最初の二試合は第一試合の一夏VS鈴は鈴が勝ち、第二試合の簪VSフィオーレは簪が勝った。戦前の下馬評通りとはいえ、観客の想像を超えていたらしく、俺の周りはざわざわしている。
「簪の実力は知ってたけどさ、鈴もかなりの物じゃないか? 一夏、割と押されっぱなしだったぜ」
割と押されっぱなしってのはかなりオブラートに包まれた表現で、正直、瞬時加速で一矢報いかけたくらいしか良いところなかったし。
「そうね。鈴ちゃんの実力も確かなものだったけど、それにプラスで的確な対策が出来てた事と開幕から積極的に攻撃して流れをつかめたことが大きいかしらね」
俺の横で見ていたカナがそう答えた。ちなみに、俺が角席でそこからカナ、薫子、本音、虚となっている。ダリルとフォルテは翌日以降にある自分達の方のクラス代表戦に集中するために来ていない。
「中国で開発された第三世代兵装の衝撃砲の見えない攻撃で織斑君は流れを失いましたね。どうやら、装備自体もかなりの完成度のようですし」
「ただ、威力不足は否めませんね。白式の防御力と減ったSEから考えるとクァドラン系なら牽制程度にしかならないですよ」
「でもそれは、裏を返せば他の機体相手には役に立つって事だよね~。全方位に撃てるらしいし」
技術系の生徒三人は第三世代兵装の所見を言い合っている。見えない、全方位撃てるってのは圧倒的な長所で威力が少々低いという短所は牽制用と割り切れば目を瞑れるのだけど、クァドラン系列(俺のエクスカリバーや簪の颶風も含む)の特徴の重装甲には分が悪いように思える。
「フィオーレちゃんはクァドランをチョイスしてたし、簪ちゃんの颶風も防御力はある方だからこれ以降は衝撃砲はメインというよりはサブウエポンになるでしょうね。だけど、甲龍はそれだけじゃないわ」
「だな。甲龍の本質は近距離パワー型。衝撃砲はいわば牽制技だ。本命はパワーと装甲を生かした殴り合いだろうからな」
甲龍はタイプとしては世代の違いはあるけど打鉄に一番近いか? まあ、厄介さは甲龍の方がはるかに上だろうが。
「思うんだけど、この組み合わせって不利有利はっきりと分かれてるよな」
俺はアリーナのモニターに移っている組み合わせ表を見てそう言った。この後の戦いは第一試合の勝者(鈴)VS第二試合の敗者(フィオーレ)、第二試合の勝者(簪)VS第一試合の敗者(一夏)となっている。
勝った流れは引き継がれるだろうし負けた流れというものは中々拭い去れないと思うから、簪と鈴、初戦に勝った二人がかなりのアドバンテージを得ていると思う。
「それはあるでしょうね。でも、総当たり戦は勝ち星計算の中での駆け引きが面白いんじゃない? モンド・グロッソの予選もそうだし」
これくらいの規模は分かりにくいけど、グループの規模が大きくなった総当たり戦だと2,3回の負けは取り返せる。実力が拮抗した状態だと、勝ち星の計算も入れた戦略を練る事だってできる。出だしが悪くても後から盛り返せるし、逆にスタートダッシュを決めた後、失速ってこともある。これは一発勝負のトーナメントには無い面白さだ。
今回も2勝1敗が3人出る展開になれば、トーナメントにはない総当たり戦の面白さが出てくる。
「そういう意味では簪と一夏の試合はかなり大事だな」
「そうね、鈴ちゃんとフィオーレちゃんの試合は十中八九鈴ちゃんが取るでしょう。それを考えるとイサムの言う通りだわ。……その辺、簪ちゃんも分かってるでしょうから、見物ね」
二回戦の私の相手は織斑一夏。……少し前の私ならば感情的になってたかもしれないけど、今はそんな事もなくかなり落ち着いている。
先にアリーナにアリーナに出て待っている。この間に少し考えを整理しておこうかな。
まず織斑君の機体『白式』は高機動格闘特化型。
ISの短い歴史上、格闘戦機体というのは高機動タイプをそのまま流用したものが多く、特化機体と呼べる物は一機しかない。それが織斑先生の専用機『暮桜』。コンセプト的にも乗り手的にも後継機と言えるだろう。性能的にもかなりの物だ。でも、織斑君は猪突猛進型。落ち着いて戦えれば勝機は十分ある。
「待たせたな」
対戦相手の織斑君が話しかけてくるけど、集中していたい私は無視する。というより、一応真剣勝負なんだから話しかけるのはどうかと思う。
『試合開始!』
アナウンスと共に織斑君は突撃してくる。
……近接ブレードしか無いから近付くのは分かるんだけど突撃だけだとあんまり意味が無いと思う。切り込むタイミングやフェイントでバリエーションを付けるとかしないと一本調子になっちゃう。そうすると、攻撃も読まれやすいし。
だから今回は弾速が速く、威力も申し分無いバレットで攻撃するのを軸にしていこう。
「簪の奴、上手いなあ」
簪と一夏の対戦を見ながらしみじみと呟く。
「本当ねえ。あそこまで突撃の為の加速の出鼻を挫かれちゃったら、攻めにくいわよ」
「一夏には動かす練習も必要だけど、立ち回りの練習も必要かもな」
簪が上手く攻め際を叩けているのも、一夏の攻撃がワンパターンだからだ。言ってしまえば全力で突っ込んで斬るしかできない。接近戦オンリーだからこそ色々と搦め手を使っていかないと勝てるようにはならない。
牽制用の射撃武器があれば楽なんだけど、それすらないとなると動きだけでバリエーションをつける必要があるだろうし、初心者の一夏には厳しい物があると思う。
「そうね。IS戦は剣道とかの武道じゃなくて選手それぞれが自分の得意な物で戦うから、立ち回りが十人十色だもの。格闘戦だけならより繊細な立ち回りが必要になるわ。個人的には格闘戦は覚える事は少ないけど、使いこなすのは難しくて、射撃戦は逆かしらね」
「というと?」
「極論なんだけど、格闘戦自体はISを動かせれば出来るわ。武器は振り回すだけでも当たれば良いんだから。それに比べて射撃戦は姿勢制御や基本的な機動、銃の特徴とか覚えなきゃいけない事が沢山あるでしょ?」
「確かに覚える事は多いな」
「けど、同じくらいに乗り始めた初心者同士ならほとんど射撃戦の方が勝つわ」
「まあ、射撃戦なら覚える事さえ覚えれば後は射撃の技術を上げればそれなりに形になるからな。ISの方もサポートしてくれるし」
あくまで形になるだけで、そこから腕を磨いていかないといけないのは変わらないけど。
「だけど、格闘戦は刻一刻変わっていく戦闘の中で逐一対応していかないといけないわ。射撃戦もそれはあるけど、格闘戦の方が圧倒的にウエイトを占めてるわね」
「自分以外の戦闘の要因が格闘戦の方がより多く関わってくるからな」
単純に言ってしまえば、射撃戦は「攻撃する事」と「避ける事」の二つの要素で説明できると思う。その二つを同時に遂行するのは中々ハードルが高いしそれが出来るようになったら結構な腕前だといえる。対する格闘戦はそれにプラスで「近付く事」が入る。「避けながら近付く」も出来ない事は無いけど、それでも射撃戦より要素が増えている事が変わりないから難しいと思う。
「だから、織斑君はそろそろ機動の基礎訓練に並行して自分と自分の機体に合った戦術、立ち回りを磨いていかないとね。イサムは教えないの?」
「頼まれてねえし、篠ノ之とオルコットが教えているからなんとかなるんじゃねえの」
「どうかしらね。格闘戦の立ち回りを教えられる人はあんまり多くないし。一番手っ取り早いのは、織斑先生に直接教えてもらう事だけど、先生も忙しいしね」
「なら、見て真似して覚えてくしか無いな」
そうしていく内に一夏と織斑先生の差が特徴として出てくると思うし。
「まあ、それよりも試合を楽しみましょ? もうすぐ決着も着くし」
試合ももう佳境。かなり順調にSEを削れている。試合としては織斑君が突っ込んでくる→私が撃ち抜き距離を取るがループで映像を見ているように同じような展開が繰り返されているけど、私からすると、白式の速度はかなりの物だし、そこからの攻撃は一撃で試合をひっくり返せると分かっているからずっと恐怖心がある。だけど、それがいい緊張感を生んで集中できているから私にいい方向に回っている。
……そうだ、良い機会だし前から試してみたかった事をやってみよう。まずは射撃の手をやや緩めて、織斑君を動きやすくする。
「ん? 簪、攻撃を緩めたか?」
「攻め疲れ……は無さそうね。少なくともこの前の私との戦いの時の方が激戦だったはずだし。となると、何か狙ってるのかしら?」
「お二人とも、よく分かりますね」
戦っている簪の小さな変化に気付いた俺たちに虚はそう言った。
「少しの違いだからね。戦闘経験が多い人か、かなりの洞察力が無いと気付けないわよ」
「国家代表に最も近いなっちゃんとそんななっちゃんと互角に戦えるイサム君だから気付けたんだねえ」
「かんちゃんは何を狙ってるのかな~?」
「多分、ドーナッツの穴を埋めるための方法だろ」
「「「ドーナッツ?」」」
「攻撃できる範囲を円で表わしたら、射撃型は大きな円が出来るけど、どうしても寄られる所は苦手で空白地帯が出来るのよ」
「それをドーナッツに見立てたと」
「そゆこと。いくら格闘型が世界的に少ないとか、寄らせなければ良いとかで手を抜くんじゃなくて、対策立てれるなら立てないと。いつ必要になるかは分かんないんだし」
世界最強の格闘戦の専門家である織斑先生は苦手の遠距離戦に対する対策はしっかりしていたはずだし、世界最強の射撃戦の専門家のミリアさんも軍隊格闘の達人でそれを寄られた時の対処法として取り入れている。それがあって俺を始めとした新星インダストリーのテストパイロットは得意な距離を重視しつつも苦手な距離でもある低で対処できるバランス型になっている。
織斑先生はこの状況と少し違うけど、世界を取ったミリアさんがそれをしているんだ。勤勉かつ元々武道をやっている簪がそれをたたき台に自分なりの対策を練らない訳がない。
そして、簪と一夏が交差した一瞬、その一瞬で
『勝者、更識簪』
決着がついた。
周りがざわついている辺り、何があったか分かってないんだろう。まあ、普通に見れば一夏の大逆転って流れだったからなあ。
「二人は簪ちゃんが何をやったか見えた?」
「おう」
「ばっちりとね。簡単に言うとカウンターを食らわせたのよ」
「簪さんの薙刀の腕前はかなりの物ですから、それは想像できますが……」
「かんちゃん、銃持ってたのに?」
「交差する一瞬で薙刀に持ち替えて、柄の部分で受け流すように攻撃を防ぎつつ、石突の部分でドンと一撃って感じだな」
簪のやった事はかなりシンプルなものだ。だけど、
「言葉にすると簡単なんだけど、高速で武器を切り替える技術、タイミングを見極める判断力、なにより相手の織斑君の一撃必殺になりかねない攻撃に合わせる度胸が無いと出来ないわ」
「しかも、これを成功させたから、次の鈴戦にもアドバンテージがあるしな」
「確かにそうね」
「アドバンテージっていうと……『山嵐』を使わなかった事?」
俺達の会話に薫子が入ってくる。
「うん。結果的に颶風の最大の攻撃を使わずに勝てたのはかなり大きいわ」
「技術的にはかなり近いレベルだから、切り札が隠せてるのはデカい。ついでに言うと、格闘戦の技術を少し見せたのもデカいな」
「なるほど、寄られても対処できる、と知らしめたのですね」
「おお、かんちゃんそこまで考えていたんだね~」
考えていたかどうかは分からないけど、恐らく本音の言う通りだろう。
三戦トータルで考えた時に自分の情報を全部見せているのと一つでも隠せているのとではかなり違ってくる。初見の物を咄嗟に対処するには相応の実力とセンスが必要だからだ。鈴も簪もそれはあると思うが、隠しているのが颶風の切り札、最後のとっておきというのが大きい。
しかも、そもそも甲龍からみて颶風は相性があまり良くないように感じる。それは、この前の試合でクァドランに駆るフィオーレとの試合で内容は圧勝だったけど、時間が掛かった事で分かる。目玉の衝撃砲があまり効かない事と、機動力の差を考えると相性では簪が有利のように感じる。
ただ、技術に差が無い事と、鈴の方が休めている分の体力の差がどう関わってくるかが読めない。
一つ言えるのは決勝戦は今日一番の盛り上がりになるって事だけだな。
まあ、普通に考えたら一夏VS代表候補生の専用気持ちならこうなりますよ。技術、経験が欠けていて勝てる要素無いですから。
セシリアに関しては彼女の油断の部分が大きいと思います。メンタル面がちゃんとしていればあの時の接戦は無いでしょう。
次回はまたいつになるかわかりませんがよろしくお願いします。