遊戯王アウトサイダーズ 作:とある遊戯王プレイヤー
「ああはい。スンマセン、ちょっと1週間ほど…はい、またお願いしまーす」
ユウは、そう言うとデュエルディスクの通信機能を切った。
携帯端末を持たないユウにとっては、これが唯一の連絡手段である。
「バイトの親方さんからか?」
隣のオガタが言う。
「ああ。せっかくだが、これから東エリアだし…当分はムリだなァ。ってかよオッサン、なーんでテメェが着いてくんの?」
「ええ? いやいや水臭いよユウ君。一緒に戦った仲じゃない」
「美味いメシといいホテルが目的だろうが。アミん家が金出してくれてタダだもんなぁ? 厚かましいったらねぇぞ」
「いやぁ、せっかくのご厚意だしね。受け取らなきゃアミちゃんに失礼でしょ」
既に中年男性のテンションは高い。
彼にとってみればただの旅行みたいなものだからだ。
(気楽なモンだせ…これから裏デュエルしに行くってのに)
しかしユウも、多少は浮ついていた。
モーメントエクスプレスに搭乗するなど、何年ぶりであろう。
その速度たるや、かつて存在した新幹線の倍ほどもあり、陸路に於ける移動所要時間は概ね半減していた。
その為…搭乗から僅か1時間もあれば、首都も存在する東エリアへと辿り着ける訳である。
――「うぉー! ここが東エリアかァァ!! あ〜…街並みは特に変わらんね」
「そりゃそうだろ。国が違う訳じゃあるめーしよ」
目的地の近傍駅に辿り着いた2人は、完全に観光客気分であった。
「まあなぁ…えっと待ち合わせまでどのくらいだっけ?」
「後2時間はあるぞ、オッサン」
「そんじゃあ散策でもする? せっかくの東エリアなんだしこっちのグルメも味わいたいぜ!」
「ま、適度にうろついてもバチは当たらんだろうなァ」
そうして2人が移動したのは…カードショップ!
決闘者である以上は真っ先に浮かぶ選択肢である。
流石に大手らしい店舗では、様々なカードが販売されており、なんとフリーデュエルスペースまであった。
ショーケースに飾られたハイレアリティカードを、トランペット少年が如く舐め回す様に凝視するオガタ。
「いいなぁ…アレ欲しい…」
「買やいいだろ」
「俺の給料2か月分だね…無理」
「あっそ。じゃあしゃーねーな、諦めろ」
「うぅ…俺にはワンコインストレージコーナーがお似合いなのさ」
等と、会話している2人を、観察している者があった。
それは一見、どこにでも居そうな模範的決闘者であり、カードショップの情景にも完璧に溶け込んでいる青年だ。
(マナカ ユウ…間違いない。コイツだ)
携帯端末の画像データで、顔を何度も確認する青年。
そして直ぐ様彼はメッセージを送信する。
やがて彼らはストレージコーナーへと移動。一定の距離を取り、2人を監視し続けている。
「うっはぁマジで!? こんないいカードがストレージにあんの?」
等とはしゃぐオガタ。
ユウもまた、何枚かのカードをチェック、吟味している。
現在のデッキは、島のアップデートされたデッキと比べ、相当にパワーダウンしている事から、それなりの強力な汎用カードが必要なのだ。
(へぇ…コイツはいいな。買っとくか)
こうして、思う存分にカードをチェックし、購入、デッキ調整までをこなした2人だった。
退店した時にはもう、財布の中身は半分ほどになってしまっている。
「いやぁ使い過ぎちゃったな…でも、デッキはかなり強化されたし、結果オーライ!」
「そりゃ良かったな。ところでオッサンよぉ、気にならねーか?」
ユウが声をひそめ、視線は正面に向けたまま言った。
「うん? さっきからこっち見てる子のこと? ありゃ素人だね…無視してても問題なさそうだけどなぁ」
「んだよ…気付けてたんだな」
「あったり前よ! 伊達に裏世界を渡り歩いてた訳じゃないさ。それよりも…」
オガタが警戒を向けたのは、正面に立つ3人組の方だ。
「あっちのがヤバいぜ。いいかユウくん、絶対に逆らうなよ」
そう彼が念押ししたのも、その3人組がセキュリティの制服を着ているからだ。
実に愉快そうな顔で、警棒片手に近付いてくる。
セキュリティ、治安維持組織の人間にも、ピンからキリまで居る。
そしてその中には、職務質問にかこつけて鬱憤晴らしをする様な悪徳な者も存在していた。
丁度、コイツらの様な輩が。
「そこのマーカー付きの君達、ちょっといい?」
「はい、何でしょうか?」
オガタがハキハキと答える。
「失礼だけど、身分証明出来るもの、持ってるかな?」
あくまでも丁寧に、にこやかに言って来てはいるが、悪意が見え隠れしているのは間違いない。
「あぁ、それだったらデュエルディスクがありますから、IDを調べて頂ければ、はい」
「へぇ〜ディスクは持ってるんですね。どこで買ったの?」
「もう随分前に中古で買ったものですから…どこかはちょっと覚えてません」
「へぇ……? じゃ、ちょっと読み取りますねー……【オガタ ケーゴさん】、へぇ、【直近で逮捕歴有り】っと…出てきたばかりね。住所登録は西エリアになってるけど、【どうやってここまで来たの?】」
さっきあらあからさまに、取り調べ風の質問を繰り返すセキュリティ隊員。
陰湿なのは、個人情報をわざわざ確認するていで、大きな声で読み上げていること。
しかも後方の隊員の1人など、威圧的にヘルメットのバイザーを上げ下げし、メンチを切っている始末だ。
もしかすると彼らには、東エリアに踏み込んだ時から目を着けられていたのかもしれない。
「おい、そっちの兄ちゃん。お前もデュエルディスクに情報を登録しているのか?」
「うん? ああ、どうだかな」
ユウはわざと、曖昧に答えた。
薄ら笑いを浮かべていたセキュリティ隊員の顔が、一瞬で無表情となる。
「…読み取らせて貰ってもいいかな?」
「任意だろ? 拒否してぇなぁ」
[ちょっとユウ君何してんの!? 素直に見せなさいって!!]
[素直に見せたらヤベェだろうが…]
と、ユウが発言するのも仕方ない。
何故なら逮捕歴まで見られてしまうからだ。ユウの逮捕理由に裏不正デュエルの参加がある。
この近辺で大規模裏デュエル大会、UCSがあるのなら、当然セキュリティの耳にも情報が入っている可能性がある。
つまりは、逮捕歴と今回のUCS参加を関連付けられる恐れがあるのだ。
(とはいえ、拒否し続けるのも無理があるからな…なら一か八かいってみるかァ、かの英雄みたいによ)
「マーカー付きのクセに生意気な。協力頂けないのなら仕方ない、セキュリティ権限に基づき――」
「おいセキュリティさんよォ、デュエルしろよ!」
それはかつて、どこかで聞いた、とある男の英雄譚から引用した言葉だ。
セキュリティが、自分より格下と思った相手からこう言われた場合に、取るべき対応はごく限られるという。
「デュエルだと? あーあー、よく居るんだよねぇ。こうやってイキる犯罪者崩れがさ」
そう言いつつも、不良セキュリティ隊員はデュエルディスクを展開している。
「なぁに簡単だ。オレが勝ったら見逃してくれるだけでいい。ただし負けたら…」
「決まってる。本官らの夏のボーナスになって貰うぞイキりクソガキ!!」
「「デュエル!!」」
――「はい。連中はセキュリティに絡まれています。どうやらデュエルするみたいで…はい、はい、引き続き監視を続けます」
模範的決闘者青年は、その様子を他の人間へと伝えていた。
【とある男の英雄譚】
「おい、デュエルしろよ」かつて、この台詞と共にセキュリティにデュエルを挑んだ、男が居た。冒頭は、この男の英雄譚の序章に必ず使われている台詞である。
一部の腐敗セキュリティの横暴にデュエルで対抗する際には、非常によく引用される台詞である。ユウは中途半端にこの英雄譚を耳にしていたので引用した。