学園都市キヴォトス、異世界に転移する   作:大和ゆか

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第二章 キヴォトスの台頭
第四話 アルタラス王国


 中央暦1639年4月10日 アルタラス王国

 

 

 その日もなんてことのない日常だった。パーパルディア皇国の脅威がありつつも、魔石鉱山を採掘して手に入れた魔石を輸出することで莫大な利益を出す。それでさらに国民を豊かにしていく。その繰り返しだが、争いもない平和な日常を謳歌していた。

 

 アルタラス王国は、第三文明圏最強国家であるパーパルディア皇国から見てほぼ真南に約500km離れたところに位置していた。日本の本州より少し大きいぐらいの面積であるが、人口は約1500万と文明圏外、島国にしては多い方だった。

 さらに軍事力を見てみても、バリスタの矢に爆裂魔法を封入した魔石や螺旋状の帆、風神の涙を取り付けた兵器である「風神の矢」を大量に運用していたり、旧式でパーパルディアのそれには及ばないが魔導砲を搭載した砲艦も運用していた。そのことから、文明圏外国の中でも突出した軍事力を持つことがわかる。そして、それら全てが、対パーパルディアを意識して運用、配備されていた。

 

 

 

 

 

 アルタラス王国国王であるターラ14世は、つい先日行われた巨大船の艦隊の臨検の報告を聞いていた。

 その船は鉄で覆われており、巨大な魔導砲らしき物を装備していた。一見すると列強の船のように見えるが、その船が掲げている国旗はこの世界には存在しない国のものであった。

 

 

「その船には外交官が搭乗しており、「学園都市キヴォトスから来た」と言っているとのことです」

 

 

「学園都市だと?そのような国は聞いたこともない。本当にそう名乗ったのか?」

 

 

「はい。臨検を担当した者からも裏付けは取れています」

 

 

 ターラ14世は半信半疑だった。というのも、巨大船を持つ国は少なく、一つでも持っていれば、その国の名は広まるはずである。また、名前を聞いたことがないということは文明圏外国であるということにも繋がるのだが、文明圏外国は滅多に技術が発達していることはない。だからこそ、この謎の国を警戒していた。

 

 

「後、もう一つ情報が」

 

 

「なんだ?」

 

 

「学園都市キヴォトスは、()()()()であるとのことです」

 

 

「なんだと?」

 

 

 この世界において、転移はありふれたものだった。だが、それは現実の話ではなく、神話の中での話だった。つまり、キヴォトス側が言っていることは、彼らにとってみれば与太話同然であった。

 

 

「向こうの要求は聞いているのか?」

 

 

「はい。臨検を担当した者によると、どうやら、国交を結びに来たようです」

 

 

「そうか。なら、会談を行おう。もしかしたら、あの技術も手に入るかもしれん。すぐに用意しろ!!」

 

 

「はっ!!」

 

 

 ターラ14世の命令で部下が退出する。

 

 

「さて、この選択が鬼と出るか蛇と出るか」

 

 

 ターラ14世は、手元にあるパーパルディア皇国からの要求書に目を通す。そこには、荒唐無稽な要求が書かれていた。その内容は以下の通り。

 

・アルタラス王国は魔石鉱山シルウトラスをパーパルディア皇国に献上する。

・アルタラス王国の王女ルミエスを奴隷としてパーパルディア皇国に差し出すこと。

 

 以上の内容は、どれもアルタラス王国側には受け入れ難いものであった。

 最近のパーパルディア皇国は、領土拡大を進めている。その一環で、周辺諸国に領土の献上を要求している。今回も、その一環なのだろうか。だが、少なくとも、王女の奴隷化だけは許せなかった。

 

 

「キヴォトスの人たちには待ってもらえ。私は、パーパルディアに真意を聞きにいく」

 

 

 そうして、ターラ14世は国内にいるパーパルディア皇国第三外務局アルタラス担当大使プリガスに直接真意を問いただしにいった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一方、応接室に通されたアオイたちは、偶然出会ったアルタラス王国王女ルミエスと雑談をしていた。

 

 

「その頭の輪はヘイローと言うのですね」

 

 

「そうだ。このおかげで俺たちは銃弾や砲弾が痛いで済む」

 

 

「そうなんですね!?」

 

 

 ルミエスは目を見開いて驚愕した。

 彼女は銃弾や砲弾は何か知っている。パーパルディア皇国がその類のものを使っているために、学ばざるを得なかったためだ。だからこそ、それらを使用する兵器の恐ろしさも理解していた。だが、キヴォトス人には、正確にはヘイローがある者には効かないと聞かされたのだ。こうなるのも頷ける。

 

 

「そういえば、アルタラス王国は魔石の輸出で豊かになっていると聞いた。良かったら、この国のいいところを教えてくれないか?」

 

 

「はい!」

 

 

 ルミエスは目を輝かせながら、自国の良いところを話し始めた。さすがは王女なのか、一度話し出すと止まらないで話す。護衛のリルセイドは、ルミエスのその様子にため息をついていた。

 

 

「そうだ。あなたたちの国のことも聞かせていただけませんか?」

 

 

「わかった。まずは、首都のD.Uからかな」

 

 

 続けて、アオイも話し始める。

 キヴォトスは、数千規模の学園が集まっている学園都市で、連邦生徒会を本邦として各学園がそれぞれ自治区を持っている。中でも有名なのが、三大学園と言われているトリニティ、ゲヘナ、ミレミアムの三つの学園だ。

 キヴォトスは、治安が悪い。最近は良くなってきているが、それでも他国から見れば悪い方だろう。よく喧嘩感覚で銃撃戦が起きる。そうなった場合、各学園の治安維持組織かヴァルキューレ警察学校のどちらかが鎮圧にあたる。だが、銃撃戦が起きるのが日常のキヴォトスで、ヘイロー無しの者が出歩くとほぼ確実に死ぬ。何故なら、銃を常に携帯していないからだ。

 銃を携帯していないと、ほぼ確実に不良に襲われる。前世界でも、たまに外界から迷い込んだヘイロー無しの者がいたが、そのほとんどが保護される前に襲われて死亡している。

 

 

「キヴォトスに来る時は、必ず銃を携帯し防弾チョッキを着るか、俺たちに連絡して下さい。護衛を請け合いますから」

 

 

 慣れていない者は現地の護衛必須。そうルミエスに伝えるアオイ。

 

 

「キヴォトスには様々な観光地があるんですよ」

 

 

 アオイは、キヴォトスでも有名な観光地を紹介する。トリニティのリゾート地には夏に大勢の観光客が訪れ、アビドス砂漠には天体観測に訪れる人が多く、百鬼夜行には独自の伝統工芸品を求めてやってくる客がいたりと、キヴォトスには様々な観光地が点在していた。

 中でも、ルミエスが目を輝かせたのは、トリニティにある有名なスイーツ店通りだった。そこで売っているスイーツの画像をスマホでルミエスに見せながら説明していたためか、スイーツを食べてみたいと思うようになっていた。

 

 

「リルセイド。今度、私、ここにいくわ」

 

 

「ルミエス様!?」

 

 

 真剣な表情でそう言ったルミエスに、焦るリルセイド。先程のアオイの話だと、キヴォトスは治安が悪く、ヘイロー無しの死亡率が高いとのこと。旅先でルミエスが死んだら大きな影響があるのは間違いなく、なんとしてでも避けたいところだった。

 

 

「護衛はあると言っても絶対とは限りませんからね」

 

 

 アオイも、冷や汗を流しながら、必死に説得するリルセイドをフォローする。すると、ここで不意に同席しているRABBIT小隊のミヤコがあることを呟いた。

 

 

「遅いですね」

 

 

 その言葉は、ルミエスとアオイの耳にも入っていたようで、雑談の声がピタリと止んだ。

 

 

「そういえば、お父様は何をしているでしょう?」

 

 

 ルミエスは何も聞いていないようで、首を傾げていた。

 

 その頃のルミエスのお父様、ターラ14世は………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ターラ14世は目の前にいるブリガスに要求書の真意を問いただしていた。対するブリガスは、椅子に座って足を組んで、いかにも自分が上だと言わんばかりの雰囲気を出している。

 他国の国王に向けてのその無礼な態度に、ターラ14世は内心イライラしながらもブリガスに問いただす。

 

 

「魔石鉱山シルウトラスは我が国最大の鉱山です。なんとかなりませんか?」

 

 

「できないな。それとも、ルディアス様に逆らうのか?」

 

 

 彼が言うルディアスとは、現パーパルディア皇帝である。つまり、アルタラス王国に出された要求は、皇帝の名をもとに出されていたということになる。

 

 

「とんでもないです。それと、王女のことは、どのような意図で?」

 

 

「あぁ、あれは俺が()()するからだ」

 

 

「は?」

 

 

「聞けば、絶世の美女とのことじゃないか。だから、俺が味を確かめてやろうというのだよ。飽きたら、そこら辺の淫所にでも売り払うがな」

 

 

 ターラ14世はブリガスの言葉に額に青筋を浮かべる。怒りを必死に堪えて、彼の言葉に耳を傾ける。だが、ブリガスは、ターラ14世の怒りにガソリンを投下しまくっていた。

 

 

「………それもルディアス様のご意志なのですか?」

 

 

 ターラ14世のその問いに、ブリガスは怒鳴るように返した。

 

 

「当然だろう!!パーパルディア皇国の大使である俺の言葉は、即ちルディアス様の言葉と同義なのだ!!蛮族風情が我々を疑うというのか!!」

 

 

 ブリガスのその言葉は、ターラ14世の限界を超えてブチギレさせるのには充分過ぎた。

 ターラ14世はブリガスを顔の原型を留めないぐらいに殴ると、パーパルディア本国に強制送還するよう命じた。それと同時に、国内のパーパルディア国籍の者の資産を全て凍結。さらに、軍に出動要請が入り、懲罰としてやってくるパーパルディアの監察軍に対する徹底抗戦の準備が行われた。

 

 そして、そのことはルミエスの耳にも届くことになる。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ルミエス様!!ここにいましたか!!」

 

 

 応接室に入ってきたのは、ターラ14世についている従者であった。焦った様子で入ってきた彼は、後ろからやってくるターラ14世に気づくと道を譲る。

 

 

「ルミエス、君は彼らと一緒に逃げるのだ」

 

 

「お父様!?一体、どうしたのですか?」

 

 

 ターラ14世はルミエスにブリガスとの会談のことを包み隠さず話した。この場には、まだ国交を結んでいないキヴォトスの人たちがいたが、気にしている余裕がなかった。

 ターラ14世の話を聞いているアオイは、クズを体現したかのような者であるブリガスの所業に怒りを覚えていた。キヴォトスにも悪い大人は沢山いるが、あれは一線を画していると言っても良かった。列強の大使というのもタチが悪い。

 

 

「そんなことが……」

 

 

「だから、ルミエス。彼らと一緒に逃げるんだ」

 

 

 ターラ14世はルミエスを逃げるように諭す。だが、王女であるルミエスは反論する。

 

 

「反対です!!民を置いて王女のみが逃げるなど、民に示しがつきません!!」

 

 

「だが、監察軍は抑えられても、その後に来るであろう正規軍は抑えられるかはわからないぞ」

 

 

 実際その通りであった。現在のアルタラス王国の装備だと監察軍は抑えられる。だが、そうなると、パーパルディア側は屈辱を晴らすために正規軍で侵攻してくるだろう。彼の国の正規軍は、現在のアルタラス王国の装備では、太刀打ちできなかった。

 

 

「失礼します!!至急耳に入れてほしいことが!!」

 

 

 突如、1人の部下がターラ14世のところに慌てた様子でやってきた。その理由はすぐにわかることになる。

 

 

「パーパルディア皇国が我が国に宣戦布告してきました!!!」

 

 

「………」

 

 

 ターラ14世は、目を閉じて事態を受け入れようとした。その様子をアオイたちは黙ってみていた。

 やがて、目を開けたターラ14世は、ルミエスに逃げるよう説得を再開する。

 

 

「ルミエス。今、彼が言った通りだ。となると、確実に正規軍が来るだろう。そうなれば、我が国は負ける。敗北した国の王族がどうなったか、知らないわけはあるまい」

 

 

 ターラ14世は、アオイにも聞かせるように王族の結末を口にした。

 パーパルディア皇国に敗北した国の王族は、皆処刑される。一族全員だ。今回もその例に漏れず、敗北したら処刑されるだろう。また、今回は、要求書にルミエスの奴隷化について書かれていることから、彼女は間違いなく奴隷となるだろう。

 そのことを聞いたアオイは、パーパルディアに対する怒りを覚えた。既に、ブリガスの件で覚えていたのだが、今回ので怒りの度合いが倍増した。

 

 

「それでも………」

 

 

『副会長!!フェン王国がパーパルディアと思われる軍により制圧されていることが確認されました!!』

 

 

「何!?」

 

 

 突如声を上げたアオイに、全員の意識が集中する。当のアオイは、耳のインカムから何かを聞き取っていた。その何かは、キヴォトスの行く末を左右しかねないものだった。

 フェン王国は、キヴォトスが訪問しようとした国である。そこが制圧されたのだ。これで、より一層、キヴォトスが孤立する可能性が高まったと言えた。パーパルディアと国交締結するという手があるが、あの国のことを聞いた限りだと何かしら要求してくる可能性が高い。キヴォトス側としては、悪い大人が統治している国とは仲良くしたくないのだ。

 また、ルミエスとは、少ししか話していないが友人と言っていい間柄になった。そんな彼女が、奴隷となりそうになっているのだ。個人的には助けたかった。

 

 アオイは少し考えた後、ある決断を下す。

 

 

「あの、もしよろしければ、我々も参戦できないでしょうか?」

 

 

 アオイのその提案は、アルタラス王国側にとって渡りに船だった。だが、ターラ14世は、その提案の裏に何が隠されているのか探りに入る。

 

 

「……何がお望みだ?」

 

 

「国交締結。それと、他の国との仲介をお願いしたい」

 

 

 アオイは、キヴォトスの現状をターラ14世に話した。転移国家であるが故に、孤立状態であると。それを脱するために、近場で温厚な国と国交を締結したいと。

 ターラ14世はキヴォトスの現状に納得した。アオイの目をみて、信じられると判断したのだ。

 

 

「わかった。信じよう」

 

 

 アオイは逆にターラ14世の度胸に関心した。国力差は巨大船をみてわかっているはずなのにも関わらず、こちらに今までと同じような態度と思われる態度で会談に臨んでいたからだ。

 

 こうして、副会長護衛艦隊はパーパルディア皇国との戦争に参戦することになった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 中央暦1639年4月17日 アルタラス王国沖

 

「副会長、パーパルディア海軍と思われる艦隊を捕捉しました。距離250、12時方向。どうします?」

 

 

「とりあえず、アルタラス海軍に知らせて。独立しているとはいえ、向こうの指揮にある程度従った方がいい」

 

 

 副会長護衛艦隊は、参戦が決定すると誰も不満を漏らさずに副会長の命令に素直に従った。RABBIT小隊も、副会長の命令を実行するため、アルタラス陸軍と協力して上陸した時用にトラップを大量に設置していた。

 そして、ついにパーパルディア海軍がやってきた。副会長護衛艦隊は、それをレーダーで簡単に捕捉した。その数、324隻。その中には竜母も含まれていた。

 

 

「アルタラス海軍に攻撃許可を!!」

 

 

 アオイはアルタラス海軍の指示を待っていた。そんな中、各艦に搭載されている艦対艦ミサイルは、今か今かと攻撃の時を待っていた。

 

 

 

 

 

 

 一方、パーパルディア皇国軍アルタラス王国侵攻部隊は、ゆっくりとアルタラス王国に進撃していた。静かな海に大量の白い航跡を描きながら、水平線の向こうにあるアルタラス王国との戦闘に備える。

 

 

「まだ来ぬか…」

 

 

 その艦隊を指揮する将軍シウスは、目の前の静かな海を嵐の前の静けさだというように謎の悪寒に襲われていた。今までそんなことなかったはずだ。しかも、文明圏外の国にパーパルディアの正規軍が負けるはずがない。そう、彼は思い込んでいた。

 現在の艦隊の編成は、戦列艦211隻、竜母12隻、揚陸艦101隻と大艦隊だった。それに加えて、竜母から発艦したワイバーンロードが5騎ほど、直掩についていた。

 

 

「壮観だな…」

 

 

 大艦隊の威容にシウスはそう声を漏らす。

 アルタラス王国のワイバーンの飛行圏内に至るには、まだ時間が必要だった。だからなのか、艦内全員の気が緩んでいた。

 

 

 そんな時だった。

 

 

 ドオオォォォォォォォォォォォォォン!!!

 

 

 突如、竜母が爆発四散したのだ。最初のこの攻撃を皮切りに次々と竜母が轟沈していく。

 

 

「な、なんなんだ!?何が起きている!?」

 

 

「シウス様!!光の矢が竜母に!!」

 

 

 竜母が轟沈した原因は、すぐに部下によって見つけられた。高速の光の矢が竜母に吸い込まれるように命中していく。

 

 

「全騎、あの光の矢を撃ち落とせ!!」

 

 

 対空砲火などできないパーパルディア側にとって、直掩で上空にいる5騎のワイバーンロードだけが頼りだった。だが、その光の矢は竜騎士にとって()()()()。簡単にワイバーンロードの守りを突破すると、次々と戦列艦に着弾する。着弾した戦列艦は1分も経たずに沈没する。

 

 

「我々は、一体何と戦っているのだ……」

 

 

 敵の姿が見えないほどの遠距離から放たれた正確無比な攻撃は、シウス率いるアルタラス王国侵攻部隊の竜母を全て撃沈させた。それに加えて、戦列艦を30隻ほど撃沈していた。

 だが、攻撃はそれだけでは収まらなかった。あの光の矢は、ワイバーンロードにも襲いかかっていた。

 

 

『光の矢だ!!』

 

 

 自身に向かってくる光の矢を視認すると、急いで回避行動を行う。本来ならこれで避けられるはずだった。

 しかし、彼らにとって誤算だったのは、この光の矢全てが()()()だったことだ。避けても避けてもついてくる光の矢に、竜騎士たちは絶叫しながらワイバーンロードを操作する。

 

 

『光の矢がついてくる!!』

 

 

『ちくしょう!!振り切れねぇ!!』

 

 

 やがて、光の矢に追いつかれた者からどんどん撃墜されていく。回避行動をとれた時間もものの数秒しかなく、一瞬で全滅したに等しかった。

 

 

「我が国のワイバーンロードが、こんなに容易く…….」

 

 

 シウスらは、呆然とするしかなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「全弾命中!!これより砲撃戦へと移行します!」

 

 

 弾の節約のため、艦隊を加速させて敵に接近していく。戦列艦よりも大きい6隻の艦隊が、単縦陣にて約30ノットの速度で航行する。

 初撃として発射した艦対艦ミサイルは全て命中した。また、艦対空ミサイルも全て命中した。おかげで、敵の制空権を奪うことに成功した。

 それを見ていたアルタラス王国海軍は、副会長護衛艦隊の攻撃手段に驚愕していた。艦隊はミサイルで攻撃していたが、その実態は、この世界が恐れる兵器の一つである誘導魔光弾とそっくりだったからだ。

 

 

(まさか、キヴォトスは、魔帝並みの技術を持つというのか!?)

 

 

 アルタラス海軍長ボルドは、副会長護衛艦隊、ひいてはキヴォトスの技術力に、冷や汗を流すしかなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「敵艦隊視認!!」

 

 

「ついにか」

 

 

 シウスは竜母を大量に沈められた屈辱を晴らそうと敵を殲滅する気でいた。中々姿を見せない敵に、その機会はないのではないか、あの攻撃はもうできないために逃げたのではないか、さまざまな考えが浮かんだ中で、ようやく敵は姿を見せた。シウスら一同の士気は高かった。

 だが、視認した艦隊は自らが知っているアルタラス王国海軍のものではなかった。全てが鉄で覆われていて、戦列艦よりも巨大であった。

 

 

「敵艦発砲!!」

 

 

「ふん!血迷ったか」

 

 

 彼らはアルタラス王国に砲艦があるのは知っている。だが、それは自国より旧式の大砲を装備した砲艦だった。だからこそ、巨大な船でも射程外で発砲したと判断したのだ。

 

 

ドオォォォォォォォォォォォォォォン!!!

 

 

「せ、戦列艦『シャヌス』撃沈!!」

 

 

「なっ!?初弾命中だと!?」

 

 

 皇国の魔導砲には、ここまでの精度はない。いくら練度が高くても初弾命中は至難の業のはずだ。

 

 

「わ、我が国の戦列艦が!?」

 

 

 1人の部下が叫んだように、他にも次々と撃沈していく。その速度は、彼らが知る物の比ではなかった。

 さらに、背後の揚陸艦にも攻撃が入る。中に入っているパーパルディア兵は海に投げ出されるか、砲弾の爆発に巻き込まれて死亡する。

 

 

「シウス様!!命令を!!」

 

 

「くっ!?突撃だ!!」

 

 

 ()()()()()()()()()()()()()()。その言葉は、皮肉にも彼らの足枷になっていた。彼らは、頭に浮かんだ撤退の考えを振り払い、キヴォトスの駆逐艦に突撃していく。

 

 一方、副会長護衛艦隊の艦内は、実弾演習をしているかのように淡々としていた。アオイは、何も言わずにただただ戦列艦が撃沈していく様子をレーダー上で見ていた。

 

 

「敵艦隊、突撃してきます」

 

 

「構わず撃ち続けて」

 

 

 その時、単縦陣の先頭から3番目にいる駆逐艦『アハティ』が突如として艦隊から分離する。それに続いて、後ろにいる駆逐艦『アヤッタラ』、『アッコ』も分離していく。

 二つに分かれた艦隊は、次々に戦列艦が撃沈されて混乱しているパーパルディア艦隊を挟み撃ちにするように航行していく。その間も、各艦が割り振られた目標に向けて砲撃を繰り返す。

 

 

「………砲撃止め」

 

 

 数十分経つと、その場には副会長護衛艦隊の船しか海に浮かんでいなかった。戦列艦や揚陸艦に乗っていたパーパルディア兵は海に浮かんでおり、撃沈した戦列艦や揚陸艦の瓦礫に掴まっている者もいた。

 

 

「手が空いている者は速やかに救出作業に加わるように。俺も行こう」

 

 

 こうして、アルタラス沖海戦と呼ばれた一方的な戦いは、副会長護衛艦隊が勝利したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 同時刻 アルタラス王国沿岸部

 

 

「砲撃始め!!!」

 

 

 副会長護衛艦隊が殲滅した主力艦隊とは別に、戦列艦30隻、揚陸艦50隻ほどの艦隊がアルタラス王国沿岸に接近していた。

 この艦隊は、アルタラス王国を包囲するために別働隊として出撃していた。なので、主力艦隊と違って竜母や地竜などの強力な兵器は随伴していない。

 

 この艦隊を指揮しているスウシは1人不満を漏らしていた。

 

 

「なんで、俺がこんな艦隊を……」

 

 

 彼はシウスが指揮している主力艦隊の方を指揮したいと思っていた。そのために努力もしたし、彼に追いつけるように演習も頑張った。

 だが、結果は別働隊。良い言い方をすれば奇襲部隊だが、悪い言い方をすれば奇襲して主力を援護する引き立て役だ。その役割に彼は不満を抱いていた。

 

 現在の艦隊の位置はアルタラス王国北部沿岸から約250km離れたところにあり、主力艦隊とは別のところを航行していた。波は静かで、複数の白い航跡が目立っていた。

 

 

「敵は………主力の方に行ったのか?」

 

 

 彼は、なんとなくそんな予感がしながらも暇そうに海面を見つめる。何もない海面を見て、これから行うであろう、アルタラス王国に対する艦砲射撃に思いを馳せていた。

 

 そして、本当に何の妨害もなく、別働隊はアルタラス本土に到達する。

 

 

「全艦、撃てぇ!!!」

 

 

 この時をもって、アルタラス王国本土決戦が始まったのだった。

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