アストライア冒険譚   作:ものえの

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1-2 元気娘は手グセが悪い?(後篇)

 

【挿絵表示】

 

「今、何か言った?」

 

少女は目を細め剣士の様子を伺う。

 

「いや、何も。」

 

「・・・オジサン、ひょっとして冒険者さん?」

 

「昔は憧れたが、今は一介の軍人だ。」

 

「ぐ、軍人さん?!じゃあさ、アタシの弓を腕前を見てよ。練習は毎日欠かさずにしてたんだ。」

 

少女の陽気な笑顔にほだされたか、剣士は少女が弓を射る姿を観察する。

 

「ベスとの昔を思い出すな・・・。」

 

射撃に集中する少女には剣士の呟きが届く事は無く、一通りの射撃を終えた少女は剣士に振り向く。

 

「オジサンどうだった?アタシの弓。」

 

「いい筋だ。だがもう少し顎を引くクセが付けばより精度が上がるだろう。それと・・・。」

 

「それと?」

 

「俺の名前はエドゥ・・・いやエドワード=グロスター。相手を名で呼ぶのは教えを乞う以前の常識と考えろ。」

 

「じゃあ、エドワードさん。」

 

ワッチは勇気を振り絞り、エドワードに願い出る。

 

「あ、あのエドワードさんって凄く強いですよね。手合わせ、ってお願いしてもいいですか?」

 

「断る。ジョージの娘をキズ者にする訳にはいくまい。」

 

「アタシは実戦を経験してないです。エドワードさんのような猛者と真剣勝負がしてみたい!」

 

ワッチの熱意にほだされたか、エドワードは笑みを浮かべると大剣を構える。

 

「俺からの手土産だ。実戦の剣技を存分に味わえ。」

 

そう告げると、エドワードはワッチとの距離を一気に詰める。

 

「は、速いっ!」

 

ワッチは持ち前の俊敏さで剣士の一撃を躱す。次の瞬間ワッチの目が狩人の目と変わる。

 

「武器は短剣か。だがその剣で俺の間合いに届くかな?」

 

ワッチは地の利を生かし、木箱の障害物に潜みながら反撃のタイミングを待つ。

 

「完全に気を消したか。面白い、ならば今この場に引きずりだしてやろう!」

 

剣士は重戦士の雄叫び”挑発”でワッチを戦場に引きずりだそうと試みる。がこのタイミングこそワッチの狙っていた好機だった。

 

ワッチは左手に隠し持っていた短刀ダガーを使い、背後からの一撃を狙い撃つ。

 

が、戦場での経験値の差が出た。剣士の挑発からの反転切りは最初から組み込まれていた一連の剣技であった。ワッチは大剣に左側面を叩かれ木箱の山に転がっていった。

 

「手加減はした。緊張感のある手合いが出来た事には感謝しよう。」

 

 

 

「痛っ!」

 

ワッチが左わき腹の激痛で目が覚めた時はすでに日が暮れ暗くなっていた。

 

「あれ、アタシいつの間に部屋に?」

 

「ああ、やっと気が付いたのね。さあ、これをお飲み。」

 

ベッドの傍らにはワッチの無事を泣いて喜ぶ母親の姿があった。

 

「何これ?」

 

「痛みを癒す魔法の薬だそうよ。」

 

(なんかニガそう・・・)

 

少し抵抗はあったものの、ワッチは一気に薬を飲み干す。

 

「あ、痛みがホントに消えた!」

 

「それは良かったわ。後で父さんにちゃんとお礼を言うのよ。」

 

「うん。でも今日はとても疲れちゃった。じゃあ、おやすみなさい。」

 

母親の心配をよそに、ワッチは数刻も経たぬ間に大きないびきをかいて眠りに付いていた。

 

 翌朝。

 

リビングに行くと朝の食事をする母の姿、しかしその顔は泣きはらして腫れていた。

 

「おお、カトリーヌ。薬は効いたようだね。」

 

「うん、ありがとう。あのね父さん。昨日父さんのお客さんにあったの。凄く強かった。」

 

「聞いたよ。お前の腕前を高く評価されていた。『その気の強さは冒険者向きだ』ともね。」

 

「あのエドワードって人、そんなに凄い人なの?」

 

ワッチは父親の話に身を乗り出して耳を傾ける。

 

「ああ、とてもお強い方だ。でもお前がこの街に住む娘として暮らすのなら、もう会う事は無いはずのお方だよ。」

 

「父さん、誕生日の約束。」

 

「ああ、そうだったな。」

 

父親がワッチに渡したのは光沢を抑えた厚めの皮鎧、そして1つの背負い袋だった。

 

 

 

「やった、これでアタシも冒険者だ!」

 

「父さんとの約束も忘れないでくれよ。見境無く他人の小銭に手を出さない。」

 

「うん、絶対守るよ。」

 

皮鎧を抱きしめるワッチを見守りつつ固く拳を握りしめた父ジョージはワッチに語り掛ける。

 

「カトリーヌ、最後にこれを持っていきなさい。」

 

彼が金庫から取り出したのは漆黒に包まれた1本の短刀ダガーだった。

 

「すごい・・・。本当に真っ黒だ。」

 

感嘆の声を上げじっくりとダガーを見つめるワッチにジョージは語り掛ける。

 

「『黒曜石の短刀』。この短刀は、あるお方からお前が旅立つときに渡して欲しい、と頼まれたものだ。今日を持って剣は主へと戻る。」

 

ワッチはそっと短刀を手に取る。

 

「懐かしいような不思議な感じ。」

 

手にした短刀を手にワッチは父ジョージと何度も行った戦闘での型を構える。

 

「カトリーヌ、お前・・・。」

 

見慣れたはずの我が子の姿。だがジョージは思わず尻もちを着いてしまっていた。

 

「君とならエドワードさんの後ろ姿に追い付けそう。よろしくね、メイビー。」

 

「メイビー?」

 

驚くジョージの問い掛けにワッチは笑顔で返す。

 

「自分の事をそう呼んで欲しい、そう言われた気がしたのたぶん。」

 

ジョージは目頭を抑え、その目に涙を浮かべる。

 

「どうしたの?涙なんか浮かべて。」

 

「ハハ、何でも無い。しばらくお前の笑う顔が見れないと思うと寂しくなっただけさ。」

 

「うん、アタシ絶対立派な冒険者になるよ!」

 

「母さんの事は気にするな。きっと判ってくれるさ。」

 

「・・・。」

 

ワッチの思いつめた表情に父親が心配げに問いかける。

 

「どうかしたのかい?」

 

「父さん、冒険者ってどうやってなるんだっけ?」

 

ジョージは嘆息すると愛娘の頭を優しく撫でる。

 

「私が働いている酒場に行きなさい。酒場の御主人が教えてくれる。」

 

「あの髭爺だね。ありがとう、父さん。」

 

かくして元気娘は親元を飛び出し、冒険者への一歩を進めたのであった。

 

 




==次回予告==

今より十年の昔、亡くなった国王の後を継ぎ若くして王となった人物がいた。

その幼少期の約束を語る少し切ない物語。

第二話 姫と小姓 

お楽しみに!

※今回の挿絵はメイビー。イメージ補完のお手伝いになれば幸いです。

なお当作品で使用する画像は物語に沿って筆者【ものえの】が製作・調整した生成AI画像です。無断転載・加工等はご遠慮ください。
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