トレーナー俺氏、気がついたらコスモ幻獣拳の継承者になってるし、ウマ娘はコスモビーストになってるんだが 作:幽明卿
クレーターと化した街――
巨大な穴の中心に佇むのは、発光体の頭部を持つように『
その『
彼はジェンティルドンナたちに促されて空高く飛び上がっており、街を消滅させた現象から逃れることができていた。――とはいえ、周囲の被害は甚大だ。彼は周囲を見回し、その荒涼たる景色に動揺する。
「シュア……ッ」
怪獣と呼んでいいのかすら分からない『それ』に対し、トレーナはファイティングポーズを取る。ぼんやりと佇んでいた『それ』が接近してくる。まるで酒に酔っているかのようなふらふらとした足取りで。
「 」
「セヤァッ!」
光の剣『鋭針閃煌剣』を生成し、突きを繰り出す。
だが――手ごたえはなかった。確かに命中したように見えたのに。
「 」
「――!」
いつの間にか怪獣はトレーナのすぐ隣にいた。その腕がラリアットを繰り出し、トレーナの首を捉える。
「グッ……!」
転ばされるトレーナ。しかし彼は違和感を持った。ラリアットを受けたはずなのに、怪獣の腕力で転ばされたように感じなかったのだ。より間接的な、非接触的な……何かしらの超自然的な力を受けたように思えた。
トレーナは地面を転がって距離を取った。
起き上がると同時に剣を振り、刃状の光弾を放つ。――しかしそれも、怪獣には通じない。怪獣はそこに突っ立っていただけなのに、気付けば光弾はあらぬ方向へ飛んでしまっているのだ。
「 」
女性のコーラスのように『
それは鞭のようにしなって中空を踊り、トレーナの体を襲った。
「デアア……ッ!」
膝をついて肩を上下させるトレーナ。その胸のカラータイマーが点滅を始めた。
相変わらずふらふらと接近してくる怪獣に対して拳を振るうが、有効打どころか触れることすら叶わない。確実に捉えたと思った攻撃でも、怪獣は必ずそれを躱してくる。
「 」
「テヤッ……!」
凄まじいエネルギーの奔流が怪獣の胸部から放たれる。トレーナはすかさずバリアを展開するが、敵の光線はまるで意に介さない。すり抜けるようにして容易くバリアを砕き、トレーナの巨体を突き飛ばした。
「グ……デァ……」
何もない荒野に倒れ込み、トレーナはのたうつ。
ただでさえメフィラス星人との連戦だったのに、この怪獣には一方的にやられるばかりだ。ダメージの蓄積は大きく、体力も尽きかけている。
だが、怪獣はそんなことはお構いなしといわんばかりに、攻撃の手を緩めない。
その胸部からエネルギー光弾が次々と生成される。怪獣の周囲に浮遊したそれらが一斉に放たれ、トレーナの周囲で爆発の連鎖を巻き起こした。
「トレーナーさんっ!」
空中から戦闘を見守っていたヴィルシーナが叫ぶ。
ジェンティルドンナはその横で眉間に皺を寄せ――その身に光を纏い、トレーナの元へ飛んで行った。
「ジェ、ジェンティルさん!?」
ヴィルシーナもそれに続く。
真紅と群青、二筋の光が星のように流れ、トレーナのカラータイマーに飛び込んだ。
『トレーナ』
トレーナの意識空間とも言うべきインナースペース。
トレーナーは、そこに響くジェンティルドンナの声を聞いた。
『ジェンティル……?! 来てくれたのか!』
『無駄話は後で。トレーナ、あの怪獣は恐らく「グリーザ」ですわ』
『グリーザ……!』と、エイシンフラッシュとヴィルシーナの声が重なった。
『あの怪獣は実体のない「虚無」。故に、あらゆる攻撃が通じない。そこに居るように見えるのは、観測者の脳が無理やり可視化させているからと言われていますわ』
『何だそれ……。倒す方法はあるのか?』
ジェンティルドンナは少し間を置いてから言葉を紡いだ。
『
彼女らしからぬ歯切れの悪さだった。
トレーナーはそこを追及したかったが、それより先にエイシンフラッシュの声が割り込んだ。
『確かに。いかにグリーザが「虚無」であるとはいえ、「今」「ここに」現象が確認されているのも事実。グリーザは「非存在」でありながら「存在する」。矛盾していますが、そこに付け入る隙はあります』
『ジェンティルさんの理屈を超えた「力」であれば、「虚無」をも打ち負かせるかもしれません』とヴィルシーナも同調する。
『トレーナ!』ジェンティルドンナの声が響く。インナースペースに真紅の光が飛び、それがトレーナーの手の中で『ジェンティルドンナオーブ』として結実した。
トレーナーは『分かった』と頷く。
真紅の宝珠を『トレーナスラッガー』に装填し、掲げ上げた。
『――剛馬、力を魅せよ!』
カラータイマーから溢れた光がトレーナを飲み込み、『絢爛剛馬拳』を扱う真紅の姿へと変貌させた。
トレーナは右手を握りしめ、そこに渾身の力を込める。彼の全身にオーラが炎のように纏い、足元の地面が割れる。そのオーラの吹き上がりにより、赤く染まった後ろ髪が浮き上がり、空を行く龍のように波打つ。
「ハアアアアア…………ッ!!!」
そしてトレーナは地面を蹴り――
一瞬にして、グリーザの懐に潜り込んだ。
オーラを纏う拳を振り抜く。グリーザの胸部に叩きつける。
影と音を置き去りにし、空間を捻じ曲げるほどの圧倒的破壊力が、無敵だったグリーザの体を捉えた。
「――
一瞬の無音の後、凄絶な衝撃音が響き渡った。
グリーザも抵抗する。トレーナの真紅のオーラとグリーザの妖光が衝突し、嵐となって周囲に吹き荒れる。
「 」
「グッ――――!!」
トレーナは渾身の力を込めている。残りの力を全て振り絞っている。
だが、それでも拮抗するのみだ。そればかりか、徐々に形勢が敵方に傾いているような気がする。まるで、力そのものがグリーザに吸い込まれ――喰われているかのようだ。
そこへ、ヴィルシーナとエイシンフラッシュの声が響いた。
『――ジェンティルさん!』
『私たちも、一緒に……!』
トレーナの両肩に刻まれたコスモビーストの紋様。
ジェンティルドンナを象ったそれに、二人の紋様が重なる。
一時的だが、二人の力を上乗せしたのだ。
『お二人とも……』
ジェンティルドンナは少し驚いてから――
『トレーナ!』と、自身の力を操る主に呼びかけた。
『私たちの力で、グリーザを封じ込めますわ。けれど、もって一日。あるいは、もっと早いかもしれません』
ヴィルシーナがそれに続く。
『それまでに、「破局」を回避する方法を見つけてください……っ!』
エイシンフラッシュもまた、必死な口ぶりで言う。
『トレーナーさんの予感通り、その鍵はきっと「貴方の担当ウマ娘」です! その記憶を思い出してください!』
『み、みんな……!? 待ってくれ!』
トレーナーの呼びかけに答えはなく――
巨人の拳から、真紅、群青、漆黒の光が飛び出す。混じり合い、ひとつの光の奔流となって、グリーザに叩きつけられる。その胸に宿る発光体を割り、砕き、そして怪獣の体内に潜り込んだ。
「グアアアアアッ!!」
グリーザの体から衝撃波が放たれ、トレーナは吹き飛ばされる。
限界だった彼の変身が解かれ、一介の地球人の姿に戻ってクレーターの地面に倒れる。
「……はぁ、はぁ……っ」
満身創痍になりつつも、彼は面を上げる。その目に飛び込んできたのは――
再び球体になったグリーザが、宙に浮かんで静止している光景だった。
≪
『エイシンフラッシュオーブ』を装填することで使用できるようになるコスモ幻獣拳。
体と後ろ髪がエイシンフラッシュの黒髪を思わせる漆黒になる。
光エネルギーのコントロールに長けており、剣の形に固形化したうえで振るう剣術が主な戦法。
必殺技は「鋭針閃煌剣」「鋭針閃煌波」。