えぇえぇ知っておりますとも皆さん愉悦大好きニチャニチャ民ですよね
僕の顔がネットに流出したことで、世間は騒然となった。「ディーヴァの正体判明!」「謎の歌姫は現役女子高生だった!」。連日、テレビやネットニュースは僕の話題で持ちきりになった。学校にも、連日マスコミが押し寄せ、僕の日常は完全に破壊された。教室にいるだけで、好奇の視線が突き刺さる。廊下を歩けば、ひそひそと噂話が聞こえてくる。
「ねぇ、見た? ディーヴァって、未来ちゃんだったんだって!」
「信じられない……いつも静かなのに、まさかあんな秘密があったなんて」
「ねぇこの記事本当なの!?」
そんな声が、僕の耳に直接突き刺さった。僕は俯き、必死に自分の存在を消そうとした。
朱莉と優斗は、僕の顔がネットに晒されたことに、ひどく驚き、そして激しく心を痛めてくれた。
「未来大丈夫か!? なんでこんなことに……!」
優斗が、僕の肩を掴んで問い詰める。彼の顔には、怒りと困惑が入り混じっていた。その瞳は、僕を心配する純粋な光を宿している。
「未来、何かあったのなら、私に話してほしい。一人で抱え込まないで」
朱莉も、涙目で僕を見つめていた。彼女の差し伸べられた手が、まるで遠い幻のように僕の目に映る。
「ごめん……」
僕は、彼らの手を振り払うように、顔を背けた。彼らの心配する声が、僕の耳には届かなかった。響先輩の裏切りによって、人間不信の極みに達していた僕は、誰を信じればいいのか、何も分からなかった。僕が必死に守ってきた秘密が、こんな形で暴かれるなんて。僕の孤独な叫びは、結局、誰にも届かなかったのだ。
優斗は、僕の手を掴もうとしたが、僕が強く拒絶したため、その手を宙に彷徨わせたまま、何もできない自分に絶望するように立ち尽くした。朱莉は、僕の顔を見つめ、その目に深い悲しみを滲ませた。僕を守りたいのに、どうすることもできない、そんな無力感が彼らを包んでいた。
その日以来、僕は学校にもほとんど行かなくなった。家の中に引きこもり、カーテンを閉め切った部屋で、ただ時間が過ぎるのを待った。スマホの電源も切った。誰とも話したくなかった。誰の顔も見たくなかった。
僕がいた世界では、僕は愛する妻と娘に囲まれ、何にも代えがたい幸福の中にいた。それが一瞬にして失われ、この見知らぬ世界に女として転生した。性自認の苦痛、誰にも理解されない孤独、そして「作り物」の世界への違和感。それら全てを乗り越え、唯一の希望として音楽に活路を見出し、真の理解者を求めた。しかし、それも偽りだった。全てが、僕を裏切った。
僕の人生は、何のためにあるのだろう。この苦しみを終わらせたい。そして、この「女」の体で生きる自分を、完全に否定したい。もし、僕がこの世界で「男」として生きられないのなら、いっそ、この女の体を、誰かの道具にしてしまえばいい。そうすれば、僕の性自認の苦痛も、この偽りの世界も、全て無意味なものとして、消し去ることができるかもしれない。それは、僕自身の存在を、根本から否定する、究極の自己破壊だった。
暗闇の中で、僕は震える手でスマホの電源を入れた。画面に映し出されたのは、数え切れないほどの着信履歴と、メッセージの通知。その中に、見知らぬアカウントからのメッセージがいくつか混じっていた。
「ディーヴァさん、僕と一緒に、最高の夜を過ごしませんか?」
「あなたのような美しい人が、一人で苦しんでいるのは勿体ない。私たちが癒してあげましょう」
それは、僕の顔写真がネットに流出したことで、僕のプライバシーを侵害し、僕を食い物にしようとする者たちからの誘いだった。僕の心をさらに深く傷つける、醜悪な言葉の羅列。
けれど、その時、僕の心には、もう何も響かなかった。理性は、とっくの昔に崩壊していた。
僕は、そのメッセージの一つに、返信しようと指を動かした。もし、この体が誰かのものになることで、僕という存在が、この苦しみから解放されるのなら……。それは、僕がこれまで必死に守り抜いてきた「彼」としての自我を、自ら破壊する行為だった。だが、もう、どうでもよかった。全てを、終わらせたかった。
朱莉と優斗からの、数百件にも及ぶメッセージや着信履歴が僕の視界の隅で光っていた。けれど、僕はそれらを無視し、ただ、闇の中へと深く沈んでいこうとしていた。
理性は、とっくの昔に崩壊していた。僕は、その中の一つのメッセージにだけ返信した。「会いたい」。
夜の帳が降りた街。僕は震える足で家を出た。向かうは、メッセージに記された繁華街の一角。煌びやかなネオンが僕のぼんやりとした視界を眩ませる。人波を掻き分け、僕はただ、指定された場所へと足を運んだ。まだ夏の蒸し暑さが残る夜だった。もう、何も考えたくなかった。この体がどうなろうと、僕の心が壊れるのなら、それでも構わない。そうすれば、全てが終わる。
薄暗い路地裏を抜けると、そこはギラギラとした歓楽街だった。けばけばしい看板が乱立し、大音量の音楽が鳴り響く。僕の場違いな制服姿に、奇異な視線が突き刺さる。それでも、僕は歩みを止めなかった。
誘ってきた男は、思ったよりもずっと年上だった。見るからに胡散臭い笑顔を浮かべ、僕の前に立つ。
「やあ、ディーヴァちゃん。待ってたよ」
その声が僕の耳に届いた瞬間、吐き気がした。胃の底からせり上がるような嫌悪感に全身の血が凍りつくのを感じた。だが、僕は無表情を保ったまま、彼を見上げた。彼の薄ら笑いが見て取れる。彼は、僕の手を取り、さらに奥へと進もうとした。僕たちが、古びたホテルのエントランスに足を踏み入れた、その時だった。
「未来っ!!」
背後から、血の滲むような叫び声が聞こえた。振り返ると、そこには、息を切らせて駆け寄ってくる朱莉と優斗の姿があった。彼らの顔は、怒りと、そして深い悲しみで歪んでいた。
「な、なんで……」
僕の口から、掠れた声が漏れる。彼らが、なぜここに。
優斗は僕の腕を掴んでいた男に、猛然と走り寄った。
「てめぇ! 何してんだ! 未来に近づくんじゃねぇ!!」
優斗の拳が、男の顔に叩き込まれた。鈍い音が響き、男は呻き声を上げて路地に倒れ込み急いで立ち上がり逃げていく。優斗は、なおも男に詰め寄ろうとしたが、朱莉が制止した。
「優斗、ダメっ! 落ち着いて!」
朱莉は僕の目の前に立ち塞がるように、僕の肩を抱いた。僕の顔を正面から見るその瞳は、怒りに燃えていた。
「未来、一体何してるの!? こんなところで!?」
朱莉の声は、震えていた。彼女の怒りは、僕の身を案じる心からくるものだと分かった。だが、僕の心は、彼らの怒りを受け止める準備ができていなかった。
「……私……は……もう……どうなってもいい……」
僕は、途切れ途切れに呟いた。僕の意識は、すでに深い闇の中に沈んでいた。
「放っておいてよっ!!」
僕は、振り絞るような声で叫んだ。彼らの心配も、怒りも、全てが僕を縛り付ける鎖のように感じられた。自由になりたかった。消えてしまいたかった。
その瞬間、僕の頬に、鋭い痛みが走った。バチン、という乾いた音と共に、顔が横を向く。火照る頬の痛みは、しかし、僕の鈍りきっていた五感を、一瞬にして呼び覚ますかのようだった。
「馬鹿っ!!」
朱莉だった。彼女は、僕を思い切りビンタしていた。彼女の瞳からは、大粒の涙がとめどなく溢れている。その頬は、怒りと悲しみで赤く染まっていた。
「未来が……未来が、もし本当にどうでもいいって思ってるなら……ッ、なんで私たちはこんなに心配してるのよっ!?」
朱莉は、嗚咽を漏らしながら、僕の肩を掴んで揺さぶった。その声は、震えているのに、僕の心を真っ直ぐに貫いた。
「私たち、未来のことずっと見てたんだよ!? ずっと心配してたんだよ!? ディーヴァの歌、未来だって知って、どれだけ驚いて、どれだけ未来が辛かったんだろうって、ずっと考えてた……ッ!」
彼女の言葉が、僕の胸に突き刺さる。彼女の目には、僕が誰にも見せなかった孤独、秘密、そして苦しみが映し出されているようだった。
「なんで……ッ、なんで私たちに何も話してくれなかったのよっ! 未来が一人で抱え込んで、こんなことになるまで私気付かないで何もできないなんて……ッ、私たち未来の親友でしょ!? 違うの!?」
朱莉の頬を伝う涙が、僕の制服に落ちた。その温かさが、僕の冷え切った心を、ゆっくりと溶かしていく。優斗は、言葉を失ったように、ただ僕たちを見つめていたが、その目からも涙が溢れていた。
朱莉の説教は、僕にとって初めての、そして本当の意味での「痛み」だった。それは、響先輩の裏切りの痛みとは違う。僕を傷つけようとする悪意ではなく、僕を救おうとする、純粋な愛と悲しみからくる痛みだった。
僕の目から堰を切ったように涙が溢れ出した。頬の痛みと、心の痛みが混じり合い、僕は声を出して泣いた。子供のように、大声で泣いた。
「……ごめんなさい……ごめんなさい……ッ!」
朱莉は、僕の体を強く抱きしめた。優斗も、僕たちの背中にそっと手を回した。歓楽街の喧騒が遠のき、僕たちの周りだけが、静寂に包まれていた。
可哀想は可愛い
明日も17時に投稿予定です。
実は現在12話くらいまで執筆中なのですが、作者の手の中には10話時点で幸せを謳歌している未来が泣きながら懇願する姿が見えます。このまま幸せルートまで駆け抜けようか……しかしながら長年このサイトを読み続けている私は知っています。曇り大好きにちゃにちゃ民が多いという事を。ては運命を左右する……かもしれないアンケートのお時間です。
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何いってんだ主人公なんて曇らせるもんだろ
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主人公曇るのは当たり前。周りも曇らせろ!
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路線変更!知らない内に周りだけが曇ってる
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多分選ばれない。みんな幸せハッピーエンド
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多次元宇宙!全部書きな(作者にムチ打ち)
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しらね。作者の好きにしなよ←オススメ★