海からの帰り。行きと同様に小一時間、電車に揺られていた四人がようやく最寄りの改札口を出たところで「そうだった」とガロウが声をあげた。その声に前を歩いていた金属バットと、彼と手を繋いでいたゼンコが振り返る。
「コレ、返す」
「あン?」
シャツの胸ポケットに仕舞ったままだったソレを取り出して、金属バットへ手渡す。二人の間では、スタンダードな黒いサングラスが駅内の照明に反射してキラリと怪しく光っていた。
「おう、忘れてたわ」
「あー、なんだ、その……助かったわ」
「……おう」
どこかぎこちない会話になってしまい、本人たちはバツが悪そうにそっぽを向き合う。お互い、声を荒げずに会話をする事がどうにも落ち着かないらしい。そんな二人を、さきほどまで疲れから微睡んでいたタレオとゼンコの二人が見守るような瞳で見上げていた。
「あー……おまえ、次は自分の持ってこいよ」
「え、ああ……おう」
「じゃ、行くわ。またなタレオ」
「は、はい!今日はありがとうございました!」
「タレオくん、ガロウさん、バイバーイ!」
「バイバイ、ゼンコちゃん!」
「……おう」
ゼンコの手を握り直し、さっさと去ってしまう後ろ姿をしばらく見つめていたガロウに、隣のタレオから声があがる。
「……おじさん」
「ん?」
「よかったね!」
へへ、と嬉しそうに目を細めたタレオがガロウを見上げた。日焼けによって色づいた頬を更に赤めて、鼻先を掻きながら照れ笑いを浮かべている。似たもの同士故にぶつかる事も多い金属バットとガロウの二人だが、根っこの部分にある荒々しい優しさを、彼は子供ながらに理解しているのだ。大好きな二人が、最近は言い争う事も少なく打ち解けてきている。その事実が無性に嬉しくなり、心の底からの笑顔が溢れてしまっていた。
そんなタレオに驚いた表情を浮かべたガロウだったが、次の瞬間にはぶっきらぼうに「おう」とだけ返し、二人が去った方向とは反対方向へ歩みを進めた。それに続いたタレオの気配を感じながら、先ほどの金属バットの言葉を思い出す。
(……次もあるのか)
自然と上がる口角。もちろんその言葉に深い意味がない事を理解している。複雑な心境ではあったが、それでも少しづつ改善している関係性に喜ばずにはいられない。なんせつい先ほど、金属バットへの淡い想いを自覚したばかりである。
「次ははもっと深いところまでもぐれるように、泳ぐ練習しなきゃ!」
タレオがガロウの隣に並び、見上げながら続ける。
「今日はほんとにありがとう、おじさん!」
誰がおじさんだ、と返してから、ガロウは海水で少しごわつく頭をぐしゃぐしゃに撫で回す。
その心はじんわりとした温かさに包まれていた。
おわり