次の日。
一度家へ戻った私はモーフィンとマールヴォロに、弟を見つけたと伝えた。
二人は泡を飛ばしながらなんだか喚いていたけれど、私が「うるさい」と呟くと、家がミシミシと音を鳴らしたから、黙ってくれた。
「メローピーは?あいつはいたのか?」
「ううん。死んじゃったみたい」
あっさりと言うと、彼らは少し言葉を詰まらせ、顔をしかめた。
マグルなんかと結婚して子供を作った一族の恥晒し。──だとはいえ、流石に家族としての情は微かにあったのかな。それを口には出さないけど、私を今まで生かしてくれたことが、それを物語っている。
一応、ゴーントの姓を与えてくれてるし。家族だと認めていないまでも、血の繋がりは感じているんだろう。ってかまあ、モーフィンはこれからどう外見を取り繕っても中身がクズだから結婚して子孫残せないしね。サラザール・スリザリンの由緒正しい血を続けられるのは私と、トムだけだし。
「母様は、マグルの孤児院で産んで死んだんだって。名前はトム・マールヴォロ・リドル。……お祖父様の名前を必ず入れて欲しいって頼んだって。多分、死ぬつもりじゃなくて……戻ってくるつもりだったんじゃないかな」
マールヴォロは一瞬言葉を詰まらせ、その濁った瞳がわずかに揺れる。家族としての情か、マグルの血が混ざったことの嫌悪か、それとも──自分の名を残したことへの満足か。それでもすぐに顔をしかめ、唾を吐くように罵声をあげた。
「リドル?あんなクソマグルに捨てられておっ死んだのか!──ゴーントの恥だ!」
泡を飛ばしながら酒を煽ると、不機嫌さを引きずったまま部屋へ引っ込んでいく。ドアが閉まる直前、彼の背は思った以上に小さく、弱々しく見えた。
モーフィンは椅子の上で胡坐をかき、無言でゴブレットを傾けていた。揺れる液面を覗き込みながら、焦点の合わない目で吐き出すように呟く。
「トム・リドルか。あの、丘の向こうのマグル……あの男、帰ってきてるぞ」
モーフィンは目を細め、低い声で呟き、口元を引き攣らせた。それは嘲笑か、諦念か、それとも恐怖の隙間から零れ落ちた喜びか。
窓の向こうを顎で指し、私もそちらを見た。
灰色の汚いこの家とは異なり、丘の向こうにある豪華な屋敷にはリドル家の者が住んでいる。
ああ、そういえばメローピーを捨てて帰ってきてるんだ。愛の妙薬の効果が切れたから。でも……リドルを、父を責める事はできない。ある意味被害者だし。逆レイプみたいなもんでしょ。
「そうね。でも──あいつはマグル。興味ないし、どうでもいいの。私が今、大切に思うのは……弟よ。マグルのところで暮らすなんて悲惨じゃない?だから、引き取りたいの」
「そりゃ、そうだが」
「でしょう?だから。近々引き取りに行ってきてよ」
「……はあぁ??」
「私はまだ四歳よ?無理だもの。
でも伯父様。あなたは魔法を使えるし、ちょちょいってトムを攫ってきてくれたらいいわ。犯罪だろうが、マグルの世界の事なんて関係ないでしょ」
その言葉にモーフィンは口を歪めて、小さく笑った。その目は「わかってるじゃないか」と私の考えを支持するような、認めるような愉しさが浮かんでいた。
モーフィンが喜ぶ言葉なんて簡単。彼らはマグルを虫程度にしか思っていないし、私にもそのように振る舞うことを望んでいる。──私を、混血であるリリスを疎みながらも、この体に流れる確かな魔力を認めざるを得ない。魔法族だから、かもしれない。
「私、いろんな本を読んで魔法を知ってるの。マグルを従わせるのなんて簡単でしょう?」
「そりゃあ……簡単だがよ。……親父はどうする?認めねぇぞ」
「大丈夫よ。お祖父様は誰よりも魔力を信じている。トムの魔力、多分、見たらびっくりするわよ」
くすくすと笑えば、モーフィングは信じ難いというような苦い顔で「お前よりもか?」と喉奥でつぶやいた。
「ええ、物心つく前から、魔力の発現があって、蛇とも話せるし。私よりもゴーントの血を濃く引いているかもね」
「……また厄介な奴が増えるのか……」
モーフィンは酒を飲みながら、一人呟く。
しかし、本当に嫌なら、私とこうして話したりはしないだろう。──つまり。
「あら、伯父様。あなたは魔力に誰よりも誠実だわ。本当は楽しいんでしょう?」
私がくすりと笑うと、モーフィンの歪んだ笑みが深まる。目だけがぎらりと光り、私を家族ではなく──同類と認めるような色を帯びていた。
「……けっ!調子に乗るなクソガキ」
モーフィンはそう言って酒が入ったゴブレットを机に強く置いた。跳ねた酒がビシャっと床に落ち、私がくすくすと笑いながら指を振って清めているのを見て、モーフィンは目を細めて──歪に、笑った。