アストライア冒険譚   作:ものえの

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2.姫と小姓

 

【挿絵表示】

 

五王国の一つ、クリスト王国。潤沢な鉱山物資に動物たちに恵みを与える雄大な森林、豊富な海洋資源に加え農耕に適した肥沃な平原。この5つ全てを国内に持つのは西側の雄である聖王国とクリスト王国の二国のみであった。物資が集まれば人が集まり経済は活性化する。絶対的な権力で無私無欲を貫いたクリスト王家の賢王、そして国民が抱える無自覚の不安を信仰心と融和させ新たな教えとしてアストライア国教会を設立し賢王を支えた歴代教皇達。彼らが活躍した200年間は繫栄と平和の時代として歴史に刻まれた。しかし栄枯必衰は世の常、後に『貪食王』と呼ばれるヘンドリック王が18歳にして即位する。彼は『貪食王』の名にふさわしく、ありとあらゆるモノを手に入れんと財を投げうった。その時を機に権力の腐敗は瞬く間に全土に拡がっていったのである。

 

 50年という長期の在位はクリスト王国を疲弊させるのに十分な年月だった。隣国への遠征や海路開拓への過度な投資などはもちろん国民への過酷なまでの税負担は、民がヘンドリック王への怒りを燃やすには十分であった。その怒りは、やがて歴代賢王と教皇が冒険者らを中心に叩き潰したある一団を目覚めさせる事になる。茨と炎を操り、世界の破滅”大いなる炎”による世界の浄化を企む存在。魔女結社『赤き茨』の復活である。

 

 10年前、クリスト王国王都マデランテ。歴代の賢王に仕えた名宰相の名を持つこの大都市は『貪欲王』の手により荘厳で美しい宮殿と城下で国民が貧困に喘ぐコントラストの激しい都市となっていた。

 

宮殿内には狩りが一日ゆっくり愉しめるほどの広さを持つ森林があり、王族のみがその使用を許されていた。

 

「早く、こっちよ!付いてきてみなさい!」

 

一人の少女が白馬を駆り森を突き進む。

 

年の頃は12,3才といったところか。陽光に輝く金色の髪をなびかせ、白い柔肌を覗かせた純白のワンピースで馬を駆る姿はやんちゃといえど、王族の輝きを失うことは無かった。

 

「姫様お待ちください!僕の腕ではこの速度が限界です。」

 

彼女を追い馬を走らせる一人の少年。年の頃は彼女とほぼ同じだろう。声変りを終えその声音は男らしいがどこか気弱さが抜けきらない、そんな彼女と同じ金髪の少年だ。

 

少年の制止をよそに少女は右方向に急旋回する。

 

「姫様いけません!その方向には湖が・・・」

 

「知ってるわよ、それぇ!」

 

少女は手綱を引き白馬を無理やり跳躍させる。

 

ザブン!、と大きな水しぶきを上げ少女は馬ごと湖に飛び込んでいった。

 

「姫様ぁ!!」

 

少年の絶叫に対し、少女は水面から顔を出し少年に手を振る。

 

「オリオンも来なさいよぉ。気持ちいいわよ?」

 

少女の元気な姿を確認したオリオンはホッと胸を撫でおろす。

 

「いい加減にしてください、ベス。貴女のやんちゃにどれだけの人が迷惑を・・・。」

 

馬を降りたオリオンの視線の先は艶やかな彼女では無く、助けを乞う様にいななく白馬がいた。

 

「骨折・・・しているのかい?」

 

「そんな馬どうだっていいじゃない。また買い直すだけだし。」

 

ベスの言葉に一瞬だけ怒りの表情を浮かべたオリオンは、自らが濡れるのも厭わず白馬の元へ向かう。

 

「痛かったろう?今、癒してあげる。」

 

オリオンは懐から聖印を取り出し呪文を唱える。

 

「汝の痛み、女神の慈愛が和らげん。キュア(回復)!」

 

すると呪文の効いたか、白馬は再び元気に立ち上がる。

 

「僕の呪文で回復出来るか不安があったけど・・・良かった。」

 

「オリオン!どうして私を無視するの!」

 

ベスは立ち上がるとオリオンに近づき詰め寄る。

 

「簡単です。貴女には立派な女王になっていただきたいからです。」

 

「私は立派な人間になれないしなりたくもない。」

 

「この白馬はクリスト王国の民と同じです。民は王の奴隷では無い。僕はベスにこの事をもっと・・。」

 

「私はそんな事聞いていない!」

 

泣きじゃくるベスに対しオリオンは驚きを隠せずにいた。

 

「ねぇ、私と一緒に逃げよう?この国から。」

 

「本気で言っているのですか。」

 

「当然よ。だって私はオリオンの事が・・・。」

 

ベスは精一杯の想いを伝えようとする。そんな彼女をオリオンは優しく抱きとめる。

 

「それ以上は言わないで下さい。君に辛い思いをさせるのは僕も苦しい。」

 

ベスは言葉にならない嗚咽を漏らしつつ、オリオンを抱きしめる。

 

「君への想いは僕から伝えます。でもそれはもっと先の話です。」

 

オリオンはベスから離れると片膝を付き臣下の礼を取る。

 

「貴女はいずれ女王としてクリスト王国に再び繁栄をもたらすお方。僕は一介の小姓に過ぎません。」

 

「オリオン・・・。」

 

「ですが、いずれクリスト王国を支える重臣として女王に相応しい男になってみせます。」

 

その言葉にベスはやっと心の落ち着きを取り戻す。

 

「立ちなさい、オリオン=ヘテロギウス。」

 

ベスの言葉にオリオンはゆっくり立ち上がる。

 

「私の周囲にはお前しか信じられる者はいない。それでもやれるか。」

 

「当然です。エリザベス。」

 

少年と少女は唇を重ね、一時の甘い時間を過ごすのであった。

 

そして10年後。

 

王都マデランテで暗躍する魔女結社『赤い茨』の討滅を異母兄である黒太子エドゥと共に達成した王が存在した。

 

彼女の名は女王エリザベス。

 

後にヴァージン・クイーンと称される女傑である。




==次回予告==

 クリスト王国には危機の際、王権に匹敵する権力が与えられる特別職が存在した。その名は”護国卿”。

これはある人物が護国卿に就任する前の、若き頃の物語。

次回 ”蛇の道は蛇” お楽しみに!



※次回以降、投稿は 毎週水・日 21時頃 を予定しています。

今回の挿絵はエリザベス(着替え済)とオリオン(共に幼少期)です。背中合わせで恋人繋ぎ、イイとおもいませんか?。イメージ補完のお役に立てたら幸いです。

なお当作品で使用する画像は物語に沿って筆者【ものえの】が製作・調整した生成AI画像です。無断転載・加工等はご遠慮ください。
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