ハッピーエンド描こうかと頑張って執筆していたんですが、気づいたら手元にバッドエンドが6つくらい出来上がってる!?
朱莉の腕の中で、僕は堰を切ったように泣き続けた。これまで誰にも見せられなかった、いや、誰にも見せることを許さなかった僕の内側の全てが、熱い涙となって溢れ出す。性自認の苦痛、元の世界への郷愁、響先輩に裏切られた絶望――ありとあらゆる感情が、喉の奥から嗚咽となってあふれ出した。夏の夜のまとわりつくような熱気が肌に張り付く中、朱莉は何も言わず、ただ僕を強く抱きしめ、その背を優しく撫で続けてくれた。朱莉の体から伝わる温もり、汗とシャンプーの混じった微かな匂いが、僕の感覚をゆっくりと溶かしていく。遠くで花火の音が微かに聞こえるような、湿った空気の中、優斗もまた、言葉を失い、僕たちの傍に静かに寄り添っていた。ギラギラと輝く歓楽街のネオンや耳をつんざくような喧騒は、まるで僕たちの周りだけを避けるように遠のき、奇妙なほど静寂に包まれていた。あの喧騒が、嘘のように感じられた。
朱莉の温もり、そして優斗のただそこにいてくれるという静かな存在が、凍り付いた僕の心に、ゆっくりと熱を取り戻していく。僕が自分自身を投げ出そうとした、あの暗く冷たい深淵で、迷うことなく手を差し伸べてくれたこの二人。その事実が、僕の心を深く揺さぶった。この偽りの世界にも、僕を案じ、僕を救おうとしてくれる、本物の存在がいたのだと、初めて心の底から実感した。それは、人生で最も残酷な裏切りを経験した後、完全に閉ざしかけていた僕の心に、暗闇を切り裂く一筋の光が差し込むような奇跡だった。僕の胸に、かつてないほどの安堵感が広がった。それは、重い枷が外れたかのような、解放感にも似ていた。
朱莉は、僕の嗚咽が収まるのを待って、その顔をそっと持ち上げた。涙で腫れた僕の目を見て、朱莉は深く息を吐いた。その瞳は、怒りに燃えていた数分前とは打って変わって、ただただ僕を心配する優しい光を宿していた。
「未来……よかった。本当に、よかった」
その声は、心からの安堵に満ちていた。僕は、震える唇で「ごめんなさい」とだけ呟いた。優斗もまた、僕の真実をまだ知らないながらも、ただ心配そうな眼差しで僕を見つめていた。彼の表情からは、僕がどれほど辛かったのかを慮る気持ちが痛いほど伝わってきた。
その夜、朱莉の提案で、僕たちは三人で朱莉の家へ向かうことになった。朱莉の両親は、何も聞かずに僕たちを迎え入れ、冷たい麦茶とキンキンに冷えたスイカを出してくれた。その冷たさと甘さが、火照った僕の体と心にゆっくりと染み渡っていく。冷たい麦茶の喉越し、スイカの瑞々しい甘みが、身体の奥まで染み渡り、張り詰めていた緊張が緩んでいく。リビングの窓からは、まだ虫の声が聞こえていた。その音さえ、今は心地よい子守唄のように響く。朱莉は僕の隣に座り、優斗もその向かいに腰を下ろす。冷えた麦茶を一口飲むたびに、僕の体の中に、ゆっくりと力が戻ってくるのを感じた。
朱莉と優斗は、僕に深くは尋ねなかった。僕が「ディーヴァ」であること、そして顔が晒されたことで深く傷つき、絶望していたことは理解してくれたようだった。彼らは、僕が話せるようになるまで、彼らは根気強く待ってくれた。その静かな優しさが、僕の心をさらに温かくした。僕は彼らの前では、偽りの笑顔を作る必要がなかった。ただ、僕のまま、そこにいることができた。
翌日、僕は学校へ行った。夏も終わりに近づき少しだけ日差しが和らいだものの、まだ残暑が厳しい。校舎の窓から入る風も、どこか生ぬるい。廊下を歩けば、まだひそひそと噂話が聞こえ、好奇の視線が突き刺さる。けれど、朱莉と優斗が隣にいてくれるだけで、心に確かな支えがあった。昼休み、まだクーラーが効いていたカフェテリアで食事をしながら、僕は意を決して二人に切り出した。胸の中には、不安と緊張が渦巻いていた。彼らが僕の言葉をどう受け止めるか、恐ろしかった。喉の奥は乾き、鼓動がうるさいほどに響く。けれど、このまま嘘を抱え続けることの方が、もっと辛いと悟っていた。昨日、言い淀んでしまったことを今度こそきちんと伝えようと思った。
「あのね、朱莉、優斗。私…話したいことがあるの」
朱莉は心配そうに、優斗は真剣な眼差しで、僕を見つめた。僕は震える声で、ゆっくりと話し始めた。
「私には、みんなが知ってるこの世界とは、似ているけれど少し違う世界の記憶があるの」
優斗の眉間にしわが寄り、朱莉は口元に手を当てて驚いた表情を見せた。二人の顔に理解できないといった困惑の色が濃い。けれど、誰も僕の言葉を否定しようとはしなかった。ただ、じっと僕の次の言葉を待っていた。彼らの顔に浮かぶ困惑は、僕の予想通りだった。それでも、僕の言葉を遮ることなく、真摯に耳を傾けてくれる彼らの姿に、僕は確かな信頼と、再び話し続ける勇気を得た。その沈黙が、僕に勇気を与えてくれた。
「私が歌っている『ディーヴァ』の歌はね、全部、その世界の歌なんだ」
彼らの表情はさらに固まった。無理もない、こんな話、簡単に信じられるはずがない。でも、僕は続けた。
「そしてね、その世界には…私にとって、とても、とても大切な人がいたの。もう、会うことのできない…本当に、かけがえのない人だった」
僕の瞳から、また涙がこぼれ落ちそうになった。それを必死に堪えながら、二人の顔をまっすぐに見つめた。言葉では言い表せないほど深い喪失感と、それでも彼らに伝えたいという切実な願いが入り混じっていた。まるで、冷たい氷の中に、熱い炎が揺らめくような矛盾した感情だった。
朱莉は、何も言わずに僕の手をそっと握った。その手は温かく、僕の不安を少しだけ和らげてくれた。優斗もまた、口を開くことはなかったが、その真剣な眼差しは僕の言葉を真摯に受け止めようとしているのが伝わってきた。
そして僕は、深く息を吸い込んで続けた。
「前に、響先輩に裏切られたって言ったでしょ? 私、あの時、響先輩のこと本当に信じてたの。だって、彼が『私と同じ世界を知ってる』って言ったから……。私の歌に込めたメッセージも、その世界のことを知ってる人を探してるって意味だったんだけど、響先輩は、私のその気持ちに、つけ込んできたんだ」
僕の言葉に、優斗の顔が怒りでこわばった。握りしめた拳が震えている。朱莉もまた、悔しそうに唇を噛みしめた。彼らは、僕の言葉を理解しようと、深く耳を傾けていた。響先輩への怒りだけでなく、僕がどれほどの孤独を抱え、その中で一縷の希望を裏切られたか、その痛みを少しでも感じ取ろうとしてくれていた。
僕の話を聞き終えると、優斗が深く息を吐いた。彼の目は、僕を案じる気持ちと、響先輩への怒りの両方が入り混じっていた。その眼差しは、これまで僕に向けられたどんな視線よりも、深く、そして重かった。僕の荒唐無稽な話を、彼は真正面から受け止めてくれたのだと、その瞳が語っていた。
「未来が学校に来てなかった間、俺たちも心配でさ……」
優斗は言葉を選びながら話し始めた。
「実は、響先輩、ディーヴァのパクリだって言われて、ネットでめちゃくちゃ炎上したんだ。なんか、お前が学校休んだ直後くらいから、急に騒がしくなって……」
「そうだよ、響先輩のアカウント、前に未来がアップしてた歌とそっくりな曲をいくつか上げてたでしょ? それが全部、彼のオリジナルじゃないってバレたんだって」
朱莉が付け加えた。彼女の声にも、怒りが滲んでいる。
「彼の動画のコメント欄とか、SNSとか、すごいことになってた。著作権侵害だとか、なりすましだとか、もう大騒ぎで……」
僕は驚いて目を見開いた。自分が絶望の淵で引きこもっていた間、そんなことが起こっていたとは思いもよらなかった。
「それでね、SNSとかで、ディーヴァの顔写真をアップしたのが響先輩だってことも、あっという間に学校中に知れ渡ったんだ」
朱莉の言葉に優斗が続ける。
「みんな、響先輩がなんでそんなことしたのかって、ものすごい勢いで批判してた。まさか、あんないつも静かな先輩がそんなことするなんてって、みんなショック受けてたよ」
朱莉も頷いた。
「私も信じられなかった。でも、これで未来がどれだけ傷ついて、苦しんでたのか、みんなもわかってくれたと思う。だから、未来が学校に来られるようになったら、もう変な目で見る人はいないよ」
二人の言葉は、僕にとって予想外のものだった。響先輩が炎上し、その悪事が白日の下に晒されたこと。そして、僕が顔を晒されたことの真実が学校の皆にも理解されていたこと。それは、僕が抱えていた、誰にも理解されないという孤独感を、少しだけ和らげてくれた。完全に消え去ったわけではないけれど、少なくとも僕はもう一人ではないのだと実感できた。
朱莉は僕の手をもう一度ぎゅっと握りしめた。
「だから、もう一人で抱え込まないで。私たちは、未来の味方だから」
朱莉の力強い言葉が、僕の心の奥底に染み渡った。これまでずっと一人で背負ってきた重荷が、ふっと軽くなるような感覚に包まれた。
優斗も、少し照れたように、けれど力強く言った。
「俺も朱莉も、ずっと未来のそばにいるから。何があっても、一緒に乗り越えようぜ」
彼らの言葉が、僕の心に温かい光を灯した。秘密の一部を共有し、互いの痛みを分かち合ったことで、彼らとの絆は、以前にも増して深く、強固なものへと変わっていった。僕は、この世界で初めて、本当に「味方」と呼べる存在を得たのだと実感した。
彼らの優しさと理解は、僕の心を少しずつ開いていった。
夏の終わり、秋の気配が少しずつ混じり始める頃、朱莉が「一緒に秋服を見に行こう」と誘ってくれた。スカートへの嫌悪感はすぐに消えるものではなかったが、朱莉が選んでくれる柔らかな色の服を試着したり、最初はぎこちなかった女性らしい仕草を、自然と真似る自分がいることに気づくことが増えた。それは、かつての「僕」としての自分と、「未来」としての自分との間にあった境界線が、少しずつ曖昧になっていく感覚だった。鏡に映る自分の顔を、以前のように嫌悪するだけでなく、その奥に潜む、新しい自分の可能性を探るように、少しだけ見つめる時間が増えていた。それは、決して心地よいばかりではない、複雑な変化だったが、不思議と未来への一歩のように感じられた。
明日の17時に投稿します。
すみません寄り道せずにハッピーエンドちゃんと描きますのでこの作品を見放さないでください!
アンケート答えていただいた方ありがとうございます!
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実は現在12話くらいまで執筆中なのですが、作者の手の中には10話時点で幸せを謳歌している未来が泣きながら懇願する姿が見えます。このまま幸せルートまで駆け抜けようか……しかしながら長年このサイトを読み続けている私は知っています。曇り大好きにちゃにちゃ民が多いという事を。ては運命を左右する……かもしれないアンケートのお時間です。
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何いってんだ主人公なんて曇らせるもんだろ
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主人公曇るのは当たり前。周りも曇らせろ!
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路線変更!知らない内に周りだけが曇ってる
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多分選ばれない。みんな幸せハッピーエンド
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多次元宇宙!全部書きな(作者にムチ打ち)
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しらね。作者の好きにしなよ←オススメ★