私は面会室に通された。
そこは雑然としていて、デスクの上には書類やらコップやらが乗せられたままだ。
あまり柔らかくはないソファに座って待っていると、かちゃり、と扉が開いた。
先程の女性と、幼い少年がいた。
私はふっと目元を緩める、ああ、間違いない。──彼だ。
まだ幼いその顔に、闇の王の片鱗はなく、ただ拗ねたように、怯えたように、探るような目で私を見つめていた。
唇はきゅっと閉じられていて、私の対面側に座るその膝の上に乗った手は、そわそわと動いていた。
「トム、あなたのお姉さんらしいの。ええと、リリスちゃん、何か証明できるものとか……あなたのお父さんは?」
「今は何も持ってきてません。でも……私と似ている。そうでしょう?」
「まあ……そうね」
女性はトムと私を見比べる。
本当に、よく似ていた。私と歳はそこまで離れてなさそうだ。二歳……いや、三歳?真っ白な肌、黒いサラサラの髪、灰色の瞳。
トムは私をじっと見つめていて、目があって微笑みかけてみたら、なんだか酷く傷ついたような目をして、伏せてしまった。
「それに、父は、わかりません。私は……生まれてすぐに。祖父の家に捨てられたようです」
「まあ……それは──」
トムが僅かに瞼を震わせ、私をもう一度見た。その目には、同類なのだとわかり、喜ぶ様子が滲んでいた。
ああなるほど。自分だけが捨てられたと思ってショックだったのか。でも、私も同じように捨てられたのだとわかって、喜んでるんだ。
「噂で、私に似ている子がいて、名前はトム・マールヴォロ・リドルだと知りました。マールヴォロは、私の祖父です。私は生まれてすぐに捨てられましたが……もしあれから弟が生まれ。本当に私の弟なら、一度会いたいと思ったんです」
「そ、そうなの……」
おっと。あまり流暢にペラペラ喋る子どもだも不気味に思われるか?見た目は四歳だしね、中身は成人超えてるけど。
「今日は、その噂を確かめにきました。祖父には……伝えていません。また、改めて訪問します」
「ええ、そうね。それがいいと思うわ」
女性も、表情を緩め頷く。
少し気まずい沈黙が流れた後、女性は「じゃあ、少し遊んでいってね」と言ってそそくさと事務室から出て行った。
そわそわと落ち着かない、探るような視線が私を見て、視線を逸らしては、また私を見た。
赤い小さな唇がきゅっと結ばれていたが、ついに震えて開いた。
「僕の、お姉さん……?」
「ええ、そうよ」
「……本当に?」
「証拠はあるわ」
私はポケットを探り、白蛇を掴む。白蛇は私の手や腕に絡みつきちろちろと舌を出しながら鎌首をもたげた。蛇を見たトムの目がはっと開く。
「蛇、見たことある?」の問いかけに、トムは小さく首を振った。おや、まだパーセルマウスと知らないのか。
「じゃあ、不思議な事が起こった事は?」
「……なんで、きくんだ?」
「いいから」
「……、……何回か」
そっちはあるのか。
ならまあまあ話はスムーズに進みそう。
「この蛇がなんて言ってるか、わかる?」
蛇は舌をチロチロと出しながら「こんにちは」と言っていた。トムは目を見張り「蛇って喋るの?」と興奮を滲ませ囁いた。
「私の家系はね、蛇の言葉がわかるんだ。こんにちはって言ってたね。私も、わかるんだよ。……だから、私たちは家族なんだ」
「かぞく……」
「そう、不思議な力は……魔法よ」
「ま、ほう?」
トムは蛇に手を伸ばす。蛇はぺろりとトムの指先を舐め、トムは少しくすぐったそうに目を細めて微笑んだ。
か──かわいい!美少年の微笑みかわいい!
「トム、何歳?私は四歳だよ」
「三歳」
「そっか……ねぇ、トム。少し難しい話してもいい?」
低い私の真剣な声に、トムはこくりと頷いた。
「私が今住んでいるところはね。あんまりいいところじゃない。叔父様とお祖父様がいるけど、二人とも碌な大人じゃないしね。まともな教育が受けられるかどうかわからないし、ここよりも酷い環境なのは間違いないの。
今、私たちはまだ幼い。……どうする?ここでもう少し大きくなるまで──」
「嫌だ」
言葉を遮り、トムは私の人差し指を、きゅっと掴んだ。
「僕、行く。ずっと、考えてた。家族が、僕を迎えにきてくれたら、って。だから、だから──」
その手は震えていた。目は切々と訴えている。まだしっかりと回らない唇と舌で、必死に思いを伝えようとしている。
「……わかった」
こんな幼い子に、こんな悲しくて苦しい顔はさせたくない。
私は立ち上がり、トムの手をしっかりと掴む。
「お姉ちゃんに任せて!」
「──っ!」
トムは頬を少し赤く染めて、小さく──それでも、ふにゃりと愛らしく笑った。
──可愛すぎるっ!