兄貴達の部屋で鈴さんの相談を聞いた日から数日後のいよいよクラス代表戦が目前に迫って来たある日の事、オイラは特設アリーナにある第二開発室に居た。
ここはオイラがIS学園に来る事になった事で急遽整備室の近くに作られた新技術だったり、新装備だったりを開発する所で、原則オイラ以外は立ち入り禁止になっている。
ちなみに、第一開発室の主は今本社に帰っているアイシャ。こっちも基本的にはアイシャ以外は立ち入り禁止になっている。
ただ、今日はオイラ以外に一人入ってきている。
「……なんか凄く一杯あるね」
「本社でやってた開発や研究の中で特に自分の中で優先順位の高いものだけ持って来たつもりだったんすけどね~。気付いたらこんなになってたっす」
この部屋の中を見る限り、技術系の専門書だったり、色々な設計図だったりと沢山の本と紙で空間が占められている。
「片付けないと駄目だよ?」
「昔から片付け、苦手なんすよ……。と、とりあえずそこの椅子に座っていて欲しいっす」
簪さんからの追及を誤魔化し切れたと信じて、オイラは彼女に座る事を勧めた。
「それで、今日私を呼んだって事は……」
「お察しの通り、簪さんの専用機が完成したっす」
「……無理した?」
「……してないっすよ? 部屋には戻ってなかったっすけど、仮眠は取ってたっす」
「嘘、隈出来てる。いつもより顔色も良くないし」
「ゴメンナサイ、五日寝てません」
……なんで、すぐばれる様な嘘を吐くのかねえ。
「自己管理は出来てるかもだけど、無茶は止めてね」
「分かったっす」
心配は掛けたくない。……というより、心配そうにしている簪さんの顔を見たくない。
「それじゃ、早速現物を見てもらうっすよ。ポチッとな」
オイラは手元にあったスイッチを押す。すると、床の一部分が開き下がせり上がってくる。
実はこの開発室、地下にもスペースがあって主に作業するのはそっちになっている。下のスペースが整備室と扉一枚で繋がっていて、そっちにも直接行けるようになっている。今回、こうしたのはこの方がカッコいいかなと思ったから。
床からせり上がって来たのは普通のISより装甲が多め……というより頭部以外は装甲なので、どことなく鎧ぽさを感じさせる機体。
「これが打鉄弐式改め、打鉄
「全身装甲じゃないの?」
簪さんがそう聞くのはウチの機体が全て全身装甲だから。当初の設計案でもその予定だった。
「頭部を省いたのはそこを付けちゃうとハイパーセンサー頼りになっちゃうのがちょっと気になったんすよ。肉眼の視覚情報やそれを見た感覚的な物も大切だと思うっす。。まあ、もし必要だったらすぐに改造するっすけど」
日進月歩の技術の世界に身を置いているオイラにとってはハイパーセンサーすら誤魔化すジャマーや光学迷彩が開発される可能性は多いにあると思う。そうなると視覚情報をハイパーセンサーに頼るフルフェイス型の全身装甲は不利だ。だから今回は頭部だけを付けなかった。
「ちゃんと理由があるんだったらいい。……やっぱり、全身装甲の方がカッコいい」
簪さんも日本代表候補生の練習の時はクァドランを愛用していたらしい。理由は扱いやすさとカッコよさ。後者の理由でオイラが再設計する時に全身装甲でと注文された。……師匠たちと相性良さそうなあ。
「全身装甲がカッコいいのは同感っす。さて、フォーマットとフィッティングをしながら機体の説明をするから、乗って欲しいっす」
「分かった」
そう言って簪さんは打鉄颶風に体を預ける。オイラは手元の端末でちゃんと進行しているかを確認してから説明のためのモニターを彼女の前に出す。
「まずは元々の打鉄弐式が防御型の打鉄から、機動力を生かした回避型へ移行した第三世代高機動万能機をコンセプトにしてるってのは簪さんもご存じの通りと思うっす」
「うん」
「だから、そこを徹底的に昇華した形にしつつ、従来の打鉄にも負けない防御力を与えるというのを目標にしたっす」
「……結構無茶苦茶」
「オイラもそう思うっす」
しかし不可能を可能にしてしまうのが世界最高の技術者集団を抱える新星インダストリーだ。
「まず、防御面は兄貴のエクスカリバーのアーマードパックに使われていたエネルギー転換装甲を採用したっす。レアにも正式採用されたし、エクスカリバーも換装予定のこれで、打鉄以上の防御力があるっす」
「アーマードの試合を見たけど、あの防御力は凄い」
「流石にあそこまでの防御力は無いっすけど、普通にISで使う手持ちの火器程度なら通さないっすよ。インパクトカノンは流石に厳しいっすけど、何発かは耐えれるっすし」
レアより、機動力に振ってあるからレア程の防御力は無いけど、それでもエクスカリバーレベルの防御力はある。
「次に機動面っすけど、トップスピードは現行機最速っす。流石に変形したエクスカリバーは別格っすけど、デフォルトでラファールやらそん所そこらの第三世代機の高機動パッケージと互角にやれるっすよ」
ちなみに、現在IS界最速のテンペスタは大体マッハ1,5で人型のエクスカリバーも同じ位。対する颶風はマッハ2にまで及ぶ。流石に変形したエクスカリバーのマッハ4は超えれない。まあ、これは何もない直線で出せるスピードで実際、試合になったらそこまでのスピードを使う事なんてないと思うけど。
はっきり言えるのは
「って事はもしかして、超高感度ハイパーセンサーもデフォルトであるの?」
「もちろん。普通は高機動パッケージと共にインストールする物らしいっすけど、ウチの新作のハイブリットハイパーセンサーでいつでも切り替え可能になってるっす」
ウチの会社で作られているISは軒並み全身装甲で顔を隠してしまう。だからより能力の高いハイパーセンサーの開発は新型機の開発と共に重要な部分を占める。今回搭載したハイブリットハイパーセンサーもその一つ。
「それは便利。たまに試合中にこういう時に超高感度のハイパーセンサー使えたらと思う時あるし」
それは兄貴を除く専用機を持った皆が言ってたなあ。兄貴は『超音速の中で弾幕の雨を潜り抜けるのが俺の仕事だぜ? 有るに越したことはねえけど、なくても何とかなるさ』と言っていた。……感覚の違いって怖い。
「武装は『夢幻』はそのまま採用させてもらったっす。『春雷』は撤廃して『流星二式』にしたっす」
「二式って事はお義兄ちゃんの流星一式の改良型?」
「改良型よりは簪さんにあった別バージョンって所っす。一式はエクスカリバーに合った通常時の連射力とバースト時の威力の二つに絞ったっす。今回の二式はその二つは一式に劣るっすけど、ショットガンみたいに拡散させたり、某ゲームの様に着弾したら爆発したり、重力に任せた曲射が出来たりと応用性を重視してみたっす」
「私の使い方次第で色々名ことが出来るって事だね」
「そうっす」
多分、正式に売られるとしたら、連射か集束の一点に絞って扱いやすくしたものだろう。だけど、今回は簪さんの専用機。オンリーワンの性能の方がそれらしいだろうし、意表を突ける。
意表を突ける攻撃って言うのはISの試合に置いてかなり重要だと先輩達は言う。二式も扱い次第では金星を生む原動力になるとオイラは思う。
「武装の目玉である『山嵐』はウチの戦闘機に採用されているマルチロックオンシステムをイメージインターフェイスに対応させた物を使っているっす。長年磨き上げて来たものっすから、信頼性は抜群っすよ」
「長い間ベストセラーの物なら扱いやすいよね」
そもそも、マルチロックオン自体はそこまで新しい技術ではない。普通にイージス艦や戦闘機にも搭載されている物だから。なら、何が難しかったかというとそれをISに落とし込んで第三世代兵装に昇華するのが難しかったのだ。幸い、イメージインターフェイスのデータもレアとエクスカリバーのお蔭で沢山あったし、件の二機には簡易的なイメージインターフェイスを使用したロックオンシステムを搭載していたから、それを活かせばゴールはすぐそこだった。
「で、倉持案の山嵐は最大12発×4基で48発だったっす。だけど、オイラが作った山嵐は最大24×4基のマイクロミサイルポッドで最大発者数は96発っす」
「……やりすぎ。だけど、まさしくミサイルの嵐を起こせるね」
「起こせるっすね~。それで最後に……」
「まだあるの?」
これで終わりだと思っていたらしい簪さんが驚きの表情を見せる。これで終わりなら打鉄弐式新星案みたいな物。+αが無ければ颶風の名前を付けれない。
「あるっすよ、オイラオリジナルのとっておきが。それはISC」
「ISC?」
「Inertia Store Converter、訳すなら慣性蓄積コンバーター。絶対防御で防ぎきれないレベルの機動慣性を一回異次元で貯めこんで何もない時に少しずつ空間に還元させる事で秒数に限りはあるっすけど、無茶な機動をさせるものっす。今回颶風に搭載させたものは試作品で1分が限界っすけど。現行のISを超える速度を持った颶風にならピッタリと思って載せたっす」
「……とんでもない技術。でも、どうして私に? お義兄ちゃんやマリアじゃダメだったの?」
「それは……」
ISCを搭載したのはちょっとした種をまいただけだった。簪さんはそれに気付いた。なら……考えていた通りに行きますか。
「オイラ自身の為っす」
「悠樹君自身の?」
「そうっす。元々ISCはオイラが小さい頃考えてた誰でも宇宙へ行ける宇宙船の為の物だったっす」
ISが発表された頃のオイラの夢が「宇宙へ行きたい」だった。と言っても現状で宇宙に行くには限られた人しか行けない。様々なネックがあるから。ISCで乗っている人たちの負担が減ればいずれ子供からお年寄りまで宇宙旅行を楽しめる船が完成するとオイラは信じている。
「その夢の為?」
「それもあるっすけど、一番大きいのは……」
「大きいのは?」
「それを簪さんに一番近くで一緒に見ていて欲しいと思ったからっすね。オイラは簪さんの事が好きだから」
「…………えっ?」
たっぷりの間を空けて反応する簪さん。その顔は真っ赤。多分、オイラも同じぐらい真っ赤だろう。
「多分、会ったその時から簪さんの事を心の何処かで好きになってたと思うっす。でも、それは地面に植えられた種みたいに表面からじゃオイラ自身気付けなかったっす。だけど、日々簪さんと一緒に過ごして色々な簪さんを見ていてその種が芽吹いて大きくなっていったんす」
ここに来てからの何気ない日常。だけど、それの一つ一つがオイラの想いの花を咲かせる栄養であり、水であり、日光だったのだと思う。
「……ホントはこういう気持ちになったのも初めてだったから、もっと落ち着いて自分の気持ちに整理がついてからいうつもりだったんすけど」
「この前のお義兄ちゃんとお姉ちゃんの言葉が切っ掛けでしょ?」
兄貴と先輩が鈴さんに向けて言った言葉。先輩はどうかわからないけど、兄貴はオイラにも向けてあの言葉を言っていたと思う。
「そうっすけど……どうしてそれを」
「それは……」
このタイミングで初期化と最適化が終わる。簪さんは颶風を待機状態に戻して、僕に抱きついた。……ええっ⁉
「私も悠樹君が好きだから」
僕の目を見てストレートに告げられた彼女の気持ち。
「意識自体は最初からしてたと思うの。笑顔の方が可愛いなんて言われたのは初めてだったけど、その時はすごく嬉しかったから」
考えてみると恥ずかしい事言ってたなあ、オイラ。
「そこからは悠樹君と一緒。その日から今日までの日常の沢山の時間を一緒に過ごして、沢山お互いの事を知っていって、私の本当の気持ちに気付けたの。だから……」
嬉しかったオイラは手持無沙汰だった両腕で思いっきり抱きしめた。
「い、痛いよ、悠樹君」
「ご、ゴメンっす!」
謝って腕の力を緩める。
男子としては細いほうなオイラよりも簪さんはもっと細い。ちょっとした事で折れちゃいそうなくらい。
だけど、その心に秘めた自分の立てた目標に進んで行く熱量はそこからは想像できない位大きい。オイラはそんな簪さんを一番傍で見ていたい。……独占欲っすかねえ。
「とりあえず、今後ともよろしくっす、簪」
「うん、よろしくね、悠樹」
好きな人の名前を呼び捨てにするって実は少し憧れてた。オイラの近くに居るあのバカップルこと、兄貴と先輩、いや姉貴って呼ぶか。兄貴と姉貴が理由で。
「さって、今日はもう遅いし、帰るとするっすか~」
「そうだね。今日はもう二人でゆっくりしたいかな」
「りょーかいっす」
帰り道、オイラ達二人の後ろに伸びる長い影はいつもより近い距離で並んで歩いていた。それだけじゃない、その二つの影はある一か所で一つになっている。
まあ、それを見つかった兄貴と姉貴、虚さんと本音さんに冷やかされたんだけど。
というわけでめでたく弟妹カップルが誕生しました。
別題として「機体が紡いだ縁」なんて考えましたけど、このようになりました。
機体名について
本作の打鉄・弐式に代わる簪の専用機、打鉄・颶風の颶風とは風量を表す言葉です。
ISにはラファール、テンペスタなど風に関する言葉がいくつかの機体に使われていたのと、本作の新星インダストリー……というより、悠樹の手がけた機体のコンセプト的にスピード型になるなと思ったので風量を表す言葉の中で一番強い物を使いました。
次回は……完全に未定です。一応、まだクラス代表戦には行かないのは確実です。