セガの都合の良い様に世界を改変するカソードと化したキャストを元に戻す為に戦うセガ新入社員のプレイヤー。
彼の元に集うキャスト達の頭上に謎の数字が浮かび上がる異変が発生した。
研究者として数字の謎を解明しようとするザ・ハウス・オブ・ザ・デッドだったが、彼女の数値は徐々に変化していき――
ファイルの整理をしていたら見つけたので供養の為に投稿しました。
続いてほしかったなぁ。
この世界は、セガに支配されている――
ゲーム会社であったセガは、自社が生み出したゲームに自我を与える事でキャストと呼ばれる存在を生み出した。
少女の姿を持つキャスト達は“アノード”と呼ばれる善性を持つ存在として生まれ、強い精神的負荷に晒される事で身勝手な願望を持った“カソード”に変化する。
カソードになったキャストは世界を改変する力を手に入れ、セガの都合の良い様に世界の歴史が作り替えられてしまった。
レースゲームのアウトラン。
カソードになった彼女はその力で交通規制の法案を見送らせ、走行の自由を優先させる事で事故発生率を著しく上昇させながらセガを自動車産業に参入させた。
シューティングゲームのアフターバーナー。
セガの技術を軍事利用させ、誰もがゲーム感覚で操縦できる戦闘機を開発。
その結果、街中での爆撃が日常的な物になり、セガは敵対人物を抹消する目的で人目を気にせず攻撃を行っていた。
しかし、これらは既に起こらなかった事になっている。
セガの支配を良しとせず、カソードとなったキャストを浄化するある勢力の活躍により、いくつかの改変は修正された。
そしてそれらは、セガの新入社員の協力によって成されている。
その者こそが、プレイヤー。
「……むぅ、一体何なんだこれは?」
となるアパートの一室で、口元をガスマスクの様な物で覆った少女が考え事をしていた。半透明の防護服のジッパーを腰まで開き、黒色の下着を隠そうともしないその姿は扇情的ではあるが、所々に付着した血が近寄りがたい雰囲気を醸し出している。
彼女こそ、セガが開発したゲーム、ザ・ハウス・オブ・ザ・デッドのキャストだ。その危険な装いも彼女がゾンビシューティングゲームが元になった存在であると分かれば納得がいくだろう。
「頭の上に数字が……」
そんな彼女の悩みの種は、突然彼女達……キャスト達の上に出現した不可解な数字だ。
研究者としての能力を持つ彼女はその数字に興味を寄せており、普段考えているゾンビに関する研究を一度止めて、真相解明に思考を巡らせていた。
「……私は10。他のキャストも10~30程度でバラバラ。1日経ったが、多少変動する事はあるが、その条件は未だ不明」
窓の外を見ても、通行人の頭上には数字は見えない。
「しかし、君の上にはある」
彼女の視線の先にいるプレイヤー。彼の頭上にはその数字があった。
もっとも、当の本人は生身の一般人の為か、データ上に表示されるこれを視認する事は出来ない様だ。
「……セガが君を見つけ出す為に何らかのマーキングを行ったのか?」
さっぱり分からないプレイヤーは肩をすくめた。
「けど、攻撃の予兆はなし。セガの動きを警戒してるリボンやXも、特に報告しないとなると……その線も薄いな」
ザ・ハウス・オブ・ザ・デッドの言葉に、プレイヤーは前日の出来事を口にする。
「関連していない筈がないだろうね」
今から25時間前、プレイヤーとキャスト達は電脳空間であるカソードのキャストと遭遇した。
セガの動向を調査し把握しているリボンですら正体の掴めない謎のキャストは、どうやら戦闘に向いた存在ではないらしく、複数のキャストによる攻撃によってあっさりと撤退した。
未だ足取りは掴めておらず、謎の多い彼女がこの現象を引き起こしたと考えるのは自然の流れだった。
「っむ……また数字が変動した。12……しかし、私自身、特に変化はない。ステータスは良好だ」
「どうだい、何か掴めたかな?」
2人の近くにやって来たもう1人のキャスト、カソードのバーチャファイターだ。
「その様子だと、君の才能をもってしても情報不足といった感じか」
「そうだ。数字の変動の条件も分からないからね」
世界を改変する力を持つカソードだが、生みの親であるセガの元を離れた為かその力を無暗に行使する事もなくなり、今はプレイヤーの家にホログラムで現れている。
「数字か……私は30前後だね。HPゲージみたいに殴れば減るかと思って獣王記に組手を頼んだんだが、逃げられてしまった」
獣の様な姿と身体能力を持つが戦うのが嫌いな獣王記の姿を思い浮かべ、そりゃそうだろとプレイヤーは苦笑いをする。
「だとしたら私はだいぶ脆弱になってしまう。それに、体力面で君とペンゴやスペースハリヤーが並んでいるとは思えない」
「それもそうだね。所で――」
バーチャファイターの視線がプレイヤーに移った。
「25か」
「19だね」
2人は同時に自身の視界に移る情報を口に出したが、やはり結果は異なっていた。
「どうしてプレイヤー君の数字だけ私達の間で異なるんだ?」
「分からないね。もしかしたら、なにか特別な才能が……!」
才能を持つ者に強い関心のあるバーチャファイターの目が輝くが、深まる謎に対して成果がない事にザ・ハウス・オブ・ザ・デッドは顔をしかめた。
「もっと情報が欲しい……いっそ、君を解剖して……」
その言葉を聞いたプレイヤーの額に冷や汗が流れた。
「む、数値が17まで下がった」
その後、ザ・ハウス・オブ・ザ・デッドは他のキャストにも聞き込みを続けたが、結局答えに繋がる様な情報を得る事はなかった。
「……ん? そろそろ眠る時間だろう?」
突然、1人しかいない筈の部屋の中で声を掛けられたプレイヤーは驚きの余り椅子から転がり落ちそうになった。
「いい加減、私の存在に驚かないでくれ」
そんなプレイヤーの醜態を見たザ・ハウス・オブ・ザ・デッドは呆れ顔だったが、彼のPCの画面に映る映像を見て笑みを浮かべた。
「ザ・ハウス・オブ・ザ・デッド……! PCに移植された初代のリメイク版かい?」
自分自身と言っても過言ではないゲーム画面を見て大喜びな彼女に、かろうじて落ちずに堪えたプレイヤーは笑って頷いた。
「ふふ、こんな夜遅くにゾンビに襲われようだなんて、君も中々分かっているね。
良いね。是非君の慌てふためく様を私に見せてくれ」
近くの椅子に腰を下ろし、プレイヤーのゲームプレイを眺め始めた。
次々と迫り来るゾンビに向かって、銃型コントローラーの代わりにマウスとキーボードを叩く彼の姿に自然と口数が多くなる。
「ほらほら、急がないと噛みつかれちゃうよ?」
「こまめなリロードが大事だよ」
「彼は人だよ、撃っちゃだめだ」
「武器切り替え……押し過ぎ」
「ちゃんと弱点を狙って」
「ほら、もう一回」
ゾンビや血まみれのクリーチャーに銃弾を浴びせ続けていると、気が付けば深夜になっていた。
流石に限界が来たか、プレイヤーはゲームを閉じる事にした。
「貴方のコンテニュー回数は20回……アーケードだったら2100円分もプレイしてる。やっぱり家庭用はいいね」
「え、明日には社員特典で銃型のゲームパッドが届く?
……素晴らしい。やはり世界を支配してる内はセガ社員は安泰だね」
そんなこんなで翌日もザ・ハウス・オブ・ザ・デッドとのゲームは続いた。
ゲームそのものである彼女にゲーム内で新発見の驚きはないが、操作し遊んでいるプレイヤーの反応の1つ1つが新鮮で喜ばしいものだった。
クリーチャーの奇襲に慌てふためく姿や、数分前より定まったエイム、不意に入手したアイテムや強ボスに色々な戦法や立ち回りを繰り返し試す時間。
そして何よりも――
「――クリア、だね」
それら全てが報われる達成の瞬間。
喜びの余り、2人はハイタッチを交わしていた。
「それじゃあ、明日はいよいよハードモードだ。
本当の戦いは此処からだよ」
明日はどんな顔を見せてくれるだろうか。
ザ・ハウス・オブ・ザ・デッドは明日もやってくるゲームの時間にワクワクしていたが、プレイヤーの言葉を聞いて冷水を浴びせられた様な気分になった。
「明日は、別のゲームをする? 他のキャストも、理解したいから……?
そうか、ならまた2日後に……え、そしたらまた別のゲーム?」
一緒にセガと戦うキャスト達をちゃん理解したいと言うプレイヤーに、彼女は取り繕った返事を返した。
「そう、か……いや、私もまだ研究があるからね。
楽しみに待っておくよ」
その言葉を聞いて就寝の準備を始めるプレイヤー。
しかし、言葉を発した本人は自分の口から溢れたそれに目を見開いていた。
「たの、しみに?」
「……ハウス・オブ・ザ・デッドさん?」
「なんだい?」
ホログラムの状態でプレイヤーの椅子に腰を下ろしている彼女にロボット掃除機……にデータを移しているキャスト、リボンが近付いて来た。
「連日出っ放しじゃないですか。
プレイヤーさんが私達の投影をランダムに設定してるからって、出過ぎじゃないですか?」
「他のキャストの誰かが譲って欲しいって頼んでいるかい?」
「いえ、特にそういう訳じゃないんですけど……」
(キャストの皆さん、基本的に我が強くてプレイヤーさんへの関心は薄いですし)
「なら良いじゃないか」
「それよりも! 頭の上の数字、確認してますか?」
「勿論、自己分析は怠ってないよ」
ザ・ハウス・オブ・ザ・デッドの数字は44に変化していた。
「不吉な並びですね。それに、40台を突破したのは初めてですよ」
「それでも私自身に特に違和感は無い。スキャンを走らせても変化なしだ」
「いや、明らかにあるじゃないですか!」
「?」
「ご自分がプレイヤーさんにご執着な事に気付いてますか?」
ため息混じりのリボンの指摘にザ・ハウス・オブ・ザ・デッドは今一度自分の状態を確認した。
普段なら腰掛けないであろう家主不在のオフィスチェアに座り、電源の入っていないPCのキーボードを仕切りに突こうとしてホログラムの指をすり抜けさせている。
「っ……な、なんだと……?」
「気付いてなかったんですか」
普段は研究者として振る舞っている彼女には珍しい、なんとも間抜けな反応だった。
「き、気が緩んでいただけだ」
「はぁ……バカらしくて可能性を言うもの憚られましたが、これは間違いないですね……」
「何かわかったのかい?」
「この数字……プレイヤーさんへの私達の好感度ですよ」
「……好感度?」
「恐らくですが、先日のキャストは恋愛ゲームが元だったんでしょう。どういった能力かは不明ですが、その接触の際に私達をヒロインに見立てて好感度を数値化していたんですね」
「なるほど……なら、彼の頭上の数字が観測するキャストによって異なっていたのは彼から私達に対する好感度だからか」
「そういう事になりますね」
「そうか……」
ザ・ハウス・オブ・ザ・デッドは再び自分の数字へと視線を向けた。
数字は42まで下がっている。
「……いや、待て。その理論で行くと、私が現状一番彼を好いてる事になる」
「確かに、昨日一緒にゲームしてたペンゴさんも35まで上がっていましたが、40台は貴方だけですね」
「つまり、まだ好感度の数値化という結論付けるには根拠が弱いな」
「……あれー?」
「早とちりは良くない。もう少し検証するべきだろう」
「あ、そういえば私達キャストって人間の事を一個体として認識するのが難しい存在でしたねー!
もう納得してもいいと思うんですけど!」
リボンの言葉を聞き流し、再び自分の思考とメモとの睨めっこを再開。
考え事に耽る彼女を見て、リボンはどうにか自分の正しさを証明できないか案を探す。
(……そうだ!)
名案を閃いたリボンは、早速計画に移す事にした。
チャットアプリを起動し、メッセージを送った。
その送り先は、ダライアスだ。
『――確かに貴重な体験なんだが……』
自身の耳に着けたイヤホンから聞こえる微妙な反応に、プレイヤーも苦笑いした。
現在、プレイヤーはメガネ型の情報端末を装着しており(リボン製のプロテクトが勿論完備されてます☆)、ザ・ハウス・オブ・ザ・デッドはその端末内で彼の視界内の情報を共有していた。
目の前には優雅に水中を泳ぐ数多の種類の海洋生物と、それを眺める多くの一般客の姿がある。
『こんな無駄な工程を挟んで水族館鑑賞とは……』
呆れた様子の彼女にプレイヤーはなんとか興味を惹こうと辺りを見渡した。
リボンから頼まれているのも理由の1つだが、普段からキャスト達は自身の部屋に閉じ込めっぱなしなので出来る限り楽しんで欲しいと、本気でそう思っていた。
『不老不死のクラゲ……』
小さな水槽の前の紹介パネルに書かれた不老不死と言うワードに彼女は反応した。
『危機に瀕すると若返る……はぁ……』
どうやら彼女のお気に召す情報ではなかった様で、溜息が聞こえて来た。
慌てて次の生物を探すプレイヤー。
『全く、浅はかだね』
失望を含んだ声に失敗したのかと彼は肩を落とす。
『折角の休日だろう? もっとゆっくり、じっくり行こう。
そんなに慌てていたら、折角のヒントを見逃してしまうじゃないか』
予想外の言葉に驚いた。彼女は、観念したかのように鑑賞の続きをプレイヤーに促したのだ。
『ほら、こっちはもう読み終わったから次だ』
そう言われ、プレイヤーは急いで別の水槽に視線を向けた。
多くの魚と客の間を通って、普段は消して交わらない水の中を覗き込む。
絶えず泳ぎ続ける魚の群れ。
ふよふよと上下に動くクラゲ。
1人で来ていたらぼーっと眺めているのが関の山だっただろうが、イヤホンから聞こえてくる彼女の呟きがこの時間に確かな手応えを与えてくれる。
『む……血糖値が少し低くなってる……』
健康状態を計測するヘルスケアアプリの数値を指摘され、プレイヤーは正直に自分の現状を説明した。
『はぁ……? 朝が早かったからまだ何も食べてない? 愚かだね。それとも私に死体を提供するつもりかい?』
『先にお昼にしよう。ここで倒れてゲームオーバーになんてなりたくないだろう?』
そんな脅しに冷や汗をかきつつ、館内マップを頼りにレストランへと向かった。
水族館の少し高い海鮮メニューを覗くと、彼女は気遣うような質問をしてきた。
『アレルギーはないかい? こういう時、甲殻類系に目が行きがちだが、卵や小麦も注意しないとね。ないならいいさ』
『揚げ物を食べるつもり? 温かい物なら味噌汁の方が良いよ』
『薬の服用は……無しだね。最後に病院に行ったのは何時? 直近で患った病とか』
そこまで聞かれて、プレイヤーは自分が問診されていることに気が付いた。
『検体の健康状態の把握は必須だからね』
ザ・ハウス・オブ・ザ・デッドの問診を食事を理由に中断させたプレイヤーだったが、結局料理が出来上がるまで事細かに質問され続けるのであった。
「……57、か」
水族館から帰って、プレイヤーの声が聞こえなくなった電脳空間でザ・ハウス・オブ・ザ・デッドは頭上の数字を確認した。
自分以外のキャストに対した変化がない中、こうも自分の数値のみが増え続けているとなると、いよいよリボンの言葉が真実味を帯びてくる。
そもそも、彼女に恋に対する恥らいはない。
思えば、プレイヤーはもっとも多くの言葉を交わした人間だ。
セガにいた時には研究者達に指示を出したり研究内容について話す事はあっても、世間話をした記憶はない。
検体として見ている分、興味もある。それを否定したりはしない。
「……けど、好感度と言われてもピンと来ないな」
今日のログを再生する。
彼のバイタル値やその時の自分の情報等、隈なく今あるデータを再確認する。
「……うーん、客観的な……第三者の情報が欲しいな」
それならば、彼女は誰か……他のキャストにプレイヤーに近づいて行動してもらおうと頼もうとして……手が止まった。
「……どうして?」
「……」
「……」
「……」
「どうしてって?」
「研究がうまく行きそうだからだよ」
「そんなの……」
「壊したくなるにきまってる」
翌日、プレイヤーは電脳空間に入った。
理由はザ・ハウス・オブ・ザ・デッドの消失だ。リボンからの報告を受けた彼は慌てて彼女の捜索の為に世界に入った。
同時に、リボンから世界改変の情報を知らされた。
「こちらに来れて良かったですねプレイヤーさん!
現実ではどうやら怪しげな研究所から出てくる煙でゾンビパンデミックが始まってしまった様ですよ」
悲惨なニュースに仰天するプレイヤーだが、リボンは更に追い打ちをかける。
「こうなったのもきっといなくなったハウス・オブ・ザ・デッドさんのせいですね! 彼女がゾンビシューティングのキャストなのはご存知ですね」
昨日までアノードだった筈の彼女が一晩でカソードと化してしかも暴走して世界改変まで起こしている。
原因も経緯も不明なまま、ようやく彼女の姿を見つけた。
髪の色は赤く染まっており、黒の下着の上に羽織った半透明の服は執刀医の様な緑色、肌は血の気の薄い紫掛かったモノへと変色している。
「漸く来たねリボン、プレイヤー」
「ハウス・オブ・ザ・デッドさん! 昨日までアノードだったのに、どうして突然こんな事を!」
「どうしてか……」
リボンの質問に笑みを浮かべながら振り子の様な動きで頭を振り、正面を向いた。
「君のおかげさ、リボン。頭の上の数字が好感度だって気付かせてくれたから」
「好感度……? あ!」
驚いたリボンの視線をプレイヤーは眼で追った。彼女達の言う数字を現実世界で視る事は叶わなかったが、この空間の中であれば彼にも視えた。
「きゅ、93……!?」
「あははは! 凄いでしょ? 50近くになってから、アノードの時はずっとモヤモヤしてたけど、私はずっと滅茶苦茶に壊したくてね」
「そう言えば、カソードの時の彼女は上手く行ってる研究を衝動的に自分で壊そうとしてましたね。もしかして、恋愛漫画とか読めないタイプ……」
「そうだね。いつまでもじもじされてさ、これが思ったより精神的な負荷が凄くて……カソードに戻る程度には」
「――っじゃなくて、プレイヤーさん大好きならなんで改変を起こして世界を無茶苦茶にしてるんですか!」
「決まってるじゃないか。セガを倒す為だよ」
そう言った彼女は空間に映像を映し出し2人に見せつけた。
街の中を歩くゾンビの群れは、一心不乱にセガ本社の巨大なタワーに向かっており、到着した者はドアを叩いたり、壁をよじ登って内部への侵入を試みていた。
「私の研究成果によってセガは滅ぼされる。そうなれば、もう君が戦う理由なんてなくなるし、いつまでも私と一緒に居られるだろ?」
「やっぱりカソードになったキャストは頭のネジが飛んでしまいますね」
「天才とは、何時の世も理解を得られない者さ」
「プレイヤーさん、何時も通りボコボコにして彼女を浄化しましょう!」
リボンの言葉に頷くプレイヤー。しかし、背後から紫色の巨大な手に体を掴まれ、彼の体は持ち上げられた。
「プレイヤーさん!?」
「ずっと一緒に戦っていたんだ。勝ち目がない事はよく理解しているさ。
だから彼だけ貰っていくよ」
そこにいたのは全身が紫色の巨大なゾンビのアバター。
カソードの彼女の背に常にいた筈だが、奇襲の為に今姿を露わにした。
「危害を加えたりしないさ。でも、追ってくる君達には容赦しないよ」
「待っ――」
背を向けてワープしようとするザ・ハウス・オブ・ザ・デッドに攻撃しようとするリボンだったが、ゾンビアバターに捕まったままのプレイヤーを自分の前に向けられてしまい、その手を止めた。
「じゃあね」
攫われたプレイヤーはワープの際に気を失っていた。
彼が目を覚ますと、そこは見知った自分の部屋だった。
自分の体に数回触り、生身だと確認してから自分の身に何が起きたかを思い出した。
攫われて、気を失っている間にリボン達が助けてくれたのかと思った彼の耳に外から騒がしい音が聞こえてきた。
嫌な予感がして外を見ると、その状況は悲惨なモノだった。
車がそこら中で横転し、衝突し、乗り捨てられ、炎や煙がそこら中で立っており、人の血が家の前の地面や壁を汚している。
カソードの世界改変はキャストを浄化すれば消失する筈だ。つまり、こんな惨劇が続いているという事は――
そんなプレイヤーの想像を肯定するかのように、部屋の扉を乱暴に叩く音が聞こえてきた。
「う……ぁぁ……!」
困惑している間に、音の主は鍵の掛かっていないドアを開けて部屋の中に侵入した。
頭から血を流し、ボロボロの服を来た女性のゾンビがプレイヤーへ向かって歩いてくる。
「……」
ふらふらとした足取りだが機敏な動きで近付いてくるゾンビに、死を覚悟して目をつぶったが、ゾンビはそのまま床に倒れた。
助かったと安堵し、不思議に思ったプレイヤーはそのゾンビから少し距離を取りつつ一体何なのかと体を見渡した。
『換装前の義体をあんまりジロジロ見ないでくれるかい?』
どこからともなく、ザ・ハウス・オブ・ザ・デッドの声が聞こえて来た。
同時に倒れたゾンビが起き上がり、その体から光を放った。
光が収まると、そこにはカソードの姿の彼女が立っていた。
「やぁ」
驚愕した様子のプレイヤーを見て、赤髪を揺らして彼女は微笑んだ。
「人間の細胞で作った生体義体さ。ここまで無人操作で歩かせたけど、道中襲われないか不安だったよ」
キャストは自身のデータを入れる義体を得る事で現実世界で活動が可能になる。
勿論、義体の製造は世界を支配している大企業セガの技術力が無ければ難しいが、実際にセガで研究をしていた彼女であれば、現実改変で設備を得れば難しくないだろう。
「それで君は自分がどんな目に合うと思ってるのかな?」
その質問にプレイヤーは普段の彼女が口にしている言葉の中から、自分に害がありそうな物を選んだ。
「解剖か……確かに、絶対しないなんて言えない」
「でもね、私が今したいのは別の事さ。私は君を壊したい」
「物理的な意味じゃなくてさ」
赤い瞳が視界を覆った。眼球から体の内側を覗き込まれている様な、強烈な不安感に襲われる。
「内面とか、感情とか、心とか」
1秒毎に、体の細胞がドンドン彼女に侵されていくような。
脳を残して、鼻から下の、自分自身を奪われていくような。
「君にあって、私にはまだ希薄なモノを」
「ぐちゃぐちゃにして、私のを注いで」
「かき混ぜて」
「どんな反応が起こるのか」
瞳が横へ外れ、血の匂いが近くなる。彼女の顔が右耳に寄った。
「ねぇ、実験してみようよ」
猫撫で声で囁かれ、体が震える。
「……あれ? 今のは違うな」
漸く離れた。同時に冷たい声色で彼女は違和感を口にした。
「みようか……なんて、まるで君の許可がいるみたいじゃないか」
「実験材料の君に、拒否権なんてないのにね」
本当はここから短編集的に続けたかったんだよなと。
推しは推せる時に、二次創作は熱のある間に。