……」
まあ、本音の言う通りだから俺がフォローできないのは仕方ない。
「そういや、クラスがなんかいつもより賑やかな気がするけど、何かあったのか?」
「転校生が来るから盛り上がってるんだよ~」
転校生……ああ、鈴の事か。ってか、転校生で盛り上がる意味がいまいち分からん。
人の気質って言うのはそれぞれだから一概には言えないけど、転校してきての悪目立ちに関しては、大体の人が望んでないと思う。何事もほどほどが良いのだ。
まあ、俺のカナへの愛は無限大なんだけどな。
「なるほど~鈴さんの事っすね」
悠樹がそう言うと、丁度教室の前の入口に鈴が現れた。その横にはマリアがいる。どうやら宣戦布告らしい。
「こういうのは遠くから眺めてるのに限るな」
「そうっすね~、関係者より傍観者っす」
「そっちの方が面白いよね~」
物事の中心に入ると面倒な事は今まで生きて来て分かってるから、この学園生活を楽しむためにただ、見てるだけで居たい。
まあ、生まれ変わってからという物、大概面倒事に巻き込まれてきてるから、今回もまた巻き込まれる気がしてるんだけど……。
クラス代表戦へ向けての現状の戦力分析の回でした。
ちなみに、マリアがあのまま出場した場合優勝します。ISの訓練の質・量とも現状の一年生とは比べものにならない環境に居たので。
後書きで纏めておきます
一組 機体性能的にはかなり優勢。一夏がどこまで伸びるかがカギ。
二組 優勝大本命。機体、パイロット共に学年トップレベル。
三組 大穴中の大穴。パイロットは代表候補生なので一組よりもやや有利だが、それだけ。
四組 パイロットの方は学年トップレベル。機体の完成度と習熟度がカギを握る。
一組と四組は問題が対照的ですね。
次回はゆるい会話回を予定しています。また間隔が空くかもしれませんが、お楽しみに。