同日 トリニティ沖
「艦長、警告はやはり無視されたようです」
「そう…」
そう呟いて意気消沈するのは、アリウス分校の梯スバルだ。彼女は、アリウス艦隊からETO旗艦として一時的に離脱しているアタナシオスの艦長を勤めていた。
戦艦アタナシオスは、アリウス分校がアオイの尽力によって独立した記念に作られた戦艦だ。この時のアリウスは、表向きはトリニティの傘下であるが、実態は完全に独立している状態であった。そこでアオイは、これをトリニティ、アリウス双方との交渉の末にアリウスを独立させることになった。
だが、独立となると、独自の治安維持部隊が必要になる。キヴォトスではそういう組織が必要な事件が多いからだ。アリウスは前に内戦があったことで戦力には困らなかったが、それは陸上だけの話で、海上に対する備えは何一つなかった。だからこそ、独立記念という名目で戦艦が作られた。この戦艦には、そういう経緯があった。ちなみに名前がアリウス
話を戻すが、先程、彼女らは、先行していたトリニティ海軍駆逐艦のホルサから敵船団に警告を行ったにも関わらず攻撃を受けたという報告を受けた。それと同時に、反撃を開始するとも。キヴォトスが持っているロウリア王国の情報は全員に共有されているが、まさか攻撃してくるとは思ってもいなかった。向こうには砲艦があるため、砲の大きさ、船の巨大さなどでこちらの力を理解して退いていくと思っていたのだ。
「あの、どうして向こうは退かないのでしょうか?さすがにこちらとの差はわかると思うのですが……」
「わからないわ。だけど、アツコが言うには、砲の門数で判断してるんじゃないかって」
その推測は、ロウリアの盟主国であるパーパルディア皇国の海軍を見ての考えだった。つまり、パーパルディア皇国は、門数で火力を上げて相手を圧倒する設計思想をしており、それがロウリアにも影響を与えたのではないかということだ。この考えは、戦列艦特有の考え方で、門数=強さという考え方である。
「でも、そもそも速力が違うし、精度も射程も威力も装甲も何もかもこちらが上。いくら数が多くでも当たらなければ意味はありません」
スバルは衛星から確認できたパーパルディア海軍の戦列艦の画像を思い浮かべる。それらは多数の砲を搭載していていかにもゴツそうな見た目だが、近くを航行している虎丸に比べたら、予想させる性能も相待ってそれほどでもなかった。それよりも弱いロウリアの砲艦なら、尚更だろう。
「ところで、確かゲヘナのヘリがホルサの直掩をしていたはずですが、それも参戦させますか?」
「そうですね……させましょう。その代わり、追加のヘリを送った方がいいですね。燃料の節約のため、敵前で発艦させる必要はありそうですが」
相手が中世程度の技術力であることから、敵前発艦でも何の問題もないと判断したスバル。だが、不確定要素であるワイバーンが向こうにいるために対空兵器の類があるのではと疑問だったが、実際のヘリからの報告で、対空兵器の類は見つかっていないことは分かっているので安心して発艦準備させることができた。ただ、敵の数が多いので、ヘリの弾薬や燃料が持つのかわからないのが気がかりであった。また、ワイバーンは格闘戦に強く、飛んできたらヘリが撃墜される可能性が高いため、対空レーダーを見張りながらの発艦となる。まぁ、もっともキヴォトスでは敵前で離陸することは珍しくないので大丈夫だろう。
すると、前方にいた左右に2隻ずついるゲヘナとトリニティの戦艦に動きがあった。一隻ずつだが、艦隊よりも前に突出したのだ。それに伴い、護衛の駆逐艦と巡洋艦も前に出る。その光景は、先陣を競い合うかのようだった。
「艦長、ゲヘナとトリニティの戦艦が突出しています」
「え?戦艦?駆逐艦じゃなくて?」
「はい。しかも、風紀委員長と正義実現委員長が乗っている戦艦です」
スバルは、困惑した。現在、艦隊は反撃中のホルサに向けて急いで航行しているのだが、それより急ぐのなら、艦隊の中で速力が一番早い艦種である駆逐艦を先行させればいい。それなのに、なぜ戦艦が先行するのだろうか。彼女はそう疑問を抱いた。
「……ベリアルとトリスタンに意図を問いかけてください」
「わかりました!」
スバルはその2艦と通信をとる。その瞬間、彼女の目の前に、風紀委員長のヒナと正義実現委員長のツルギのホログラムが現れた。両方とも闘志を剥き出しにしているのか、その視線は鋭い。
『何?何か本部からあった?』
ヒナはスバルに問いかける。彼女が言う本部とは、ETO本部のことであり、ゲヘナ、トリニティ双方のトップのことを指す。それに加えて、条約の議長のアオイと中立のアリウス生徒会長のアツコも入り、以上四名が本部という扱いになっている。ヒナが言っているのは、そこから何か追加司令があったのかということであった。
『…キキキ』
ツルギは相変わらずで、何も知らない人が見れば怯えるであろう視線でこちらを見ていた。言葉はあまり喋らず、視線を向けるだけだ。
「本部からは何もありません。しかし、なぜ突出するのですか?ホルサを救援するなら、駆逐艦を先行させるべきでしょう」
『確かにそうね。でも、時間が惜しいだけよ』
『悪いけど、今襲われているのは
2人のその声色には、怒りが滲んでいた。艦艇の性能や乗組員の練度もあって焦りはないが、早く救援に行きたいのだろう。スバルはそれを察して、目を瞑り、少し考えた後にこう命令を下した。
「………駆逐艦バエル、アガレスを先行させてホルサの横につかして下さい。あなたたちは、それに合わせて突撃してください」
スバルは、駆逐艦2隻を先行させてホルサの救援に向かわせる判断をした。それに加えて、2人の意図を汲むように、それに合わせて突撃させるようにもした。
先行させる駆逐艦のバエルとアガレスーーーソロモン級駆逐艦2隻は、ゲヘナの治安に合わせて装甲が他の駆逐艦よりも厚くなっている。敵の攻撃が激しい中で奮闘するホルサの救援の先行にはピッタリの艦艇だった。
『わかったわ。アコ、対象の駆逐艦を先行させなさい。私たちは、それに合わせて突撃する』
ヒナのその命令は、アコを通じて正確に伝わった。スバルの言う通り、駆逐艦バエルとアガレスは最高速力である42ノットを出しながら波を切り裂いていく。その後ろにつく戦艦ベリアルとトリスタンは、35ノットと高速戦艦らしい速力で追従していた。
「アコ、ヘリから何か情報は?」
「はい。ヘリはホルサの上空支援を徹底させてますが、弾薬が圧倒的に足りないそうです。さらに、ワイバーンが出てくるとさらに危険と」
「そう。なら、尚更急がないとね」
スバルとの通信を終えたヒナは、アコとともにヘリから得られる情報を基に戦況の分析を逐一行っていた。ツルギの方もデータリンクで向こうにも同じ情報がいっているので、同じことをやっているだろう。
現在ヘリから得られる情報は、敵前衛をホルサと共同で壊滅させたが敵の数が多すぎて全く意味がないことだった。いや、少しはあるだろうが、微々たるものだった。敵は数を頼りにこちらに押してきていて、ホルサは速力と射程を頼りに、ヘリは敵のバリスタが届かない高度から攻撃して奮戦していた。
「現在の敵艦船撃破数は約250ほどです。敵の規模を考えると、やはり…」
「対空砲弾を使いなさい。それでなんとか凌ぎましょう。それに、あの無駄にデカい戦艦も来ていることだしね」
ヒナの視線の方向、水平線の向こうにアタナシオスの近くを航行している巨大な戦艦が佇んでいた。あの主砲が威力を発揮すれば、命中しなくてもガレオン船など衝撃で転覆させることができるだろう。それが対空砲弾となれば、さらに敵の損害は大きくなる。
「敵船団目視圏内に入りました!!駆逐艦バエル、アガレスがホルサの横につきます!!」
「対空レーダーに反応!!方位260!!距離300km!!速度235km/h!!高度3000!!数450!!おそらく、ワイバーンだと思われます!!」
その時、敵船団がついに目の前に現れた。海面を埋め尽くすほどのガレオン船とホルサとヘリの攻撃により破壊されたガレオン船の瓦礫が目の前に広がる。その瓦礫には、海に投げ出された水兵たちが捕まって、こちらを睨み付けるように見ていた。
「最大船速!!駆逐艦の前に出るわ!!」
「ベリアルに続け!」
対空レーダーに反応が出た報告が出た瞬間、ヒナは駆逐艦の前に出るように指示を出した。咄嗟の命令だったが、ベリアルは最高速力の36ノットで駆逐艦を横切って前に立ち塞がるように移動した。トリスタンもそれに合わせて移動する。
「し、司令、あ、あれ…」
「なっ!?まだいたのか!?」
シャークンは、ホルサの後ろからやってきた巨大船の群れに驚愕する。おそらく目の前の巨大船の援軍なんだろうと推測するが、ホルサの攻撃による味方の混乱を収めるために、彼はそこまでしか考える余裕がなかった。
その間にも、ホルサとヘリの攻撃は続いている。分間45発発射可能なホルサの15センチ連装レールガンが次々と敵船を撃沈させていく。その狙いは正確で、外れたことはこの戦いで一度もなかった。
「目標、敵船団!!主砲、副砲、砲撃用意!!」
前に出た戦艦の主砲が、敵船団に向けて旋回する。ベリアルとトリスタンの主砲の40センチ三連装砲が、ベリアルの副砲の25センチ連装砲が、コンピュータ制御により正確に敵に照準が合わさる。主砲の砲弾はヒナが言った通り対空砲弾で、続けて撃つことも想定して次弾の準備も行われていた。
「砲撃開始!!」
戦艦2隻の砲撃が放たれた。巨大な砲塔から電磁力によって放たれた砲弾は、その破壊力を余すことなく発揮する。
異変に気づいたのは、シャークンだった。巨大船をじっと見つめていたことが幸いし、主砲に一瞬だけ青白い光が漏れ出ていたのを見逃さなかった。だが、対応する時間があるかと言われれば、そうではなかった。
彼は咄嗟に退避を命令しようとした。しかし、その一瞬で砲弾は船団に到達して空中で炸裂した。近接信管が作動し、炎の塊が敵船団を呑み込んでいく。着弾地点付近は敵船団が消失し、その周りは瞬く間に火の海となっているガレオン船で埋め尽くされた。
もちろん、その船にいた水兵たちは無事ではない。多くは炎の塊に呑み込まれて骨すら残らず消える。それから逃れても、炎の塊から出る高温で大火傷を負う。この一撃だけで、ロウリア海軍は、海を埋め尽くしていた船団の一部がぽっかり空いたように見えるほど大打撃を受けていた。
「な、なっ!?」
シャークンは余りの火力に呆然としていた。100隻以上のガレオン船がたった一撃で消滅したのだ。
完全に未知の相手。こちらより格上の相手なのは間違いない。だが、これほどの兵器を有していることは予想外だった。
彼は冷や汗が止まらなくなり、肩の震えが止まらない。顔色が真っ青になり、思考が撤退か突撃かの二択を行ったり来たりする。
撤退なら大勢の水兵が助かるだろう。だが、皇帝の命令に背くことになる。それは、国に忠誠を誓っている彼にとっては非常に苦しい判断だった。
逆に突撃ならどうだろう。これも勝てるイメージが湧かなかった。そもそも速力が違うのだ。距離を離されて、今みたいに一方的にやられるのがオチだ。
彼にとって、唯一の頼りは今こちらに向かっているワイバーン部隊のみだった。相手の航空戦力は、鉄の羽虫ーーーヘリだけだと彼は推測しているため、上空から攻撃すればさすがに大打撃を与えられるだろう。そう、思っていた。
しかし、彼の視界の中にあるファランクスを始め、箱型発射管などの多数の対空兵器がキヴォトスの艦艇には搭載されていた。それらの存在を、彼は知らなかった。
「イチカさん、新型の長距離艦対空ミサイルの試験を行いますか?ちょうど射程圏内に入っていますし」
「あぁ、確か5発積んでいたんでしたっすよね?なら、それを撃つっす。記録は頼むっすよ」
「はい!」
このミサイルは、新型というだけあって射程距離が従来のより大幅に伸びていた。理由として弾道弾や巡航ミサイルの迎撃が挙げられるが、この世界に転移して衛星を打ち上げる時に使用されたロケットを艦対空ミサイルに改造したものでもあるために射程距離はエンジニア部のお墨付きであった。
「総員、対空戦闘用意!!目標、敵ワイバーン!!新型
「敵船団命中!!次弾より、斉射開始!!」
偶然にも、艦対空ミサイルと艦砲射撃のタイミングが重なった。砲撃は、自動装填装置により連続で放たれ、ミサイルは、VLSから垂直に発射される。
データリンクによって被らずに各目標にロックオンされたミサイルは、一直線に目標に突っ込んでいく。それは、ロウリアから見れば光の槍が何もない方向に飛んで行っているように見えた。
「奴ら、あれで何を…」
シャークンのその呟きは、砲撃で放たれた対空砲弾の炸裂音で掻き消された。運良く彼の乗っている船は巻き込まれていないが、対空砲弾の嵐がロウリア艦隊を容赦なく薙ぎ払う。海面が衝撃波で震え、船から投げ出されて海面に浮いている水兵は、その衝撃波を強烈に叩きつけられて絶命する。
たった一撃であの火力の砲弾が、次々にロウリア艦隊に降り注ぐ。それによって、大量のガレオン船が海に沈んでいく。シャークンが対応する暇がないほど、そのスピードは途轍もなく早かった。
「わ、ワイバーンはまだなのか!!」
「わかりません!!しかし、このままだと我々は全滅します!!」
「くっ!?」
シャークンの頭の片隅に「撤退」という2文字が思い浮かぶ。ワイバーン部隊が来る前に全滅すると、己の経験でわかってしまったからだ。皇帝の命令を聞いて徹底抗戦する「無謀な勇将」になるか、命令に背きながらもここで撤退して仲間をできるだけ救う「勇敢な愚将」となるか。彼は、その瀬戸際に立たされていた。
一方、キヴォトスから南西の方向から真っ直ぐ交戦海域に向かっている数多の飛行物体の姿があった。それは大きな翼を持ち、背中には鞍のような物が乗っかっている。その上には人が乗っており、ワイバーンを巧みに操っていた。
そのようなワイバーンが450騎ほど、交戦海域に向かっていた。ロウリアのワイバーン部隊である。ロウリア海軍主力の苦戦を受けて、上空支援に派遣されたのだ。
(東方の蛮族程度に遅れを取るなんぞ、海軍は王国の恥よ……)
その部隊の隊長であるビオトは、海軍に対して敵視に近い感情を持ちながら飛行していた。ライバル心とそう変わらないだろうが、海軍と空軍はよく予算の関係などあらゆるところで対立しているため、そうなるのも頷ける。だが、シャークンとかは別で、トップどうしは仲良くやっているという。
(まぁ、蛮族を久々に殲滅できるのだ。それはそれで良しとしよう)
ビオトはそうポジティブに考えながら、これから会敵するであろう蛮族の艦隊に思いを馳せていた。海軍が苦戦するほどの量なのか、それともその司令官が英雄になるほどの人物なのか。少なくとも彼は後者だと推測しているが、あの物量相手にここまで善戦するのか甚だ疑問だった。だが彼は、それが胸に引っ掛かりながらも自身の勝利を信じて止まなかった。
「隊長!!今回も好きにしていいっすよね!!」
「あぁ!!空から逃げ惑う蛮族どもを根絶やしにしてやれ!!」
他の者は、そのような違和感を感じていないのか、元気にどのように敵を蹂躙するか話し合っていた。ビオトは、胸の引っ掛かりをすぐに忘れて、その会話に混ざっていた。
空は雲ひとつない快晴で、風が背後から頰を撫でるように吹いている。絶好の飛行日和に、海軍が苦戦するほどの敵を殲滅できるという栄誉を彼らは得ることができていた。そのためか、いつもより士気が高かった。
「ん?」
すると、先導していた1人の竜騎士が何かに気付く。竜騎士は、その職業故に目がとても良い。だからこそ、遠くでその何かを視認できた。
その何かは、真っ直ぐこちらに向かってきている。その後ろには、同じのが9発ほど飛んできていた。
「あれは?」
竜騎士はその何かを認識した時、すぐさま敵の攻撃ではないかと疑った。周りをチラ見すると、同じように認識している者がほとんどであった。念のため、回避行動を取る。それは、彼らの身にしみついた慣れた動きであった。
「あんな見え見えの攻撃するなど、本当に英雄の素質がある者の指揮なのか?」
ビオトはそう疑問を呟く。だが、その疑問を覆されたのはすぐのことだった。
まず、その攻撃の速度が異常だった。明らかに自身のワイバーンより速い速度でこちらに突っ込んできていた。回避行動中の編隊だったが、速度が速すぎて回避が間に合わない。数は辛うじて5発だと認識できたが、それでも前方にいた5騎のワイバーンに直撃する。
「なっ!?」
ビオトは目の前で起きた出来事に頭が真っ白になる。
「な、何が起きた?」
彼は事態を理解しようと、必死に思考を巡らす。幸いにも、空を飛んでいるため風で頭が冷えて冷静を保つことができていた。
しかし、彼に思考する暇はなかった。続けて4発の光の槍がこちらに向かってきていたのだ。その狙いが自分ではなかったことにホッとするビオトだが、他の者はそうではなかった。先程の光景を見て、今度は自分だと認識して死ぬ気で回避行動を取る。編隊は乱れるが、自身の命に比べたら大したことじゃない。が、ここでその場にいる者の予想外なことが起こる。
「なっ!?つ、ついてくるだと!?」
「く、くるなぁ!!!」
ミサイルは母艦にてロックオンした敵に向けて突っ込んでいく。自動追尾のこの攻撃は、中世程度の技術しかない彼らにとって悪夢そのものだった。
彼らにとって、空中戦とはワイバーン対ワイバーンのことである。空から艦隊を強襲する時も、バリスタ等の対空攻撃は当たりにくく、ワイバーンの攻撃は当たりやすい。だからこそ、これは完全に未知の攻撃だった。
「や、槍がついて…うわぁぁ!!」
4発。5発着弾した後すぐにきたその4発によって、編隊は完全に乱れた。撃墜されたのは追加で4騎で450騎あった編隊と比べれば何の問題はないが、百発百中に加え敵の姿が見えない攻撃に士気は完全に下がっていた。
「どうしますか?隊長」
「あ、あれほどの兵器だ。さすがに数は少ないだろう…」
そうであって欲しい。そう祈りながら、彼らは進撃を再開する。実際、このミサイルは試験用なので、その推測は正しかった。
彼らはなんとか混乱を収めつつ、徐々に敵に接近していく。あれから同様の攻撃がないことから、数が少ないという推測は正しかったと確信する。
「落とされた仲間の仇を取らないとな」
ワイバーン部隊一同は、そう気持ちを固め、進行方向先にいるであろう未知の艦隊ーーETO艦隊に向けて飛行する。
対するETO艦隊は、新型
「全弾命中!!不良無し!!試験成功です!!」
「性能通りですね、イチカさん!!」
「そうっすね…終わったら報告書に纏めるっす」
「はい!!」
ホルサ艦内では、新型ミサイルの試験成功に湧き上がっていた。この成功はある程度予想できていたことだが、それでも目の前で成功したことに笑みを隠せない。敵は残り441騎で、いずれもジェット機やヘリよりも圧倒的に遅い。なので、対処する時間もこうやって喜ぶ時間もたっぷりあった。
「敵ワイバーン、撤退する様子がありません!!さらに進撃してきます!!高度変わらず、距離200!!」
「
ホルサは、再びソロモン級駆逐艦2隻とデータリンクを行う。それに加えて、第二波の今回は、随伴のモルガン級重巡洋艦とアザゼル級重巡洋艦、エリウ級軽巡洋艦とアンラ・マンユ級軽巡洋艦、カリア級駆逐艦とその他のソロモン級駆逐艦も対空攻撃に加わることになっており、放たれる中距離艦対空ミサイルは全部で350発以上にも上る。また、予備として、過剰として発射されていない分も含めると500発は優に超える。それらが、一つも目標が被ることなく誘導されるので、敵のほとんどが落とされる計算になる。
「目標の割り振り完了しました!!」
「了解っす!!
再び、イチカの指示で対空ミサイルが放たれる。先程とは違い、数多のミサイルが敵に向けて突っ込んでいく。その光景は、キヴォトスでも滅多に見ることが出来ないもので、相手が気の毒に思えるぐらいであった。
「これで、降伏してくれるといいんですが……」
トリニティ生のその呟きは、波の音に消えていった。
そんな中、ワイバーン部隊は変わらず進撃を続けていた。ビオトの指揮により、真っ直ぐETO艦隊に向かっていく。先程の光の槍の攻撃がしばらくないことから、彼らは弾切れであの攻撃はもうないのだと油断していた。
(さすがにあのような攻撃はないか……。あれさえなければ、我が軍の精鋭が貴様らを喰らいつくすだろう)
ビオトはまだ見ぬ敵に向けて、そう心の中で呟く。それだけ、ETO艦隊のミサイル攻撃を脅威に感じていた。
現在のワイバーン部隊は密集陣形をとっており、いつでも光の槍に向けて導力火炎弾を撃ち込めるようにしていた。それは、回避不可能なミサイルをこちらに到達する前に撃ち落とす算段であった。
「隊長!!この攻撃が終わったら何か奢ってください!!」
「仕方ないな〜!!生き残ったら俺の奢りだ!!」
「「「うおぉぉぉぉぉ!!!」」」
そのような会話をしているところ、不意に部隊の1人が前方に何かが接近してきていることに気付く。
「ん?あ、あれは…」
その人は、それを認識した瞬間、顔を青ざめさせてパニックに陥った。先程の攻撃よりも多い無数に見える光の槍が接近してきていたのだ。
パニックに陥った彼に、仲間にそれを伝えることはできない。仲間は光の槍に気付いていない。結果はどうなるかは明白だった。
「どうした?きm」ドォォォォォォン!!!
ETO艦隊から距離にして約195km。そこで、ワイバーン部隊に一斉にミサイルが着弾した。生き残りはほんの数騎しかおらず、450騎いた部隊は一瞬にして壊滅状態となった。
爆散したワイバーンは、肉塊となって海に降り注ぐ。乗っていた竜騎士の腕や足などの欠損した肉体の一部も血の雨となって降り注ぐ。海は瞬く間に血の海と化した。
「な!?ま、まだあったのか!?」
隊長のビオトは運良く生き残っていた。だが、それが彼を不幸にさせた。
「お前ら……」
目の前で仲間たちが一瞬で消えたのだ。敵の姿を視認できないまま一方的にだ。慣れない島生活で心が通じ合った仲間たちの死は、彼を限りなく追い詰めた。
「くそっ!!お前らは撤退しろ!!後は俺1人で行く!!」
「な、何言ってっすか!隊長!!俺たちも行きますよ!!」
「…死ぬかもしれないんだぞ?仲間みたいに!」
「覚悟の上です!!」
「お前ら…」
この一連の出来事で、あの攻撃がまだある可能性が多いにあり得るようになった。しかし、彼は仲間たちの死を無駄にしたくないと自身だけでも突撃することにした。が、それに生き残った仲間がついてきた。忠誠心が高い証拠だろう。
ビオトは、ワイバーンの羽を力一杯仰がせ、最高速で敵に向かう。いつ来るかわからない光の槍を警戒しながらも、その目は諦めていなかった。
「敵ワイバーン残り7騎!!しかし、変わらずこちらに向かってきています!!まだ諦めていないようです!!」
「はぁ!?嘘でしょ!?」
ETO艦隊の戦艦アタナシオスでは、データリンクによるものと対空レーダーに映っていたワイバーンが引き返さずに進撃を再開していることにスバルは驚いていた。ここまで一方的にやったのだから引き返すだろう。そう思っていたからだ。
これはスバル以外も例外ではなかった。ヒナもツルギも同様に驚いていた。そうじゃないのは、イチカが乗っているホルサの乗組員ぐらいだった。
「何がそんなかり立たせるの?」
戦争と無縁なキヴォトス人にとって、その疑問はもっともであった。だが、最初に接触したホルサ乗組員はその答えをなんとなく察していた。
相手はこちらを蛮族と見下している。その中での蹂躙で、味方に多大な損害が出た。普通ならここで撤退してもおかしくないのだが、彼らは違った。
「おそらく、命令と仇が混在しているのでしょうね」
そう結論づけたのは、観戦武官としてアタナシオスに乗っているSRTの月雪ミヤコだ。今回の海戦にSRTは参加しないため、アオイからこの任務が出されてこの船に乗ってから、じっと海戦の様子を見ていたのだ。
「ですが、来てもギリギリでしょう」
そう言うミヤコの視線の先には、一際デカい巨大船が佇んでいた。
「な、なんだ、あれは…」
シャークンは目の前の水平線の向こうから現れた巨大船に目を見開く。こちらに向けて砲撃している船も大きいが、それよりも巨大な船がやってきていたのだ。
これにはロウリア船団は絶望するしかない。ただでさえ、それよりも小さい船に苦戦していたのだから、敵わないのは目に見えていた。
「て、撤退する!!各船に伝えろ!!」
ここでついにシャークンは撤退を決意する。ワイバーン部隊が来る前に全滅すると本気で悟ったのだろう。彼は少なくとも、仲間を逃すため撤退命令を出した。命令が実行できないことを知りながらだ。
彼は未来では愚将として扱われるだろう。クワ・トイネ艦隊を破った栄光からは程遠い称号だ。だが、部下の命には変えられなかった。
「フハハハハハハハハハハハハハハ!!!!さぁ、この虎丸の主砲を放つのだ!!」
「先輩?いいのですか?」
「構わん!!敵を木っ端微塵にするのだ!!」
「はぁ」
その言葉の通りに、この場の一番の巨大船ーー虎丸の主砲が敵の方に向く。この戦艦にもベリアルと変わりないシステムを積んでおり、正確に照準を合わせることができた。
この艦の艦長である
「砲撃手、遠慮なくやってください」
「え?いいんですか?」
「はい。あのバカにはいい薬でしょう」
「そ、それじゃあ、遠慮なく…」
ドォォォォォォォォォォォォォォォン!!!!
撤退する動きを見せたロウリア船団に、51センチ砲弾が降り注いだ。その威力は計り知れず、着弾の衝撃だけで周囲の船が転覆するほどだ。幸いなのが、これが徹甲弾であったことだ。ベリアルの時のように対空砲弾であったならどうなるか、想像に難くない。
「敵船団、撤退していきます!!」
「砲撃止め!!対空戦闘用意はそのまま!!」
本来なら追撃するべきところだが、イチカはそれをやらなかった。それは、ヒナとツルギも同様である。なぜなら、生き残りのワイバーン部隊がこちらにやってきているからだ。
「見えた!!あれだ!!」
しばらく経った時、漸くと言っていいのか、ワイバーン部隊が姿を現した。その姿を視認した時、そのあまりの数の少なさに撤退中のロウリア船団は絶望に陥った。負けは濃厚になったことを悟ったのだ。
「
そして、やっとの思いで接近したワイバーン部隊は、再び光の槍で撃ち落とされることになる。回避行動をしようにもやはり追尾してきてかわせずやられ、あっという間に残り一騎まで減らされる。
恐ろしいまでの効率的なやり方。それにもビオトは恐怖した。
目の前でこのようなことが起こって恐怖しているのはシャークンもだった。刹那の間に、数々の現地民を蹂躙してきた精鋭が一方的にやられたのだ。これで、彼の最後の希望も潰えたことになる。
「おのれぇ!!!ここまで来れば!!」
ビオトは一気に急降下しながら、敵に真っ正面から突っ込むことを選択した。側から見れば特攻なのだが、それでも彼はやっていた。
ビオトは、近くで仲間が爆散した際の爆風やらミサイルの破片やらで既にボロボロだった。服が破れて切り傷が増えても、死ぬとわかっていても、この行動はやめなかった。
「
しかし、イチカはファランクスでこれを撃ち落とす判断をした。ミサイルを撃ち落とす前提の分間4000発以上もの発射レートを持つこの機銃がはる弾幕に、ワイバーンが逃れられるはずがない。彼は、その弾幕を認識する暇もなく意識を永遠に閉ざした。
「各艦、急ぎヘリを発艦させなさい!!追撃します!!」
ここで、スバルの命令が全艦に行き渡る。その命令に従うように、数機のヘリが空中に飛び立っていく。
「わ、我々は悪魔を相手にしているのか…」
シャークンは、虎丸の砲撃の衝撃で転覆した船に乗っていた。その結果、現在海に浮いているのだが、目の前では、複数の羽虫による蹂躙ーー虐殺と言っても過言ではない光景が繰り広げられていた。
ロウリアの自慢の艦隊が、効率的に次々と沈められていく。船団はもはや艦隊の意味を成しておらず、我先にと急いで逃げ出そうとしている。
そうして、この海戦は少しずつ終息に向かっていった。
この海戦で生き残ったロウリア船団は、1500を下回っていた。最初が4400隻であったことを考えると、どれほどの損害かわかるだろう。
これほどの損害を負いながらもなんとか逃げることができた船の水兵たちは、完全に今回のことにトラウマになっていた。現に、今もガタガタ震えながらロウリア本国までの航海をしていた。
その中で、同じように震えている者がいた。
(こ、このような未開の地に、な、なぜ、我が国より巨大な船が…?)
その者の胸の目立たないところに小さく、ある国の国旗が縫い付けられていた。その国旗は、この世界において列強第二位の称号を持つ国の国旗であり、その者は、その国の観戦武官ということであった。
彼がここまで震えているのは、キヴォトスの攻撃で死ぬスレスレを体験して運良く生き残っただけではない。明らかにムーより高い技術で作られた船を見たからだった。それも、文明圏外という未開の地での話なので、そこから生じる謎の多さも彼の恐怖を増大させた。しかも、攻撃の正確さも尋常ではなく、練度だけでは説明が付かないことも、彼が震える原因の一つだった。
(そ、それに、あの光の槍も謎だ!!あんな対空能力を持った船なんて、聞いたことがないぞ!!)
光の槍に関しては、伝承の古の魔法帝国が使用していたとされる誘導魔光弾とほぼ同じであることに彼は気がついた。古の魔法帝国とは、この世界における敵であり、その強大な力故に神々に弓を引いたとされる国のことである。その国が使っていた兵器とほぼ同じの兵器を、ロウリアの敵が普通に使っていたのだ。
(マ、マイラスだったら、信じてくれるか…?)
これを上に報告するにも、これはどう考えても荒唐無稽だと切り捨てられるだけだろう。もしくは、幻覚だと言われて精神科を勧められるかだ。
「うぅ、胃が…」
彼は、これから来るであろう激務に、胃を痛めるのだった。
〜おまけ〜
「これは、どういうこと?」
ベリアルでイロハからマコトの状態を聞かされたヒナは、頭に疑問符を浮かべていた。彼女の目の前に現れているホログラムには、包帯でグルグル巻きにされているマコトの姿があったのだ。いきなりのことに、ヒナは固まるしかない。
『おい!!早く包帯を外せ!!』
『ダメです。まだ治療はおわってません』
当のマコトは、救急医学部の氷室セナと言い争いをしていた。その格好は、いつもの制服ではなく、病人が着る白装束の格好をしていた。
『これはマコトさんの自業自得です。砲撃の際に、「自慢の砲撃を間近で見る!!」と息巻いた結果ですから』
「そ、それは…」
ヒナは呆れて声が出なかった。いくらキヴォトス人でヘイローがあるとはいえ、戦艦の主砲の砲撃の衝撃を間近でくらえばマコトのようになる。それを簡単に想像できるのに、マコトはそれをしたのだ。呆れるのも頷ける。
『ちなみに、マコト先輩だけでなく、先輩の銅像も
『なぁにぃ!?』
「はぁ」
マコトのこの反応から、今回が初の砲撃だったのではないかと推測することができた。さすがに訓練はしたと信じたいが、それすらしていない可能性がある。動かしただけかもしれない。そうだったら、完全に虎丸は見世物の戦艦になっている。しかし、そうじゃなきゃ、銅像の配置の説明が付かない。
「とりあえず、そこで反省させなさい」
『そのつもりです』
「わかったわ」
そのヒナの声は、今までの鬱憤が晴れたかのような声色だったという。
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