「寒い……」
真冬の快晴の青空を見上げて俺はそう呟いた。
今俺は
カナと出会った日、俺が家に帰ったら親父は空自を辞めていた。いや、正確に言うと辞めさせられていたの方が正しい。もう、それから10年以上経つ。
子供だったからなのか、いや、親友だったから、アルトやシェリルとの別れは寂しかった。それ以上にカナに会えないというのが辛かった。どうしてたった数時間しか話していないカナの事を考えると辛いんだろうか。それから俺が一人で考えても答えは出なかった。
そんな時答えを出す手伝いをしてくれたのは、親友であるアルトだった。アルトのお蔭で俺は自分の気持ちに納得できる答えを手に入れて、次カナに会った時にする事も決まった。
ISの開発によって日本の空の守りはISのみという方針に転換された。それの反対派の急先鋒だった親父は難癖を付けられて辞めさせられた。親父の他にも反対派の人間は所属部隊や役職を問わず何人か辞めさせられたらしい。
ISの能力がきわめて高いのは分かるけど、それに依存するのはどうかと思う。実際、国防の要とはなったが旧来の兵器も数を減らされながら使用はされている。
ISの大本となるコアは467個しかない。ちょっと前行われたISの世界大会である、モンド・グロッソの参加国は21、参加はしていないが、IS関連の世界的な条約『アラスカ条約』に批准している国は30か国ほど。ISを学ぶ『IS学園』や国際的なISの機関である『IS委員会』も保持しているので、各国に10個前後しか無いのだ。その中で、技術・研究用と量産機使用の物と国家代表やその候補生に与える専用機を用意しないといけない。
日本が世界的に見て面積が狭くても四方を海に囲まれた国の空の護りを10機にも満たないISに任せるのはバカバカしい話だ。
親父が言うにはこの話の裏には『白騎士事件』をチャンスと見た女性権利団体と、そこに絡んだ議員たちが暗躍した結果らしい。
ISが生まれた事によって世の中は少しずつ、でも確実に女尊男卑の風潮に飲み込まれていっている。
ここら辺はウチの会社の『能力優先主義』によってそんな風潮は無いようなものだ。むしろ皆、女尊男卑バカみたいな事と捉えている。
たしかにISは女性しか動かせない。しかし、その整備、開発に男性の手が一切ないと聞かれたら、それはありえない。
そもそも『ISが使える』『ISを上手く動かせる』なんて個性の範疇だと思う。それに実際にISに乗る仕事に就けるのは一か国に20人位の物だろう。乗れない、乗ったことの無い女性の方が圧倒的に多いのだ。
ISの乗り手が乗れる事に誇りを持つ事は良い。むしろそれで当たり前だ。今や所属する組織の顔と言ってもいいのだから。
でも、『ISを動かせるのは女性だけだから』と言う理由で偉そうにしたり、優遇されたり、男性を虐げていいっていう理由にはならない。
実際、会社の特性上、いくつかの国の国家代表に会う事があったけど、そういう人ほど今の社会の在り方に疑問を持っていた。
『イサム君、テストの準備が出来たわよ』
「了解っす、サリーさん」
一回思考を全て切り替えて、集中する。
さて、さっきサリーさん―新星インダストリー開発部オペレーター、サリー・セイント・フォード―が言っていた『テスト』と言うのは、
『サンダーボルト』―正式名称は試作ナンバーを取ってF‐11で『サンダーボルト』は
その特徴は丈夫さと汎用性と拡張性の高さ。
それを活かして、製品化後も試作機は様々な装備のテスト機として使用されている。今回は新型エンジンのテストだ。
「つーか、このエンジンはやりすぎじゃね? こんなん乗せても使いこなせるの極一部じゃない?」
『その極一部がごろごろいるのがウチだろう? それに君を含んだトップ達はこれでも満足できないんじゃないかい? それにこれはアレに使う予定の物だからね』
「まあ、そうっすね、ヤン主任。後、俺の奴の素体はよろしくお願いするっす」
『分かってるよ』
新星インダストリー航空部門のテストパイロットは軍を辞めた各国の腕利き揃いで、その中でもトップチーム、通称『スカル隊』は「人間を辞めた」という表現が似合うぐらいの人外のエースぞろいだ。全員が模擬戦ながら、ISを戦闘機で撃墜した経験を持つ。
現在のメンバーは隊長の『アメリカ史上最高の戦闘機乗り』ロイ・フォッカーを始め、『日本の両翼』一条輝、工藤シン、『天才』マクシミリアン・ジーナス、『経歴不明のスーパーエース』D.D.イワノフ、『炎のエースパイロット』オズマ・リー、そして『超新星』大村イサム。この七人だ。
ちなみに、俺を除いた全員の異名は軍時代に付けられたもので、俺だけ会社の中で付けられた。まあ、俺だけ軍人の期間が無いし、当たり前っちゃ当たり前だよな。
俺達の仕事はテストパイロットだけではない。各国の軍隊の戦闘機やISの相手をする訓練相手、所謂アグレッサーも業務の一環である。
『……正直、アメリカ軍の空母を旗艦とした艦隊に突っ込んでその旗艦にミサイルをぶち込むのは人間業じゃないと思うわよ?』
『旧型機とはいえ40機近くの戦闘機を同時に相手取って何機か撃墜して離脱したり、ISにタイマンで勝ったりする人間にはこれでも物足りないだろう?』
「でも、それも、技術者の皆さんあってですよ」
サリーさんと主任の言葉は事実だ。
ちなみにこれは数か月前、日米共同演習の際にウチがオブザーバーとして参加した時、俺を含めたスカルのメンバーが大暴れした結果だ。いやー、すげー楽しかった。
ちなみに、イワノフさん以外は日本人とアメリカ人で構成されてるので、その二か国の相手が一番多い。
俺の言葉もまた事実だ。
サンダーボルトを始めとしたここ何年かのウチ開発の機体は対IS戦を考えて機動性を特化してある。量産用はともかく、俺達テストパイロットの機体は見た目は一緒でも中身は売り物とは別物だ。乗用車とフォーミュラーカー位違う。並のパイロットなら振り回されて墜ちるような機体。そんなのに乗る俺達とそんなのを作る技術者達は全員が自分達の事を『時代遅れの大馬鹿共』と呼ぶ。俺達の乗り手、作り手のプライドを持ってだ。
そんな俺達だけど、案外色んなところで人気がある。件の時も現場の人間には大好評だし、ウチの受注量も増えたしで万々歳だった。
隊長達大人組は、色々お酒とかもらってきてたし。俺がその事を愚痴ったら、飲めるようになったら、どんだけでも奢るからと丸め込まれた。……覚悟してろよ、オッサン共。
「とりあえず、仕事してきますよ。イーグル1、大村イサム、行くぜ!」
テスト飛行を終えた俺は新星インダストリーの総合技術研究所にやって来た。何故か町はずれの山の中に埋まっているこの研究所は全長1200m、全幅470m。全高334mの艦の形をしている。そう、何を隠そうこれは『マクロス』なのだ。……最初、「何だよ、これ!」って叫んだ俺は悪くないはずだ。後、何故か名前もマクロスだった。
これが新星市にウチが本拠地を置く最大の理由だ。
マクロスがこの地にあるのは何千万年も昔からの事らしい。それでも、今かなりの機能が使えるんだから、この世界のマクロスを作った文明は凄い。
何故埋まっているかはいまだに不明。ただ、オーバーテクノロジーが多すぎるのでこの事はトップシークレットになっている。
元々ウチの家系はこの辺一帯の大地主で、何百年も前に偶然マクロスを発見し、文明開化と共にここで手に入れた技術を小出しに商売を成功させた。それが新星インダストリーの母体だ。
ただ、技術がかなり発展した今でも分かっていない事が多いので現在進行形で解析を進めている。
「やあ、イサム君」
俺に話しかけてきたのは白衣を着た紫の髪の浅黒い肌の小柄な女性。
「マオさん、珍しいですね、こんな所に居るなんて」
マオさん―マクロス解析チーム『マヤン』チームリーダー、マオ・ノーム博士―は学界では『鬼才』『異端』を地で行くが、その能力は高く、若くしてマクロス調査の指揮を取っている。ちなみにチーム名は彼女の故郷『マヤン島』から取っている。
俺が珍しいと言ったのは彼女は6割未解析エリアに残りの3割9分は自分の研究室に居る。こうやってフラッと外で会うのは結構低い確率なのだ。ラッキーだね。ポ○モン的な意味も込めて。
「昨日は久しぶりに仕事を休んでお姉ちゃんと遊びに行ったからね~。あっ、そうだ、これ」
白衣の内ポケットから長方形の封筒を取り出す。
「なんっすか、それ?」
「シェリルのライブのチケット」
「マジっすか!?」
俺は思わず大声を出してしまう。
シェリルは二年前にデビューし、あっという間にスターになった。学校や会社にもファンはたくさんいるし、俺もそうだ。まあ、何時からかといったら、ガキの頃からって事になるだろうな。
今や、彼女のライブのチケットは速攻で売り切れる。ネットオークションなんかで何倍、何十倍で取引をされているって話も聞く。正真正銘のスターだ。『日本に住んでいてシェリルの歌を聞かない事は無い』とまで言われるくらいだ。
ちなみにシェリルは本名では無く『シェリル・ノーム』の芸名で活動している。理由を聞いたら『名前が嫌いって訳じゃないけど、苗字と名前がミスマッチだと思ったのよ。それで、お母さんの旧姓を借りたの』との事らしい。
まあ、今でもたまに電話で話したり、両親のシンさんとサラさんがこっちに居るから、こっちに戻ってくるときに会ったりしているけど、ガキの頃と変わんない。『三つ子の魂百まで』とはその通りだと思う。
「マジだよ。昨日お姉ちゃんの家に送られて来たんだって。んで、手紙にイサム君を招待したいって書かれてたから、今日会う可能性のあった私が預かってたって訳。今日会えなかったら、明日にでもシンに頼むつもりだったんだけどね」
そういや、今日はシンさん非番の日だったな。いや、それはそれとして、
「めっちゃ嬉しいっすよ! 後でシェリルに連絡入れとかないと!」
生で彼女の歌を聴くのは初ライブ以来となる。
「そうだ、マオさん。一つ頼まれてくれますか?」
「何?」
「ガキの頃アルトとシェリルに髪飾りを送ったんですけど、ちょっと子供っぽいかなって思いまして、お礼に送ろうかなと思いまして」
「良いけど……それは私よりアルト君を経由して送った方が良いんじゃない?」
「……たしかに」
俺からって渡されるよりアルトを経由して渡す方がシェリルも嬉しいわな。アルトも最近シェリルに会えないって俺に愚痴ってくるし。……自慢かよ。
まあ、機会を演出してやりますか。
「そういえば、イサム君は何でここに居るの? 私が出歩いているのも珍しいかもだけど、イサム君がここに来るのもかなり珍しいよね?」
そう、ここは『研究所』。来るのは技術者、研究者の人達であって、俺達実際扱う人間はほとんど訪れない。たまに呼び出されて来る位だ。
「何日か前、男のIS操縦者が見つかったってニュースになってたでしょ? あれの適性検査を受けに来たんすよ」
「へえ~、そうなんだ。あんま興味ないな~」
マオさん、というよりウチの研究者、技術者連中は自分の興味のある物しか興味を持たない。狭く深くと言う言葉がピッタリな集団だ。
「空を飛べるって意味では俺は興味ありますけど、飛行機の方が好きですしね。俺は別にどっちでもって感じです。個人的にはアルトが乗って、空中歌舞伎とか見てみたいですけど」
「面白そうだねえ。アルト君なら案外いけそうな気がするよ、女顔だし女形だし」
「ははは、確かにそうっすね。んじゃ、そろそろ時間なんで行きます」
「またね~」
マオさんと別れて俺はマクロスの奥の方にあるIS研究エリアに向かった。
いや、まさかこの後俺がISを動かし、世界二番目の男性操縦者になるなんてマオさんと別れた時はこれっぽっちも思ってもなかったんだけど……。面倒な事になったなあ。はあ……。
原作前を長く書く気は無いので、もう少しで原作に入ります。
サリー・セイント・フォード
出典 『マクロス7』シリーズ
バトルセブンオペレーターの銀髪の方でセクシー担当。マクロス7のオペ子はカワイイ。(確信)
ただし、名前は覚えられてない。多分もう一人の名前が美保美穂とかなりインパクトが強いから。
ヤン・ノイマン
出典 『マクロスプラス』
バルキリー開発の系譜の中で欠かす事の出来ない天才。若干17歳でYF-19の設計を行い、その後VF-25、VF-27、YF-29の母体となったYF-24を開発した事で一目瞭然。
ただし、重度のアイドルおたくで凄腕のハカー、もといハッカー。
マオ・ノーム
出典 『マクロスゼロ』『マクロスF』
原作では天真爛漫……だったはずなのにどういう人生を歩んだか、プロトカルチャーの研究の権威になる。多分、彼女の人生だけで映画作れると思う。
そして、マクロスFのヒロイン、シェリル・ノームの祖母でTV版のボスの先生。マクロスFの最重要人物と言ってもいいレベル。
本作では、マクロスの解析チームを率いる、若き天才。性格はゼロに近いが、能力はFで語られるのと同じといった所。
サンダーボルト
出典 『マクロスプラス』『マクロス7』
VF-1バルキリーの正統後継機ともいうべき機体。ただし、脇役、やられ役である。プラスではイサムが最初に、セブンでは新統合軍の量産機として登場して撃墜されたり、ミレーヌバルキリーになったり、ジャミングバーズが乗ったりと結構重要なポジションに。
後、最新ゲームマクロス30のヒロインの一人の機体でもある。
マクロス
出典 『超時空要塞マクロス』『マクロスプラス』『マクロスVF-X2』
言わずと知れた、初代マクロス。最初のアニメの舞台でもあり、星間戦争の引き金でもあり、終息させた、人類の守護神。
現実だと長さ一キロ越え、高さが東京タワー以上、横幅が500m近くという訳のわからない船。しかも変形する。
原作では星間戦争終結時に地球上に不時着し、地球再興の象徴にもなる。ただし、その後二回ほど頭部を破壊される。