さて、大爆笑(俺だけ)の授業を終えて休み時間に入った。
「えーっと、大村さん?」
一人目の男性操縦者、織斑一夏が話しかけてきた。
「そんな、固っ苦しい言葉遣いなんて要らねえ。年上っつっても、三つしか変わんねえんだし、その方がお前さんも楽だろ。呼び方もイサムで良いぜ」
俺のこの考えもスカルを始めとしたアグレッサー隊の皆がフランクだからだと思う。一応、名前にさん付けはしているけど、普段はほとんどタメ口だ。
「んじゃ、イサムって呼ばせてもらうぜ。俺も一夏で構わない。それで、さっきの爆笑は酷くないか?」
「アレはどう考えても面白い行動をしたお前が悪いんだろうが。まあ、勉強頑張れ。俺は手伝えん」
「なんでだよ⁉」
「俺、自己紹介で言ったぜ? 知識とかは期待すんなって。そりゃ、時間もあったし、俺は高校一回卒業してるし、一般科目の心配がないからIS関連の勉強に集中してたけど、他のクラスのみんなに比べたら付け焼刃だぜ。そんな俺より頼れる奴なんてこのクラスだけでも大量に居るっての。つーか、俺を面倒に巻き込むな」
「絶対、最後のが本音だろ!」
おお、案外鋭いな。しかし、間違っている部分がある。
「ほぼ正解だな。が、全部俺の本音だ」
「おい!」
「勉強の事は先生に聞け。あの人たちはそれで飯食ってんだから」
「まあ、そうだけどさ」
俺と一夏が話していると、
「ちょっと、よろしくて?」
「へ?」
いかにも今の女尊男卑の風潮に使った金髪縦ロールが話しかけてきた。この手合いは無視に限る。よし、一夏に相手を任せるか。
「訊いてます? お返事は?」
「あ、ああ。訊いてるけど…どういう用件だ?」
「まあ! なんですの、そのお返事。わたくしに話しかけられるだけでも光栄なのですから、それ相応の態度というものがあるんではないかしら?」
めんどくせえ……。俺がそう思っている間にも一夏と縦ロールの会話は進んで行く。
「悪いな。俺、君が誰か知らないし」
「わたくしを知らない? このセシリア・オルコットを? イギリスの代表候補生にして、入試主席のこのわたくしを!?」
IS学園に入るほどISに興味のある女子ならともかく、普通の男子中学生はそこまでアンテナ伸ばしてないっつうの。国家代表ならニュースになるし、ネットを探せば戦闘映像の50や100は出てくるし、正直、その国の首相や大統領より海外では知名度があるだろうけど、代表候補生なんて、何十人もいるんだ。知らなくて当たり前だ。
今の一夏の状態は「興味の無いアイドルのメンバーを全員知っているか?」って聞かれている感じだ。
「なあ、イサム」
「何だ?」
「代表候補生って何だ?」
一夏の言葉に聞き耳を立てていた女子たちがずっこける。……さっきも思ったけど、息ピッタリだな、オイ。
「あー…お前の姉の織斑先生は元日本代表だろ? それの候補生だ。つーか、字面で察せ。後な、ここに来るような女子たちならともかく、俺等みたいな一般の男は普通、代表候補生が誰かは知らんものだから、気にしなくていい」
案外、ミシェルあたりはその辺も調査してそうだけどな。多分、調べりゃ顔写真位なら出てくるだろうし。
「サンキュー。つまりはエリートって事か」
「そう、エリートなのですわ! それにしても、極東の島国はこうまで未開の地なのかしら。常識ですわよ、常識。テレビがないのかしら…」
いや、これに関しては客観的に見て金髪の自意識過剰半分、一夏の無知半分っていった所だろう。
「本来ならわたくしのような選ばれた人間とは、クラスを同じくする事だけでも奇跡…幸運なのよ。その現実をもう少し理解していただける?」
「そうか。それはラッキーだ」
一夏、棒読みになってるぞ。まあ、この出会いをラッキーって……言いたくないな。俺の中のラッキーな出会いっていうのは、あの日カナと出会った事だろう。
「…馬鹿にしていますの? 大体、あなたISについて何も知らないくせに、よくこの学園に入れましたわね。男でISを操縦できると聞いていましたから、少しくらい知的さを感じさせるかと思っていましたけど、期待はずれですわね。もう一人の方は何も言いませんし」
「俺に何かを期待されても困るんだけど」
「悪いな。死んだじいさんの遺言で金髪縦ロールのイギリス人とは関わるなって言われてるんだよ」
無論嘘だ。つーか、父方、母方ともに祖父母健在だ。4人ともひ孫が見れるまで死ねるかって言ってる。
「……ふん、まあでも? わたくしは優秀ですから、あなたのような人間にも優しくしてあげますわよ」
かつてここまで上から目線の優しさがあっただろうか? いやない。優しさなんて全世界共通のもんだから、一回辞書引いて出直して来いよ。
「ISのことでわからないことがあれば、まあ…泣いて頼まれたら教えて差し上げてもよくってよ。何せわたくし、入試で唯一教官を倒したエリート中のエリートですから」
「入試ってあれだろ? 試験官の先生と戦う奴」
「ええ、それ以外ありませんわ」
「俺も倒したぞ?」
へえー、そりゃすげえ。一夏は搭乗経験がないから、それで勝ったんなら抜群の素養の持ち主って事か。血は争えんって事かね?
スカウトと行きたいけど、一夏は最初っから論外なんだよな。色々面倒がありそうで。リスクとリターンが釣り合わない。
「わ、わたくしだけと聞きましたが?」
「女子だけで、っていう事じゃないのか? そういや、イサムはどうだったんだ?」
「俺か? 勝ったぞ。つーか、アレは入試なんだから、勝ち負けの結果じゃなくて、試合の内容の方だろうよ」
いくらISについて学んでいると言っても実機を動かすのは代表候補生でもないと無理なはずだ。つまり試験で見ているのは後天的に身に付けれる技術ではなく、先天的な素養、センスの方が大事という事になる。
「どういう事だ?」
「そりゃ、ここの入試をするような人だぜ? 普通に考えてそれなりの実力者だろうよ。それを普通の女子中学生が倒せると思うか? んなもんほぼ無理に決まってるだろ。なら、試験官は何を見ているか? そいつに光る物があるかどうかだろうぜ。まあ、その辺は先生に聞かねえと分かんねえけど。それに実技に合わせてペーパーテストやら、面談やら、中学の内申やらがあって合否が決まるんだよ。だから、試験で試験官に勝ったってのはそこまで重要じゃないってこった。それより今は、合格した後どうするかの方が大事だろうよ。言うなら一年はまだスタートラインに立っただけだ。まあ、俺とお前は嫌でもISに関わっていくから、その辺そこまで関係ないけど。っと、話し過ぎた。そろそろチャイム鳴るしとっとと席に戻るべきだぞ。そうじゃねえと、織斑先生の一撃が降って来るぜ?」
俺がそう言うと一夏や金髪だけでなく、聞き耳を立てていたクラスメイトや他クラスの生徒も自分の行くべきところに戻っていった。……流石、織斑先生。マジ、ハンパねえって。
一、二限は副担任の山田先生が担当していたけど、三限目は織斑先生直々の授業になった。
「それではこの時間は実戦で使用する各種装備について説明する。…のだが、その前に再来週に行われるクラス代表戦に出場するクラス代表を決める。クラス代表とはそのまま、クラスの代表者だ。自薦他薦は問わん」
クラスの代表って事は、学級委員みたいなもんか? やりたくねえな~。
「はいっ、織斑君を推薦します!」
「私もそれが良いと思います!」
「私は大村さんを!」
「私も!」
まあ、知り合って数時間、話題性重視になるわな。何とか一夏に押し付ける方法を考えないと……
「あー…、大村は生徒会から、所属の話が来ている。なので推薦は却下だ」
「はい⁉ 織斑先生、俺初耳なんですけど⁉」
「生徒会長の更識からのオファーだ」
「……更識というのは、更識刀奈で?」
「ああそうだ」
「……了解っす」
これは後で詳しい話をカナから聞こう。……事と次第によってはおしおきも考えないとな。
「という訳だ。候補者は織斑一夏……他にはいないか? 自薦他薦は問わないぞ」
「ちょ、ちょっと待った! 俺はそんなのやらな―」
最後まで言わせてもらえず、織斑先生の一撃で机に沈む一夏。
「自薦他薦は問わないと言った。他薦された物に拒否権は無い。覚悟を決めろ」
このまま一夏に決まりそうだな。まあ、それはそれで面白そうだけど。
「待ってください! 納得がいきませんわ! そのような選出は認められません! 大体、男がクラス代表だなんていい恥さらしですわ! わたくしに、このセシリア・オルコットにそのような屈辱を一年間味わえとおっしゃるのですか!? 実力から行けばクラス代表になるのはわたくし。それを物珍しいからと言って、極東の猿にされては困ります。わたくしはこのような島国にまでI技術の修練をしに来たのであって、サーカスをする気は毛頭ありませんわ! 大体、文化としても後進的な国で暮らさなくてはいけないこと自体、わたくしにとっては耐え難い苦痛で―」
まあ、そうは問屋が降ろさねえよな。さっきの金髪が立ち上がって、男性批判からの日本批判。
にしても、あの金髪、ここに結構な数の日本人がいる事に気が付いているのかね?
確かにクラスには様々な国籍の人がいる。しかし、一番多いのはやはり日本。ギリギリだが過半数を超えている。担任、副担任も日本人。
んで、民主主義的な考え方から行くと多数決なんだけど、生まれた国をバカにするやつに普通票を入れないだろう。
教壇に居る織斑先生、山田先生共に顔が表情が引きつっているし、織斑先生に至っては青筋立てている。
俺としても生まれ育った日本をバカにされているので少しはイラっとはするが、会社が多国籍で無国籍な感じなのであんまり愛国心という物が強くないし、他の国の人から見たらそうなんだろう、くらいにしか思っていない。そりゃ、イギリスの人から見たら日本は極東の島国で、文化も金髪の感性から行くと後進的なんだろうよ。
はっきり言えるのは俺を含め、ウチのクラスのイギリスとイギリス人の評価が現在進行形で急降下中って事だ。
……たしか、夏休みにヨーロッパ数か国での演習に参加する予定があったけど、その参加国にイギリスがあったよなあ。よし、何とかして断ろう。
「イギリスだって大してお国自慢ないだろ。世界一不味い料理で何年覇者だよ」
カチンと来たらしい一夏がついに言い返した。いい度胸だとは思うけどさ、悪口に悪口で返すのは下策だと思うんだよね。
「あなた! わたくしの祖国をバカにしますの⁉」
「先に言い出したのはそっちだろ!」
子ども同士の口喧嘩に興味は無い。寝ていきたいけど、寝たら、織斑先生の出席簿が降って来るだろうし……暇だ。
「ISで決闘ですわ!」
「いいぜ、四の五の言うより分かりやすい!」
オイオイ、簡単に『兵器』をケンカの道具にすんなよ。ここは西部劇の世界か?
「そこで関係なさそうにしているアナタ! アナタもですわ!」
「イサム、やってやろうぜ!」
「断る」
「「なっ⁉」」
俺の即答に絶句する二人。
「なんでだよ! あそこまで言われて悔しくないのかよ!」
「別にそこまで祖国への愛国心がある訳でもないし、たかが一人の価値観にキレてたら、色々な人種のいるこの国際社会でやってけないって。イギリスから見たら日本は極東の島国なのは事実だし、文化なんて個人的な捉え方の問題だろ? まあ、日本人が過半数のここでそれを言える度胸はすげえと思うけど」
まあ、その度胸も見習いたいとは思わねえけど。
「…フン、所詮は男。口だけは達者ですわね。まったく、生徒会長も見る目がありませんわね。こんな男を入れるなんてどうかしていますわ。日本の代表候補生という話でしたが、大した事ないのかしら?」
……あ? あのクソアマ、さっきなんて言った?
いくら俺でも
俺は身に着けていた、スカルのエンブレムである海賊旗、いわゆるジョリーロジャーをかたどったシルバーアクセサリーに手を掛ける。これはファッションというより、護身用だ。デザインは俺の趣味だけど。
クソアマをぶちのめそうとした瞬間、横から何かが飛んできたので俺はそれを手にした棒で迎撃する。
「……なんのつもりっすか、千冬さん?」
「騒ぎを事前に止めただけだ。後、織斑先生と呼べ」
「気付かれない様にやったつもりなんすけど」
「殺気が漏れ出ていたからな。嫌でも気付くさ。……少しは落ち着いたか?」
「……ふう。ええ、まあ。ちょっと、頭冷やしてきます」
「……好きにしろ」
「好きにさせてもらいます。では」
それだけ言って、俺は教室を出た。さて、何処に行くかな。サボりといえば……やっぱ屋上だな。今日は天気も良いから良い空が見れそうだ。
今回は用語やキャラ説明はありません。
次回はヒロイン・刀奈視点でのお話を予定しています。