ゴーント家の長女、弟を溺愛する。   作:八重歯

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世界の目覚め
01 その時、私は全てを思い出した。


 

 

 その時、私は全てを思い出した。

 唐突だった。どれくらい唐突かというと今普通に朝ごはん食べてるところだ。ライ麦パン、硬えなこれ。

 パンを咥えたまま停止する。いち、に、さん、し、ご……瞬きする。うん、落ち着こう。口の中の唾液がパンに吸われてぱっさぱさになってきたな。

 

 

「早く食べやがれこのウスノロ!」

「……」

 

 

 怒号と共に鍋の蓋が飛んできて私の肩に当たった。苛立ちを隠そうともしない男が、腕に絡まる蛇に向かって同意を求めるようにぶつぶつと悪態を吐く。ちらり、視線を横にずらせば年老いた祖父が腐ったような匂いがする肘掛け椅子に座りながら汚物を見る目で私を一瞥していた。

 

 

「はい。伯父様」

 

 

 私の伯父。モーフィン・ゴーント。

 祖父はマールヴォロ・ゴーント。

 

 私の名前はリリス・メローピー・ゴーントだ。

 母であるメローピーは、私を産んで暫くして実家に捨てた。ただ私の名前を書いた紙を残して。なんでそうしたのかは知らない。多分、親になる勇気がなかったとか旦那の愛を娘に取られたくないとかその辺だろう。

 赤子の私を育てたのは伯父でも祖父でもなくて、ゴーント家のペットの蛇達だったけど。とりあえず二人は私を殺すこともなく、捨てることなく置いてくれていた。

 

 

 今は、私は四歳だ。

 私の中で、前世の記憶と、今世の──リリスとしての記憶が流れていく。

 前世、私は普通の一般人だった、マグル──日本人で、読書好きで、ここがなんの世界かを知っている。……異世界転生?なのかな。

 

 小さな白い手でパンを持ち、もぐもぐと無言で食べながら考える。

 

 ハリポタの世界かー。うわすごく好きだったけど、親世代子世代くらいまでしかわからないのに、ここってリドル世代?──何世代っていうんだろ。しかも、まさかのゴーント家。お先真っ暗決定。

 

 ってか、え?私トム・リドルなり代わり?──ではないよね、女だし。いや、でもトム・リドルが女の世界線?この世界にトム・リドルは存在するのかな。

 

 存在するのなら、私の……弟?になるのだろう。私が母の第一子のはずだし。気になるな、探してみようか。

 

 

「ご馳走様でした」

 

 

 ぱちん、と手を閉じ──モーフィンが怪訝な顔をした──食器を台所へ持っていく。うわ!汚い!

 台所はヘドロみたいな汚れとカビと食べ残しやらなんやらでハエは飛んでるし鼠は走ってるし散々だった。スポンジ……う、これも汚い。固形石鹸にカビ生えるの?こんな家でよく今まで生きてこれたな、私。

 

 

 あまりの悪臭に鼻が曲がりそうになる。息をなるべく止めながら食器を汚いシンクに……置いたらまた汚れる。だめだ!まずシンクから洗おう!

 

 

「スコージファイ!」

 

 

 ハリポタの世界なら、私も魔法使えるはず!という気持ちでシンクに向かって清掃魔法を唱える。するとどこからともなく清潔な風が吹き込み、シンクの汚れをさらっていった。うん!よし、これでピカピカになった!タオルは──汚い、これも「スコージファイ」ってか家全体「スコージファイ」だ!!

 

 

「スコージファイ!スコージファイ!!」

「おめぇ……いつの間に魔法を?」

 

 

 モーフィンが後ろから私に声をかける。マールヴォロも信じ難い目で見つめ、口を厳しく噤んでいた。

 

 

 そうだ!リリスはまだ魔法使ったことなかったんだ!鋭く睨む二人の目が私を射抜く。──怖い、憎いその気持ちが胸の奥からドロドロと流れた──それで魔力の発現もまだなのか、あのバカな女にそっくりだお前もスクイブかと毎日詰められて、殴られてた!

 

 でも、私には今確かな魔力がある。なんだろう、わからないけどそれを感じる。

 今まで抑圧されていたものが、この小さな体の中に満ちていて──溢れたんだ。

 

 

 なんでもできるような、万能感。

 

 

 ああ、そうだ。

 私は──リリスは。

 かなしかった、くるしかった、いたかった。やめてほしかった。助けて欲しかった。お母さんとお父さんに会いたかった。魔法の力が欲しかった。こんなところにいたくなかった。

 

 

 あのふたりを

 おなじめに あわせたい

 

 

 胸の中が興奮とどす黒い感情で満たされる。脳の奥がチリチリとする。そうだ──リリスは、嫌だった!!

 

 

「あははっ!伯父様、お祖父様。リリス、なぁーんでもできるんだから!」

 

 

 目が爛々と凶悪に輝く。暗い目に、赤い色が走った。

 三年分の苦しみ、憎悪が、体の中心から四肢へと伸びる。血管を、臓腑を巡り──そして放たれた。

 

 

 

「うっ──」

「な、何──」

 

 

 部屋の中に突風が吹き荒れる。

 ああ!リリスがクルクル回るたびに、風が全てを攫っていくの!

 

 リリス、なぁーんでもできる!

 怖いことなんてない、リリス、もうなんにも怖くない!

 

 

「あはっ!あははははっ!!」

 

 

 狂ったように笑うリリス──いや、私は、部屋中を荒らした後、突然糸が切れたようにその場に膝をつき。倒れてしまった。

……魔力切れか。

 

 目だけは汚い埃まみれの床を見つめている。視界の端で、モーフィンとマールヴォロが興奮と畏怖が混ざった目で私を見下ろしているのがわかった。

 

 

 ああ、私は、私。

 だけど、私の中に確かに『虐げられ鬱々としていた四歳のリリス』が存在する。

 一つの体に二つの魂があるような、奇妙な感覚……だけど、嫌じゃない。だってリリス。わかってるよ、あなたはすっごく辛かった。

 

 

(大丈夫、これからは私が守るからね。)

 

 

 私は、私の奥でえーんえーんと泣いているリリスを抱きしめるようにして、ふっと意識を飛ばした。

 

 

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