トレーナー俺氏、気がついたらコスモ幻獣拳の継承者になってるし、ウマ娘はコスモビーストになってるんだが   作:幽明卿

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6話 黒馬、光を超えよ

 

 

 メフィラス星人が本来の姿をさらし、二人を見下ろす中で――

 

「フラッシュ!」

「はい!」

 

 トレーナーの声に応え、エイシンフラッシュの体が一筋の光と変わる。

 夜闇をも塗り潰すような美しい漆黒が彼の手の内に宿る。掌を開くとそこにあったのは、黒ダイヤのような輝きを秘めた『エイシンフラッシュオーブ』。トレーナーはそれを『トレーナスラッガー』に装填する。

 

 

「――黒馬、光を超えよ!」

 

 

 掲げた『スラッガー』が光を放ち、彼の体を包み込む。

 メフィラス星人と対峙するようにウルトラマントレーナが出現する。その体躯はエイシンフラッシュの黒髪を思わせる漆黒に包まれ、両腕には彼女を象形化したような紋様が刻まれていた。

 

「フアアアアッ!!」

 

 メフィラス星人が両手を前方に突き出す。

 二つの拳にエネルギーが纏い、電撃のような光線となってトレーナに襲いかかる――

 

 ――しかし。

 

 

「――閃煌(せんこう)黒馬拳(こくばけん)!」

 

 

 すかさず振り下ろした彼の手刀が、メフィラス星人の『ペアハンド光線』を切り裂いた。

 

「ヌゥ……ッ!?」

 

 うろたえるメフィラス星人。

 その隙にトレーナは、突き出した右拳の親指側に左手の掌を当てた。さながら抜刀するように両手を離すと、右の手中から伸びるように光の剣が形成された。針のように細長い刀身を持った、レイピアのような剣だ。トレーナはそれを華麗に振り回し、騎士のように構える。

 

 

「――鋭針(えいしん)閃煌剣(せんこうけん)!」

 

 

 エイシンフラッシュは光エネルギーのコントロールに長けており、彼女と一体化した今のトレーナもその能力を発揮できる。

 エネルギーを纏わせた手刀や、固形化した剣による舞の如き剣術が、この『閃煌黒馬拳』の戦法だ。

 

「セアッ!」

 

 素早い動きで突きを繰り出す。メフィラス星人もそれに対応し、飛びのいて躱した。

 メフィラス星人は浮遊したまま空中に踊りだす。人々が避難を始めている街を夜景として見下ろしながら、青い炎のような光弾を拳から撃ち出す。

 

 トレーナはそれを剣で切り払おうとしたが――光弾がその軌道から逸れた。メフィラス星人の念動力によって遠隔操作されているのだ。飛び上がった光弾は一転急降下してトレーナを襲う。

 

「クッ……!」

「フアアアッ!!」

 

 同じ光弾を連射してくるメフィラス星人。

 地面を蹴り、トレーナも空中に飛び上がる。剣を構えながら一直線でメフィラス星人に突撃する。

 

 だが、相手も手をこまねいて見ているわけもない。

 メフィラス星人は後方へ飛行しながら光弾を放つ。後続の光弾も並行で同時操作し、四方八方からトレーナに向けて浴びせる。

 

「シュアッ!」

 

 多方向から降り注ぐ光弾。だがトレーナが剣を振るうと、その軌跡を象ったような光の刃が形成され、発射された。

 前方から襲い来る光弾はそれで切り裂き、後方や足元からのものは華麗な剣捌きで直接切って落とす。

 

 今一度、トレーナが剣を振り抜く。そのダイナミックな動きに合わせ、漆黒に染まった後ろ髪が踊る。

 発射された光刃が空を裂く。メフィラス星人はからくも身を躱すが、その一瞬でトレーナが距離を詰めていた。

 

「ハアアッ!!」

「――ヌアァッ!」

 

 袈裟切りが星人の体表を裂く。バランスを崩した彼はビルの合間へと落下していったが、地面すれすれで持ち直し、再度上空へ浮上した。

 

「デエエエア!」

 

 鬼気迫る怒声を上げるメフィラス星人。トレーナは臆せず剣で応戦するが、メフィラス星人はその刀身を掴んで止めてしまった。

 

「シュア……!?」

「フアッ! フアアアアッ!!」

 

 驚くトレーナのボディにブローが入る。メフィラス星人は剣ごと彼の腕を引き寄せ、殴打を叩き込む。

 エネルギーのコントロールが乱れ、剣が粒子となって消滅する。「グッ――!」とトレーナも右ストレートで応戦する。しかしメフィラス星人は首を傾けてそれを躱し、両手の拳を彼の胸に打ち込む。

 

「フアアアアアアッ!!」

「グアッ……!」

 

 さらなる追撃。双手突きは『ペアハンド光線』の構えにもなっていたのだ。ゼロ距離で放たれる光線がトレーナを吹き飛ばす。

 メフィラス星人は体勢を整える隙を与えない。今度は光弾を連射した。十発を超える弾数のそれがトレーナを取り囲み、一斉に命中する――

 

 夜空に爆炎が広がる。大気が震撼し、爆風の余波が地上を吹き抜ける。

 終わった、とメフィラス星人は胸をなでおろし、張り詰めていた神経を和らげる。爆発は確かにトレーナを飲み込んだ。あれだけの光弾を受ければただでは済まない。――そのはずだった。

 

「――ムゥッ!?」

 

 爆炎が薄れたのち、そこにあった光景にメフィラス星人は目を見張った。

 こちらをじっと見詰めるトレーナの瞳。そして、彼の周囲に張り巡らされたドーム状のバリア。彼はそれで全方位からの光弾爆撃を防ぎ切ったのだ。

 

「フアアッ!!」

 

 すぐさまメフィラス星人は攻撃に転じる。右拳を突き出し、肘のあたりを左手で掴む。彼の最大必殺技である『グリップビーム』が放たれ、稲妻のように夜闇を貫いていく。

 

 その一方で――対峙するトレーナもまた光線の構えを取っていた。

 剣を振り上げるように右腕を縦に、薙ぎ払うように左腕を水平方向へ伸ばす。両腕が逆L字となったところで、それを十字に組み直す。すると、垂直に立てた右腕から漆黒のエネルギーが発射された。

 

 

「――鋭針閃煌波(えいしんせんこうは)!!」

 

 

 二つの光線が激突する。稲妻のような『グリップビーム』と、漆黒の光線『鋭針閃煌波』。

 それらは拮抗していたが、徐々にトレーナが優勢となる。『グリップビーム』をじりじりと押し込む。メフィラス星人は力を振り絞って跳ね返そうとするが、その勢いを覆すことはできず――

 

「ヌアアアアア!!」

 

 遂にはトレーナの光線に飲み込まれる。

 爆発が広がり、そこから星人の体が落下してくる。受け身も取れないまま地表に激突し、土煙やアスファルト片、路上に放置されていた自動車などを空高く巻き上げた。

 

「グ……ウゥッ……」

『もう諦めろ。勝負はついた』

「ヌゥゥ……!」

 

 トレーナは悠然と降り立ち、テレパシーでそう告げる。

 胸に手を当てながらよろよろと立ち上がる星人は見るからに満身創痍だ。エネルギーをコントロールする器官に異常が生じたのか、ところどころ体表の下から火花のようなエネルギーの漏出が起きている。

 

 メフィラス星人はがっくりとうなだれる。完全に敗北を認めたような素振りだったが、急に彼はくつくつと笑い出した。

 

「フフフ……フハハハハハ!」

『……? 何がおかしい』

『見るがいい、ウルトラマントレーナ。そしてこの宇宙を覗き込む何者か。

 この星が我ら以外の手に渡り、宇宙の勢力図が変わるくらいなら――!』

 

 メフィラス星人は拳を握りしめ、それを自らの胸に打ち付けた。

 

「シュア……!?」

「フハハハハハハ!!」

 

 その拳は体表を突き抜け、肉にめり込んでいた。

 彼の右腕がだらんと垂れる。重度のダメージを受けていたところへの一撃は致命傷となっただろう。しかし何故、こんなことを――

 

 狼狽するトレーナの視線の先。

 メフィラス星人の傷穴。その内部に、妖しく光る『何か』があった。

 

『何をした!』

『この星を……消滅させるのですよ……! フフフ……!』

『何……!』

『私の胸に埋め込んでいた「次元褶曲装置」を起動しました。これは人為的に位相の破れ目を生成する、我がメフィラス星の技術の結晶……!

 これにより……全てを「無」に帰す「虚空の非存在」が到来する……! フフ、フハハハハーー!!』

 

 まるで勝利宣言かのごとく高笑いをしながら――

 メフィラス星人の体が力なく倒れる。その体が爆発四散すると同時に、妖光が周囲に撒き散らされた。様々な色が複雑に入り混じり、乱れ、絡み合う。美しくも不安を煽る、まさしく妖光と呼べる光だった。

 

 何が起きているのかは分からない。だが、何とかしなくてはとトレーナは足を踏み出した。

 しかし、妖光と共にエネルギー波動が嵐のように吹き荒れた。3万tを超える彼の体が呆気なく吹き飛ばされる。

 

 被害は街にも及ぶ。

 ビルの窓ガラスは次々に割れ、街路樹や瓦礫と共に烈風に巻き込まれる。

 

「グッ……!」

『トレーナーさん……っ!』

 

 トレーナが身を起こしたときには嵐は収まっていた。

 まるで台風の目に入ったかのような凪。静寂。そして――

 

 そこに『非在()』ったのは、棘の生えた球体だった。

 妖光が全て吸い込まれてしまったかのように、代わりにそれが『非存在(そんざい)』していた。

 ふわふわと宙に浮いており、それがゆっくりと、下降してくる――

 

「…………」

 

 その神秘すら感じさせる不可思議な光景に、トレーナは呆気にとられる。

 しかし、そのとき――

 

 

『――トレーナ!! 離れなさい!!』

 

 

 脳に響く、ジェンティルドンナの声。

 突然のことに反応が遅れたが、続けざまに、

 

『トレーナーさんっ!』

 

 ヴィルシーナとエイシンフラッシュの声も重なり、トレーナは我に返った。

 そして――――

 

 

 

 

 

 その球体が地上に舞い降りたと同時に。

 

 周囲の全ての『存在』が、『非存在』へと塗り替えられた。

 

 

 

 

 

「これは……」

 

 ヴィルシーナとジェンティルドンナは空中に浮遊しながら現場を見下ろしていた。

 一瞬の閃光が視界に満ちたかと思えば、次の瞬間、球体から半径1㎞が荒涼たるクレーターと化していた。

 

 ヴィルシーナは唖然とし、ジェンティルドンナの顔にすら緊張が湛えている。

 二人の視線の先――球体がいた場所には、何者かが佇んでいた。

 

 

「        」

 

 

 丸い発光体の頭部を持つ――ように『不可視()』える、奇怪な『非存在(そんざい)』。

 それは、ゲラ笑いのように『非可聴()』こえる鳴き声を、ヒステリックに響かせていた。

 

 

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