実はクヴァールと並ぶ大魔族が他に二体もいました。合わせて三天魔と呼ばれていました。
 というお話。
 クヴァール登場回の前日、フリーレンが昔話をするという(てい)です。
 当然ですが、独自設定とオリキャラ・オリ魔法のオンパレードです。

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三天魔

 

 人類を絶滅せんと殺戮を続ける魔族との大戦争から80余年。その戦争に終止符を打った勇者ヒンメルとその一行はいま、歴史の表舞台から退いていた。

 

 戦士アイゼンは老いを自覚し、弟子を育て上げたのち、引退を決意。

 僧侶ハイターは司教を勤めたのち、やはり老いを理由に引退し、山奥で隠居生活を。

 そして勇者ヒンメルは、その功績からすればあまりにも質素な生活の末、老衰にて亡くなった。

 

 残ったのは、魔法使いたるフリーレンのみ。

 

 フリーレンはただひとり、世界に取り残されてしまった。

 

 彼女(フリーレン)は長命種たるエルフである、数百年生きた程度ではまだまだ若いと言われるほど桁違いな長命種だ。その種族特性により、エルフの時間感覚は他の人類種とは大きく異なる。事実、フリーレンからすれば五十年は『ほんのちょっと』という感覚であった。それが災いした。フリーレンは、大切な仲間と過ごせたはずの時間を、もう取り戻せない時間を、永遠に失ってしまったのだ。ほんの五十年、そう思っていた時間は、人間が老いて死ぬには充分な時間だった。

 

 そして今、フリーレンは新たな旅に出る。ハイターが遺した戦争孤児の少女、フェルンを弟子に迎え入れて。人間をもっと知るために。もう二度と時間を失わないために。

 

 

——————————

 

 

 旅の道中、フリーレンは、魔法の師匠としてフェルンに様々な授業を受けさせた。魔法理論の基礎反復はもちろん、魔法の歴史、そして主な敵である魔物や魔族のことも。

 

 フェルンには才能があった、魔法使いとしての優れた資質があった。そして同時に、類い稀なる観察眼を持っていた。フェルンの観察眼は、まだ短い付き合いである師匠フリーレンの、僅かな変化も見逃さなかった。

 

「—————・・・・・・うん、憶えておくべき大魔族はこれくらいかな。フェルン、今の説明で、何か気になったことは?」

「“黄金郷のマハト”、“腐敗の賢老クヴァール”、この二体について語る時だけ、フリーレン様の目の色が変わりました」

「・・・・・・私に目をつけてどうするんだい? 大事なのは敵の情報だよ」

 

 フリーレンはやれやれと呆れたような声を漏らしつつも、弟子に気付かれるほど感情が顔に出ていたという事実に、内心では赤面しそうなほどの悔しさを覚えていた。

 

 この場でこれ以上は表情を読まれまいとそっぽを向いた師匠に対し、フェルンは疑念を口する。フェルンは知っている、フリーレンは優秀で強大な魔法使いであると。そんな師匠が、倒すべき敵以上の想いを持つ魔族、それはいったいどのような魔族なのかと。弟子の興味関心を無下にするわけにもいかないと、フリーレンはどこか諦めた様子で語り始めた。

 

「マハトは、私が一度破れた相手だ。七崩賢最強の称号は伊達じゃない。

 奴の“万物を黄金に変える魔法(ディーアゴルゼ)”は強力すぎた。私は成す術無く敗北した。私が今こうして生きているのは、マハトが本気で私を殺そうとしなかったからでしかない。正直な話、戦いにもなっていなかった。・・・・・・悔しくないと言ったら嘘になるね」

「そのマハトがまだ生きている、と?」

「討ち取られたという話は聞かないからね。なにせ七崩賢最強、もしも討ち取ったのなら、人類は大々的に公表して功を宣伝するはずだからね」

 

 なるほど、とフェルンは納得する。恐らく、いやまず間違いなく、師匠の中ではまだ、マハトに勝てるイメージが湧かないのだと。未だに勝算を見つけられずにいる、屈辱的敗北を味合わされた相手、そいつについて語るならば、それは確かに目の色も変わるだろうと。同時に、何故という疑問が浮上する。

 

 フェルンは先の「知っておくべき大魔族の授業」の内容を振り返る。腐敗の賢老、クヴァールについて、師匠は確かに云った。『当時は倒すことが出来ず、封印するしかなかった』。伝説に謳われる勇者一行、全員で当たってもなお倒すことが出来なかった強大な魔族、クヴァール。しかし、クヴァールについて語る時の師匠は、マハトの時とはまた異なる印象を受けた。マハトに対しては悔しさ、未だ勝てない相手への感情があるのは今聞いて理解した。ならば、まるで“今なら勝てる”と言わんばかりの態度と口調でクヴァールについて語った師匠は、なぜその時、目の色を変えたのか。その疑問がフェルンの心を掴んで放さない。

 

「・・・・・・はぁ、分かったよ。そんな目をして見つめなくても話すから。クヴァールについて語りたくないのは、余計な事まで思い出すからさ。だから話したくなかったんだ」

 

 弟子の熱心な視線に負けて、フリーレンはゆっくりと語り出した。

 

「フェルン、“三天魔“についてどこまで知ってる?」

「初耳です」

「渡した歴史の本、読んでないんだね? じゃあ、かいつまんで話そうか・・・」

 

 三天魔、それは七崩賢と並ぶ、魔王直下の大魔族。七崩賢と分けて語られるのは、人類に対する脅威度、そしてその魔法が作られた経緯にある。三天魔と呼ばれる大魔族はそれぞれが、”人間を殺すためだけの魔法“を開発している。それらの魔法は人類に一切の抵抗を許さぬほどの、凶悪無慈悲な殺戮の魔法であった。

 

 人類が扱う防御魔法の(ことごと)くをまるで児戯と嘲笑うかのように打ち破り、人類側の魔法使い全てに絶望を抱かせた。どんな防具も魔法も全て貫く以上、撃たれたら死ぬという理不尽極まりない世界初の貫通魔法、「人を殺す魔法(ゾルトラーク)」。

 

 それは結界内の人間を殺し尽くす、あらゆる精神防御が意味を成さない無慈悲。その悪意を受けたが最後、のたうち絶叫しながら死ぬしかない残虐なる結界魔法、「精神と肉体を繋げる魔法(ブルートクルベル)」。

 

 被害者全員が何の抵抗も出来ぬままに殺され、そればかりか戦う体勢にすらなっていなかった事から、一時は正体不明だったほどのどうしようもなさ。人類の反応速度と認識速度を遥かに超える魔法、「神速に至る魔法(ナハトライアー)」。

 

 これら人類を殺戮するためだけの魔法を開発した大魔族たちを、天災に匹敵する抗いようのない恐怖の対象として”三天魔“と呼ぶ。だが、恐るべきはこれらの殺戮魔法だけではない。人類では決して敵わない魔法を扱う魔族という点では、黄金郷のマハトも同じである。三天魔が特異であるのは、三者全員が”人に化けていない“という点、そして”異名を得るほど名と魔法が知られた後で“ 、新たに殺戮魔法を作り出したという点だ。即ち、“人類に擬態する必要が無い“くらいに産まれた時から桁違いに強く、自身を象徴する“本命の魔法は別にある”という事である。

 

 フェルンは三天魔の概要を聞いて、己の中に恐怖が生まれたのを確かに感じた。あらゆる防御を貫通する一撃必殺。精神(こころ)を持つ人類だけが苦しんで死ぬ残虐結界。人類では絶対に反応出来ない不可避の超高速。理不尽極まる魔法の数々だ。戦時中の英雄英傑達が悉く破れたという逸話を前にして、自分だけは大丈夫などという楽観視は出来ない。

 

 顔を青くするフェルンを見かねて、フリーレンは逸話を補足する。

 

「フェルン、南の勇者は知っているね?」

「いえ・・・」

「歴史の勉強、ちゃんとしようね。南の勇者は人類最強と謳われた伝説の男さ。魔法も扱う剣士でね。その最後は“単身で七崩賢を半壊させて魔王の腹心と相打ち”という凄まじいものだった」

「それは・・・凄いですね・・・。というか凄すぎませんか?」

「それがね、事実は異なるんだ」

 

 軽く笑いながらそう付け足した師匠の言葉に、フェルンは若干の落胆を覚える。やはり伝説は伝説、人が語り伝えるものなどあまり信用ならないものだと。先ほど解説された三天魔に匹敵する七崩賢が全員集結、そこに加えて魔王の腹心を同時に、単身で相手取り、そこから七崩賢半壊と腹心との相打ちにまで持ち込むなぞ、話が盛られ過ぎている。それはいくらなんでもやりすぎではないか。人類というのはそこまで強い種族ではないだろう、と。

 

「おかしいと思ったでしょ。そもそも、魔王を討伐したヒンメルだってパーティーを組んでいたのに、どうして南の勇者は単騎だったのかって」

「一人で剣も魔法も扱える最強の勇者という時点で、作り話っぽいですね」

「いや、そこは本当なんだよ」

 

 フェルンは疑念のこもった目で師匠の横顔を見た。

 

「剣の腕でもヒンメル以上だったろう。だけど、それは一人で戦う理由にはならない。というか実際に、南の勇者には仲間が居たんだ。メンバー全員が南の勇者からしても足手纏いにならない程のね。そんな南の勇者パーティーだからこそ、たった一年足らずで魔王軍の前線を壊滅させて、人類側の優勢を勝ち取ることが出来たんだ」

 

 人類最強が同行を許すほどの強者揃い、それほどのパーティーならば、なるほど確かに魔王軍ともやりあえるだろうし、七崩賢を半壊させる事も可能かもしれない。それが伝説の真相だったのかと、フェルンは納得した。しかし、フリーレンの解説にはまだ続きがある。

 

「だけど、その強さが魔王軍に警戒されてしまった。魔王は南の勇者パーティーに対して、三天魔の一角を差し向けたんだ。それが“血呪(けつじゅ)(おさ)、フェシェン”。『精神と肉体を繋げる魔法(ブルートクルベル)』の使い手だよ」

 

 血呪(けつじゅ)(おさ)、フェシェンの戦術は凶悪そのものだった。『“精神と肉体を繋げる魔法(ブルートクルベル)”』は精神の損傷を肉体の損傷とし、肉体の損傷を精神の損傷とするという性質上、人類の不安や恐怖がそのまま魔法の殺傷力に直結する。その性質を最大限に発揮すべく、フェシェンは村や町を襲う際に必ず、無力な人間を一定数逃した。

 

『恐ろしい魔族が魔法を使うと、みんな叫びながら、全身から血を吹き出して死んだ』

『あの魔族はフェシェンと名乗った』

『みんな突然身体中に傷が出来て血を流して、呻きながら死んでいった』

『あの魔族がぼくに言ったんだ、町のみんながどうなったのか、他の人に伝えろ、って』

 

 フェシェンの進軍が続くと、フェシェンの恐ろしさを伝える難民が増える。難民が恐怖を伝染させてゆくと、『精神と肉体を繋げる魔法(ブルートクルベル)』の殺傷力が増していく。実に恐ろしい戦術だった。

 

 そしてついに、南の勇者パーティーが血呪(けつじゅ)(おさ)、フェシェンと相対した。

 

「それまでどんな人間も一方的に殺してきた『精神と肉体を繋げる魔法(ブルートクルベル)』の強さが、フェシェンを増長させた。結果、慢心していたフェシェンは南の勇者に倒された。だけど、代償は大きかった。この戦いで勇者パーティーは全滅。南の勇者一人を残して、全員がフェシェンに殺された。彼もまた深手を負い、フェシェンの取り巻きを全滅させた後は、しばらく立ち上がれなかったそうだよ」

 

 南の勇者は身体中から血を吹き出しつつも瞬時に距離を詰め、慢心の極みにあって無防備なフェシェンを瞬殺した。瞬殺(そう)せねばやられていた。しかし、その一瞬で、パーティーは全滅していた。人類最強が足手纏いにはならないと判断した程の強者達が、その一瞬で血の海に沈んで息絶えていたのだった。

 

 幸いであったのは、南の勇者が傷を癒しながらも戦い続けられたことか。事態を重く見た魔王軍は最高戦力を集結させていた、即ち七崩賢を。七崩賢が全て揃うまでに、南の勇者は全快服していた。だが、もう仲間は居なかった。七崩賢と魔王の腹心、南の勇者はこれらすべてを一人で相手せねばならなかった。血呪(けつじゅ)(おさ)、フェシェンが一瞬展開した『精神と肉体を繋げる魔法(ブルートクルベル)』のせいで。

 

「そんな・・・たった一瞬、結界魔法を展開しただけで、最強の勇者パーティーが全滅するなんて。本当にありえるんですか、そんな事が」

「三天魔の恐ろしいところはそこさ。本当に理不尽な魔法を使うんだ。人類を殺戮するためだけに開発された魔法ってのはね、本当に恐ろしいんだよ、フェルン」

 

 師匠の言葉を飲み込んで、フェルンは心を落ち着かせようと息を吐く。そして、思い至る、やはり今の話はおかしいと。

 

「・・・・・・ちょっと待ってください。という事はですよ、南の勇者様は、本当に単身で七崩賢を半壊させて、魔王の腹心と相打ったんですか・・・?」

「そうだよ」

「・・・・・・まさしく人類最強と」

「決して誇張表現ではないね」

 

 そして、話は最初に戻る。フリーレンが腐敗の賢老、クヴァールについて語るとき、余計な事を思い出すというところだ。フリーレンはゆっくりと、そして口惜しそうに語り出した。

 

「実はね、南の勇者とは面識があるんだ、一度だけ。その時に言われたのさ、『三天魔には気をつけろ』ってね。フェシェンとの戦いで満身創痍に陥ったこと、仲間を全員失ったこと、それらを踏まえて、残る“クヴァール”や“アァギール”と戦う時は覚悟しろって・・・—————だけど・・・、当時の私はまだまだ未熟でね・・・・・・。魔法戦でそこまで遅れを取るとは思ってもなかった。結果、クヴァールには一方的な戦いで苦戦させられ、アァギールからは逃げるしか無かった。どれも苦い思い出だよ・・・」

 

 それは、師匠の強さを知るフェルンにとって、なんとも信じ難い話であった。様々な意味で信じ難い話であった。ヒンメル一行はいったいどうやって、一撃必殺、当たったら死ぬ魔法の使い手との戦いで、深手も負わずに封印出来たのか。いったいどうやって、人類の反応速度を遥かに超える超高速の魔族から逃げ切ったのか。三天魔の使う魔法はどれも一撃必殺だろうが、師匠の魔法の威力だって凄まじいものだ。まさか、勇者ヒンメルの剣も、戦士アイゼンの斧も、賢者ハイターの女神様の魔法も、葬送のフリーレンの魔法すらも通用しなかったというのか。だから封印するしか、逃げるしかなかったというのか。三天魔はそれほどまでに恐ろしい魔族なのか。

 

 フェルンの疑問に対し、フリーレンは過去の戦いを解説していく。

 

「“刈り取る者、アァギール”は恐ろしい魔族だった。奴の使う『“神速に至る魔法(ナハトライアー)”』もさることながら、純粋な実力だけでも当時の魔族の中で最上位の強さだったろうね。それこそマハトやクヴァールに匹敵する強敵だった。私達がアァギールから逃げ切れたのは、奴のプライドの高さを利用出来たからに他ならない———アァギールは『“神速に至る魔法(ナハトライアー)”』に固執していたんだ」

 

 その説明にはフェルンも納得せざるを得ない。人類が相手なら絶対に勝てると言えるほどの魔法『“神速に至る魔法(ナハトライアー)”』は、当然の事ながら対魔族戦でも優秀だったろう。なにせ誰も反応出来ない超高速、それは不可避であり防御不可能を意味する。防御魔法の常時展開が実質的に不可能である以上、これは本当にどうしようもない攻撃魔法なのだ。しかし気になるのは、そんな超高速の相手から、どうやって逃げおおせたのかという事だ。逃げる相手より速ければ、必ず追いつける道理。ヒンメル一行はどうやってアァギールから逃げ切れたのか、フェルンはその当たり前の疑問を口にした。

 

「なぁに、単純な話だよ。いかに速かろうが、いかに強かろうが、相手を見つけられなければ意味がない。アァギールが近隣に居ると分かった時点で、私達は魔力の痕跡を消して、気配を消して、地中に潜った。ドワーフのアイゼンがいたおかげで、地中でも方角を見失うことなく、アァギールの感知範囲を抜け出せたというわけさ」

 

 種を明かされれば拍子抜け。単にトンネルを掘って、脱獄囚のように静かにゆっくりと道を拓いただけ。しかし、それが“刈り取る者、アァギール”の強さを裏付ける。そうでもしなければ、もしも正面から当たれば、確実に敗北したであろう程の相手。攻略法どころか戦い方すら考案されていなかった当時は、本当にどうしようもなかった相手なのだと。

 

「私達勇者一行が近くに居るのは“なんとなく分かる”、歴戦の魔族の勘がそう告げている。だけど、いくら探しても見つからない、どれだけ地表を走り回っても見つけられない。そうして()れたアァギールが他の戦場へ移ったところで、私達は地表に出て、魔王城へ急いだというわけさ。勇者パーティーという割に卑怯臭くて失望したかい?」

「まさか。絶対に勝てない相手に対する戦い方があるなんて、思いもしませんでした」

 

 フェルンの感想を聞いて、フリーレンはしみじみと思い耽りながら話を続けた。

 

「クヴァールとの戦いを経て、私達は三天魔や七崩賢がいかに恐ろしい魔族なのかを知った。その中でもクヴァールと並ぶ、別格に強いと噂のアァギールだ。決して正面から当たってはいけない、パーティー全員がそれを理解していた。だから避けた—————いいかい、フェルン。これだけは、絶対に、憶えておくんだ。なにも正面から削り切るだけが現代魔法戦じゃない。のらりくらりと受け流して避け続けて、相手が根負けするまで待つのもひとつの戦法さ。これが意外と馬鹿にできないくらい、有効な場面だってあるんだ」

 

 フェルンはしっかりと頷き、師匠の言葉を胸に刻む。それはそれとして、やはり気になるのは、アァギールのその後である。超高速の魔族は結局、魔王が討伐されるまで勇者パーティーに追いつけなかったのか。そもそも、戦闘を避けた、倒せなかったという事は、今も生きている可能性があるではないか。

 

「“神速に至る魔法(ナハトライアー)”は諸刃の剣・・・・・・いや、明確な欠点を抱えた魔法だった。時間の流れの中から自身を切り離し、自らの時間を自在に加速させるという、超が付くほどの高等魔法。その代償は単純明解、“()くなった分だけ寿命も早く尽きる”。いくら人類(ヒト)より寿命の長い魔族といっても、数百倍の早さで寿命を消費し続けて無事でいられるはずがない。そんな魔法を使い続けた結果、アァギールは・・・・・・—————」

 

 フリーレンは立ち止まり、空を見上げて、情念の籠った声で思い出を語る。

 

「—————魔王を討伐して帰路につく私達の前に現れたアァギールは、もはや走ることはおろか、立って歩くのにすら杖が必要なほどに老いさらばえていた。魔王を討ち取ったという私達の言葉を聞いて、奴は心底悔しそうな嗚咽を漏らして、そして、その場で(チリ)と化した。()()、それが“刈り取る者、アァギール”の最後だよ。私達の前に姿を見せたのは、それまで生き永らえたのは・・・、強者としての意地・・・だったのかもしれないね・・・・・・」

 

 最後の三天魔、アァギールの末路を語り終え、フリーレンはまた歩き出す。フェルンは少し遅れて、ついて歩く。歩きながら、やはりフェルンは考える。師匠フリーレンが、クヴァールについて語るのを避けていた理由。それは三天魔についての苦々しい記憶、危険度を報されていたにも関わらず甘く見ていた未熟な過去であり、結局倒し切れず封印という先延ばしでしか対処出来なかった悔しさであり、命の限界を超えてでも魔法への執着を魅せた魔族への情念であった。

 

 フリーレンは常日頃よりこう語る、魔族とは決して理解し合えない存在であり、滅すべき敵であると、それ以上でも以下でもないと。そう語るフリーレンの心に深く刻み込まれた、恐ろしくも偉大な、凄まじき魔族がいたのだと。ただただ冷徹に倒すべき敵と認識しているはずなのに、その枠組みに収まり切らない者たち。それが“黄金郷のマハト”であり、三天魔であった。

 

 ようやくすべてに納得し、満足のいったフェルンが、本日最後の疑問を口にする。

 

「それで、私達は何処へ向かっているんですか? 本来の予定とは離れた道のようですが」

 

 少し得意げな顔だけで振り向いて、フリーレンが答える。

 

「クヴァールの所さ」

「・・・・・・まさか、封印が解けるのですか?」

「そういうこと」

「勇者パーティーが倒せなかった、当たったら死ぬ貫通魔法の使い手、なんですよね? どうやって戦うんですか。しかも私達2人だけで。なにか対策があるのですか?」

「それは戦ってみれば分かる事だよ、フェルン」

 

 散々に三天魔の脅威について語られた後であったため、この日、フェルンは恐怖と不安でまるで寝付けず。翌朝は寝坊屋で有名なフリーレンとほぼ同時に起き出すはめになってしまい。その不満を、師匠の髪型を無茶苦茶にするという形で表現するのであった。

 


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