トレーナー俺氏、気がついたらコスモ幻獣拳の継承者になってるし、ウマ娘はコスモビーストになってるんだが   作:幽明卿

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4話 俊馬、誇りを示せ

 

 

「こんなときに……!」

 

 急変したトレーナーの様子。

 そんなタイミングで感知した怪獣の襲来。

 

 ヴィルシーナが案ずる視線を注ぐ中、トレーナーはよろよろと立ち上がった。

 

「だ、大丈夫ですか……!?」

「ああ……」

 

 肉体的なダメージを受けたわけではない。

 突然降り注いだ破滅の幻像に、一時的にショックを受けただけだ。

 

(あれが……『破局』……?)

 

 『トレーナ』が予見し、ヴィルシーナたちに警戒するよう伝えたという『破局』。

 トレーナーはそれを、怪獣が同時多発的に大量発生し、地上を地獄に染め上げるようなものだと想像していた。しかし先程の幻像は、全く違う様相を呈していた。

 

 降り注いだ『妖光』によって全てが『無』に帰す――

 もはや怪獣の仕業なのかも怪しい。何もかもが謎だが、必ず避けなければならない未来であることは確かだ。

 

(いや、今はそれより……)

 

 出現した怪獣から人々を守ることを優先しなければ。

 トレーナーは頭の高さまで持ち上げた右手を振り下ろし、手の中に『トレーナスラッガー』を出現させた。

 

 一度、深呼吸をして身体のリズムを整える。そしてヴィルシーナの顔を見た。

 

「頼む。ヴィルシーナ」

「……っ」

 

 彼女もその視線を受けて、意を決した面持ちとなった。

 

「ええ。私の力をお貸ししますわ」

 

 ヴィルシーナの全身に群青色のエネルギーが纏うと、彼女は一筋の光と化してトレーナーの左手の中に宿った。

 手のひらの上にあったのは、同色の宝珠。蒼く燃える闘志を思わせる、深い輝きを秘めた宝珠だった。

 

 トレーナーはそれを『スラッガー』に装填し、ウィングを展開する。

 心に浮かんでくる想いを、そのまま言葉にして叫んだ。

 

 

「――俊馬(しゅんま)、誇りを示せ!」

 

 

 掲げた『スラッガー』の宝珠が深い青の光を夜空に解き放つ。

 その光に包まれたトレーナーは『ウルトラマントレーナ』の姿に変わった。『ジェンティルドンナオーブ』を使用したときとは異なる、群青色に染まった姿だ。

 

 

「セヤァッ!」

 

 

 上空に飛び上がったトレーナは夜空に流れる流星と化し、怪獣が出現した場所へ急行した。

 

 

 

 

「ハァッ!」

 

 トレーナが到着する。

 怪獣襲来からさほど時間は経っていないはずなのだが、それでも現場は蹂躙されている。怪獣の周囲には、数分前まではビルであっただろうコンクリートの瓦礫が積み上がり、ところどころ火の手が上がって夜空を舐めていた。

 

「La――――」

 

 そこにいた怪獣は――まさに巨大生物然としていたゴモラとは打って変わって、無機的な見た目をしていた。

 まるで、東洋の龍を模した兜を被っているかのような金属の塊。二足歩行の形状を取った巨大ロボットだ。肩や胸に纏うアーマーは銀色で、地を這う炎に照らされてギラリと輝いている。

 

『あれは……ギャラクトロンMK2……!』

 

 トレーナの意識の中、一体化しているヴィルシーナが呼びかけてくる。

 

『ギャラクトロンの強化版ですわ。ただでさえ強力というのに、さらに能力が強化されていて……。何故、こんな怪獣が急に……?』

『……来るぞ!』

 

 トレーナの姿を認めたギャラクトロンMK2が歩を進める。

 トレーナは構えを取り、迎え撃つ。

 

 

「――流麗(りゅうれい)俊馬拳(しゅんまけん)!」

 

 

 暗闇に青い残光が走る。

 一瞬で間を詰めたトレーナは、素早い手刀をギャラクトロンMK2の関節部に叩き込んだ。

 

「La――――」

 

 ギャラクトロンMK2が右腕を振るう。その腕には巨大な刃が装備されているが、その攻撃は空を切った。トレーナが身軽にスウェーして、刃の軌道から身を逸らしたのだ。

 

「セヤッ!」

 

 トレーナは上体を反らせた体勢になるが、身をよじると同時に後ろ回し蹴り(ローリング・ソバット)を繰り出す。

 それを胸に受けたギャラクトロンMK2は、呻きのような重低音を響かせながら後退する。

 

「ハッ!」

 

 飛び蹴りで畳みかけようとしたトレーナだが――

 

「La――――」

「グッ……!?」

 

 ギャラクトロンMK2の指先から放たれた銃撃に襲われ、空中で撃ち落されてしまう。

 ギャラクトロンMK2はさらに手首の砲門からビーム攻撃を放ち追撃する。トレーナは咄嗟に横っ飛びし、からくもそれを躱す。

 

「セア……ッ!」

「La――――」

 

 乱射されるビームをトレーナは躱していくが、それにつれて街に火の手が上がっていく。

 このままでは埒が明かない。トレーナは起き上がると、体の前に両手を構え、両掌の間にエネルギーを集わせる。

 

 

「――蒼炎(そうえん)烈破弾(れっぱだん)!」

 

 

 腕を突き出すと同時に、形成されたエネルギー光弾を撃ち出す。

 燐光の尾を引きながら突き進む光弾。しかし――

 

「La――――」

 

 ギャラクトロンMK2の両肩に備わった棘のようなパーツ。

 それが発光したかと思うと、機体の前にハニカム構造をしたバリアが展開されたのだ。

 ギャラクトロンMK2の全長よりも高い、板状のバリア。トレーナの『蒼炎烈破弾』は完全に防ぎ切られ、細かい光の粒子となって消滅してしまう。

 

「テア……!?」

「La――――」

 

 動揺するトレーナの前で、ギャラクトロンMK2は淡々と追い込みにかかる。

 機体の後頭部に装備されていた戦斧『ギャラクトロンベイル』が分離し、ブーメランのように回転してギャラクトロンMK2の右手に収まった。

 

「La――――」

 

 振り下ろされた斧が、トレーナの胸を裂く。

 

「デアアァ……ッ!」

『――トレーナーさんっ!』

 

 強烈な衝撃だった。吹っ飛ばされたトレーナは瓦礫の中に倒れる。

 その胸に光る発光体が、青から赤に変わって点滅を始めた。

 

『な、何だ……?』

『それは「カラータイマー」です……! 点滅が始まるのは、貴方の体力が残り僅かということを示しています……!』

『く……っ』

 

 痛みに耐えている間にも、ギャラクトロンMK2は地響きを上げながら距離を詰めてくる。

 

『……。トレーナーさん……』

 

 ヴィルシーナは少し思い詰めたように沈黙してから、彼に呼びかけた。

 

『一度、変身を解除しましょう……! この怪獣は私の手には負えません。ジェンティルさんが到着するまで身を隠していたほうが勝算は高いと思います』

『ヴィルシーナ……?』

『口惜しいですが、怪獣を倒すことが第一です。トレーナーさん、ご判断を!』

『……!』

 

 トレーナは逡巡したのち、再び立ち上がった。

 

『トレーナーさん……!?』

『今ここから逃げ出すことはできない。まだ避難してる人もいる。俺がこいつを止めないと……!』

 

 それに、ジェンティルドンナはこう言っていた。「これからもその信念を示し続けることね」と。今ここで敵から逃げ出すのは、その言葉に背く行為だ。

 

 それに――

 

『その提案は本意じゃないんだろう。ヴィルシーナ』

『……!』

 

 元の世界の話だが――彼女の諦めない意志の強さはよく知っている。

 トレーナーの体を案じて変身解除を勧めた一方で、彼女の闘志はまだ燃え盛っているはずだ。

 

『大丈夫。必ず君の力で勝ってみせる!』

 

 トレーナが力強くファイティングポーズをとる。

 その意識の中で、少し呆れたような、それでも嬉しさが滲む声が響いた。

 

『――私たち()()の力で、でしょう?』

『ああ!』

 

「la――――」

 

 ギャラクトロンMK2がベイルを振り下ろす。

 重々しい風切り音を立てて空間を裂く鋼を――トレーナは、両手で挟んで止める。

 

「la――――」

「ハァアア……ッ!!」

 

 真剣白刃取りだ。ギャラクトロンMK2は強引に振り抜こうとするが、トレーナは相手の脛を蹴る。そして、体勢を崩したギャラクトロンMK2の腹部を蹴り飛ばす。同時にベイルを相手の手の中から引き抜き、それを奪い取る。

 

「テヤッ! セヤァッ!」

 

 奪ったベイルを鋼鉄の体に叩きつける。

 夜闇に火花が散り、甲高い金属音が鳴り響く。二度、三度の斬撃によってギャラクトロンMK2はよろよろと後ずさる。

 

 トレーナは追撃の一撃を叩きこもうとする。

 しかし、ギャラクトロンMK2の肩部のバリア発生装置が起動する。振り下ろした刃が阻まれ、打ち破ることもできずに弾かれる。

 

「クッ……!」

 

 仕方なく距離をとったトレーナの意識に、ヴィルシーナの声が響いた。

 

『トレーナーさん、あの技で突破口を開いて!』

『……!』

 

 あの技、と言われても分からない――はずなのだが。

 彼にはそれが理解できた。彼女の意図が。

 

「ハッ!」

 

 ベイルを脇に捨て、トレーナは右手を前に突き出す。

 その手の中に蒼白いエネルギーが集まる。手のひら大の――野球のボールを思わせるエネルギー球体が生成され、トレーナはそれを握りしめた。

 

「ハァァァ――――!」

 

 両腕を振りかぶり、右足でバランスを取りながら、左足を胸の高さまで上げる。右腕で弧を描き、全身を使ったバネの勢いを加えて、その球体を投擲する。

 

 

「――流麗俊魔球!!」

 

 

 虚空をくり貫くかのように、唸りをあげて突き進む光弾。

 しかし、当然ながら――ギャラクトロンMK2はバリアを展開してそれに備える。『蒼炎裂破弾』よりも格段に小さな光弾だ、バリアを正面から破ることなどできるはずもない。

 

 だが、そのときだった。

 光弾が急に跳ね上がったのだ。バリアよりも高い位置まで来ると、今度は急勾配で落下する。それが左肩のバリア発生装置を破壊する。

 

「La――――」

 

 潰された肩部からショートの火花が飛ぶ。それと共に、展開されていたバリアが消滅する。

 『流麗俊魔球』――それは、通常の光弾とは違って不規則な軌道に飛ばすことが可能な光弾だった。

 

「ハァァ――!」

 

 トレーナは改めて、体の前に巨大な光球を生成する。

 ギャラクトロンMK2はバリア発生装置を失った。これを防げる手段はない。

 

 

「――蒼炎烈破弾!!!」

 

 

 放たれたエネルギー光球が直撃する。

 爆発に飲まれたギャラクトロンMK2はスパークを撒き散らしながら力なく倒れ、粉々に砕け散る。

 

 吹き荒れた爆風は、トレーナの後ろ髪を優雅にたなびかせた。

 

『トレーナーさん』

『ああ。ありがとう、ヴィルシーナのおかげだ』

 

 その言葉を聞いて、彼女は可笑しそうな吐息を漏らした。

 

『どうした?』

『いえ。ただ……』

 

 ヴィルシーナは、懐かしむような口ぶりで続けた。

 

『やはり貴方は……私の知っている貴方かもしれません』

 

 

 

 

「トレーナーさん」

 

 変身を解除して家までの帰路を歩いている途中――

 思い出したような調子で、ヴィルシーナが口を開いた。

 

「ジェンティルさん以前に、『トレーナさん』が他のコスモビーストと契約していたかの話なのですけれど」

「何か思い出したのか?」

「ええ。ただ、直接的な証拠ではなくて……」

 

「それでもいい」とトレーナーが言うと、ヴィルシーナは神妙に頷いた。

 

「彼の言っていたことを思い出したんです。『昔、大切な仲間を失ったことがある』……と」

「つまり、最初のコスモビーストを何らかの理由で失って、それからジェンティルと契約したということ?」

「確証はありませんけど、可能性としては考えられますわ」

 

 トレーナーは足を止めてその場にとどまり、言った。

 

「『トレーナ』は、『失った』と言ったのか?」

「え?」

 

 ――何故か、不思議な違和感があった。

 その話は初めて聞いたものなのだから、違和感を持つことなどあり得ない。……そのはず、なのだが。

 

 ヴィルシーナは腕を組んで考え込んでから、「確かに」と口にした。

 

「『失った』とは仰っていなかったと思います。確か……『()()()()()()()()()』と――」

 

 ――『()()』。

 その言葉に、トレーナーはデジャヴを感じた。

 違う誰かの口から、同じ言葉を聞いたことがあるような気がした。

 

「『失った』のとばかり思っていましたけれど、ニュアンスはだいぶ異なりますわね。

 ……でもトレーナーさん。どうしてそれを?」

 

 トレーナーは「分からない」と首を振った。

 皆目見当がつかない。自分の身に起こっていることも、この世界に起ころうとしていることも。

 

 答えを求めるように、彼は顔を夜空に向けようとして――それをやめた。

 

 


 

流麗(りゅうれい)俊馬拳(しゅんまけん)

『ヴィルシーナオーブ』を装填することで使用できるようになるコスモ幻獣拳。

体と後ろ髪がヴィルシーナの勝負服を思わせる群青になる。

 

流れるような体術と、多種多様なエネルギー光弾が特徴。

必殺技は「蒼炎(そうえん)烈破弾(れっぱだん)」「流麗俊魔球」。

 




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