アストライア冒険譚   作:ものえの

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第四章 精霊との邂逅
1.魔女と剛雄、そして百智の男


 

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 その瞬間、魔女達はわななき騒然となった。

「導師バーバラの霊気が消えた?!」

「何らかの間違いであろう!導師の持つ”茨の獣”は最強格ぞ。我々がこの場に集う事が出来たのも導師のお力によるもの。あの方無くして”大いなる炎”の再臨をどう成し遂げるつもりか。」

ここは魔女結社”赤き茨”が潜伏する洞窟。バルサより北西に10日、サラゴナより北東に10日の距離にあり言わば二等辺三角形の頂点に位置する隠れ家だった。王都攻防戦によって離散の憂き目に遭った魔女達であったが、後に合議の元導師として選出されたバーバラの指揮の元落ち延びた魔女たちはバルダへの逃避行を敢行した。あれから8年、バルダ近辺の魔女結社は着実に勢力を伸ばしており反逆の狼煙を上げるその決起日は間近に迫っていた。しかし、その野望も一夜で反転する。”魔女殺しの魔術師”の手によって導師バーバラが討伐された事で魔女結社”赤き茨”は窮地に追い込まれていた。

「だーかーら、言ったじゃん。バーバラだけじゃ無理だって。」

魔女たちが集う部屋に響く愛らしい声音。

「ミイナ様、せめてお召し物を・・・。」

従者と思われる老婆が少女に導師のローブを差し出す。

「そんな辛気臭いローブ、誰が着るかってぇの。」

少女はそのローブを握る。たちまちの内にローブは燃え出し少女の手の中で火球に変化する。

「アたしにも、お気に入りってのがあるんでね。」

少女は、一糸まとわぬ姿を惜しげもなく魔女に披露する。そして火球を左肩に当てると炎の形状が変わり少女を包み込む。

バサッ、炎のマントがたなびき魔女たちはその熱風に慄く。炎が消えた先には破れかけた黒衣に身を包む少女の姿。少女は軽く全身をよじらせると出現するのは赤い茨。その妖艶な姿を守らんとするかの様に出現した茨が少女の肉体を包み込んだ。

「で?いい加減教えてよ。バーバラの獣が消えた先。アンタ達の言質もらわないとコッチも動けないでしょ?」

「それはなりませぬ。導師を失った今、ミイナ様までも失っては・・・。」

「はい、不敬罪。」

少女の一言で、諫言を呈した魔女は火の粉となり崩れ落ちていく。

「次に文句ある魔女は、だぁれかしら?」

少女の言葉からは命の重みは全く感じれず、ただ退屈だけが少女の動機となっていた。

少女の名はミイナ。魔女としての覚醒が無ければイヨラ村の村娘として生を終えたであろう。・・・いやいずれは魔女として覚醒したのだ。その瞬間がほんの少し縮まっただけ。その”ほんの少し”が彼女だけで無く姉さえも巻き込んだだけ。

「どうやら先にお目覚めでしたか。」

洞窟の入口から聞こえる男の声。

「あ、キースだ♡ もぉ、どこ行ってたのよお。」

先ほど見せた狂気は消え失せ、ミイナは一目散に男の側に駆け寄る。

柔らかな月明かりを思わせる金色の髪、額から頬へと流れるようにこぼれておりる。漆黒の外套は肩口から流れるように掛かり、動くたびに金糸の縁取りがかすかな光を返す。

裏地に忍ばせた紅がかの者の情熱を想起させ、隠された炎のようにミイナと共に揺れ動く。

その身を包む布は重厚でしなやか、 この出で立ちはまごう事なく西の大国であるアストライア聖王国にゆかりの者であった。

「先に済ませておきたい要件があったのでね。でもお詫びの印に退屈しない相手を連れてきたよ。」

キースと呼ばれた男はミイナを抱きかかえると洞窟の入口で待ち構える巨漢に目線を移す。

「あ、オークだ、オーク。アたし知ってるよ。」

「ははは。確かに似てはいますがオークではありません。彼はれっきとした元”人間”です。」

「元?じゃあ、思いっきり焼いても死んだりしないんだぁ。」

「彼は今までの玩具と違い簡単には壊れませんよ。・・・やってみますか?」

「うんうん、面白そうじゃん!」

「待ちなされ、百智殿!」

追いかけて来た魔女の一人がキースを諫める。

「導師バーバラを失った今、ミイナ様だけが”赤き茨”の希望。無暗に焚きつけるのはどういう了見じゃ。」

魔女の問いにキースは何も答えず、洞窟の入口へと向かう。

「魔女結社の皆さんも、どうぞご観覧を。その場で野垂れ死んでも責任は持ちませんよ?」

キースの言葉に魔女たちは慌てて外へ飛び出す。

外の平原では、キースの手元を離れたミイナが身体をほぐしながら準備を始める。方や大男は使い込まれ錆が滲む大剣と大斧を持ち、キースを見る。

「百智殿。壊してしまっても良いのだな?」

「ええ、君の実力を披露する機会です。きっと満足良く闘いの快楽を得られるでしょう。」

大男は二刀の構えを取るとミイナを見やる。

「我の名は・・・」

ゴウッ!!凄まじい炎の嵐が大男を包み込む。

「えー、今何か喋ったぁ?これで終わったらチョー受ける☆」

しかしミイナの魔法を受けてなお、大男は炎を振り払い大斧をミイナの頭上に振り下ろす。

キィンという耳障りな音、そして大斧の降り下ろした場所にミイナの姿は無く魔女は上空背後から炎をまとった蹴撃を繰り出し大男を叩きつぶそうと試みる。

「いただきぃ☆」

が、大男はその連撃さえも最小限の動きで躱し大剣を打ち据える。ミイナは大剣の直撃を受けるも茨の防御力がダメージの貫通を阻止した。

「名はゴウリュウ。魔女よ、貴様の強さの底、見せてもらおう。」

「ふぅん。アたしの名前は勝てたら教えてあ・げ・る☆ もちろん呼ぶときは”様”付け必須よ?」

ミイナのアピールの間隙を縫ってゴウリュウは二刀の旋風を巻き起こす。その荒ぶる姿は正に鬼神と呼ぶに相応しい格を魔女たちに見せつけていた。

「これ以上は危険じゃ、見ておれぬ。」

「百智殿、二人を止めて下され。」

魔女たちの懇願にもキースは表情を変えず突き放す。

「まだ始まったばかりでしょう?ミイナが大事ならその身を投げうってでも阻止するはず。何故そうしないのですか?」

キースの言葉に数名の魔女が闘いの渦へと飛び込む。

「ほう、これは立派な心掛け。しかし無意味にも程がある。」

キースの言葉通り、飛び込んだ魔女らは物言わぬ骸として灰となっていく。

 

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「アたしに力を貸せっ。”茨の爪”よ!」

次の瞬間ミイナの両手が赤黒い怪物の手に変化する。ゴウリュウは無言のまま大剣をミイナの頭に振り下ろす。だがミイナは怪物の片手で易々と受け止めてみせる。

「ぬぅ。」

間髪入れず、片方の大斧でミイナの左わき腹を狙う。が、先程と同じく片手で大斧までもが捉えられてしまう。

「ひょっとして力比べなら勝てると思った?ざーんねんでしたぁ☆」

ミシ、ミシ、と大剣と大斧にミイナの爪が喰い込んでいく。

「ばぁーん。」

ミイナの声に合わせゴウリュウの武器が同時に破壊される。ミイナは勝負を決めようとゴウリュウの喉元目掛け茨の爪を突き立てる。

「はぁい、ざーこ、ざーこ☆これでおしまい♡」

「ぬ・・・ぐぐ。」

「諦めが悪い子はアたし嫌いだなぁ。」

残忍な笑顔のままゴウリュウの喉元に爪が喰い込ませるミイナ。

勝負あったかに思えたその時、ゴウリュウは口から緑青色の泡を吐きながら呟く。

「武士は武器を持たぬ。・・・」

ジワリ、ジワリ、とミイナの力をゴウリュウの力が凌駕していく。

「この死にぞこないがぁ!」

ミイナが渾身の力を込めたその時、

ゴウリュウの左肘がミイナの右頬を狙い打つ!

「がふっ・・・茨の障壁を打ち抜いた?」

朦朧とするミイナにゴウリュウは渾身の右回し蹴りを喰らわせる。

「その身こそが刃(やいば)なりや!」

大きく仰け反ったミイナに対しゴウリュウの拳が再び襲い掛かる。

再びキィンという耳障りな音。ゴウリュウは上空から襲いかかるミイナの爪をその拳で受け止める。

「全てを燃やして灰と化せ。Great Hellfire!(大いなる地獄の炎)」

その呪文と共に二人を中心とした爆風が周囲を舐め回し、大地は炎の海と化した。

「流石に燃え・・・えっ?」

魔女の呪文では最高位に当たる炎の呪文。赤き茨の加護無しには立つ者はいないはず。その直撃を受けてなお、肉体を失わず立ち上がる怪物の姿があった。

「はい、二人共満足したでしょう。これ以上闘うと魔女結社そのものが消滅しますよ。」

キースの言葉に我に返る二人。

「うあ、ちょっとはしゃぎ過ぎた?」

「君の事は想定内です。今の段階でゴウリュウの力量がどの程度か見極めておきたかった。いい出会いをしました。」

ゴウリュウはゆっくりとミイナに近づき、二人の前に跪く。

「その力、見事でありました。妖(あやかし)を喰らい、数多の力を得た某(それがし)が互角以上の闘いに巡り合えた喜び、胸に染み入る所存。」

「ごめん、話がよくわかんない。」

「これは君が強かった、という意味。ゴウリュウと君が組めば怖れる存在は何も無い。」

「じゃあ、ゴウリュウとまた遊べる?」

「街を破壊しない限りは、ね。」

「よろしくお願い申す。百智殿、ミイナ様。」

「あ、いいよいいよミイナで☆」

先程とは変わり明るい表情でミイナはゴウリュウに手を振る。が、相当数の犠牲者を出す事になった魔女結社の魔女達がキースを詰問する。

「なぜこの様な無法者を”赤き茨”に引き入れる?そもそも貴様は我らの協力者であり指導者などと認めた覚えはないぞ!」

キースはミイナから手を放すと詰問した魔女の方へ足を向ける。そして右人差し指を立て、こう告げた。

「勘違いはお前達の方だ。すでに西には魔女結社は有らず。残るはお前達残党のみ。私は瀕死のお前達をより有効に使う為にここに来たのだ。忘れるな、お前達はこの百智のキースに”生かされている”という事を。」

一切の情の無い冷徹な言葉。魔女達は一斉に膝を折り己の無力さを呪う。

「ねぇ、次は何して遊ぶ?」

キースの後ろに抱きつきながらミイナは笑顔で問いかける。」

「そうですね。この隠れ家もいずれ護国兵団に発見されるでしょうから予定を切り上げて引っ越しましょう。」

「引っ越し!アたしもこんな薄暗い洞窟飽き飽きしてたんだぁ。」

キースの言葉に魔女達も動揺を隠せず狼狽する。

「で、場所はどこでござるか。」

ゴウリュウの問いにキースは右人差し指で南西の方角を示す。

「クリスト王国領サラゴナ。既に手は打ってあります。問題はありません。」

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