鈴が転校してきた日の放課後俺は部屋でのんびりしていた。生徒会の仕事が無かったのと、IS学園に来てから訓練漬けの日々だったから虚から「一日位ゆっくりされては?」と言われた。
体を動かすのは好きだし、せっかくISにも乗れるから訓練も苦じゃない。それにカナを始めとした紹介してもらった二年、三年の代表候補生達は、その先の国家代表やモンド・グロッソに向かって真っすぐに努力しているからそれに協力できるのも嬉しいからついつい付き合ってしまう。
まあ、確かに我ながら頑張っていたと思うので今日は休む事にした。休養も大事だ。
「ってか、兄貴も先輩も人前でいちゃつき過ぎじゃないっすか?」
「そうか?」
「その状態を見たら誰でもそうやっていうと思うよ」
その状態というのは座っている俺の膝にカナが座り、後ろから俺が抱きしめている状態の事を言っている。
「気にしない気にしない。大体これがデフォルトだから」
プライベートな空間である寮の自室では大体こんな感じでくっ付いている。最近はそろそろ歯止めが利かなくなってきて割と学園内でもくっ付いているけどな。
それが理由で薫子やフォルテに「この桃色空間製造機共が!」と言われちまったけど。
「まあ、それに身内だけだからな」
「それもあるわね」
「そういう問題じゃないと思うよ……」
あ、そうそう。悠樹と簪の二人が俺達の部屋にいるのは単純に二人も虚に「休みなさい」と言われたから。姉である事と従者である事から、周りへの気遣いが上手いと思う。
「そういや、クラス代表戦の翌週っすけど、IS学園ってちゃんとゴールデンウィークがあるんすね」
「祝祭日は日本のを採用してるからね」
ちなみに、IS学園のゴールデンウィークは五月最初の週の土曜日から次の次の日曜日までの九日間。ちょっとした大型連休だ。
「まあ、二年以上はただの連休だけど、一年生は恐らくほぼ初めての寮生活+新しい事が怒涛にやってくる生活だから、実家でゆっくりって目的もあるわよ。留学生の事も考えてこれだけ長くなってるのよ」
確かに今までの自分の事で思い返して当てはめれば、進学して一月は新生活で覚える事が一杯あるし、環境が変わるから普段よりは疲れると思う。だから始まって一月でしっかり休んで、英気を養うのは良い事だと思う。
「別にホームシックとか無いっすし、オイラは寮でのんびりしてましょうかね~」
「それも一つの考え方ね。真面目な子だと、普段よりアリーナの予約やISの貸し出しが少ないから訓練に当てたりするし。というか、去年の私がそうだったし」
……多分、仲たがい中の簪と会いにくいとかそんな感じだったんだろうと一年前のカナの心情を想像してみる。
「私もお姉ちゃんに追いつけるように少し頑張ろうかな」
「私達はどうする?」
「遊びに行くか。デート行った事無いし。世間で言う所のゴールデンウィークが終わってからならどこもかしこも空いてるだろうし」
ちなみに、今年の世間一般のゴールデンウィークでIS学園特有の連休に掛かってるのは最初の土曜日から火曜日まで。だから、水曜、木曜辺りは狙い目だと思う。
「良いね! どこ行く?」
「どこでも。つーか、俺この辺のスポット詳しくねえし、カナに任せるわ」
「それもそうだね~。分かった、考えとくよ」
「頼む。足なら用意できるから」
「そういえば、アリーナに二輪も四輪も持って来てたっすね~」
実はアリーナの地下に俺の車とバイクが置いてある。十六と十八になってとっとと免許を取っておいたのだ。……元々会社の私有地でガキの頃から遊んでいて、その一環で乗り回してはいたんだけどな。
んで、免許を取った後もなんだかんだ乗り回していたのでペーパーではない。
「そうなの? ドライブデート、バイクに二人乗り、あえて何処かで待ち合わせ……色々出来そうだわ」
「……そういえばお義兄ちゃんって今年で十九だから、免許持っててもおかしくないんだね」
まあ、普通の感覚したら年上の同級生が高校に居るのって結構変な感覚だろうしな。これが大学だと少し変わって来るんだろうけど。
そんな事を考えていたら、部屋のドアがノックされた。
「オイラが出るっすよ~」
何故か悠樹がそう言って部屋のドアに向かった。確かに入口に一番近かったのは悠樹だったんだけど、一応ここは俺とカナの部屋なんだよなあ。
「兄貴と先輩にお客さんっすよ~」
「いや、そりゃそうだろ。ここ俺等の部屋なんだからさ」
「……でも、お義兄ちゃんとお姉ちゃんのどっちにもって言うのは珍しいんじゃない?」
確かに。カナの友人は紹介してもらったけど、来るならカナに用があるからなあ。例外は取材のための薫子位だろう。最も俺達二人に用がありそうな感じなのは今この部屋に居る二人だし、虚と本音の二人は本音が勉強を教えて欲しいと言ってたからこないはずだ。
「おじゃましまーす」
凄く聞き覚えのある声と共に部屋に入って来たのはマリア。そしてその後ろには鈴という一年二組の代表候補生コンビだ。
「ま、適当に座ってくれや」
「……って、何イチャついてるのよ!」
おお、こういうツッコミ久しく聞いてなかったな。
「鈴、気にしちゃダメだよ。イサムと先輩、大体こんな感じだから」
「そうっすよ、言っても無駄っす」
「気にしたら負け。それに、こういう物だと思えば気にならない」
「……アンタらは毒されてるのね」
んだよ、人を有害物質みたいに。俺等は無害だろ。
「で、二人は何の用なの?」
「えーっと相談で……」
ここから鈴時々マリアが説明をしていく。
今日の放課後、鈴は一夏の部屋に乗り込んだらしい。理由は篠ノ之さんに部屋を変わってもらう為。
まあ、一夏に寮監が千冬さんと聞いて、それは諦めたらしいが。
その後、鈴は一夏に昔した約束を覚えているか聞いたらしい。一夏はそれを間違った意味で覚えていて、それに鈴は涙を浮かべながらキレた。一夏をひっぱたいて部屋に戻ったらしい。
んで、同室のマリアに話して、マリアが一番そういう事で相談に乗れそうな俺達の所に来たという訳だ。
「鈴ちゃん、その織斑君が間違えて覚えていた約束って言うのは何なの?」
「『私の料理が上達したら、毎日酢豚を食べてくれる』っていうので……」
……それはつまり、
「「「「プロポーズだな(だね)(っすね)」」」」
マリア以外の俺達四人の意見は一致した。
所謂定型の『毎日味噌汁~』のアレンジだな。
「皆分かるのに、どうして一夏は分かんないのよ! 何よ奢ってくれるって!」
再び怒り爆発の鈴。まあ、勇気を振り絞っての言葉が間違ってとらえられていたんだから仕方ないだろう。
「でも、何で酢豚なんっすか?」
「一番得意だから」
「だけど、それが勘違いの理由だと思うんっすよ」
どうやら悠樹には思い当たる節があるらしい。
「どういう事? 悠樹君」
「これはあくまでオイラの意見っすけど、味噌汁うんぬんがプロポーズとして成立するのは、テンプレの和食の朝食に味噌汁が欠かせないのと、そこから、まだ毎日食べれそうな物な事と、出来立ての味噌汁の香りで起きたり調理音で起きるのが、日本の家庭の朝を思い浮かばせるもので、それを毎日だからプロポーズになるんだと思うんす。それを酢豚に変えたらインパクトはあっても当初の意味合いからはずれると思うっす。特に、何年も経ってると酢豚が残って毎日の部分が抜けた可能性もあると思うっすよ」
まあ、悠樹の言葉にも一理あるように思う。しかしだ……
「言葉は兎も角として、正直、雰囲気やらで気付けると思うんだよなあ。普通なら」
これが俺の率直な感想である。
「経験者は語るって奴だね。私の時もそうだったの?」
「まあな。流石にエスパーじゃねえからはっきりとは分かんねえけど、なんとなく察する事は出来るもんだと思うぜ」
思春期なんだから男子も女子も告白に憧れを持つだろうからシチュエーションを大切にすると思うし、その場での一挙手一投足で気付くと思うんだけどな。
「私もそう思うわ。だけどね一夏は皆が想像している20倍は鈍感なのよ……」
20倍(鈴調べ)ねえ……。さっきのだってちょっと言い回しは遠回しだけど、気付けない範囲ではないから鈴の言葉は事実なんだろう。
「でも、それなら選択肢は一択じゃない? ど真ん中ストレートで突っ切るしか」
「だな」
「……『付き合ってください』って言って『良いぜ。で、何処に買い物に行くんだ?』って聞く奴に?」
「それなら、そっからさらに押すだけだろ」
「そうね。結局は恋愛に関しての一番の解決方法は勇気を出して想いを伝える事なのよ」
その前に相手の好感度やらも居るかもしれないけど、一夏に関して言えば話を聞く限りだと恋愛対象という考え方があるか怪しい。だからこそ、まずはストレートに告白してそういう意識を持たせるべきだと思う。
「それは、お姉ちゃんたちの経験談?」
「そうよ。イサムがISを動かせるって知って、私は試験の会場に会いに行って想いを伝えようとしたのよ」
「俺はその場で再会した時に言おうって決めたな。んで、カナに先手取られそうだったから、割り込んで言ったよ」
「鈴ちゃんも織斑君に会いたくて、編入してきたんでしょ? なら、待つだけじゃなくて動かないと」
命短し恋せよ乙女ってな。折角一緒の学園生活が出来るんだから、はっきり伝えねえともったいないよな。
「……少し考えてみる」
「それで良いんじゃない? こういう事は人それぞれだろうし」
「だな。……頼ってもらったけど、人並みな答えしか出せなくて悪いな」
「逆に経験者がこういうシンプルな答えをくれたから、かなり参考になったわ」
そう言って貰えると良かったけどさ。一応、年上として経験者としてもっと的確な事言えたら良かったんだけどな。
「それじゃ、家族の時間を邪魔しちゃ悪いし、お暇しよっか」
「そうね」
そう言って二人は帰っていった。
確かに、二人の言う通りここには二家族いるけど、あのマリアの意味深な感じだとそうとってない気がするんだよなあ。……俺が思ってる通りなら、気が早すぎだろ、アイツ。
そんな事を考えていると、俺の携帯に着信が入った。ちなみに俺の携帯の着信音は電話が『Fire Bomber's introduction』、メールが『My soul for you オルゴールバージョン』になっている。
って俺の趣味は置いておいて、電話の相手は……親父?
「悪い、親父から電話が入った。ちょっと席外すわ」
そう断りを入れてからベランダに出た。
IS学園の寮の防音設備は結構しっかりしている。流石に、部屋の中での大音量で音楽を鳴らすとか非常識なレベルは無理だが、普通の生活音程度ならしっかりシャットダウンしてくれる。
特に外の音への防音に関しては気を配られている。寮からそれほど離れていない距離にISのアリーナが存在するから。部活だったり訓練だったり勉強だったりでISが動いている時間に寮に居る生徒は少数派だろうが、それでも、体調を崩して自室で休んだりする事もあるから、一番気を使っているらしい。
「もしもし、親父、何の用だ?」
『おいおい、息子に電話掛けちゃいけないのか?』
「そうは言ってねーだろ。夜や朝なら兎も角、仕事中だろ」
現在四時半を少し過ぎた所。どんな会社でも、仕事中の時間だ。
『今日はたまたま休みだったんだよ』
「なら良いけどさ」
『悠樹は元気か?』
「元気だよ。ついでに言っとくと、あいつに春が来たかもしんねえ」
実を言うとさっきの鈴の相談の時の言葉は、悠樹と簪への後押しの言葉でもあった。多分、カナも俺と同じ考えがあったと思う。
『なら、今度電話で聞いてみるか。それで本題だが、ゴールデンウィークに予定はあるか?』
「今のとこ、世間一般のゴールデンウィーク中は無え。人混み多そうだから、適当に過ごす予定だけど……なんかあんの?」
『実はな……お前がガキの頃、俺の古くからの友人の娘と大きくなったら見合いさせてみようって話が合ってな』
「はあ⁉」
大声を出した俺は悪くない。あんな事いきなり言われたらこうなるだろ。
「クソ親父、ふざけてんのか!」
俺が彼女いるのは知っているはずだ。フォッカー隊長やイワノフさんが飲み仲間だから。
『至極真面目だ。まあ、親父みたいなものだから会うだけで構わん』
つまり、顔合わせだけで良いって事だ。
「……チッ、親父の顔を立てる意味でも行くだけは行く。だけど、気分を悪くするクソ女だったら、速攻で帰るからな」
『構わねえよ。ってかそんな奴だったら、俺も速攻で帰るわ』
流石は俺の親父。その辺は俺と同じだわ。
「んで、何時なんだ?」
『一応、土曜日を予定してる』
「了解、細かい予定なんかの詳しい内容は後でメールでも入れてくれ」
『あいよ。ま、お前も二度目の高校生活楽しめや』
それだけ言って親父は電話を切った。
……言われなくても楽しんでるつーの。
「あっ、お帰りイサム」
「おう、ただいまカナ」
俺が心の底から愛する人と一緒の高校生活なんだからさ。
どちらかと言うとクラス代表戦後の伏線となるお話でした。そこまで行くのはいつになるか……。
とりあえず、一月に一回は更新できるように頑張ります!