異世界の歌姫(ディーヴァ)    作:弾暴

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10章:それぞれの時間

カフェの営業が一段落した昼休み、優斗が僕のところにやってきた。

 

「未来、ちょっと休憩しようぜ。他のクラスの出し物、見に行かねぇか?」

 

優斗は汗を拭いながら僕を誘った。僕は普段あまり人混みが得意ではないけれど、優斗と一緒ならと素直に頷いた。

 

「うん、行こうか」

 

朱莉の休憩時間はもう少し先だったので僕らは2人でクラスを後にした。

校舎の中は、熱気と喧騒に包まれていた。各クラスの趣向を凝らした装飾や、耳慣れないBGMが響き渡る。優斗は僕のすぐ隣を歩き、時折、僕の肩がぶつからないように、さりげなく体を寄せてくれた。

 

「未来、あれやってみないか? 射的!」

 

優斗が指さした先には、賑やかな射的の屋台があった。景品のぬいぐるみや駄菓子が所狭しと並べられている。僕は昔、祭りなどで射的をやったことはあったけれど、得意ではなかった……というかアレは絶対に落ちない設計だと思う。

 

「私、あまり得意じゃないんだよね」

 

「大丈夫だって、コツを教えてやるよ!」

 

優斗は屈託なく笑い、僕の隣に立つ。彼は妙に様になる手つきでコルク銃を構え狙いを定める。パン! と乾いた音がして、見事に小さなぬいぐるみの一つを打ち落とした。

 

「ほら、こんな感じ。銃はしっかり構えて、的の中心を狙うんだ」

 

優斗は僕に銃の持ち方を教えてくれた。彼の手が、僕の手の上に重なる。その大きな手のひらの温かさが、僕の指先にじんわりと伝わってくる。微かに香る彼の汗の匂いも、なぜか不快ではなかった。彼の顔がすぐ近くにあり、真剣な眼差しで僕を見つめていた。その距離感に、僕は少しだけ胸がざわついたがそれが単純な不快感だけではなかった事に自分自身少し驚いた。僕はすぐに気を取り直して的に集中した。

パン! と僕も撃ってみるが、的をかすめることすらできなかった。

 

「はは、惜しいな! もうちょっと上だ!」

 

優斗は楽しそうに笑い、僕の肩をポンと叩いた。何回か挑戦するうちに、ようやく小さな個包装の洋菓子を落とすことができた。

 

「やった!」

 

思わず声を上げると、優斗も一緒に喜んでくれた。彼の笑顔を見ていると僕の心も温かくった気がした。

射的の屋台を出た後、朱莉が僕たちを見つけて駆け寄ってきた。

 

「未来! 優斗! 何してたのよ、もう!」

 

朱莉は、少し膨れっ面で僕たちを見た。僕が優斗と射的をやっていたことを話すと、朱莉は目を丸くした。

 

「えー! いいなー! 私も行きたかったのに!」

 

「朱莉は接客で忙しかったじゃないか」

 

優斗が言うと、朱莉はむっとした顔で彼を睨んだ。そんな二人のやり取りを見ていると、自然と笑みがこぼれてしまう。

 

「じゃあさ、未来、この後、一緒に模擬店回ろうよ! 私、まだ全然見れてないし!優斗はもう戻る時間でしょ!」

 

朱莉は、キラキラした目で僕を見上げた。僕は、優斗と別れて朱莉と二人で校舎を回ることにした。

 

「未来、これ見て! このクレープ、すっごく美味しそうじゃない!?」

 

朱莉は、屋台のクレープを指さして目を輝かせた。二人でクレープを買って、中庭のベンチに座って食べる。朱莉は、一口食べるごとに「んー!」と幸せそうな声を上げる。その無邪気な姿に、僕の心も穏やかになった。

 

「あ、未来! ちょっと私のクレープも一口食べる? 私のはチョコバナナ!」

 

朱莉が自分のクレープを僕の口元に差し出してきた。僕は少し戸惑いながらも、その一口を食べる。甘いチョコと熟したバナナの香りが口いっぱいに広がる。

 

「美味しい。私のも一口食べる?」

 

僕も自分のクレープを差し出すと、朱莉は嬉しそうにそれを受け取った。彼女がクレープを頬張った時、ふと、その口元にクリームがついていた。

 

「あ、朱莉、ここに」

 

僕は思わず自分の指で朱莉の頬についたクリームをそっと拭った。朱莉は一瞬驚いたように目を丸くしたが、すぐにふにゃりと笑った。彼女の肌は温かく、触れた指先から、なぜか僕の心臓に直接電流が走ったような感覚に襲われた。彼女の屈託のない笑顔が僕の胸を締め付ける。

 

「未来、このクラスの演劇気になるんだけど、一緒に行かない?」

 

朱莉は、演劇部のポスターを指さした。演劇の内容は、僕の元の世界で有名な悲劇をモチーフにしたものだった。

 

「いいよ。行こうか」

 

薄暗い演劇会場の客席に、朱莉と並んで座った。舞台の上で繰り広げられる物語に、朱莉は真剣な眼差しを向けていた。隣に座る朱莉の横顔を見つめていると、彼女の隣にいられることの喜びが、じんわりと心に広がっていく。この温かくて、穏やかな時間が、ずっと続けばいいのにと僕は思った。彼女の存在が、僕の心の奥底に抗いようのないほど深く、静かに染み込んでいくのを感じていた。

カフェに戻ると、もう夕方になっていた。その後朱莉と優斗と僕、三人で協力してカフェの最後の片付けを行った。汗だくになりながらも僕たちの顔には充実感が溢れていた。

 

 




ここに私の青春があったんですね(涙)
文化祭一人でどこも回らずひたすら教室の隅で携帯弄って時間が経つのを待つ……そんな現実は無かった!
明日も17時に投稿します!

実は現在12話くらいまで執筆中なのですが、作者の手の中には10話時点で幸せを謳歌している未来が泣きながら懇願する姿が見えます。このまま幸せルートまで駆け抜けようか……しかしながら長年このサイトを読み続けている私は知っています。曇り大好きにちゃにちゃ民が多いという事を。ては運命を左右する……かもしれないアンケートのお時間です。

  • 何いってんだ主人公なんて曇らせるもんだろ
  • 主人公曇るのは当たり前。周りも曇らせろ!
  • 路線変更!知らない内に周りだけが曇ってる
  • 多分選ばれない。みんな幸せハッピーエンド
  • 多次元宇宙!全部書きな(作者にムチ打ち)
  • しらね。作者の好きにしなよ←オススメ★
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