恋の死神~おいでませ恋愛相談部~   作:サラダよりは肉が好き

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新連載です。

書いているうちにどんどん変な作品になりましたが、
いつものことなので気にしないことにします。

お手すきの際にどうぞ。


第一話 恋の死神とお人よしの少年

 この世界がリア充によって形成されているならば、連鎖爆発して世界ごと滅びてしまえばいいのに。

 もちろん、彼女が居る人は羨ましい。羨ましいけど……まぁ爆発しろとまでは思えなくて。友達との会話では合わせてそういうノリを保っている。

 僕、赤井糸士(あかいいとし)は、友人とそんな話をしながら過ごす普通の高校二年生……“だった”。

 

「あの、赤井君!……その、私と、付き合ってください!」

 

 放課後の教室。頭を下げて僕にそう言い放って来たのは、中林志保(なかばやししほ)さん。同じクラスの、所謂イケイケグループの女子だ。セミロングのふわっとした髪が可愛らしい、クラスでも話題の美人さんだ。

 正直中林さんとは何の接点もないけれど、僕はこの幸せな現実に負けて、二つ返事で、震えて声で了承の返事をした。

 

「こ、こちらこそ!不束者ですがよろしくおねがいしましゅ!」

 

 噛み噛みの返事をしてしまい焦る僕を見て、中林さんが優しい笑顔で流してくれた。あの笑顔は、僕の記憶に一生残ることになるだろう。

 かくして、僕と中林さんはお付き合いすることになった。放課後は一緒に帰ったし、手も繋いだりした。

 休日はショッピングモールに出かけたり、カフェに行ったり。たどたどしい僕の話をただ聞いてくれた彼女が愛おしかった。

 二週間程過ぎて、今日も一緒に帰ろうと思ったが「委員会の仕事があるから、先に校門で待ってて!」という中林さんから言われて、校門で待つことに……。

 

「……おい、赤井糸士だな」

 

 待っていると、突然声をかけられた。恐らく、二年生。僕の通う“私立義真高校”は、ネクタイの色で学年の区別をする。僕と同じ赤い色のネクタイは、その証明だった。

 ボサボサの黒い髪に、引き締まった身体。身長も高くて、百七センチちょっとある僕よりも十センチは高い。

 全校生徒が千人近く居る高校だから、同学年でも見た目はおろか顔すら見覚えないこともある。声をかけて来た彼は、僕にとってはまさにそれだ。

 

「えーっと……誰?」

 

「ンなことはどうでもいい。中林志保と付き合っているのはお前だな?」

 

「確かに、そうだけど……それがどうかしたの?」

 

 僕がそういうと、彼は面倒そうに片手で頭を掻いた。

 

「面倒クセェ……」

 

 実際口でも言った。一体なにかあるのだろうか……ま、まさか!彼も中林さんの事を……!?……そうだとしたら、確かに彼のような、顔も整っていて、強そうな人の方が、彼女にはふさわしいのかもしれないけど……そ、それでも、僕は中林さんの彼氏だ!ここで引いては、男が廃る……!

 

「な、中林さんとは別れません!あなたには渡さない!」

 

「あァ?……あー……まぁそういう話だけどそういう話じゃないんだよな……」

 

「じ、じゃあ一体どういう話なんですか!?」

 

 今度は腕を組んで悩み始めた。「どう言ったもんかなァ……もういっそのことストレートに言うか面倒クセェ」とか、ぶつぶつ言っている。

 やがて、よし。と決心がついた声を発すると、彼は僕に向かって……

 

「結論から言うぞ。とりあえず中林とわk」

 

「葦原(あしわら)ァ!!!お前また宿題提出してないだろ!!!」

 

 そう言ってこちらに走って来たのは、学校でも有名な名物教師、鬼瓦先生だ。筋骨隆々で、不真面目な生徒は許さない典型的な熱血教師。

 それにしたって、一回宿題を忘れたくらいじゃあんなに激怒しない筈だけど……。

 

「二年に上がって毎回俺の授業の時だけ忘れてきやがって!今日という今日は許さんぞ!」

 

 それは誰でもキレて仕方ないと思う。

 

「チッ……オイ、赤井糸士!“今日は中林志保に誘われてもどこにもついていくな”。後は何とかしてやるから……っとやべっ」

 

「逃げるな葦原ァ!今日こそ逃がさんぞォ!」

 

 走り去っていく……葦原君?と鬼瓦先生。……一体なんだっていうんだ。葦原君ってそんなに問題児なのか?

 

「赤井君!お待たせ……って、疲れた顔してるね?どうしたの?」

 

「ははは……なんて言ったらいいんだろう」

 

 たった今あったことを思い返しながら、僕は中林さんと下校することにしたのだった。

 

 

「それって、葦原圭(あしわらけい)だよ多分……災難だったね」

 

「有名人なの?」

 

「有名も有名人だよ……“恋の死神”葦原圭……カップルを片っ端から別れさせるって有名な、嫌な奴なんだから!」

 

「あ、あの人が……!?」

 

 そんな酷い人が同じ学校に居たのか!……一瞬、リア充爆発しろと言い合っていた友人達の顔が思い浮かんだ。葦原君もそういう類の人なのだろうか……?

 

「変なこと言われなかった?」

 

「変なこと……うーん……全部変だったかなぁ……」

 

「まぁそうだよねぇ……」

 

 ……それにしても、最後の言葉はどういう意味だったんだろう?誘われてもついていくなって……まるで、中林さんが今日僕をどこかに誘うことが分かっているかのような……。

 

「嫌なことは楽しいことでわすれちゃお!ねぇ、今日カラオケ行こっ!」

 

「……」

 

 ……葦原君の言葉が、想起される。……いや、何も起こるはずない。僕は今、幸せの絶頂にいるのだから。こんなことを気にしても、仕方ない!

 

「うん!行こう!」

 

 彼女の手を取ってカラオケへ向かう。

 そうさ、こんな僕にでも、春が来たんだ。付き合って二週間!……色々、期待してもいいよね!

 

 

 カラオケボックスでは、お互いに雑談したり、歌ったり……二時間程、楽しいひと時を過ごした。一緒にデュエットなんかして……恋人っぽいなぁ……。

 僕がこんな風に彼女と過ごすなんて、思ってなかった。

 

「はぁ~……幸せだねぇ~……」

 

 唐突に、中林さんが溜息混じりに呟く。……よかった。中林さんも同じ気持ちでいてくれてるんだ。

 

「……うん」

 

 カラオケを出て、何気なく歩きながら会話する。……他愛もない会話の中、ふと中林さんが何かを決意したように口を開いた。

 

「……ね、ねぇ赤井君」

 

「ん?どうしたの?」

 

「……きょ、今日ウチ、両親、いなくてさ。……よかったら、来る?」

 

 ……と、ということは、つまり……そういうこと、そういうことだよね……!?

 

「え、えっと!?それはその……そういう……!?」

 

 

「……言わせないでよ、えっち」

 

 ……こ、これは間違いない。親密な男女がイチャイチャラブラブするフラグが、今建ってしまっている……!男としての度量が、今試されれている……!

 

「も、もちろん!よろしくおねがいしましゅ!」

 

「……もー、大事なところで嚙まないでよ」

 

 そう言いつつも、僕の手を引いて歩き出す中林さん。……男になる日が、来てしまったようだ……!

 

 

 と、思っていたのだが……歩き始めてから三十分は経過したにも関わらず、中林さんの家にはつかない。それどころか……人気のない場所へと進んでいる気がする。

 

「な、中林さん?まだ家にはつかないのかなぁ……なんて……」

 

「……もう少しだよ」

 

 何回か、どこら辺に家があるのかとか、どれくらいで着くのかとかを聞いてみても……「もう少しだよ」としか返ってこない。

 やがて、廃ビルまでつれてこられてしまった。……もう絶対、人とか住んでる気配はないよね……。

 中林さんは僕の手を放して、向かい合う。

 

「……ねぇ、赤井君」

 

「な、何かな?あとここって家……じゃないよね?」

 

「赤井君は、優しい人だよね。荷物は絶対持ってくれるし、歩く時は車道側に立ってくれる」

 

「ど、どうしたの急に……?照れるけどさ……」

 

 僕を褒めながら、中林は僕の手を伸ばして……。

 

「待った。……間に合ったか」

 

 その手は……どこからか現れた葦原君の手に掴まれた。

 

「……何?」

 

「あ、葦原君……?どうしてここに……?っていうか、どうして中林さんの手を掴んでるの?」

 

「あー……ギリギリセーフだよなコレ。おい赤井糸士。“まだ首は掴まれてない”よな?」

 

「ど、どういうこと!?掴まれてないけどさ……!」

 

「ならセーフだ。……オイ、中林。……いや“恋化け”。とっとと出てこい」

 

『……やはりお前が“ハンター”だったか……葦原圭ィ!』

 

 中林さんの周りに、黒い靄のようなものが……そして、それはやがて形を成していって……巨大な黒猫のような姿になっていく。

 こ、これってどういうこと!?中林さんは中林さんで……でも恋化けって一体何!?

 

「おい、赤井糸士。……下がってろ、死ぬぞ」

 

「うわぁ!?」

 

 葦原君に片手で一気に壁突き飛ばされる。って痛った!?一体どういう力してるんだ……数メートルはあったぞ!?

 そのまま、拳を構えて中林さん……いいや、巨大黒猫に対峙する葦原君。

 ……そこからは、目を疑うような光景の連続だ。

 巨大黒猫は素早く爪を振るい葦原君を切り裂こうとする……だけど、葦原君はそれを全部見切って躱している……!?

 そのまま攻防を続けるけど……葦原君が隙を見つけて一気に踏み込み、巨大黒猫との距離を詰める。

 

「……切れろ、縁(えにし)!」

 

そのまま右手で手刀を作り、中林さんへと叩き込む……いいや、“身体を貫通している”!?

 

「え、え……う、そ……人が、手で切られ……!?」

 

『ギニァアアアアアア!?』

 

 血しぶきが舞う……という事態にはならず、巨大黒猫は消え去り……中林さんは、その場に倒れ込んだ。

 

「……っ!中林さん!!!」

 

 痛む身体に鞭を打ち中林さんの所へ駆け寄る……よかった、どこも傷ついてない。

 

「……だから言ったろ、どこもついていくなってよォ」

 

「……ねぇ、今のは何なの!?中林さんから黒猫みたいなのは出て来るし、君はそれと戦ってるし……!?」

 

「……お前、アレが視えてたのか……面倒クセェなぁ……滅多にいないのによォ……」

 

「面倒臭いじゃなくて!……ちゃんと答えてよ。中林さんに、何が起こってたの?」

 

 ……そのまま彼は座り込み、僕にも座るように促した。……中林さんは、安らかな顔で眠っていたので、持っていた鞄を枕にするようにして寝かせて、僕もその場に座る。

 

「……さて、どこから説明したもんか……こういうのは別の奴の役目なんだが」

 

 今度は面倒臭い、とは口にしなかったものの……態度に出たまま、彼は語り始めたのだった。

 

 

「中林志保に憑りついていたのは……“恋化け”っていう化け物だ」

 

「恋化け……?」

 

「そうだ。恋化けってのはな……恋の負のエネルギーによって生まれる怪物みたいなモンだ」

 

「……えっと、SFとかオカルトの話してる?」

 

「……あのクソデカ猫が見えてるなら、現実だってわかんだろ。面倒クセェこと言うんじゃねェ」

 

 ……まぁ確かに、中林さんの身体から出て来た変な奴は見たけど。

 

「恋の負のエネルギー……まぁ、平たく言えば失恋とかそういうのだな……」

 

「し、失恋……?でも、僕と付き合ってたんだけど……」

 

「中林志保は、お前と付き合う一日前に別の奴に告白してこっぴどく振られてる。……そりゃもう目も当てられない有様だったそうだ」

 

 そんなことになってたの中林さん!?全然知らなかった……別の世界の人だと思って、遠巻きに見ることしかしてなかったから……。

 

「恋化けはそうした負のエネルギーから生まれ……同じ負のエネルギーを集めるようになる……そこで選ばれたのが、童〇丸出しのお前ってわけだ」

 

「どうっ……!?」

 

 確かに、経験なんてないけどさ……!

 

「まぁ……この瞬間、最後にお前はこっぴどく振られる手前だったってこったな。そうして、出た負のエネルギーを吸収しようとして……」

 

「……ちょ、ちょっと待って?……つまりさ、僕が過ごしたこの二週間は……全くの、嘘っぱちだったってこと……?」

 

「そうなるな」

 

 ……そりゃ、美味い話すぎるとは思ってたよ。冴えない非モテの僕が、急に美少女に告白されるなんて。

 

「はぁ~~~~……」

 

 穏やかに眠っている中林さんを見る。……可愛い。可愛いんだけど……その気持ちは本当の物じゃなくて、恋化けとかいうものがやっていたのか……ショック。大ショックだ。

 

「……結局、お前はコイツに利用されたってことになるな」

 

「……でも、彼女のせいじゃなくて、恋化けとかいう奴のせいなんだろ?」

 

「どうだろうな……憑りつかれている時、全く意識が無いやつもあれば、少しは残ってる奴もいる。……もしかしたら、お前を騙してストレス発散してただけかもしれないぞ。まぁ恋化けが剥がれた後は、そこまでの記憶は失われるわけだが」

 

「……」

 

 ……つまり、もう彼女の真意を確かめる術は無いわけで。彼氏彼女の関係も、これで終わったわけで……。

 ……でも、それでも。僕にはやらなきゃいけないことがある。

 

「……んしょっと」

 

 中林さんを背負う。……こんなところに居ていい筈は無い。学校の保健室でもどこでも、安心できる場所に移動させてあげなきゃ

 

「……助けるのか。お前を騙してたかもしれない奴なんだぞ?」

 

「……そうかもしれない。けど、放っておけないし」

 

「……同情か?男女の情か?」

 

「……多分、どっちでも無い……というか、情ですらない」

 

 ……騙されていたとしたら、それはとても悔しいことだ。騙されているということに気が付けなかった自分にイラつく。好意が無いなら近づいてきてほしく無かった。……まぁ、騙されている間は幸せだったけどさ。

 ……それでも、僕が彼女を助けるとしたら、きっとその理由はひとつ。

 

「……だって、“恰好悪いだろ”、廃墟なんかで見捨てたら。……寝覚め悪いじゃんか」

 

「————そうか」

 

 面倒クセェ奴……と僕に悪態をついて、彼はその場から立ち去った。

 ……まだまだ聞きたいことはあったけど、まずは、彼女を運ばなきゃ。

 

 ……不思議な一日が、僕の青春が一つ終わった。……恋化けってのが何なのかいまいちわかってないし、彼女も失ってしまった。

 明日はきっと、友達にからかわれるんだろうな……「おかえり」とか「ざまぁみろ!」とか言われそうだなぁ……。

 憂鬱な気分で帰った僕は、この時はまだ思いもしなかった。

 

 

 —————自分が、まさか恋化けとの戦いに巻き込まれていくことになるということに。

 




次回、メインヒロイン登場。
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