異世界の歌姫(ディーヴァ)    作:弾暴

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14章:優斗への思いと、朱莉の理解

「ところで未来……優斗のことどうするの?」

 

ひとしきり笑い合った僕らだったが、不意に朱莉が不安そうに言った。その声のトーンは、これまでの明るい雰囲気とは一転し、少しだけ沈んでいた。朱莉の視線が、僕の顔の奥、心の葛藤を探るように向けられる。

 

「……そうだね。ちゃんと優斗とも話さなきゃ」

 

僕の心にも、優斗に対する複雑な感情が湧き上がっていた。あんなにも僕らを支え、献身的な優しさをくれた優斗の気持ちに、応えられないのは心苦しい。だが、このままなあなあにしてしまうのは、彼に対してさらに不誠実に思えた。彼との間に、きちんと区切りをつける必要がある。

 

「あれ?でも朱莉も優斗のこと好きなんじゃ……?」

 

僕はふと疑問に思った。2人の間には確かな信頼と愛情があるように僕には見えていた。だから当然朱莉も優斗のことが好きなのだと思ったのだ。そうつぶやいた僕を心底呆れたと言わんばかりの表情で朱莉は見た。彼女の瞳には、ほんの少しの呆れと、僕への愛おしさが混じっていた。

 

「未来ってば本当に気づいてなかったんだね……好きだった頃もあったし、今だって大切な友達だと思ってるよ。でも優斗はずっと未来のことしか見てなかった。私に対して多少の好意はあるかもしれないけど……やっぱりお互い親友って感じだと思う。それに私も未来の気持ちに気づいてからそのことばっかり考えて、いつの間にか……何ていうか……その、少し拗らせてたし。もう!ていうかここに来てまだそんな事言うの!?もう一回わからせてあげようか!?」

 

最初は呆れた表情だった朱莉だったが、終いには目に怪しい光を帯び出した。僕の勘の鈍さに、改めて呆れと焦燥感を覚えたのかもしれない。彼女の表情は、怒りというよりも、僕を試すような、あるいはその鈍さをからかうような挑発的なものだった。

 

「あっ…ごっごめん!」

 

僕は慌てて身を引いた。朱莉の目が、獲物を狙うようにギラリと光る。彼女の内に秘めた情熱と、独占欲のようなものが、その瞳にはっきりと見て取れた。

 

「それより未来は優斗の事、その……好きなんじゃないの?」

 

朱莉のその言葉に、自分の胸の気持ちを再度見つめ直す。優斗はとても大切な人だ。幼少の頃から僕のことを心から気にかけてくれて、優しさをくれた。頼りになるし、男らしい姿に安心することもあった。そのままこの気持ちを育てていったら、もしかしたら異性として好きになっていたのかもしれない。ただ今までのことを深く考えると、僕の心にあったのは、女となり不安だった心の拠り所というあまりにも身勝手な感情だった。ただひたすら寄りかかり続けて、懸命に支えてくれる優斗に依存していたのだ。彼への気持ちは、愛情よりも、感謝と友情、そしてある種の罪悪感で成り立っていた。

 

「たぶんまだ異性としての好きではないんだと思う。私……最低だね。優斗に頼るだけ頼ってきたのに、優斗の純粋な気持ちにも応えてあげられないなんて」

 

僕の声は、情けなさで震えた。優斗の優しさを利用していたのではないかという自己嫌悪が、胸を締め付ける。

 

「……しょうがないよ。幼馴染が三人いたら、結局どんな道を辿っても誰か一人は諦めるかたちになってたんだから。あまり自分を責めないで。きっと優斗だってわかってくれる」

 

自分を責める僕に優しくそう言うと、朱莉はそっと抱きしめてくれた。その温かい抱擁は、僕の心を包み込み、罪悪感で凍りつきそうだった感情をゆっくりと解き放していく。彼女の言葉は、まるで魔法のように、僕の心を軽くした。

 

「それに未来の初めて、もらったんだからお釣りが来るくらいじゃない?」

 

朱莉は明るくおどけるように言ってくれた。彼女の悪戯っぽい笑顔に、僕の心はフッと軽くなる。釣られて僕もおどけるように話す。

 

「いや別に初めてじゃないよ。あっでもこの身体では初めてか…」

 

前世から含めれば子供がいたのだ。普通にキスくらい経験してるし、それ以上だって……そう考えると、あの時は動揺して随分生娘みたいな反応をしてしまったものだと思い恥ずかしくなった……と考えたところで、朱莉の表情を見て自分の失言に気づいた。彼女の顔から、一瞬にして笑顔が消え失せ、冷たい怒りの炎がその瞳に宿る。

 

「ふーん初めてじゃなかったんだ……」

 

声のトーンが、急速に低くなる。その威圧感に、僕の背筋が凍りついた。

 

「あっいや、ほら、前世の話で。そういう意味では経験してることのほうが多いわけだし、この身体では初めてだったけど……ヒャッ!」

 

焦った僕は更に失言を重ねようとして問答無用でソファに押し倒された。押し倒した勢いのままに朱莉はそのまま僕の首筋に吸い付いた。その吸い付く力は、まるで獲物を捕らえる獣のようだ。朱莉の瞳は、まるで燃え盛る嫉妬の炎を宿しているかのように、ギラギラと輝いていた。

 

「あっ朱莉!?だめ……だって……お、落ち着いてっ……痛っ…」

 

首筋に吸い付いた朱莉だったが、最後には歯を立てると、首筋から顔を離すと真っ直ぐと僕の顔を見た。彼女の唇には、僕の肌から奪った赤が鮮やかに映えていた。

 

「流石にここから先は……前世も含めたって初めてでしょ?いつか私が奪うから……覚悟しておいて」

 

そう言う朱莉の瞳は、ギラギラと嫉妬で輝いていた。しかしその奥には、僕への強い愛情と確かな覚悟が読み取れた。今日のところは勘弁してあげると言わんばかりの迫力だった。僕は調子に乗って余計なことを言うのは気をつけようと心に誓ったのだった。冬の訪れを予感させる冷たい空気の中、僕の頬は熱く火照っていた。




明日も14時に投稿します!

実は現在12話くらいまで執筆中なのですが、作者の手の中には10話時点で幸せを謳歌している未来が泣きながら懇願する姿が見えます。このまま幸せルートまで駆け抜けようか……しかしながら長年このサイトを読み続けている私は知っています。曇り大好きにちゃにちゃ民が多いという事を。ては運命を左右する……かもしれないアンケートのお時間です。

  • 何いってんだ主人公なんて曇らせるもんだろ
  • 主人公曇るのは当たり前。周りも曇らせろ!
  • 路線変更!知らない内に周りだけが曇ってる
  • 多分選ばれない。みんな幸せハッピーエンド
  • 多次元宇宙!全部書きな(作者にムチ打ち)
  • しらね。作者の好きにしなよ←オススメ★
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