澄み切った青空を見ると今でも私は彼と出会った10年以上前のあの日の事を思い出す。
その日私は妹の簪ちゃんと喧嘩をした。今となっては理由も思い出せないからくだらない理由だったのだと思う。でも、その時の私と簪ちゃんにとっては決してくだらなくない理由で喧嘩をして、顔も見たくなくて私は外に出た。それで近所の公園に行ったら、その男の子と出会った。
その人は私と同じくらいに見えたけど、何故か公園のベンチで寝ころんでいた。
興味本位で近付いて顔を覗き込んだら、その男の子は起きていて、突然視界に現れた私に驚いていた。
私が何をしているのかと聞いたら「空を見てるだけ」と答えが返ってきた。
その時は空を見る事の何が楽しいか分からなかったけど、中学になって何も考えずに空を見上げてみたら、凄くリラックス出来た。楽しいとは少し違うけど、空を見る楽しみは分かった気がする。
その男の子―苗字は結局聞かず、「イサム」という名前しか私は知らない。―とはその場でお互いの家族や友達、その他いろんな事を話した。今思うと初対面の相手にそういう事を話すのはどうかと思う事も話した気がするけど、その時は話している時間がとても心地良かった。大切な簪ちゃんや、幼馴染の虚ちゃんや本音ちゃん、お父さんやお母さんと話している時とは違う感覚。
そんな楽しかった時間はあっという間に過ぎて、夕方になっていた。
お別れの時間になって、寂しい気持ちになったけど、家の皆に心配は掛けたくなかった。いくら喧嘩してもだ。そんな時イサムはポケットから小さな金属の塊を取り出して、それを髪飾りに成形した。
今でもどういう原理で出来たかよく分からないけど、彼はそれを「ちょっとした手品」って言ってた。
その髪飾りを「友達の証」として私にくれた。イサムにとってはなんともない物かもしれないけど、私にとっては今も大切な宝物になっている。
でも、「またね」と言ったのにそれから彼には会えなかった。
その後、その日に彼と一緒に来ていた二人―アルトとシェリル―(初めは女の子二人と思ってたけど、アルトは男の子だって事に驚いた)と知り合ってイサムは引っ越したと言われて少しショックを受けた。
でも、イサムを含めて初めて外で出来た友達だったから嬉しかった。二人は両想いっぽくて、私はよくそれをからかっていたけど、二人に「イサムみたい」とツッコまれた。シェリルとはお互いがほぼ初めての女友達だったから、凄く仲良くなった。私の親友と言っても良い。
でも、私の中のイサムがいなくなった寂しさはいつまでも無くならない。
私の家の力を使えば、ううん、そんな事をしなくてもシェリルかアルトに聞けばイサムの居る場所も、連絡を取る方法もあった。でも、それが出来なかった。
怖かったのだ。たった一度きり、しかも数時間だけしか話していない私の事を彼が忘れていないのかが。
そして、その時思った。どうして私はイサムに忘れられている事が怖いのか? どうしてイサムに会えなくて寂しいのか? どうして、はそんなにイサムに会いたいのか?
考えて考えて、答えが出なかったから、私はシェリルに相談した。シェリルの答えはシンプルに一言、
「それは恋よ」
だった。その答えを聞いて、顔が今までで一番赤くなった私がいた。でも、その反面、心の奥のどこかで納得のいっている私も居た。
その時、シェリルに「気持ちを伝えたいなら会うのセッティングするわよ?」と聞かれたけど断った。それに、私の事を内緒にしてもらうようにした。忘れられてる事や、振られる事が怖かったのもあるけれど、赤い糸があるのならきっとまたイサムに会えると思うから。私はそう信じているから。
「なっちゃん、考え事?」
教室の窓から空を見上げながら昔を思い出していると、クラスメイトの黛薫子ちゃんに話しかけられた。
「うん。最近学外の親友と話してないな~って思ってね。久しぶりにでも電話しようかなって考えてたの」
「刀奈に考え事は似合わないッスよ」
薫子ちゃんとの会話に入って来たのは、フォルテ・サファイアちゃん。カナダの代表候補生で専用機「コールド・ブラット」を持っている。
「酷い言いようね、フォルテちゃん。私だって考え事をする時はするわよ」
「でも、なっちゃんは物事をスパッと決めるイメージがあるよ?」
「薫子の言う通りッス」
「普段はそうね。でも、私の親友も忙しいし、迷惑じゃないかと考えちゃうのよね~」
この事をシェリル本人に言うと、「刀奈との話は楽しいし、迷惑なんかじゃないわよ」と嬉しい事を言ってくれるけど、よくテレビや雑誌で見かけるから、どうしても気になってしまう。
「忙しいって言っても高校生じゃん。たかが知れてるんじゃないの?」
「まあ、彼女知ってる人は知ってる有名人だし。そういや、前会った時に撮った写真があるから見る? もう一人、別の友達もいるけど」
そう言って見せたのは冬休みにアルトの舞台を見に行って、公演終了後に彼の楽屋に突撃を掛けて、三人で撮った物だ。毎回のアルトの公演に私はシェリルと日付を合わせて見に行っている。ちなみに二人経由で聞いた話だけど、イサムは毎回、初日と千秋楽を見に行っているらしい。
「おー、二人とも美人ッスね~。でも、こっちのストロベリーブロンドの方どこかで見た事が……」
「って、これシェリル・ノームじゃないの!?」
「うん、そうだよ」
「いやいや、シェリル・ノームって言ったら今や世界的な歌姫ッスよ!?」
「そうね~。私も胸張って友達って言えるくらいにならないとね~」
「……『ブリュンヒルデ』の後継者の筆頭候補とまで言われている日本の代表候補生が何を言ってるのよ」
私の今の肩書はIS学園的には『IS学園生徒会長』、対外的には『日本の代表候補生』だ。次のモンド・グロッソが私が三年の秋で、日本は正式発表ギリギリまで国家代表を空白にして候補生たちの競争心を煽るらしい。一応、関係者筋では私が筆頭候補らしいのだが、この世には戦闘機でISに勝つような人間も居るんだから、まだまだ自分を磨けると思う。
「しかし、まさかのビッグニュースよ! 今度の校内新聞の一面はこれで決まりね! シェリルとの出会いを詳しく!」
「と言っても面白くないわよ? だって、小さい頃に近所の公園に行って、知り合って、馬が合ったから友達になって、それでずっと付き合ってるって感じだし」
「幼馴染って奴ッスね~」
「人に歴史ありだね。そういや、もう一人の子もどこかで見た事ある気がするんだけど……」
そう言って考え出す、薫子ちゃん。
「こんな美人見たら忘れ無さそうッスよ? 正直、刀奈やシェリルと同レベルってだけで驚きッス。美人の友人は美人なんッスかね~」
「確かに、綺麗な子よね。どこで見たんだろ?」
「二人とも、そのポニテの子は男の子だよ?」
「「………えっ?」」
まあ、アルトを知らない人が普通の時のアルトを見て女子と間違えるのは割とよくある事だ。正直、女として自信を無くすレベルの美人だし。小さい頃から女らしい所作を仕込まれているからか、普段から無意識に女性っぽい行動をしている。なので、アルトを荷物持ちに三人で出掛けるとアルトまで男にナンパされるという事が良く起こる。
……アルトが一番人気だった日は何かショックでその日はシェリルと一緒に全部アルトの奢りにさせたりした。
「いやいや、なっちゃん冗談が上手いんだから~」
「薫子の言う通りッスよ~。こんな美人が男な訳無いじゃないッスか~」
「そんな事言われても、男なのは男だし。それに多分薫子ちゃんが見た事ある気がするのは彼が役者だからじゃない? 聞いた事ない? 早乙女アルトって」
「早乙女アルトって……あの『アルト姫』!?」
『アルト姫』と言うのはマスコミがアルトに付けたニックネームみたいなもので彼が12歳の時に演じた『桜姫東文書』の主役、桜姫の批評家からの評価の高さから来ている。本人は他人に言われる分には気にしないが、私やシェリルに言われると『俺は男だ!』と言い返す。私達はその反応が面白くて、今でもたまにからかうために呼んだりしている。
「『アルト姫』ってなんッスか?」
「『アルト姫』ってのは歌舞伎役者、早乙女アルトの当たり役が元となったニックネームよ」
「へえ~、歌舞伎役者ッスか。ちょっと見てみたいッスね」
「私も一度は見てみたいのよね~。なっちゃんはアルト姫のお誘いで見に行ったの?」
「何度かね。歌舞伎、面白いわよ。ただ、最初にアルトのそのニックネームの元になった『桜姫』は初見には少しハードルが高いかも。もっとメジャー所を調べて観てみる方が良いと思うわよ」
ちなみに私は、というより私達はアルトにお勧めの演目を教えてもらってから色々観た。大半が、アルトの父親でアルトが尊敬し世間の評価も『当代最高の役者』と名高い、早乙女嵐蔵の当たり役の演目だったけど、それで確実に私達は歌舞伎にはまった。
「…っと、話してる場合じゃない。虚ちゃんに仕事があるから来てくれって言われてるんだった。私は行くわ。後、薫子ちゃん。シェリルのサインが欲しくても頼まないでね~」
そう言って私は生徒会室に向かった。
「遅くなって、ゴメン! 虚ちゃん」
生徒会室に駆け込んで第一声で私はそう言った。
「いえ、昨日で大半を終わらせてありますし、そこまでの量ではありませんから、大丈夫ですよ、お嬢様」
そう答えたのはIS学園生徒会会計で私の家『更識家』で私専属の従者、布仏虚ちゃん。幼馴染と言う意味ではシェリルやアルトと同じだけど、虚ちゃんはどっちかと言うと「お姉さん」って感じだ。しっかり者だし。
「しかし、この時期こんなに仕事って多い物なの?」
私が生徒会長になったのは去年の10月。全学年合同のトーナメントで優勝した事で就任した。まあ、時期的に前会長が三年でそろそろ変わる頃だったんだけど、そこから覚える事がたくさんあって結構しんどかった。これは前の生徒会役員が三年ばっかりって言うのも理由だと思う。そんな中私を支えてくれたのは前生徒会唯一の二年であり、二年の首席でもあった虚ちゃんだった。ホント、虚ちゃんには足を向けて寝れない。
「年度が代わる時期なので仕事が去年も仕事は増えていましたが、今年はそれ以上ですね。やはり男性の操縦者が見つかったからでしょう。先生方も大変そうです」
「来年度は辛そうね~。後は他に見つからない事を祈りましょうか」
「そうです……」
虚ちゃんが言い切る前に室内に電話の着信音が鳴った。しかもこれは本家の連絡の着信音。
『更識家』は古来より日本を裏から護って来た対暗部用暗部。その家からの連絡だ。悪い予感しかしない。
「……もしもし、刀奈です」
『私だ』
そう言うのは私のお父さんで十六代目更識楯無。結構な年だけど未だに現役バリバリの人だ。ISの登場と、私の適性の高さから、高校入学と共に私が襲名という話が有ったらしいけど、お父さんは「経験不足」と切って捨てて襲名を早くても成人まではしないと言った。
正直、私がお父さんに勝てると思うのはISを使える事だけ。まだまだ学ぶ事が多い。だから、お父さんの判断は正しいと思う。
「お父様、何用ですか?」
『実は、二人目の男性操縦者が見つかった』
悪い予感は当たった。これで、来年の仕事が増える事は確定した。
「そうですか…」
『政府、IS委員会は共に織斑一夏と同じ処置をするとの事だ。我らには二人の護衛の任務が下った。……お前には負担をかけるな』
「ううん。これは今ここに居る私にしかできない事だから。お父さんが自慢の娘って言えるように頑張るよ」
最後の一言は親としての言葉だったから、私は娘としての私の気持ちを言葉にした。
『もう、十分自慢の娘なんだがな。お前も簪も。……二人目のデータはすぐに送る。頼んだぞ』
「了解」
お父さんとの連絡を終えて一息吐く。
「ご当主様は何と?」
「二人目が見つかったんだって。一人目と同じ様に護衛が私達の仕事。……はあ」
「溜息を吐きたい気持ちも分かりますけど、頑張りましょう?」
「そうね。すぐに二人目のデータが送られてくるみたいだから、確認よろしくね」
「分かってます」
そう言って虚ちゃんは鞄からタブレットを取り出す。これは見た目は普通だが、中身はお父さんとつながりのある企業の力によってかなりの改造を施されている物で、虚ちゃんはそれをさらに自分用に改造してある。
「来ました。……って、お嬢様、これは!」
驚きの声と共に虚ちゃんは画面を私に見せた。シェリルと共に虚ちゃんは私の初恋の相談相手だったから私の想い人の事も知ってる。
「やっと……やっと会える。イサム」
運命の女神さまは女の子の味方だったらしい。神様がくれたこのチャンス、無駄にはしない。十数年分の私の想い覚悟してよね、イサム♪
そう言えば、明日ポケモンの新作の発売日ですね。
実は最新作の名前(アルファサファイアとオメガルビー)と言うのを聞いた時、イサムとガルドのコールサインじゃねえか! と思った人が僕以外にも居るはず。
まあ、買う予定は無いので関係ありませんが。