死の支配者と太陽の鋼鉄竜 ナザリック英雄育成計画   作:捻くれたハグルマ

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また勢いで書き始めてしまった……
プロローグです


プロローグ 壊れてしまった終末時計

 

 無機質な電子音が響く、冷たい部屋。真っ白なリネンに包まれたからだが弱弱しく動く。ベッドサイドの上に置かれたヘッドマウントディスプレイを手繰り寄せる力は、老人のようなか細いものだった。それでも、何とか体を動かして掴みとる。友人との最後の約束のために。

 

 「行かなくては……」

 

 かすれた声でつぶやき、手の内にある機器を装着し、夢の世界に向かう。

 

DMMO-RPG ユグドラシルオンライン

 

 彼にとってのたった一つの娯楽。世界を牛耳る大企業が発展しすぎた技術を使って作った愚民と虐げられる者たちに与えた「パン」。だが、そのパンは何よりもかけがえのないものになった。理想や志を抜きにして、ただ純粋な友情を育めたオンライン・ゲームだ。美しい世界、未知の探求、壮大な冒険、長く濃密な時間と旅だった。それが、終わる。サービス終了という形で。作り物とは思えないほど輝かしい自然も、おどろおどろしいモンスターも、謎めいたダンジョンも、サービス終了というスイッチを押されてしまえば何もなくなってしまう。友と共に作り上げたギルドも、拠点も何もかも例外ではない。だからこそ、行かなくてはならない。最後の最後まで残ろうと誓い合った、約束したのだから。震える手で首筋のインプラントにコードを差し込んだ。

 

 ログインすれば、視界には自身の鋼鉄の手、石で作られた荘厳な墳墓がある。一か月ぶりの愛すべきギルドホーム、ナザリック地下大墳墓が変わらずそこにあった。彼は、来られなくなった時もずっとここを守ってくれていたらしいと安堵する。コンソールを開けば、ログイン中のギルドメンバーに一つの名前がある。「モモンガ」。だが、円卓の間にはいないようだ。少しだけ考える。ログインメンバーが彼しかいないことから察するにサービス最終日に集まろうという試みは失敗に終わったようだ。悲しい事だが、仕方がない。自分のような死に体の人間もいるだろうと考えれば、モモンガがいることは幸運とさえいえる。彼さえも立ち去ってしまったら、心が折れてしまっていただろうから。思考が寄り道している。今は彼に挨拶をすることが先決だ。彼はRP大好きのロマンプレイヤー。では最後までRPをするに違いない。大魔王が終焉を迎えるにふさわしい場所といえば、このナザリックには一つしかないだろう。鋼鉄の手に付けられた指輪にそっと触れて、転移する。転移先は玉座の間だ。

 

 「うわっひゃぁ!!!」

 

 豪奢なローブに包まれた、非常に恐ろしい白骨の魔法使いが素っ頓狂な声を上げた。

 

 「あっはっはっは!!ごほっ、げほっ……モモンガさん、こんばんは。一月ぶりですね。」

 

 「ファフ・ニールさん!来てくれたんですね!!!大丈夫でしたか?」

 

 「すみません、色々あって連絡を確認できていませんでした。遅くなりましたね。」

 

 「いえいえ!いいんですよ!来てくれただけで!あの……えっと……」

 

 「勿論、最後まで。一緒にここを守ろうって約束じゃないですか。最後まで、やりきりますよ。」

 

 彼が、モモンガが言いたいことは手に取るようにわかる。だからこそ、さえぎって答えた。当然の答えだ。だって、話せるだけでとても楽しい。裏切られて擦り切れそうになっていた心をいやすには十分すぎる。共に過ごして十年近い彼は、本当に気安い存在だ。だが、驚いていたことが気になる。転移で急に現れるということはよくあることだ。だが、それにしては驚きすぎている。まるで子供のいたずらがバレた時のようだった。少し観察すると、違和感が起きる。

 

 「アルベドを動かしたんですか?」

 

 「あっ……」

 

 「ほほう。何かしましたね?」

 

 彼は素直な人間だ。反応が非常に分かりやすい。彼の裏がない人当たりの良さは、曲者ぞろいだったギルドメンバーたちが内紛を起こさなかったくらいだ。隠し事には不向きな性格に微笑みが自然と浮かんでしまう。鋼鉄の龍のアバターが笑顔を写さないのが惜しいくらいだ。

 

 「いやいや!アルベドに何もしてないですよ!」

 

 「別に、アルベドに何かしたなんて言ってないですよ。」

 

 「あっ!」

 

 「ハハハ、モモンガさんは分かりやすいところがいいんですよね。さてさて、考えてみましょうか……」

 

 「あっ、いや!」

 

 「あ~……アレを見たのかな?アルベドの設定欄。」

 

 「えっ!?」

 

 「アルベドの製作はタブラさんだけじゃなくて私も関わった、と言えばわかりやすいですかね?色々と仕込みをしていたんですよ。なんて書き換えました?」

 

 守護者統括アルベド、ついぞその役目を果たせなかった魔王の側近、いや、魔王本人には隠して魔王の寵姫として作り上げた彼女は、ファフ・ニールにとっては友情の証の一つだ。彼女の設定に関連することは夢でうなされるほど聞かされていたため、今でも暗唱できるほどだ。どこを書き換えたは想像がつく。とはいえ、どう書き換えたのかはその魔王本人次第。冥途の土産に聞きたいと思ってしまっても致し方ない事だろう。だが、当の魔王本人の腕は空中で藁を掴もうとするがごとく慌てている。

 

 「後生ですから教えてくださいよ。ここじゃ最後なんですから。」

 

 「最後、か……」

 

 モモンガはゆっくりと頭を上げて、玉座の間の天井、いや天井に向かってそびえたつ柱に備え付けられた旗に目を向けた。ファフ・ニールもまた、それに目を向ける。モモンガ、たっち・みー、ウルベルト、武人建御雷、弐式炎雷、ぶくぶく茶釜、ぺロロンチーノ、タブラ・スマラグディナ……その他大勢のギルドメンバーを象徴し、ギルドメンバーによってデザインされたエンブレムが描かれた旗だ。だが、旗に対応する者は最早二人しかいない。このユグドラシルにおいて恐怖と暴虐の象徴として知られる死の支配者たる頭蓋骨を模したエンブレムと、その大悪党の中でも突撃隊長として最も戦場に長く立ち続けた太陽円環を後頭部に抱く機械仕掛けの龍神のエンブレムが、寂しくはためくだけだ。

 

 「ファフ・ニールさん。ちょっとこっちに。」

 

 最後の時に二人きりだからこそ覚悟が決まったのか、ちょいちょいとモモンガが手招きをする。玉座に座る魔王に耳打ちされるべく、龍神は近づいてそっと耳を傾けた。

 

 「最後の一文だけをですね……」

 

 「ほうほう。」

 

 「モモンガを愛してる……に書き換えたんですよ……」

 

 「んッ、く……!」

 

 「タブラさんに申し訳ないですよ……」

 

 「くははははは!わっはっははは!げほっ、あはははは!!!」

 

 ファフ・ニールは腹を抱えて笑った。そして、ここには来なかったタブラ・スマラグディナに想いを馳せる。仕込みの最終段階を、当の本人が8割の完成度で再現してくれましたよ、と心の中でつぶやいた。

 

 「そんなに笑わなくてもいいじゃないですか!戻します!」

 

 「いやいや、いいんですよ。それで。タブラさんなら、もう一声!って言ってたかもしれないですけどね。」

 

 ファフ・ニールは親指を立てて、笑いのアイコンを出す。それに応じて、モモンガはハテナマークを出した。

 

 「ま、私としてはモモンガさんに書き換えてもらってよかったですよ。」

 

 「そうですか……なら、よかった……ファフ・ニールさん。」

 

 「なんですか?モモンガさん。」

 

 「楽しかったですね。」

 

 「えぇ、とても。」

 

 最後の時が近づいている。あと10分といったところだ。だからこそ、長い言葉はいらなかった。もう連絡が取れない友人もいる。連絡が取れても来れないと返した者も少なくない。なんとか返信を確認した時、それは確かに受け取った答えだった。だが、ナザリックが、アインズ・ウール・ゴウンというギルドが嫌いになったと言った人間は一人としていなかった。だから、最後にふさわしい言葉は、楽しかったという言葉だけだった。だが、ファフ・ニールは二人だけでこれを受け止めるには満足できなかった。彼もかつてはトップギルドとして名を馳せたアインズ・ウール・ゴウンの一人であり、やりこみ勢。ならば、その最後は派手にやりたいというワガママがあった。

 

 「モモンガさん。私の最後のギミックテストに付き合ってくれませんか?」

 

 「ギミック?」

 

 「ごほっ……ヘロヘロさんたちと一緒に行動AI作ってたでしょ、私。それでね、無理言って結構大掛かりな仕込みしたんですよ。」

 

 「ファフ・ニールさんそういうの好きでしたもんね。るし★ふぁーさんみたいなハチャメチャじゃないからいいんですけど。」

 

 少し話すだけでも、思い出があふれ出てくる。やはり長い年月がたったということなのだろう。だからこそ、この仕込みを皆に見せられなかったことが残念でならない。

 

 「ハハハ、彼は大好きな友人を驚かせることにかけては情熱がありましたからね。めっちゃ迷惑かけられましたけど!おっと、いけない。このままだと時間が無くなる。」

 

 「はは、ファフ・ニールさんの渾身のギミック、楽しみにしてますよ。」

 

 「では……アルベド。『忠誠の儀を行え』」

 

 ファフ・ニールが、今まで一度も使われることがなかったコマンドを発する。すると、アルベドは玉座の間の一角に立った。それに続いて、部屋の隅に控えていたセバス・チャンとプレアデスの面々が玉座の間に間隔をあけて立つ。アルベドやセバスは近く、プレアデスは少し遠くに立っている。不自然な間隔の空きようだった。

 

 「さて、少し時間がかかりますけど……多分間に合うと思います。」

 

 ファフ・ニールがそういうと同時に、玉座の間の扉が開き、一般メイドたちやその他のNPCも整列した。だがその位置はプレアデスから更に後方だ。モモンガはそのNPCたちの特徴に気がつく。皆、第九階層に配置したはずのNPCだ。

 

 「ファフ・ニールさん、これもしかして……」

 

 「おっと、ネタバレ厳禁!」

 

 そして、宝物殿からはパンドラズ・アクター、第八階層からオーレオール・オメガ、そしてノクスがそれぞれのポジションで立つ。ファフ・ニールはノクスというNPCを見て、変わらず美しいとそう思わずにはいられなかった。彼女には並々ならぬ思いがある。自分が設計した、第八階層のあれらと共に戦うために作った領域『溶鉄砦』。その領域を守護する領域守護者として100.LvNPCとして手ずから生み出した娘のような存在だからだ。すらりと伸びた身長と、魅惑的な体。肩口まで伸びた銀色の髪、水色と緋色のオッドアイ、白いロングコートとダブルボタンのセットアップのスーツ。デザインセンスのあるギルメンに土下座をしまくってビジュアルを作り上げた最愛の子。課金に課金を重ね、タブラ・スマラグディナに協力を仰ぎ、設定面にもこだわって作った彼女が、自分で作り上げた行動AIによって正しく動いていることに思わず感動してしまう。彼の感動をよそに、第七階層、第六、第五、第四とんで第三から第一。一部の特殊なNPCを除いて、ギルメンによって作られ、名前を与えられたNPCたちが整然と並んでいる。そして、全員が定められたポジションに立つと、一糸乱れぬ姿で跪く。

 

 「これ……」

 

 「お気に召しましたか?ユグドラシル至上最悪のDQNギルドを率いる魔王様?」

 

 「本当に……本当に凄いですよ……!!ちょっと撮影させてください!」

 

 ファフ・ニールが大仰にお辞儀をすると、モモンガは歓喜し大興奮して、整列したNPCを写真に記録する。だが、撮影を進めていくうちにとあることに気がつく。アルベドやデミウルゴスのような守護者統括や階層守護者といった最前列のNPCの前にぽっかりと空白のスペースがある。それに気がつくと、モモンガは撮影の手を止めていた。

 

 「気づいちゃいましたか。本当はね、いつかこの子達の前で40人で跪こうと思ってたんですよ。モモンガさんを玉座に座らせてね。私一人ですけど、最後までやらせてくれませんか?最後の、ロールプレイです。」

 

 「……はい。いや、違うな。よい、我が友よ。付き合おう。」

 

 「有難う、我が友よ。どうか最後までお願いする。」

 

 残り数分、最後のロールプレイはギルド長の賛成において実行される。ファフ・ニールが空白のスペースの中央に跪く。そして、頭を上げて、口を開いた。

 

 「我らがギルド、アインズ・ウール・ゴウンの長、モモンガ様。僕と共に、私ファフ・ニールがギルドメンバーを代表して、貴方に変わらぬ忠誠を誓う。」

 

 「素晴らしい……素晴らしい、仕事。大儀であった!」

 

 「感謝を。そして、貴方と共に最後の時を過ごせることを本当に嬉しく思う。貴方には、伝えたいことがある。」

 

 「よい、申せ。」

 

 「私が、機械、ロボットの設計の研究者であることはご存じかな?」

 

 「勿論知っている。我が友よ。」

 

 「単刀直入に言おう。研究中、少々事故があり……私はもう長くない。」

 

 「え……っ?」

 

 モモンガが思わず立ち上がろうとするが、ファフ・ニールは手を上げ、それを制止する。数秒、見つめ合って、モモンガが折れた。また、魔王然として座ったことを確認して、ファフ・ニールが続ける。

 

 「一か月という時を、彼らと、そして貴方を残して過ごさねばならなかったのはその事故の為だ。どうか、許してほしい。」

 

 「我が友よ、お前の全てを許そう。」

 

 「有難う。そして、また感謝を。皆が来なくなり、そして私も来れなくなったというのに、貴方は変わらずここを守ってくれた。」

 

 「当然だ。皆に事情があることは私も承知の上。たとえ会えなくなったとしても、友情そのものが無くなったわけではない。皆が私に残してくれたここを守ることは私の使命だ。」

 

 「ふふ……本当に優しい魔王様だ。ごほっ、げほっ……ぐぅっ……」

 

 リアルの痛覚がファフ・ニールに襲い掛かり、跪いた姿勢が崩れかける。だが、それでも、ファフ・ニールは無二の親友との最後の「遊び」を辞めるつもりはなかった。力を振り絞って、声を上げる。

 

 「ではギルド長、私との「最期」の時だ。もうしばらく付き合ってくれ。」

 

 「っ、あぁ。無論だ。何を望む。我が友、ファフ・ニールよ。」

 

 「世界の最後においても、我らがナザリック地下大墳墓は不落の要塞!それは彼らの働きもあってこそ!私と、彼らに最後に労いの言葉をかけてもらいたい!」

 

 苦しいだろうに、大変だったろうに、最期の時を共に過ごすことを選んでくれた友情に、モモンガは泣きそうだった。だが、だからこそ、こぶしを握り締めて彼との、そして友人たちと作り上げたナザリックとの別れに有終の美を飾ろうと奮起する。玉座から立ち上がり、精いっぱい魔王らしく振舞う。

 

 「皆、このナザリックによく仕えてくれた。私は満足である!大儀であったぞ!我が友、ファフ・ニール。貴方もだ。そして今日来られなかった我が友らへの労いは、代わりに彼らの作った僕たちが受けるがよい。」

 

 「有難う、我が友よ。長い……とても、長い旅だったな。」

 

 「あぁ、だが全て有意義な旅だったな。」

 

 サービス終了まで残り数十秒、お互い最後の言葉に迷う。だが、お互い言うべき言葉が決まった。

 

 「「アインズ・ウール・ゴウン万歳!」」

 

 最後の最後まで、彼らはギルド、アインズ・ウール・ゴウンであり続けた。だからこそ、この言葉がふさわしかった。満足だった。後悔がないといえば噓にはなるが、満足はしていた。そして、24時。サービス終了の時が来た。来た、はずだった。

 

 「お父様……どうか、どうか諦めないでください……生きて、ください……」

 

 跪くファフ・ニールは覆いかぶさるように誰かに抱き着かれていることに気がつく。玉座に座っていたモモンガにはもっと驚くべき光景が見えていた。NPC達が涙を流し、各々が悲しみの嘆きを上げている。ファフ・ニールが作り上げたNPC、ノクスが彼を抱きしめて言葉をかけている。本来システムで制御されている彼らが指示していない行動を起こし、感情を示し、口が動いているということはあってはならないことだ。あってはならないことだが、それが起きている。混乱の中で二人は気がつく。終末時計は、どうやら壊れてしまったらしいということに。




主人公はゴッドイーターシリーズのハンニバル種系統っぽい見た目です。メカとドラゴンを愛した恐るべき中二病……!
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