病室には、黒髪の優男に見える人物がベッドにいた。上半身だけ起こしている。
「初めましてだな」
「こちらこそ、初めてまして」
思ったより丁寧。アオイは、目の前の彼にそのような印象を受けた。だが、アオイはもう一つの印象も受けた。それは彼の目に光が宿っていなかったが故に、どこか諦めているような印象だった。
「ここは、どこなんですか?キヴォトスという地名は、聞いたことがありません」
優男はアオイに問いかける。キヴォトスという言葉は看護師から聞いたのだろうが、その存在は聞いたことがないという言葉に、アオイは内心驚愕していた。要するに、キヴォトスがこの世界に転移してきたことを把握していないのだろう。
「それはそうだろう。キヴォトス、学園都市キヴォトスは突然、この世界に転移してきたのだから」
「転移ですか!?そんな、神話みたいなことが…」
優男はアオイの予想外の返答に戸惑う。だが、アオイはその転移論を立証するかのように、スマホのある画像を開いて優男に見せた。それは、エンジニア部が打ち上げた人工衛星からの画像だった。
「学園都市キヴォトスは、最寄りの大陸から東に約1000km離れた場所にあります。おそらく、この位置にキヴォトスのような大陸は元々なかったはずです。どうですか?」
「た、確かにその位置は小さな島々が集まっている場所でした。なので、あなた方の国が転移してきたという話は理解できます」
優男は目の前の精巧な地図とそれを映す未知の機械に驚きつつも、そう答えた。彼から見れば、キヴォトスはいきなり現れた国家であり、転移してきたというキヴォトス側からの証言は大いに信じることができた。
「ところで、まだ自己紹介していなかったな。俺は白鳥アオイという。よろしく頼む」
アオイは自己紹介していないことを思い出し、自分の名を名乗る。
「ブルーアイです。よろしくお願いします」
優男、ブルーアイも名乗る。しかし、その声色は相変わらず、どこか諦めているようであった。そこでアオイは単刀直入に問いかける。
「………単刀直入に問おう。何があった?」
「ッ!?」
その問いは、ブルーアイの心に深く突き刺さった。
「ブルーアイが乗っていた船はボロボロだった。だが、嵐に遭ったにしては中の損傷も酷い。それも中で戦いがあったかのような血溜まりや武器の残骸などがあった」
アオイは淡々と発見時の状況を説明していく。木造船とはいえ、あそこまでボロボロで漂流するのは滅多にない。嵐に遭遇すれば有り得るだろうが、それだったら、中で戦いがあったかのような血溜まりや死体があるはずがない。また、ブルーアイの身体には、最近できたばかりであろう戦傷らしき傷跡も残っていた。これらが、アオイの
「もう一度聞こう。何があった?」
アオイはジッとブルーアイを見つめる。彼はただ見つめているのだが、ブルーアイは謎の威圧感に襲われていた。
ブルーアイの額からは冷や汗が止まらなくなる。
「別に答えたくないんだったら答えなくてもいい。今は気持ちの整理が必要だろう」
アオイはブルーアイが口噤むのを見て、一旦様子見の選択をとった。情報を得るのは後からでもいいからだ。
現在、キヴォトス上空には人工衛星が何基も飛び回っている。そして、それは今も増え続けている。それらの監視網にキヴォトスに接近する船舶を捉えられないはずがない。故に、情報は後でもよかった。
「その代わり、この世界について教えてくれ」
キヴォトスは突如転移してきた国であるがために、この世界について未知であった。だからこそ、今のうちにこの世界のことについて知りたかった。
ブルーアイはこの世界について話し始めた。
この世界は大きく分けて文明圏と文明圏外の二つに分かれる。文明圏とは、いわゆる列強と呼ばれる国力が大きい国を中心とした、世界の中でも文明が進んでいる国家の総称である。対して、文明圏外とはその逆。要は、文明圏に属さない国々の総称である。
文明圏は、大きく分けて三つの文明圏に分かれる。それらは、それぞれ第一文明圏、第二文明圏、第三文明圏と呼ばれる。
第一文明圏は、列強第一位の神聖ミリシアル帝国、第三位のエモール王国が属している文明圏である。
第二文明圏は、列強第二位のムー国、第五位のレイフォルが属している文明圏である。
第三文明圏は、列強第四位のパーパルディア皇国が属している文明圏である。
それらの国々は独自の勢力圏を持っている。そのため、文明圏外の国々は、一致団結しても技術格差も相まって手出しできない。
そして、キヴォトスがある場所は、第三文明圏の文明圏外に位置する。その位置は、第三文明圏の列強であるパーパルディアの影響がありつつも勢力圏ではない場所であるが、すぐ近くにパーパルディア本国があるという。
この世界は、弱肉強食であり、弱小国家はすぐに滅ぼされてしまう過酷な世界である。現に、パーパルディアは周辺国家を滅ぼして属領として占領している。最近は文明圏外までその勢力圏を広げてきているらしい。そのことを聞いたアオイは、外界に対する警戒レベルを上げたのは言うまでもない。
「………私の祖国も、それで滅ぼされました」
ブルーアイは意を決したように、最初のアオイの質問の答えを話し始める。
「私の祖国、クワ・トイネ公国は、農業が盛んな国でした。どこに作物の種子を植えてもしっかり育つ、女神の祝福を受けた大地が広がっていて、毎年家畜の餌にも困らないほど大量の作物が余る、そんな豊かな国でした」
名残惜しそうに語るブルーアイ。哀愁漂うその姿は、アオイたちが聞き入るのに充分な雰囲気を持っていた。
「しかし、突然、隣国のロウリア王国が攻めてきたのです。圧倒的な兵力を揃えて」
ブルーアイの言葉に力が入っていく。
「最初にロウリア軍の被害に遭ったのはギムでした。そこでは、ロウリア軍による強姦や略奪などの蛮行が行われ、結果、ギムの住民は守備隊含め壊滅しました。生き残ったのは100人のみで、それもロウリア軍が恐怖を伝播させるために敢えて逃した者たちでした」
ギムで起きた出来事に、話を聞いていたアオイと影で話を聞いているFOX小隊は息を呑む。想像以上の出来事に、冷や汗までかき始めていた。
ブルーアイは続ける。
「ロウリア軍は圧倒的な物量で次々と我が国の領土を占領していきました。城塞都市であったエジェイは奮戦したようですが、それも物量の前に陥落しました。
同盟国のクイラ王国も同じく物量に押されて後退したものの、我が国と分断されてそのまま息絶えました」
ブルーアイは一旦ここで切る。一度深呼吸してから、さらに続ける。
「一方海では、ロウリア海軍4400隻を前に大敗しました。私もその海戦に参加したのですが、相手の圧倒的な数の前では些細な抵抗しかできませんでした。
全滅必至だったこの海戦から撤退できたのは、司令の英断あってのことです。しかし、船がボロボロになって体力も尽きてきたことで意識を失い、気付いたらここまで流されたのです」
恐らく祖国は既に降伏しているだろう。ブルーアイは涙を流しながら、そう言った。
場は静まり返る。それほどまでに刺激が強かった。先程の彼の話が本当だとすると、彼らは難民ということになる。
「………ありがとう」
アオイはひとまずお礼を言いつつ、頭の中を整理する。
目の前の男はブルーアイと名乗った。その男は戦争の生き残りであり、その戦争は大敗している。
彼の母国のクワ・トイネ公国は農業が盛んな国である。それは、毎年作物が余るほどである。故に、家畜の餌にも困っていないし、国民を飢えさせる心配もない。だが、先日の戦争により国が滅ぼされていると予想される。
以上のようにまとめたアオイは、気になったことを問いかける。
「ところで、あなたが戦ったロウリア王国。それはどんな国だ?」
「……ロウリア王国は、人間が中心となって繁栄している国で、亜人撲滅と大陸統一を掲げている国家です。大陸とはロデニウス大陸、キヴォトスに一番近い大陸のことです」
ブルーアイは、アオイが持っているスマホに映っている大陸を指差しながら答えた。
「亜人撲滅………。その国家が、こちらに来る可能性はあるのか?」
「…あり得ます。ロデニウス大陸統一を成し遂げた今なら、各地の島を制圧して領土を広げていくと思われます」
「その際に、こちらに接触する可能性があると?」
「はい」
アオイはあり得ると納得した。確かに、キヴォトスがあった場所は元は島が集まっている場所だったのだ。無人島でも制圧しているというのなら、こちらにも来る可能性が高い。
そう考えていると、アオイの頭にふとある疑問が浮かんだ。
「そういえば、亜人はどうなるんだ?やはり、全員殺されるのか?」
この質問はアオイにとって、キヴォトスにとって重要なことだった。なにしろ、キヴォトス人は亜人のようなケモ耳があったりする人が大勢いる。彼の護衛のFOX小隊もそうだ。
どっちにしろ、そのような特徴を持つ人がいる時点で、亜人撲滅を掲げている彼の国はこちらを知った瞬間に攻めてくる可能性は高いだろう。
「………奴隷になるか、そのまま殺されるかです」
予想していたより上の答えが返ってきた。アオイは殺されるのだけ考えていたが、奴隷までは考えていなかった。さらに、奴隷となれば、そこには性奴隷も含まれるだろう。女性が多いキヴォトス人にとっては最悪だった。
アオイは相手の蛮族のような思考に唖然としていた。それだけ、彼の中ではまだキヴォトスの常識が強いということなのだろう。
「そうか……」
アオイは黙り込む。考えているのは、今後の対外対策だ。
彼の情報を信じると、キヴォトスが転移した場所は「悪い」の一言に尽きた。周りに国はないし、あったとしても亜人撲滅を掲げているロウリア王国か第三文明圏列強のパーパルディア皇国しかいない。しかも、そのどれも覇権主義の一面がある国家だった。特にパーパルディアは、酷い時は民族浄化をやるという国家であり、アオイとしても極力関わりたくない国家であった。
しかし、この世界に転移してきた以上、この世界で生きるしかない。そのために、一つの国がどことも国交を結ばないで孤立状態というのはまずい。鎖国ともとれるが、覇権主義が周りに多い状況で、仮にこちらが攻められてもこちらに味方する国は少ないだろう。故に、孤立状態というのはデメリットが大きい。
しかし、この世界は大人が中心となっている世界である。それはブルーアイとの会話で察していた。それに比べてキヴォトスは学生、所謂子供が中心だ。そんな国をこの世界は受け入れてくれるだろうか。最悪の場合、子供の戯言だと切り捨てられるのがオチだろう。それどころか、こちらに侵攻してくるかもしれない。
アオイは頭を抱えたくなるほどのキヴォトスの現状にため息を吐く。
「ひとまず、あなたたちをキヴォトスで保護する。しばらくは入院になるだろうが」
「そうですか……ありがとうございます」
アオイはブルーアイに背中を向けると、そのまま病室から退出していった。
病室から退出したアオイは、FOX小隊を呼び出した。影で見守っていた彼女らは、その招集にすぐに応じた。
「ここに」
ユキノがそう言いながら自ら跪いた。それに続いて、他の3人も跪く。
現在彼らがいる場所は、病院から出て少し先の路地裏である。ちょうど建物の影になって、外からは完全に見えない死角になっていた。
「あの時の覚えているか?」
「あの時……漂流者を救助した時ですか?」
「あぁ」
アオイはあの木造船の内装を思い浮かべる。どこかと戦っていたかのような複数の死体があったが、ブルーアイの証言によりロウリア王国と戦っていたことが判明していた。つまり、あの死体の中にロウリア兵がいたことになる。恐らく、ロウリア海軍の追撃を受けていたのだろう。それを退けたから彼らは生きており、現在入院していた。
「クルミ、ロウリア海軍が使用する戦術は?」
「戦術といっても、ただ敵艦に乗り込んで敵を倒すだけよ」
「まさか、その時に彼らが乗っていた船がこちらに漂流している可能性があるのでしょうか?」
「そのまさかだ。仮に漂流してきてもなんとかなるだろうが、それが原因でこちらに侵攻してくるかもしれないからな」
アオイは、ロウリア船が漂流するとその船の中に少なくとも1人以上のロウリア兵がいると考えていた。その人物が暴れても別に問題はないのだが、逆に問題があるのは、その船を追ってきたロウリア海軍の方にあった。ブルーアイの話と合わせると、その海軍がこちらに侵攻しかねない。
もちろん、接近してくる前にある程度警戒するが、先制攻撃はできなかった。そうすると、向こうに侵攻する口実を与えかねないからだ。
海軍を放置したら侵攻。先制攻撃しても侵攻。まさに、八方塞がりだった。
「それは……」
「難儀だな」
アオイの言っていることに納得し、顔を顰める一同。幸いにも、技術格差があるのが救いだった。
「一応、彼らの祖国奪還を掲げて協力するのも手だが…」
「他が何を言うかわからないものね」
現状では何もできない。それが結論だった。
「国交をどこかと結びたいにしても、ロウリアはダメだ。他に温厚な民族性がある国家はないのか聞いてみる必要が出てきたな」
アオイは外界に進出するつもりだった。衛星画像を見ても、第三文明圏最強のパーパルディア皇国の海軍は戦列艦であり、キヴォトスの現代艦と比べると技術格差があることがわかる。ロウリア王国を見ても、そこの海軍はガレオン船であり、やはり技術格差があった。彼は、その格差を利用しようとしているのだ。
「明日聞いてみよう。FOX小隊はSRTに戻り待機。護衛はRABBIT小隊に引き継いで欲しい。解散!!」
FOX小隊はその場から離れた。その場に残ったアオイは、路地裏から表通りに出る。その上に広がる空は曇り空で、これからのキヴォトスを示しているかのようだった。
RABBIT小隊。それは、FOX小隊の後輩でできた小隊である。隊長の月雪ミヤコを中心に、空井サキ、風倉モエ、霞沢ミユの4人で活動している小隊だ。
彼女らは今、SRT特殊学園にて実践訓練をしていた。先輩であるFOX小隊は、現在副会長の護衛任務を遂行中であり、FOX小隊の指導によりSRTの中でも指折りの実力を持つようになっていたRABBIT小隊は、何か外界からアクションがあった時に動けるように体を温めていた。
その訓練の途中だった。FOX小隊が帰ってきたのだ。
FOX小隊は、真っ直ぐRABBIT小隊のところに向かった。それに気付いたRABBIT小隊は訓練を途中で中断し、FOX小隊に向きあう。
「お疲れ様です」
「あぁ。今帰還した」
ユキノは、RABBIT小隊を見渡す。
「それと、副会長から交代の命令が入った。つまり、明日から副会長の護衛はRABBIT小隊ということになる。そのために引き継ぎを行いたい」
「え?」
「ほ、本当なのか!?」
「ふへへへへへへへへへへ。すごい依頼されちゃったね〜」
RABBIT小隊一同は驚愕する。それほどまでに重要で、SRTにとっては憧れの任務だったからだ。現に、ミヤコやサキは目をキラキラさせていた。
副会長の護衛任務はFOX小隊がやるのが常だった。だが、今回の騒動でSRT特殊学園が大々的に動くことになる可能性が高く、それまでにある程度練度を上げるためにFOX小隊を教官とした。その間の副会長の護衛を行うことになったのが、FOX小隊の指導を受けたことのあるRABBIT小隊だった。これは、副会長であるアオイが指名して実現した。
「いけるな?」
「はい!」
こうして、アオイの護衛は引き継がれた。RABBIT小隊一同はアオイからの指名ということで張り切っており、FOX小隊一同は頼もしそうにその様子を見ていた。
だが、彼女らは知らない。知る由もない。
RABBIT小隊とアオイが、
翌日、アオイとRABBIT小隊一同は、ブルーアイのもとに訪れていた。ブルーアイは変わらずベットに横たわっており、他の救出者たちは目を覚さない。
「こんにちは、ブルーアイさん」
「こちらこそ、白鳥さん」
アオイの挨拶で病室に来ていたことに気付いたのか、挨拶で返すブルーアイ。窓の外を見て上の空だった彼が、こちらを見る。
「また、聞きたいことがあってな」
「なんでしょう?」
「ここの周辺で話が通じる国はどこだ?」
アオイは単刀直入に切り込んだ。ブルーアイは、彼のこの言葉から、国交を結びにいくのだと悟った。
「そうですね。比較的温厚な国は………」
ブルーアイはアオイから手渡された紙の地図で説明する。最初に指差したのは小さな島国で、百鬼夜行連合学院の伝統工芸品の一つである勾玉を逆にした形に似ている島だった。
「フェン王国」と呼ばれているその国は、武士と呼ばれる刀を装備した兵士が大勢おり、誰もが礼儀正しく、高い国民性を持つ国として知られていた。国民全員が剣を学ぶことで個人の戦闘能力は高いが、その分技術力は低かった。だが、話を聞く限り、百鬼夜行連合学院と文化が似ていることから、彼の自治区と気が合いそうだとアオイは思った。
「あとは、ここですね」
そうしてブルーアイが指差したのは、パーパルディア皇国の南に位置する島だった。
「アルタラス王国」と呼ばれるその国は、主に魔石鉱山から採れた魔石を輸出することで莫大な利益を出している豊かな国である。そのためか、文明圏外とされながらも文明圏国並の技術を有していた。だが、パーパルディア皇国に近い場所に位置しているため、常にパーパルディアの脅威に晒されている国でもあった。
その他にも数カ国ほど紹介されたが、アオイはまずは最初に紹介された上の2カ国と国交を結びに行こうと考えた。
アオイは他に、この世界の外交の仕方を教わった。この世界の外交は、自国の強さを誇示するために軍艦で訪問する、いわゆる砲艦外交が主流だった。
これにはアオイは目を見開いて驚愕した。だが、同時に納得した。
この世界は弱肉強食の世界であり、強者が弱者を屈服させるために手っ取り早いのは、砲艦外交で自国の力を認識させて恐怖させることだ。だからこそ、砲艦外交という手段に納得した。
「分かった。ありがとう」
ブルーアイに礼を言って病室から退出したアオイは、外界に接触するためのスケジュールを組むため、RABBIT小隊を連れてSRT特殊学園へと向かっていった。
中央暦 1639年3月22日 アビドス軍港
広大なアビドス砂漠に、見るからに巨大な港ができていた。急ピッチで作られたその港には、SRT特殊学園の校章が入った駆逐艦が多数停泊していた。その真ん中には、一隻の巡洋艦が停泊していた。
「副会長!!海上任務部隊、準備完了です!」
海上任務部隊は、SRT特殊学園の海上任務を行う部隊の総称である。今回の任務は、外交に行くアオイたちの護衛兼相手国の威圧であった。
アオイたちが乗る船であり、艦隊の旗艦となる巡洋艦『イルマリネン』は、25.4センチ主砲を持っている船である。その船は、アオイたちが乗ったのを確認するとゆっくりと動き始める。それに合わせて、周りの駆逐艦も動き始める。
イルマリネンを先頭にして、巡洋艦1、駆逐艦5の艦隊は綺麗に単縦陣を組んで、一定間隔で整列して航行していく。練度が高い証拠だろう。
「進路!!
艦隊司令命名『副会長護衛艦隊』は、進路をアルタラス王国に向ける。その光景を、アビドス砂漠からアビドス高校の生徒たちはジッと見つめていた。
「すぅーーーーー。頑張ってねぇーーーー!!!!!!」
「いきなり叫ばないでください!!」
「ひぃん、ホシノちゃんが怒った〜」
「当然です!!」
その場所にいたアビドスOBの梔子ユメは大声で見送る。それに驚いたホシノはユメに注意する。そのいつもの光景に、他のアビドス生徒はそれを温かい目線で見る。
「またやってるよ、あの先輩たち」
「んっ。いつものこと」
「はい、いつものことです⭐︎」
その間にも、副会長護衛艦隊は港からどんどん離れていく。
(アルタラス王国……貿易で栄えているとのことだったが、どのような街並みなんだろうな)
船にいるアオイは、これから訪れるアルタラス王国を楽しみにしていた。
今回の訪問は、キヴォトスはどことも国交を結んでおらず完全にアポ無し訪問になる。しかし、アルタラス王国はアオイが考えている通り貿易で栄えている国だ。つまり、商人のような気質がある可能性がある。故に、誠実な対応をすれば向こうも誠実な対応で返してくれるかもしれない。
この訪問は、キヴォトスがこの世界で孤立するかしないかの運命がかかっていた。そのことをアオイは改めて認識すると、楽しみの気持ちを抑えつつ、キヴォトスの未来が良い方向になるように心の中で祈るのだった。