その日の夜、善は急げよろしくさっさと電話した俺たちの会話は、どこかたどたどしく、おう、と電話に出た金属バットの短い言葉から始まった。
「よぉ、ちゃーんと登録はしたかよ?」
「チッ……しつけぇ野郎だな……したに決まってンだろ」
「嘘くせぇなぁ」
「う、うるせぇな……で、どうするんだ」
「おう、二日目の夜なんてどーよ?」
「二日目?」
「タレオが花火見てぇって言っててな、その日がいちばん派手なんだと」
「ふーん。ちょっと待ってろ」
一呼吸おいた後、通話口から「ゼンコぉ!」と優しい声色が響いた。遠くから、なーにぃ?と間延びした声が続いて、通話口で二人の会話がぼそぼそと溢れてくる。
「祭り、二日目の夜はどうだって」
「やったぁ! お兄ちゃん、わたしユカタ着たい!」
「ああ? いいけどよぉ、着付けとか分かんねーぞ、俺」
「大丈夫だよ! お兄ちゃんもいっしょに着ようよぉ!」
「いやだから、着付けできねぇって……」
「わたしが調べるからぁ!」
じとりと盗み聞きしていた会話に、思わず心臓が跳ねた。金属バットに浴衣……悪くない。ニヤリと口角をあげて、電話越しに何やら揉めている兄妹に声をかける。
「なあ、おい」
「あン?」
「着付けならジジイが出来るぜ」
「シルバーファングが?」
「おう。頼めるか、聞いてやろうか?」
ピタリと空気が止まったのが分かって、たぶん悩んでるんだろうなと伝わってくる。そして、しばしの沈黙後。
「…………頼むわ」
絞りだすような声に思わず笑いが溢れた。こういう所が、どうにも憎めないというか、何と言うか。まあ、可愛いというか。それでも、ここで俺を頼るようになったってだけでも、相当の進歩になるんじゃねーか。一気に愛おしさのような、それでいてむず痒い感情が押し寄せた俺は照れ隠しもそこそこに、さっさと要件をまとめていった。
「当日、ジジイの道場集合な」
「お、おう」
本当にコイツが浴衣を着るのかは微妙なところだが、一応ジジイには伝えておくか。万が一って事もあるしな、うん。
その後、さっさと通話を終了しやがった金属バットの浴衣姿なんかを想像しながら、ジジイに事の経緯を説明した。
笑顔で任せろ、と親指を立てたジジイに向かって鼻を鳴らしながら「連れてきてやるよ」と言うと、驚きながらも「楽しみだぜ」と微笑んだ。
ジジイがヤツを見て、腰を抜かして驚く様を想像して自然と口角が歪む。
「何じゃい、その顔は」
「いーや、別にぃ?」
これは今朝の仕返しになりそうだ、と肩を揺らして、俺は来たる夏祭りまでの幾日に想いを馳せたのだった。
おわり