『死体が落ちている』
書き上げれられなかった作品の供養です
その図書館には、奇妙な噂があった。
『死体が落ちている』
話によって場所や服装、性別など細部は異なるが、死体があったという事だけは共通していた。
そのことを聞いた大学生のAさんは地元出身で同学部の友人に案内を頼むと
「その図書館、心霊話しが流行るほど長い歴史はないのになぁ」
と不思議がりながらも承諾した。
友人曰く、図書館はおよそ5年ほど前に作られたばかりでこの田舎には不釣り合いなほどキレイで物騒な事件も起きていないという。
実際2人が図書館に行ってみると、明るく清潔感があり勉強している学生や新聞を読む老人が座っており、受付カウンターでは髪の跳ねた男性と猫背の女性の職員が何やら本をこねくり回していた。
友人は「相変わらずいい感じの空調だ」と日の当たる席に座り棚から取ってきた法医学の本を読み始めた。
Aさんはぐるりと書架を回ると、ふといくつか死角となりそうな場所を見つけた。
棚がぐるりと囲み小部屋のようになっている場所、障害者用エレベーターに向かう通路の脇、アルファベットで書かれているが確実に英語ではない何かの外国語で書かれた洋書の棚。
これらの場所は一度入ってしまえば周りからは見えず、かつこちらから向こうの影や足音、エレベーターのランプが確認できる。オマケに元々人通りの少ない場所なので運さえ良ければ1日中隠れることだって出来そうだ。
しかし本題は死体だ。
もしもこの死角が死体と関係あったとして、ここはあくまで少し隠れるのにいい場所であって死体を隠すのに向いた場所ではない。
それにそもそも噂になっている時点で死体は見つかっているはずなのだ。本当に死体が見つかったのであれば事件化せずとも地元民の友人が全く知らないわけはないだろう。
Aさんは洋書の隠れ家で横になってみた。図書館の空調は好調なようで暑くも寒くもなく、図書館なのに本の持つ臭いのようなものがほとんど無い。しかしもし死体があれば腐るだろうし臭いを消せるほどの空調は完璧ではないはずだ。
ただの都市伝説だろう、そう結論付けようとした瞬間、さっきの髪の跳ねた職員が小部屋の入り口から覗いてきていた。
Aさんが大学生にもなって情けないことで叱られるのかと後悔していると、職員は少しAさんをみただけでスゥっと通り過ぎていく。
そのまま彼はこれ幸いと小部屋から出て、そのまま友人の下へ行き今あったことをは話した。
「ああ、それにしても驚いた。足音もなく現れたんだから」
友人はそれを聞いて少し面白そうに話した。
「こんな田舎にも洋書を読むような人いるんだなぁ。そしてたまたま本の返却されたタイミングとぶつかったわけだ」
それを聞いてAさんは気がついた。
さっきの職員は手にタオルだけ持っていた。
図書館職員の仕事はきっと色々ある。しかし返却するわけでもなければ、需要がなく整理の必要もほとんどないであろう洋書の棚に何をしに来たのか。
Aさんはそう言うとカウンターを見て、今は女性ひとりのみなのを確認したら、再び死角になっている場所を今度は息を殺して静かに向かった。すると障害者用エレベーターの死角で耳を澄ませると、低い位置から人の息と、僅かにカツッと何かをぶつける音が聞こえた。
Aさんは意を決してスゥっとエレベーター前に出るとそこには職員が横になっていた。
職員はまるで野生の猫のように、体は動かさず頭と目でじいっとAさんを見つめた。
Aさんはそのまま何食わぬ顔でエレベーターの呼び出しボタンを押して着くとそれに乗り込んだ。
なんてことはない。死体の話はただ職員が横になってサボっていただけなのだ。
ただ一つ疑問が残る。何故死体なんて噂になったのか。
見間違い? 誰かが面白がった? それとも職員がわざと流した?
数ヶ月後、Aさんは奇妙な話を聞いた。
図書館内で血のついた本が見つかったらしい。
その汚れはかなりの時間が立っており、恐らく鼻血で汚損したものをコッソリと隠していたのではないかと結論付けられたとのことだ。
そしてその汚れは本の天(上部のこと)にベットリとついていた。
しかし表紙や開いていたページに鼻血が落ちるのならともかく本の天に鼻血などつくのだろうか?
Aさんは疑問に思いながらも、二度とその図書館に行くことはなかった。