If I could turn back time 作:暇をなくした暇人の集
夏休み課題?知らんよそんなもん。
次の日の朝早く、珍しく来客があった。
知らない来客があると孤児院の子供たちはとある淡い期待を感じる。まともな家族が迎えに来たのかと。
しかし大抵の場合それは進路関係の先生や子供コミッショナーの担当官だったりするのだが。
しかし今回は違った。私を訪ねて来たのは裕に80歳を過ぎていそうな白髭を蓄えた老人で、
どこか「指輪物語」のガンダルフを彷彿とさせる人物だった。
蒼い彼の眼は深い知性を感じさせ、見つめていると自分が吸い込まれてゆくような気がする。
何より不思議だったのは、彼に注意を払っているのが院長と私の二人だけだということだ。
アイリーンを始めとした職員たちは彼の横の院長にのみ挨拶して何でも無いように通り過ぎていく。
まるで誰も気付いていないかのように。それは他の子供たちも同じだった。
「咲夜、君にお客さんだよ。」
「初めましてじゃな、サクヤ。」
「どうも初めまして、ええと・・・」
「おやそうじゃった。自己紹介がまだじゃったのう。どうも歳を取ると忘れっぽくなってしまうのでな、許しておくれ。
儂の名はアルバス・パーシバル・ウルフリック・ブライアン・ダンブルドア、ああもちろん覚えられなくても仕方のないことじゃよ。若人がこんな死に行く老人の名なんぞを覚える必要は毛頭ないからのう。」
「ええと、咲夜・十六夜です。」
「ああ、勿論知っておるよ。見事な目の色じゃな。昔は儂もそうじゃったのじゃが、もう濁ってしまった。」
「ありがとうございます。」
この老人ーアルバス・・・ダンブルドア?、彼は一体何故ここ居るのだろうか。助けを求めて院長にアイコンタクトを送ろうとしたものの、既に退室してしまったようで、この老人の相手をするしか選択肢は無くなった。
とはいえ院長が直々に連れてきた客なので無碍に扱う訳にはいかない。
と考えたのだが、少し厳しそうだ。というのもこの老爺は既に惚けてしまっているようで、急に魔法がどうだとか言い始めたのだ。
曰く、私には魔法使いの資質があるのだとか。
しかしここはイギリス、魔術結社(という名の反社会的勢力や宗教団体)などの怪しい組織は探せばいくらでも見つかる。
それより問題なのは、院長がこの客を連れてきたということだ。この孤児院では本来、子供への面会は子供が望んだ場合にのみ行われる。これは、"人間"に対して恐怖心を抱えた子供がパニックに陥らないようにするための重要な院内規定であり、院長が提案したものだ。
院長がそのルールを無視してまで連れてきた客とは一体何なのか。
見当もつかない。
そんなことを考えながら話に相槌を打っていると、彼は急に立ち上がりこう言った。
「まあ、恐らく君は儂のことを惚けた老人か何かだと考えていることじゃろうて。まあその考えは正しいかも知れんがの。しかし儂は、同年代に比べればまだ元気だと自負しておる。どれ、ちょっとした手品を見せてあげよう。」
そう言い終わるや否や、突然老爺の姿が火に包まれた。あまりの光景に時間を止めることも助けを呼ぶことも忘れ呆然と見ているとあることに気付いた。そう、老爺を包む炎は彼が座っていた椅子や周りの物に燃え移らないのだ。しかしその炎からは熱さや眩しさといった物は感じるのだ。
十秒ほど経っただろうか。突如として炎は消え去り、そこには変わらぬ姿の老爺と、彼の膝で休まる白鳥ほどの大きさの鳥が居た。その鳥は鮮血のような真紅の羽で全身を覆われており、金色の尾と嘴や黒い目を持つ美しい鳥だった。
その姿はまるで神話に出てくる・・・
「紹介しようかの、これは儂のペットのフォークスじゃ。マグルの間では不死鳥や鳳凰、フェニックスなどと呼ばれていたと記憶しておる。」
その光景は私にこの老爺の正体が魔法使いであると信じさせるのには十分過ぎるほどだった。
解説
子供コミッショナー(Children's Commissioner)は子どもの権利と利益を守るために行政から独立した立場で活動する機関。主に子どもの権利侵害の調査や勧告を行い子どもの代弁者として政策提言などを行う。
『指輪物語』は、イギリスのJ・R・R・トールキンによる長編小説。エルフや人間が国家を築き、戦争を繰り広げる架空の世界を舞台としたハイ・ファンタジー作品である。初期作品『ホビットの冒険』の続編として始まるが、より大きな物語になった。映画化もされており、筆者一押しの作品である。
不死鳥・鳳凰・フェニックス
日本のアニメや漫画、観光地の影響で英国でも鳳凰(ホーオー)や不死鳥(フシチョー)などでも伝わるそうだとか。