夢 作:やど
私は、お母さんと一緒に遊園地に遊びにきてた。
確か、ピューロランドって名前の、遊園地。
6歳のお誕生日のお祝いなんだって。そんなことを言ってたの。ニコニコと楽しそうなお母さんのお顔は、ピューロランドにいるはずなのに、段々と曇っていく。きっと、スマホを見ているから。スマホを見ているお母さんは、いつもずっとずっとヘンな顔をしているの。それなら、見なきゃいいのに、私を見ていたらいいのに……なんて、そんなこと、言ったら怒っちゃうかもしれないから。良い子にしなきゃ、なんて思ってた。
でも、お母さんの顔はちょっと怖かったから、ピューロランドの中を見ていたの。そしたらね、見た記憶がない、なんだか綺麗な扉を見つけたの。
隠れたお店が何かかな?
私はお母さんが喜んでくれたらいいな、なんて思って、ちょっと扉を開けてみて。
そのはずなんだけど、扉を開けたらぐるぐると目が回っちゃって、気がついたらピューロランドの入り口みたいなところにいた。
私は……ふらふら歩いてて、それで。
「どうしたの?」
目の前に、女の子がいた。
黒髪で、白いお花のピン止めをつけた女の子。
同じ年か、ちょっと年下か。それくらいの、可愛い女の子。
「ぁ……え……?」
知らない子は、ちょっと苦手。
ドキドキとして、私は地面を見た。
「迷っちゃったの?」
その子は、気にしてないみたいにお話を続けたの。
でも、私はやっぱりお話をする勇気が出なくて、コクコクと頷くしか出来なかったの。
「やっぱりそうなんだね」
「わたしも、迷っちゃったんだ」
「……そ、そうなの?」
女の子を見たら、その子はにっこりと笑顔になってた。
その笑顔がとっても可愛くて、私はちょっとほっとしたの。
「わたしはマイ。キミは?」
「……私は、ユーリ」
「そうなんだ、よろしくね」
「……う、うん」
マイ。かわいい名前。
頭の中で繰り返し唱えていると、マイちゃんは興味シンシン!って顔で、私を見てた。
「キミは、どうしてここに来たのかな?」
「お母さんと、はぐれちゃったの。マイちゃんは、どうしてここに?」
「わたしも、お母さんとはぐれちゃったんだ」
すごーく悲しそうな顔で、マイちゃんは伝えてくれた。
「あ……、あ、大丈夫。きっと、マイちゃんも、お母さんとすぐに会えるの」
「だといいな」
それから、私たちはここの中をお散歩したの。
ぎゅっと手をつないで、はぐれないように、迷子にならないように。マイちゃんの手は、とてもひんやりしてた。でも、手が冷たかったら心があったかいんだって。マイちゃんは、あったかい子なの。
「かわいいアトラクションがいっぱいあるんだね」
ピコピコと足音を立てて、カエルみたいなマスコットが私のまえにテレビを持ってきたの。もしかしたら、何かパレードが始まるのかな?なんて思ったけど、一瞬、文字が映っただけだった。
「これ、さっきあの子からもらったの」
紫色の、カエルみたいなマスコット。
その子を指差して、マイちゃんはにっこりと笑った。
5枚のメダル。マイちゃんは、ぎゅっと私に渡してくれたの。
「マイちゃんの分は?」
「大丈夫だよ」
ニコニコと笑ってるから、私が心配することはないみたい。
「このメダルで、アトラクションに参加出来るんだって」
「……」
私たちは、たそがれ横丁ってアトラクションに行ってみた。
テレビから聞こえてくる怒鳴り声は、泣いてる映像は、とても目障りだったの。でも、マイちゃんと手をつないでると、ちょっと安心したの。
「おうちに帰りたい?」
「……ううん、そんなことは、ないの」
「マイちゃんは帰りたいかもしれないけど、私は……こうしてマイちゃんと一緒の方が楽しいの。この迷路も、とっても楽しいから」
「そっか!」
マイちゃんは笑ってた。だから、私も笑ったの。
「……あ、出口」
「そっか、ちょっと残念!」
真っ暗になったお空の下、私たちは入り口へに戻ってた。
「時間切レデミ」
「……どうなるの?」
「報酬メダルハ、ナイデミ」
メダルが一個減っちゃった。少し軽くなったポケットが寂しい。でも、マイちゃんは、あんまり残念そうじゃない。楽しかったね!なんて、ニコニコしてるから、私もなんだか嬉しくなっちゃったの。
一緒にごはんを食べて、一緒に遊んで、アトラクションに挑戦して、一緒にお話をした。
マイちゃんは、私と同じでお母さんとはぐれて。私と一緒で、ここに来たばかりで、私と同じで……
『……』
ピンク色のゴンドラの中。私は、目の前を見た。
そこには、つまらなそうに私を見ているマイちゃんがいた。
「……マイちゃん」
声をかけたら、その顔はいっそう無機質なものに変わったの。
「キミは、メダルはもう一個もないよね」
笑ってる。無機質な表情を歪ませて、笑ってるように見える。
観覧車に乗るまでは、変わらず笑顔で楽しそうだったのに……そんなことを思おうとして、でも、そんなに驚けなかったの。
マイちゃんは、おかしかった。まるで何かを真似ているかのように、演技してるみたいに見えたの。
だってマイちゃんは、私が見てないときずっとずっと、今みたいに暗闇みたいな冷たい目をしていたから。
「……キミは、クリアしようというつもりがなかった。違うかな?」
「……」
「わたしに誘導されたから? だから、クリア出来なかったの?」
「……」
「あまりにも歯応えがないからびっくりしちゃった!」
「私が、ダメな子だから」
「そうだね、キミはダメな子。ただわたしに従順で、周りの目ばかり見て、自分の意見がなくて、転んでばっかりの子」
マイちゃんは、馬鹿にするように笑った。
「キミはお母さんにもお父さんさんにも愛されない。キミが産まれたから、キミが出来ない子だからお母さんたちは喧嘩してるんだよね」
ぎゅっと、胸が痛くて、何も出来なくて、息を吸うことも難しくて、ただ、目からなみだが出て。
「でも大丈夫。キミが出来ない子でも、ゆぅろぴあは受け入れます」
水でグニャグニャに曲がった世界の中、クスクスと、その子は笑ってる。黒い瞳を、ピンク色に妖しく輝かせて笑っている。
私は、いつの間にか、ゴンドラの扉の前にいた。扉は、開いてた。グラグラのゴンドラから、私は振り落とされそうで、それでもなにも理解が出来なくて。
「あなた、は……マイちゃんは、いったい」
「ごめんね、マイって名前は嘘なんだ!」
待って、そんなことを言いたかったのに、目の前の子が、私の手を掴んだから、何も言えなかった。
やっぱり冷たい手のひらが私を掴んで、踊るように回って、それで。
私の足は、地面から離れていて。
「さようなら、ユーリちゃん!」
笑顔だった。
あの子は、名前も教えずに、笑ってた。
だから、ユーリはそれでおしまい。
落っこちて、グチャリと床に叩きつけられて、ユーリはいなくなっちゃった。
今いるのは、こうして話してるのは……ユーリじゃない。
私は、キミで、アレで、カエルタマゴ。
もう考えなくていい。だって、ゆぅろぴあに従っていれば、それでいいんだから。
遠くで、あの子は笑っている。あの日の私のように、迷い込んだ子に微笑んだ。