トレーナー俺氏、気がついたらコスモ幻獣拳の継承者になってるし、ウマ娘はコスモビーストになってるんだが   作:幽明卿

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最終話 天馬、銀河を駆けよ

 

 

「あれは……一体……?」

 

 三人のウマ娘(コスモビースト)たちは呆気に取られていた。

 目の前の光景――グリーザと対峙するウルトラマントレーナ。その姿が、見たことのないものになっていたからだ。

 

 透明感のある清冽な金色をベースとして、水色のラインが入る体躯。

 体の周囲には光の粒子が浮遊してちらちらと瞬いており、まるで彼だけが別の空間に存在しているかのようだ。それを裏付けるかのように、後ろ髪は重力に逆らって緩やかにたなびいている。その髪色もまた体躯と同様の金色で、インナーカラーに水色を湛えている。

 

 そして、金色であった彼の瞳は透徹した青色に染まっている。

 ひそやかな湖を思わせる穏やかさ。その瞳には、智慧と聡明の光が宿っていた。

 

「もしかして……」

 

 ヴィルシーナが声を上げる。

 その視線はトレーナの肩に向いている。そこには、彼女たちの知らないコスモビーストの紋様が刻まれていた。

 

「あれが、トレーナさんが最初に契約したコスモビースト……?」

「再会できたんですね……」

 

 エイシンフラッシュも同意する。

 

 彼女たちの推測は正しかった。

 『トレーナ』が最初に契約し――そして『断絶』によって引き裂かれてしまったコスモビースト。そして同時に、『トレーナー』の担当であり、彼と共に『断絶』の運命を乗り越えたウマ娘。

 

 ――ネオユニヴァース。

 彼女と一体となり、その力を発揮したのが、今のトレーナの姿だった。

 

 

 

 

「      」

 

 グリーザが接近してくる。その輪郭は陽炎めいて揺らめき、実在と非実在という対立構造を超克している。

 グリーザは怪獣という概念を纏った『虚無』。そのため、何者だろうとその体に触れることはできない。ジェンティルドンナたちが封印を成功させたのも、『虚無』という概念自体に無理やり干渉したからに過ぎない。こと戦闘においては、グリーザは無敵だ。

 

 だが――――

 

 

「――超星(ちょうせい)天馬拳(てんまけん)!」

 

 

 迎え撃ったトレーナの拳がグリーザを捉え、その体を後ずさりさせた。

 自らの拳を見詰め、攻撃が命中したことに驚くトレーナ。その意識内に、ネオユニヴァースの声が響いた。

 

『今のわたしたちには『二つの宇宙』の力が宿っている。

 表から、裏から……。“虚孔”たる“GREZ(グリーザ)”を『閉じる』ことができる。』

 

 トレーナは頷き、理解する。

 だからこそ『トレーナ』は、平行宇宙の自分をこの世界に呼んだのだ。『破局』を打ち破るために。かつて引き裂かれた相棒(ネオユニヴァース)ともう一度共に戦うために。

 

「      」

 

 グリーザの胸部から光弾が生成され、トレーナに向かって矢のように降り注ぐ。

 トレーナは手のひらを前に突き出す。するとその全身に仄青いオーラが纏い、彼の前方に円形のワープゲートが開いた。

 

 彼がその中に飛び込むと、その場のゲートが消える。それと同時に、グリーザの背後に出口のゲートが開き、中からトレーナが飛び出してくる。

 

 ネオユニヴァースの力を発揮した『超星天馬拳』。

 それは、ワープゲートを利用した神出鬼没の攻撃を可能にするコスモ幻獣拳だった。

 

「デアアッ!!」

「       」

 

 手刀が振り下ろされ、グリーザの肩口から胸部までを切り裂いた。

 グリーザは数歩前にたたらを踏みつつ、自らのエネルギーでその傷を塞ぐ。そして後ろを振り返ることもなく、背中から槍のような光線を放ち、トレーナを突き飛ばした。

 

「グッ……! ハアァッ!!」

 

 彼の体躯に再びオーラが纏われる。その後方にゲートが開き、トレーナは突き飛ばされた勢いのままその中に飛び込んだ。

 

 今度のワープ先はグリーザの目の前。しかし彼が現れた瞬間、グリーザが反応する。すかさずその頭部から茨状の紫電光線を放つ。

 ――瞬間、トレーナはスウェーして電撃の軌道から身を逸らす。さらに、上体を反らすと同時に両足を飛び上がらせる。グリーザの頭部を両側から挟み込み、身をよじる勢いで引き倒す、ヘッドシザーズ・ホイップを放つ。

 

「      」

「デアッ!」

 

 地面に倒れ込んだグリーザにのしかかり、殴打を加えようとするトレーナ。

 だがグリーザはその体勢のまま反撃に転じる。頭部から壮絶な音波を放ったのだ。神経がささくれだつようなその響きに、トレーナは悶える。その隙を突いてグリーザは立ち上がり、うなだれているトレーナの腹を蹴り飛ばした。

 

「グァッ……!」

「      」

 

 ネオユニヴァースの力でグリーザに攻撃が当たるようになった。とはいえ、それはあくまで同じ土俵に上がったに過ぎない。

 そうして改めて分かるグリーザの脅威。攻撃に予備動作がないうえ、どの体勢からでも放つことができる。おまけに非生物的で、その思考が読めない(そんなものはないのかもしれない)。不規則で、脈絡がなく、拳法家であるトレーナにとってはまさしく天敵だった。

 

『トレーナー……』

 

 心配そうなネオユニヴァースの声がするが、トレーナーは『大丈夫』と答える。

 

『うん。……必ず勝てるよ。わたしたちなら』

『ああ!』

 

 トレーナは掛け声を上げ、果敢にグリーザに挑む。

 迫り来る電撃光線をかいくぐり、拳を叩き込み、反撃され、ワープし、こちらも反撃する――そのような熾烈な攻防を繰り返す。

 

 勝負は互角。だが、有機生命体であるトレーナには活動エネルギーが必要だ。次第次第にその残量は減っていき――そして遂に、夜の戦場にカラータイマーの音が響き始めた。

 

 

 

 

 その様子を見ていたジェンティルドンナは、「ヴィルシーナさん、フラッシュさん」と二人に呼びかけた。

 

「お二人とも、まだお体は動かせて?」

 

 二人の表情は虚を突かれたようだったが、すぐその意図を了解し、彼女の隣に並んだ。

 

「ジェンティルさんこそ。お疲れではなくて?」

「ほほ……。そのご様子なら問題はなさそうね」

「――行きましょう!」

 

 エイシンフラッシュの一声で、三人は光を纏って飛び立った。

 それぞれが入り乱れながら飛び交い、トレーナのカラータイマーの中に飛び込む。

 

 そして彼のインナースペースで集合し、もう一人のコスモビーストを認識した。

 

『貴方が、トレーナーさんの……?』

『ネオユニヴァース。

 ……そう。あなたたちが『コスモビースト』……本物の“地球外生命体”。』

 

 ネオユニヴァースの声のトーンが少しだけ上がる。

 声音からは聞き取りづらく、表情からも読み取りづらいのだが、これは彼女の興奮を示していた。

 

『……『すごい』。ネオユニヴァースは、『どきどき』しているよ。』

『そ、それはどうも……』

 

 こほん、とジェンティルドンナの咳払いが入る。

 

『お話は後で。――ネオユニヴァースさん。私たちの力をお使いあそばせ。共にグリーザを倒しましょう』

 

 ネオユニヴァースは『アファーマティブ。』と肯定する。

 そして、トレーナーに向けてこう言った。

 

『こちらのあなたには、“サテライト”……。

 ……『よい仲間』が、いるね。』

 

 

 

 

「ハアアアッ……!」

 

 トレーナの纏うオーラが真紅に輝く。

 左腕の紋様はネオユニヴァースのまま、右腕の紋様がジェンティルドンナのものに変わる。

 

 拳にエネルギーを纏いながらトレーナは突進し――そして前方に広げたワープゲートに飛び込み、一瞬で距離を詰める。

 グリーザの懐に潜り込み、その胸部に向けて正拳突きを繰り出した。

 

 

「――天馬絢爛撃!!」

 

 

 咄嗟に広げられたグリーザのバリアをも砕き、その体を貫く。

 妖光が撒き散らされ、半狂乱な声が夜空に響く。グリーザの全身からエネルギー波動が放たれるのと同時に、トレーナは後方へ飛びのいた。さらにワープゲートを使って距離を取る。

 

「――ハッ!」

 

 オーラの色が群青色に染まり、右腕の紋様がヴィルシーナのものに変わる。

 突き出したトレーナの右手にエネルギーが集い、手のひら大のエネルギー光球が形成された。

 

 彼はダイナミックな投球フォームから、グリーザに向けてそれを投げつける。

 

 

「――天馬俊魔球!!」

 

 

 唸りを上げて突き進む魔球は、突然三つに分裂する。さらに、前方に広がった三つのワープゲートにそれぞれが吸い込まれる。

 グリーザを取り囲むようにゲートが発生する。三方向から魔球が飛び出し、グリーザを襲う。

 

 そして、それで終わらない。

 グリーザに命中した魔球は跳ね返り、新しく開いたワープゲートに吸い込まれ、そしてまた新しいゲートから飛び出してくる。それが三球分。グリーザの体は引っ切り無しに飛んでくる魔球に痛めつけられる。

 

「      」

 

 その連撃に、前後左右に揺さぶられながら――グリーザは体内から光弾をばらまく。泡のように周囲に浮かび上がったそれらは、物量の暴力でトレーナの魔球を消し飛ばした。

 

 そのまま大量の光弾が雨のように降り注ぐ。

 ――迎え撃つトレーナのオーラが黒く染まり、右腕にエイシンフラッシュの紋様が現れる。

 

 彼は右手から伸ばした光の剣で空間を裂く。

 

 

「――天馬閃煌剣!!」

 

 

 その軌道に沿うように光の刃が形成される。漆黒に染まった三日月状の光刃は、『閃煌黒馬拳』と『超星天馬拳』を合わせたもの。次元を裂く力により、無数の光弾がその裂け目に吸い込まれる。

 

 結果、刀身に触れた花びらのごとく、光弾は自ら切られ、空中で炸裂する。

 その爆発をも貫いて光刃はグリーザの胴体を切り裂く。グリーザは不可思議な力でその身を回復させるが、反撃に転じるタイミングが遅れていた。トレーナの連撃は確実にその身を削っていたのだ。

 

「シュアッ!」

 

 トレーナが力強く地面を蹴る。直後、頭上に広げたゲートに飛び込み、一気に天空高くまでワープする。その体に纏われたオーラが、元の仄青いものに戻った。

 

「      」

 

 グリーザの顔が上空を向く。

 その胸に妖光が集まり、黒い渦巻き状の光線となって放たれる。その発射だけで衝撃波が地上を吹き荒れ、周囲に展開していた戦車や作戦基地を吹き飛ばした。

 

「ハァァァアア……ッ!!」

 

 天空高く飛び上がったトレーナは、そこで一度宙返りして――

 右足を突き出し、地上へ向けて降下する。加速をつけ、風を裂く。さらに、彼の両肩から金色のエネルギーが噴射され、その勢いを加える。その様は、まるで天馬の翼のようだ。

 

 夜空に放たれたグリーザの光線。そして、それに突っ込んでいくトレーナ。

 ダストテイルのように光の軌跡を残しながら、闇の中を突き進む。

 

 衝突の瞬間――トレーナーとネオユニヴァースは、心をひとつにし、叫んだ。

 

 

「――(てん)()強蹴(きょうしゅう)(きゃく)!!!」

 

 

 光線を貫き、切り裂く。夜空に妖光の粒子が散り、儚く消えていく。

 一筋の彗星と化した金色の巨人は、『虚空』を突き破り、震動と共に大地に降り立った。

 

 彼の背後で妖光が撒き散らされていた。光そのものが爆発したかのようなその光景は、まるで星の終わりのようにも、一種の前衛芸術のようにも映る。

 しかしその妖光は、やがて一か所に集束し、即物的な爆発となって夜闇に爆炎を広げた。

 

 そして、その跡地には何も残されていなかった。

 夜気と静寂。そこには、最大の脅威が滅び去った後の平和が『在』った。

 

 

 

 

 現場に佇むウルトラマントレーナ、そのインナースペース――

 そこで再び、男と少女が向かい合っていた。

 

 すると、男の体から『ずるり』と何かが剥がれ落ちた。それは彼と全く同一の姿をした男だった。

 少女は咄嗟に剥がれ落ちた男を支える。そして気付く。彼こそが、彼女の知っている『トレーナー』なのだと。

 

「大丈夫、眠っているだけだ。……彼には無理なことをさせてしまった。君にも謝罪する」

「……。」

 

 つまり、目の前の彼が『トレーナ』。

 この世界に『トレーナー』を呼び寄せ、自らの身体を明け渡した張本人だ。

 

 抱き起こした『トレーナー』は瞳を閉じていた。彼の言う通り、眠っているらしい。元の世界に戻って本来の身体に戻れば、きっと目を覚ますだろう。

 

「……ネオユニヴァース」

「……。」

 

 トレーナは感慨深げに口にするが、ネオユニヴァースは首を横に振った。

 

「――ネガティブ。わたしは、あなたが知っているネオユニヴァースではないよ。」

「分かってる。……それでも、懐かしくて」

「この宇宙のネオユニヴァースは?」

「俺の昔の相棒だった。だけど、とある怪獣と戦ったとき、俺が力不足だったせいで……。それからは消息不明だ」

 

 ネオユニヴァースはじっと、聡明な瞳を彼に注いだ。

 そして再度「――ネガティブ。」と、首を横に振る。

 

「“通信途絶”は……ネガティブ。

 あなたの目は、未だ“ABSS(エイビス)”に囚われている。だから……気付けない。」

 

「気付けない……?」というトレーナに、彼女はこくんと頷く。

 

「トレーナ。ネオユニヴァースは“想起”を要求するよ。

 第一の“QUET(クェット)”……どうしてあなたは『別宇宙』を観測できた?」

 

 トレーナは虚を突かれたような表情で答える。

 

「それは……いつの間にかできるようになってたんだ」

「それは本来、『わたし』の力。『あなた』には与えられていない。」

「……」

 

 絶句する彼を前に、ネオユニヴァースは続ける。

 

「第二の“QUET(クェット)”……。

 どうしてあなたは『別宇宙』に干渉できる? どうして『トレーナー』の意識を呼び寄せるなんてことができた?」

 

 トレーナは答えられない。

 そんな彼の胸を指さして、ネオユニヴァースは静かに言い放った。

 

「ネオユニヴァースは……そこに『いる』。」

「俺の中に……?」

「――アファーマティブ。『ウルトラマン』と『コスモビースト』が一体になっていたからこそ……あなたはそうした力を揮えた。

 それに気付けなかったのは、あなたが“ABSS”に囚われていたから。『断絶』の悲しみに、瞳を閉じていたから。

 ……最初からネオユニヴァースは、そこにいた。」

 

 彼女はグリーザの“虚孔”を通してこの世界を覗いたとき、そのことに気付いた。『トレーナー』は『トレーナ』の身体を借りてウルトラマンになれたが、彼女もその要領で、トレーナの内に眠るもう一人の自身に宿り、『コスモビースト』となったのだ。

 

 トレーナは溜め息を落とし、頭を下げた。

 

「俺の未熟のせいで君たちまで巻き込んで……すまなかった」

 

 ネオユニヴァースは黙って首を横に振り――

 詰問や呵責の代わりに、こう伝えた。

 

「あなたのネオユニヴァースは会いたがっている。

 だから……見つけてあげて。」

 

 トレーナは頷いて、「ありがとう」と返した。

 彼は目を瞑る。以前、平行宇宙の自分――ネオユニヴァースと共に歩めていた自分を呼び寄せたのとは逆に、意識体である二人を元の宇宙に送り返した。

 

 

   ☆

 

 

 トレーナーが目を開くと、そこは見知らぬ場所だった。

 重い上体を起こし、首を回すと、病院の個室のようだった。そして、彼が寝ていたベッドの傍らには担当ウマ娘であるネオユニヴァースが椅子に腰かけていた。

 

「――『おはよう』。トレーナー」

「……ああ。ここは、いったい」

「病院。トレーニング中、急に倒れて、15地球日間眠っていた……。」

 

 トレーナーは頭を押さえながら変な顔をした。

 

「夢を見てた気がするんだ」

「……。」

「どんな夢だったかは忘れたけど……」

 

「その『夢』は――」とネオユニヴァースが問う。「幸せ、だった?」

 

 その質問に、トレーナーは首を傾げた。

 いくらか頭を悩ませてから――あることに気付いたように頷いた。

 

「ああ。幸せだったよ」

「――ネオユニヴァースが出てきたから?」

「え゛……っ」

 

 そうして顔を赤らめる彼を、ネオユニヴァースは穏やかに見守り――ほのかに笑うのだった。

 

 

 了

 


 

超星(ちょうせい)天馬拳(てんまけん)

『ネオユニヴァースオーブ』を装填することで使用できるようになるコスモ幻獣拳。

体と後ろ髪がネオユニヴァースを思わせる金色になり、目も青くなる。

 

離れた空間同士を繋げるワープゲートを作り出すことができ、それを応用した神出鬼没の戦法が特徴。

必殺技は「天馬強蹴脚」。

 

 

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