水星の魔女 ~After the end. to you〜   作:いとふときもの

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魔女たちの平穏

 

「エアリアル!」 

 呼ばれる声にゆっくりとセンサーを向ける。

 今の状態は人間で言えばそう。寝ていた。

 

 先ほど自分を起こした小さな友達の声に応じるように、コンソールが淡い光を放ちながら起動していく。

 ある程度起動したところでコクピットハッチを開放し、小さな友だちを受け入れた。

 

 入りなよ。スレッタ。

 「うん!」

 

 ハッチを開くと、もう慣れた様子でスレッタがすべり込んで来る。最初はお母さんと一緒じゃないと怖がって入って来なかったのに。

 子供の成長は早い。と思う。それと同時に自分もまだ子供と呼べる年齢だった事を思い出して苦笑する。

 

 体はこんなにも大きくなったのにな。

 

 各種センサーで自信のコンディションを確認していく。

 鋼鉄でできた頑強で、そして人間を遥かに超える大きさ。

 

 ーーガンダム。

 

 世間的には新型ドローンなんて公表しているけど、僕はガンダムタイプのモビルスーツである。

 女の子としては、この見た目はどうかと思うけど…。まぁ、こればっかりは仕方ないよね。

 

 水星という過酷過ぎる環境。昨日挨拶した友達が次の日には死んでいく世界。

 僕達はこの星で生きていくためにあらゆる手を尽くさなくてはいけなかった。 

 お母さんやスレッタと生き続けて行くために。

 

「ねぇ。エアリアル。あれ見せて」

 いいよ。君は本当に地球の映像が好きだね。

「うん。大好き!」

 

 やたら元気に返事するスレッタに少し戸惑いつつ、ライブラリから適当な映像を探して再生する。

 

 ねぇ。スレッタ。

「なに?」 

 何かあった?

「何もないよ」

 そっか・・・。

 

 沈黙。

 

 こういう時何もできないのは本当に辛いね。

 僕は大切な友達の頭を撫でたり、抱きしめることだってできない。

 

 でも、きっと大丈夫。君なら進めるよ。スレッタ…。

 

 モニターから発する光に照らされたスレッタの頬には、一筋の涙が流れていた。

 

 

ーーーー。

 

 

「もー!スレッタ!いいかげん起きなよー!」

「・・・うむぅ」

 

 エリクトの声が部屋中に響く。

 そんなに大声を出さなくても聞こえてはいるんだよ。

 

 何度呼び掛けられても目蓋は開かない。呼吸も睡眠時のものから変わっておらず、深い呼吸を続けていた。

 

 昨日はミオリネさんの書類仕事を夜遅くまで手伝っていたせいで寝不足なのだ。

 起こすにしても、もう少し優しくしていただけませんか?

 

 一応は声に反応して体を動かしてみるが、布団の気持ちよさに抗えずに、また意識が沈みかけていく。

 

「もうちょっとだけ・・・」

 

 エリクトには昔からつい甘えてしまう。

 あまり良くないとは思いつつも、つい母や姉にするような甘え方をしてしまうのだ。それだけ信頼していると言ってもいい。

 

 それにしても今日は本当に気持ちがいい。

 今は秋口を迎えた頃。

 フロントのアスティカシアでは気候はすべて自動で快適な気候に管理されており四季はなかったが、ここ地球のクイン・ハーバーには、しっかりと四季が存在している。

 

「・・・」

 

 ついに睡魔に負けそうになった頃、エリクトの発した言葉に意識が急速に覚醒する。

 

「僕はいいけど…。でも、もうミオリネ来てるよ?」

「なっ!?」

 

 両手を前に出し、勢いよく前屈のような姿勢で跳ね起きると、一瞬フリーズした後、わたわたと両手を動かしながらベッド横の靴を履き、姿見に全身を映す。

 

「うわぁ・・・」

 

 我ながらなんという格好をしているのだろう。

 元々クセ毛な赤い髪の毛が、更に寝癖で大変な事になっている。それに服は着ておらず、キャミソールとショートパンツの今の姿は、とてもじゃないが人には、それも自分の”旦那様”に見せられるような姿ではない。

 学園の頃はあまり気にしなかったが、最近は何故か気になってしまう。

 なんでだろう?

 

「うひぃー。急がないとぉ・・・」

 

 昨夜用意しておいた服に手早く着替えると、これまた手早く髪の毛にクシを入れる。

・・・が、全く寝癖が直る気配がないので、すぐに諦めてトレードマークになりつつあるヘアバンドを付けてからポニーテールを作り、枕元に置いていたホッツくんのキーホルダーを掴むと、トットットと靴音を立てながら急いで部屋を出てリビングに向かった。

 

 

ーーーー。

 

 

「ごめんなさい!寝坊しました!!」

「おはようお母さん。ミオリネ」

 

 リビングに駆け込むと同時に大声で謝罪の言葉を口にする。

 お母さんもミオリネさんも顔をこちらに向けるとそれぞれの挨拶を口にした。

 

「やっと起きたのね。おはようエリクトにスレッタ。今日もいい朝よ。スレッタはすぐ仕事でしょ?朝ごはん早く食べちゃいなさいな」

「おはよう。連日寝坊なんていい身分ね」

 

 テーブルには一人分の食事が置かれていた。

 母親は車椅子で、ミオリネはソファーで各々コーヒーを飲んでおり、二人とも朝食は既に済ませたようだった。

 

 スレッタはテーブルに付いて朝食を眺めた。

 朝ごはんの献立は香ばしいクルミパンと、市販のコンソメスープだった。少々簡素ではあるが、片腕の無い母親が自分のために作ってくれたというだけで感動である。

 

「いただきます!」

 

 言うが早いか、パンを左手で鷲掴みにしてかぶりつくと、右手でスープの器を持ち、口に流し込む。

 思っていたよりもスープが熱くて涙目になってしまうが、それでも食事の手は止めない。

 

「もっと落ち着いて食べなよ・・・」

 

 やれやれというようなエリクトの声が聞こえるが、それらしき人物の姿は無い。あるのはテーブルに無造作に投げ置かれたホッツくんキーホルダーのみで、声はそこから聞こえている。

 

 そう、エリクトというのは、このホッツくん人形の人格で、元はエアリアルというガンダムにコピーされていた人格であったが、3年前のある事件でガンダムの体を失ってからは、なぜかこのホッツくん人形に憑依している。電源は見る限り存在しない。

 

 以前、母と一緒に軽い気持ちで分解しようとしてみたが、本気で怯えたエリクトが叫び声を上げたため諦めた。

 

 このホッツくん人形になってからは、声が周囲にも聞こえるようで、普通にお母さんやミオリネさんと談笑していたりする。

 ある意味恐怖の人形とも呼べるが、もっと恐怖なのが、これまで周りに聞こえていると思っていたエアリアルの声が、実は周りには聞こえておらず、自分が若干痛い子だと思われていたという事実をリリッケから聞かされた時は、一週間くらい思い出す度に「あぁぁぁぁぁ…」と赤面していた。

 

「ほら、エリクトの言う通りよ。こんなに口の回りを汚して…」

 

 お母さんがナプキンで顔を拭いてくれる。少し困った顔をしているが、水星に住んでいた時とは違って、どこか剣が取れたような柔らかい表情。

 わたしはずっとお母さんが好きだけれど、今のお母さんの笑顔はとても優しいし、その笑顔を守りたいと思っている。

 

「お母さん。その車椅子どう?」

 

 そういえば…と、昨日から使って貰っているうちの会社の新型車椅子の感想を聞く。

 

「そうねぇ。意識よりも動作がワンテンポずれるから慣れは必要だけれど、考え方はとても良いと思うわ」

 

 今お母さんが乗っている車椅子は、GUNDの技術が使われた最新型。MS技術に転用されたGUNDフォーマットを医療用に逆輸入した物。普通の人でもデータストームによる負荷が無いように、GUNDフォーマットで操作する機能を条件分岐だけに絞る事で、パーメットの出力を従来の1/1000以下にまでカットし、人体への影響を限りなくゼロにした。ある意味パーメットスコアゼロで動く次世代型GUND-ARMである。

 

 本当は義手や義足なんかも作りたいのだが、人体を模した物はどうしても動きが複雑になるため、パーメットの入出力を思ったように減らせなかった。

 お母さんのためにも何とか研究を続けたいのだが、今はそのための資金を集めるために、昼夜ミオリネさんと出資者に新商品のデモをしに行ったりしている。

 

 かく言う私は実はとんでもない脚部サポーターをつけていたりするが、かなり特殊な装備なので、これを知っているのは元地球寮のみんなとお母さん。それからミオリネさんだけだったりする。

 

「ごちそうさまでした!」

 

 手早く食事を済ませて食器を片付けると、肩掛けの大きな黒の鞄に今日使うプレゼンの資料を詰めつつ、この後のスケジュールをミオリネと話す。

 

「まずはベネリット本社とWEB会議。それからジェタークの⋯っ!?」

 

 突然の揺れにホッツくん人形とお母さんを抱えて、脚部サポーターのパーメット出力を全開にして家の外に飛び出す。

 一歩遅れてミオリネさんも家から飛び出して来るのを確認すると、揺れの発信源であろう土煙の向こう側に目を凝らす。

 

「嘘でしょ⋯。そんなっ!!」

 

腕の中で声を上げて暴れる母親を抑え、土煙の向こうからコチラを睨むモビルスーツの姿を見て、動きが止まってしまう。

 

「ミオリネさん⋯あれ⋯あれって⋯!!」

「落ち着きなさいっ!バカ!逃げるわよ!」

 

 家からすこし先。そこには大きなクレーターができており、未だに土煙が燻る。

 

 その『ガンダム』は一寸の間違いも感じさせること無くこちらをターゲッティングすると、重々しく構えたガトリングガンの砲身を高速で回転させ始めた。

 

 

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