死の支配者と太陽の鋼鉄竜 ナザリック英雄育成計画   作:捻くれたハグルマ

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 な、長くなってしまった……


馬鹿げた夢を見た先で

 

 ファフ・ニールこと、本名武田一心は、アーコロージーに住む知識層の一家に生まれた。ウルベルトの言葉を借りるならば勝ち組なのだろう。だが、一家はまともな感性を持っていた。所詮はただ運がよかっただけの事、おごることなく、与えられている特権をせめて誰かのために使うべきだと教え育てられた。よく学び、何かを為すべく生きてきた。そんな彼は幼いころに夢のような話を聞いた。

 

 かつて人類は、宇宙を目指した

 

 アポロ計画、ボイジャー計画、スペースX、ありとあらゆる手法で、人類は夢を見た。健全な時代だった。知恵ある者、権力を持つ者、金を持て余す者、ただの普通の者、皆が夢を見れた時代だった。一心も夢を見た。宇宙へと、新世界へと想いを馳せた。その為に必要な知識を学んだ。ロボットであれば宇宙空間でも問題なく活動できると信じ、ロマンを求めて、突き進んだ。だが、彼の生きていた時代は腐りきっていた。研究者などというのは最早形骸化した呼称だった。未知への挑戦などさせてはもらえない。ある程度道筋がわかりきったものをそれなりの形にするだけの仕事だった。当然だろう。技術も知識も、大企業が独占するものだからだ。彼は荒れた。やりがいのない人生を生きることに何の意味があるだろうか。だが、彼は出会ってしまう。ユグドラシルに。AOG(アインズ・ウール・ゴウン)に。

 

 気のいい奴らだった。人生に光が差した。本来の意味を失った仕事の愚痴をたっち・みーと交わし、平等な世界をウルベルトと共に夢見た。かつて光り輝いていたという星空を、ブルー・プラネットと検証しあった。下らないエロ話をぺロロンチーノとし、モモンガとはギルドに尽くす喜びを分かち合った。彼の人生における義務は、空っぽな「万民」のためのものだった。だが、それは中身のある「仲間」のためのものへと変わった。何かをしたい。今を生きる友たちのために何かが出来るはずだと、もう一度考えた。環境汚染さえ何とか出来れば、今の人口であれば多くの人々がかつてのような幸福な暮らしを取り戻せるかもしれない。少なくとも、下水道に子供が住み着くことを不自然だと思えるようにはなるはずだと。

 

 「そういうわけで、色々頑張って汚染区域の除染作業を出来るロボット作ったんですよ」

 

 「凄いじゃないですか!」

 

 「作っちゃったのがよくなかったんでしょうねぇ……」

 

 彼には確かに才能があった。ユグドラシル内で知識人と交流が出来たこともよかったのかもしれない。彼は目的を十分に達成できるロボットを作った。だがそれは企業の汚点に触れるロボットだった。彼には政治の才能はなく、上に完全に目をつけられていた。「危険物の管理不行き届き」によって、研究室内に毒ガスが発生し、彼は逃げ遅れた。なんとか防毒マスクを手にしたところで、体には甚大なダメージが加わった。一か月間昏倒し、何とか目が覚めたところで先はもうなかった。これが、彼の人生の末路だった。

 

 「だからラッキーと言えばラッキーなんですよね。寿命が無限になった」

 

 「そんなに簡単な話じゃ!……いえ、簡単な話になっちゃいますね」

 

 「感動も悔しさも驚きもあるんですけど、この体になってからやっちゃうと凄くドライな話になっちゃうんですよね。ホラーですよ」

 

 モモンガにとっても、ファフ・ニールにとっても、衝撃的な話だ。だが、鎮静化されてしまえばなんてことはない話になってしまう。生死に関してはとことん無頓着な気持ちになるが、これを良い変化と捉えるべきか、悪い変化と捉えるべきかは早計だろう。とにかく、ファフ・ニールにとって良かったことは、まだ生きているという事。孤独ではないという事。無限の時間を使って今度はもっと良い事が為せるのではないかという事だった。少なくとも、彼の持っている知識は多少は役に立つだろうから、人のいいギルドマスターを助けて行けるだろうと楽観視する。

 

 「さて、私の話はこんな所です。もうちょっとドラマチックだったらよかったんですけどね」

 

 「十分重いドラマでしたよ……」

 

 「ま、リアルにはもう未練はないですかね。あっちじゃ私が出来ることはもうないってことがハッキリしちゃいましたし。こっちではジャンジャンバリバリサポートしますよ、魔王様」

 

 「助かります……それはそれとして、上位者ムーブ続けないとだめですかね」

 

 「様子見は必要でしょうね。私が試していきますよ。ゲーム通りなら、コキュートスに特殊技能(スキル)連打されない限りは死なないと思うんで」

 

 「ホント羨ましい硬さですよ……じゃ、本当にゲーム通りに戦えるか確かめに行きますか!」

 

 会議は終了。これからは検証の時間だった。戦闘の準備を整え、二人は指輪を用いて転移する。行先は第六階層、円形闘技場。そこは、DQNギルドの露悪的な要素として、侵攻してきた敵対プレイヤーを狩り、見世物にした場所だった。作り物とはいえ時間と共に変化する星空を作ったのは、ブルー・プラネットとファフ・ニールだ。柔らかい光に包まれると、落ち着いた気持ちを引き起こす。だが、今回は戦闘能力の検証だ。気を引き締めないとな、とファフ・ニールはいつの間にか自然と扱えている尻尾をびたんと地面にたたきつけた。すると、音を聞きつけたのであろう闇妖精(ダークエルフ)の少女が、円形闘技場の貴賓席から満面の笑みで手を振っているのが見える。

 

 「とぁ!」

 

 可愛らしい掛け声と共に、全く可愛らしくない高さから飛び降りる少女。常識に合わせれば肉片になるだろうが、彼女はスムーズに着地すると、猛スピードでこちらに駆けつけて、二人の前でぴたりと止まった。

 

 「いらっしゃいませ!モモンガ様!ファフ・ニール様!お早いおつきですね!!」

 

 アウラ・ベラ・フィオーラ、第六階層守護者の一人である。金髪オッドアイで褐色肌の美少女が少年風の格好をしているのは、創造主であるぶくぶく茶釜の趣味である。大事な事なので二度言おう。趣味である。

 

 「すまないな、アウラ。予定よりも早く来てしまった」

 

 「いえいえ、モモンガ様!支配者であるモモンガ様が気になさる必要など全くございません!」

 

 「アウラ、それでも我々は君達の邪魔をしたくないんだよ。君達が大切だからね。上に立つ者の気分で振り回されることがどれだけ大変か、我々だってわかっているつもりだ」

 

 ファフ・ニールが気づかいの言葉をかければ、アウラは更にきらきらとした笑顔を見せた。余程嬉しいのだろうということがよくわかる。

 

 「それならもっと役に立たせてください!至高の方々のお役に立てることほど嬉しい事なんてないですから!」

 

 「そうかそうか。だが無理をしない範囲でな」

 

 「はい!モモンガ様!」

 

 そうやって会話をしていると、貴賓席の方からぴょこりと頭が出てくる。こちらを不安そうに見つめている。アウラはその顔を見ると、大きな声で怒鳴りつけた。

 

 「マーレ!とっとと降りてきなさい!」

 

 「む、無理だよぉ……お姉ちゃん……」

 

 実におどおどしているが、アウラと同じ闇妖精(ダークエルフ)で、彼女の「弟」にあたる、少女風の格好をした少年だ。なぜ少女風の格好をしているのか。ぶくぶく茶釜の趣味である。もう二度は言わない。名前はマーレ・ベロ・フィオーレ。彼と彼女は、ぶくぶく茶釜が理想的な姉弟とはこうなのじゃ!とエロエロに夢中なぺロロンチーノに文句を言いながら作り上げていた。

 

 「あのですね、あの子はちょっと臆病なだけで失礼な態度を取ろうとしているわけじゃないんです」

 

 アウラは早速不敬を働いている弟に頭を抱えていた。弟に困らされる姉の姿を見ると、モモンガもファフ・ニールもぺロロンチーノを折檻するぶくぶく茶釜の姿を思い出してどこかほっこりとした気分になり、警戒心はすっかり鳴りを潜めていた。

 

 「無論、わかっているとも。お前達の忠義は我々に十分に伝わっているし、信頼している」

 

 モモンガは嘘を織り交ぜ、上位者として安心させるように声をかける。

 

 「マーレ!無理しなくていいよ、ゆっくりで!」

 

 「ファフ・ニール様!マーレを甘やかさないでください!」

 

 「いいじゃないか、アウラ。甘やかしても」

 

 ファフ・ニールが甘やかそうとするとアウラが口を出す。かつて、ぺロロンチーノが縛り上げられて吊るされているときも、このようにファフ・ニールが口を出すたびにぶくぶく茶釜に甘やかすなと叱られたものだった。アウラもよく似ているな、と率直に思わざるを得ない。やはり創造主と被造物はどこか似る物だろうかと仮説を立てておく。そうしていると、マーレも勇気を出して飛び降りてきたようだった。

 

 「お、お待たせしました……モモンガ様、ファフ・ニール様……」

 

 「うむ。二人とも元気そうで何よりだ」

 

 「元気ですよー!侵入者が来ないんで暇ですけど!」

 

 「何か月くらい来てなかったですっけ」

 

 「中まで入れたのはもう何年も前でしたよ。確か。外で二人でやったのもだいぶ前ですね……」

 

 「そりゃあ暇だろうね、アウラ」

 

 「えぇ、暇です!!」

 

 「ぼ、ぼくは暇な方が、い、いいなぁ……」

 

 アウラはマーレな弱気な言葉にムッとするが、それに気づいたモモンガはすっと手を間に挙げた。

 

 「よい。私も、今の不可解な状況では暇な方がいいくらいだと感じていた」

 

 「流石モモンガさん、慎重派」

 

 「もうちょっと貴方は真剣に考えてくれませんか?」

 

 「まぁ私、ぶっちゃけ死なないことだけ考えたら死なない自信あるんでね」

 

 二人がついいつものように気安い会話をしてしまい、気づいたときには二人の闇妖精(ダークエルフ)は眼を輝かせていた。

 

 「流石は至高の御方!慎重なモモンガ様も、豪胆なファフ・ニール様もカッコいいです!」

 

 「す、すごい……です……!」

 

 ((あ、あぶね~~~……))

 

 二人の心の声は同じだった。だが、何を言っても好感度が天井を叩いているようなので、問題にならなかったことに安堵する。

 

 「ま、まぁな……さ、さて。アウラ、マーレ。六階層に特に異常はなかったか?」

 

 「は、はい!特に異常はなかったと思います!」

 

 「ぼくも、特には……」

 

 「ふむ……内部的には問題ない可能性大、と。いいニュースですねモモンガさん」

 

 「そうですね……」

 

 「お二人が来られたのは、それが本題ですか?」

 

 「部分的にはそうだね。といっても、これは他の階層守護者からも聞こうと思っていたことで、もう一個あるんだ」

 

 「この場には、訓練のために来たのだ」

 

 アウラとマーレはきょとんとして小首をかしげる。一々仕草が可愛らしいのも、ぶくぶく茶釜の趣味なのだろうか……だが、絶対支配者が訓練というのも妙な話に聞こえても仕方がなかった。

 

 「私は一か月ぶりのリハビリと……」

 

 「我らがギルド武器のテストを兼ねて、な」

 

 支配者二人の答えに、守護者の二人はとても興味深そうに、そして何よりも興奮したように、顔を輝かせていた。

 

 モモンガが、ドラゴンの血縁(ドラゴン・キン)に用意させた藁人形に魔法の試し打ちをしている間、ファフ・ニールは準備運動をする。ゲームで操作していた時よりもレスポンスは早く、体感する時間の細やかさは尋常ではなかった。近接職にとって反応は何よりも大切な技術であるのでこれは嬉しい変化だった。反射神経と運動神経の高さで何度たっち・みーに嬲り殺されたかは数えきれないのだから、それを後天的に得られたことは、不可解な状況に対応するための戦闘力がいくらでも必要な今、幸運というほかない。そして、ゲームでは事前に仕込んでおいたプログラムで運用していた尻尾も真の意味で身体の一部として扱えることもよい事だった。とはいえ、この身体感覚の変化は訓練なしでは制御しきれなかっただろうから、本格的な戦闘の前に訓練が積めることもよかった。

 

 「ファフ・ニールさん、こちらは準備できましたよ」

 

 全身のチェックを行っていると、モモンガが声をかける。魔法の試し打ちは終わったらしい。特に焦っている様子もなく、むしろ満足そうであることから、魔法のシステムはユグドラシルとは変わっていないのであろう。であれば近接職の仕様の確認はファフ・ニールの仕事だ。万全を期すためと、アイテムの効果を確認するために、ファフ・ニールが大量に保有しているバフアイテムをアイテムボックスから取り出す。神経電気増幅葉巻(ニューロンブーストシガー)という、ファンタジー色が全然ない、わずかにステータスを向上する葉巻型アイテムだ。鋼鉄に置き換わっている竜の牙で葉巻を咥えて指を鳴らすと、火花が起きて着火される。煙をくゆらせると、全身の感覚が更に鋭敏に、そして静かな水面のように落ち着いていくのを感じた。 

 

 「ふぅ~……よし、こちらもいつでもいけます。一応言っときますけど酸はやめてくださいよ」

 

 「わかってますよ。では……<|根源の火精霊召喚《サモン・プライマル・ファイアーエレメンタル》>」

 

 スタッフ・オブ・アインズ・ウール・ゴウンの赤い宝玉が輝くと、業火の竜巻が巻き起こり、やがてそれが落ち着くと猛火の化身が現れた。これをノーコストで召喚できるようにするために有給使って無茶やったなぁと呑気に思い出せるほど、戦闘の前だというのに、ファフ・ニールの心は非常に落ち着いていた。モモンガは、問題なくスタッフの力が使えていることに安堵しつつ、召喚した精霊に命令を下す。

 

 「根源の火精霊(プライマル・ファイアーエレメンタル)よ、ファフ・ニールを攻撃せよ!」

 

 モモンガが指示を発しきるやいなや、根源の火精霊(プライマル・ファイアーエレメンタル)が猛然と突撃し、拳を振り下ろした。ファフ・ニールはキャッチボールでもするかのようにその拳を片手で受け止める。根源の火精霊(プライマル・ファイアーエレメンタル)元素精霊(エレメンタル)の中でも最上位に限りなく近いモンスターであり、決して弱いモンスターではない。攻撃をよけることは高レベルのプレイヤーやNPCにとっては容易かろうが、真っ向から受け止めるとなると話が違う。物理攻撃力と纏う業火が合わさって、桁外れの攻撃力を持つ根源の火精霊(プライマル・ファイアーエレメンタル)を真っ向から受け止められるファフ・ニールが、どれほどバケモノであるかという話なのだ。

 

 「痛覚らしきものはあるな。力を籠める感覚も……こんな感じか?」

 

 七割程度に力を込めて、掴んで受け止めている根源の火精霊(プライマル・ファイアーエレメンタル)の拳を地面に向けて引き倒すと、根源の火精霊(プライマル・ファイアーエレメンタル)は轟音と共に円形闘技場の地面に叩きつけられる。デバフ耐性を貫通してノックダウン状態を引き起こす圧倒的膂力は健在だ。こんなものはワールドチャンピオンなどもってのほか、上位のプレイヤーには直ぐに反応されて腕を弾かれているだろうとファフ・ニールは思うが、守護者の双子にはそうは見えなかったらしい。二人が興奮して声を上げているのを聞き、ファフ・ニールは敵から完全に背を向けてファンサ―ビスをする。

 

 (あの人、調子乗りやすいんだよな……)

 

 モモンガは率直にそう思った。ギルド最盛期、ファフ・ニールは一人で戦えるスタイル故に、ぷにっと萌えからは「取り敢えず逝ってきてください」と言われていた。情報収集のために単騎突撃させられるのを毎回嫌がる割に、最終的にはおだてられては突っ込んでいった男だった。頭のいい馬鹿、考え抜いた末の脳筋スタイルと、揶揄され続けていた彼が、シモベ達におだてられ、頼られるのは、なんとなく面倒を呼び起こしそうだと無い胃が痛くなる。だが、モモンガも少し試したくなって、魔法で横やりを入れる。

 

 「<火球(ファイヤー・ボール)>」

 

 「おっと」

 

 二人にとっては火の粉程度のものだが、流石に火の玉が飛んでくるのを目の当たりにすると、ファフ・ニールも驚いてしまう。だが、尻尾で根源の火精霊(プライマル・ファイアーエレメンタル)の攻撃をうまく捌きながら、滑らかな動きで<火球(ファイヤー・ボール)>もかわす。金属の体で竜の有機的でしなやかな動きを見せている。モモンガの予想以上に、ファフ・ニールは今の体によく馴染んでいた。

 

 「モモンガさ~ん、私一月ぶりのリハビリ中なんですけど?」

 

 「調子に乗りすぎないように、お灸は定期的に据えとこうねってぷにっと萌えさんが言ってましたから」

 

 「ひどいな~」

 

 会話を楽しみながら攻撃をよけ続けられる程度には、ファフ・ニールの知覚能力は向上していた。ほとんど背後からの攻撃すらも感覚的に察知し、ボクサーのように薄皮一枚でよけられている。最早リハビリや検証ではなく、完全に遊びに入っていた。実際、ファフ・ニールは初撃を除いて攻撃をしておらず、武器も使っていない。そうして時間がたっていることを忘れていた。約束した一時間が近づいていたのだ。いつの間にか、円形闘技場には指名された守護者たちが続々と集まりつつあった。

 

 「モモンガ様、守護者統括アルベド御身の前に」

 

 「領域守護者ノクス、御身の前に」

 

 「来ていたのか、アルベド、ノクス」

 

 「お待たせしてしまったでしょうか……?」

 

 しずしずと上目遣いで近づくアルベドに、ついドキッとしてしまうモモンガだったが、咳払いと共に威厳ある姿を演出する。

 

 「いや、私達も今来たところだ。気にするな」

 

 この瞬間、アルベドの中にある恋愛知識が猛烈に作動する。「お待たせ、待った?」「今来たとこ」はカップルの定番トークとして、アルベドの脳内にはインプットされている。「モモンガを愛している」アルベドにとっては、理想的なシチュエーション、理想的な台詞だった。

 

 「くふ~~~!!!」

 

 頬を赤らめ、突然背中から生える大きく美しい黒い羽を強く羽ばたかせ始めたアルベドに、モモンガはびっくりする。まぁ見たところ嬉しそうなのだから取り敢えずは問題はないと思われるのだが、美人が猛烈に喜んでいる姿を見るのは目の保養にはなった。完全に自分を失っているアルベドの肩をトントンと叩いたのは、白いスーツ姿の男装の麗人、ノクスだった。

 

 「アルベド、アルベド!御身の前だよ。折角の淑女が台無しだよ」

 

 「はっ!も、申し訳ございません、モモンガ様」

 

 「よ、よい。お前の全てを許そう」

 

 「ありがとうございます、モモンガ様。ところで、モモンガ様、あちらは……」

 

 アルベドやノクスは、攻撃をよけ続けているファフ・ニールの方を向いていた。武というよりは舞、という台詞が百年近く前のコミックにあったがまさにその言葉がよく似合っていた。だが、守護者たちが集まり始めた以上はそろそろ遊びを終えてもらわないと困る。アウラやマーレといった子供のシモベだけならまだしも、権限を多く与えられているアルベドがいる以上は一層威厳のある姿と、対等な支配者を演じなければならなかった。

 

 「ファフ・ニールよ、児戯はそろそろ終わりにしてくれ」

 

 「む、もうそんな時間か?いいだろう。そろそろ武器の性能も確かめたかったところだ」

 

 ファフ・ニールはモモンガの演技に呼応して、上位者らしい口調で応えた。そして、両腕の籠手から両刃のブレードを出す。ユグドラシルにおいて、異形種は武装や防具に関しても様々なメリットやデメリットがある。たとえば、四つ腕の種族はその全ての腕に武装を装備することが出来る。ファフ・ニールの場合は、種族レベルに応じて武器を体に内蔵することができる。無論、ファフ・ニールは種族レベルを最大にしているので装備可能か所と数も最大、彼の全身には様々な武装が装備されている。数が多ければいいという物でもないが、場面対応力は極めて高い。アームブレードはその中でも彼が最も愛用している武装だった。

 

 「ムッ、アレハ!」

 

 「コキュートスか。それにデミウルゴス、パンドラズ・アクターも来たか」

 

 「ハッ、モモンガ様。戦士トシテ、アノ武器ニ見惚レテシマイマシタ。コキュートス、御身ノ前ニ」

 

 「同じくデミウルゴス、御身の前に」

 

 「パンドラズ・アクター、御身の前に。それにしても、あれは!おぉあれこそは至高の御方、ファフ・ニール様の玉体に仕込まれた武具の一つ!」

 

 「アァ、一対ノアームブレード。銘ハ断鐵(タチガネ)。付与効果ハ一切ナク、籠手トシテノ防御力ト、剣トシテノ鋭サヲ突キ詰メタ見事ナ武器ダ」

 

 コキュートスの武器講評を、モモンガはまるで聞いていなかった。目の前でぬるぬると大仰な動きで感動を表現するパンドラズ・アクターを見てしまったからだ。確かに宝物殿の守護者としてマジックアイテムを愛好するように設定したし、ネオナチの軍服をモチーフに作った服装も作った当時はカッコいいと信じていた。だが、今まさに魂をもって動いている姿はまさに歩いて喋る黒歴史だった。精神が激しく動揺し、鎮静化する。モモンガは自分の顔が骸骨であったことを幸運に思った。もし元の人間の顔だったら、確実にドン引きしていただろうから。

 

 「流石、お父様だわ。荒々しく、獰猛で、勇猛としか言えない」

 

 「ソレデイテ繊細。見事ダ……攻防一体、防御ヲ全テ刃デ行ッテイル。」

 

 「カウンター、ということかい?」

 

 デミウルゴスが、眼鏡をかちゃりと上げながらコキュートスに尋ねると、コキュートスは静かにうなずいた。

 

 「アァ。ダガソノ精度ガ素晴ラシイ。武装デノミナラズ、脚、尻尾、爪トイッタ部位デモソレヲ行ッテイル。アレデハ名刀デ作ッタ剣山ニ拳ヲ打チ込ムヨウナモノダ。」

 

 コキュートスの総評通りだった。ファフ・ニールの種族は防具をほとんど装備できない装甲鎧。その代わりに、全身が鎧であり全身が武具だ。それに彼の職業スキル、<ブレードカウンター>をかけ合わせることで、爪や脚、尻尾といった部位での防御すらカウンターになっていた。最も、万能なスキルというわけではなく、受けた武装の耐久値、もしくは身体を武装としている場合にはHPにダメージが入り、タンク系の防御スキルに比べればダメージのカット率は高くなく、純戦士系のカウンター系技能に比べて与えるダメージ量も多くはない。それを高いステータスで誤魔化しているのだから特異な戦闘スタイルといえる。

 

 「ふふふ、あれでも本気ではないのだぞ?」

 

 モモンガは、我こそがギルメンオタクといってもいいほど、ギルメンが大好きだ。それこそ、十年近い時間を全て捧げられる程度には。そんな男の目の前で、仲間が残したNPC達が仲間を褒めているとどうなるか、分かりきった話だ。気分をよくし、解説を始めようとする。その時、モモンガの近くの空間が歪み、<転移門(ゲート)>が開かれる。そこから現れたのはゴシックな服装に身を包んだ真祖(トゥルー・ヴァンパイア)シャルティア・ブラッドフォールンだった。

 

 「も、もしかして……わたしが一番最後でありんすか!?」

 

 「シャルティアか。ちょうど良いところに来た」

 

 「モモンガ様!?も、申し訳……」

 

 「よせ。それよりも本当に良いところなのだ」

 

 ご機嫌なモモンガは、シャルティアの謝罪を途中で制して、ファフ・ニールを指さす。シャルティアは状況把握に時間がかかり、きょろきょろとしていた。そんなシャルティアにため息を吐く守護者がちらほら。アルベド、デミウルゴス、アウラだ。モモンガが気にしていないからと言って守護者が気にしないわけではない。シャルティアは流石にこのままではまずいと察して、取り敢えずモモンガの話をしっかり聞こうと気合を入れる。

 

 「シテ、本気デハナイトイウノハ?」

 

 「うむ。あの戦い方をする時は、主に彼の防御力を突破しえない敵を相手にする時だ」

 

 「なるほど。至高の御方に比肩するような相手には、それに相応しい戦い方をされるのですね!」

 

 「そういうことだデミウルゴス。いくら彼のステータスが高いとはいえ、武人建御雷さんやたっち・みーさんのような最高位の戦士の全力を素で受ければただではすまない。だから、そういう相手に対抗できる武装が、彼にはあるのだよ。もっとも、アレは彼にとっての切り札だから私でもなかなか見たことはないがな。」

 

 「いつか見てみたいものです。全力のお父様の姿を」

 

 「ノクスよ、それは困るな。彼を殺しきれるようなプレイヤーなど、前衛にしろ後衛にしろ火力に長けた者だ。それは脅威になりうる」

 

 「モモンガ様、決して危機を楽しみにしているという意味では……」

 

 「分かっているとも。私も、お前達が万が一でも傷つくことがないのならば、彼の全力を見てみたいくらいだからな」

 

 楽し気にモモンガが笑っている。だが、デミウルゴスは感動すると同時に己を恥じていた。己の仕えるべき主の一人であり、モモンガからの評価も高いファフ・ニールが倒れるかもしれないと疑ってしまっていた己をだ。そして今、目の前で舞踊のように敵を翻弄し、ハムをスライスするように自由に優雅に剣を振って敵を切り刻み、戦闘中でありながらダンディに葉巻を楽しんでいるとも見える余裕の表情を崩さない主の姿をじっくりと見ていた。我らが主のなんと美しきことか!一個の生命体として見事に完成されたその姿、その強さ!皆、デミウルゴスほどではないが同じようなことを感じていた。そして、その期待に応えるかのように、ファフ・ニールが根源の火精霊(プライマル・ファイアーエレメンタル)から大きく距離を取る。

 

 「さて、オーディエンスがいつの間にか勢ぞろいのようだし。特殊技能(スキル)で幕を引くとしようか」

 

 ファフ・ニールが腕を地面につけ、四つん這いの構えを取る。すると、背中の上に煌々と輝く円環と、そこから生える三対の炎の翼が現れる。その炎はただの炎ではない。それは太陽の炎だ。万物を創造した始原の火。邪悪を焼き尽くす象徴として、あるいは再生の象徴として信仰されてきたその火を、ファフ・ニールは内に秘めている。翼が煌めき、爆発すると、赤い残光が稲妻のように迸った。

 

 「竜の狩り(ドラゴン・ダイブ)

 

 根源の火精霊(プライマル・ファイアーエレメンタル)は十文字に叩ききられ、溶けるように消える。残り火と、太陽の翼を背に、ファフ・ニールはモモンガと守護者たちの方へ振り向いた。

 

 「さて……待たせたね。じゃあ、有意義な会議にしようか」

 

 葉巻をくゆらせる鋼鉄の龍は実に楽し気に笑っていた。





 次回以降はもっとオリジナルな展開を出していきたいですね……
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